こんにちは、高配当株投資家のタグ(@kabu.tagu-blog)です。
先日、YouTubeのコメントで、こんなご質問をいただきました。
「北海道電力がPBR0.5、利回り3%になりました。ラピダスを控え、最後の買いチャンスと考えて初インしました。よろしければ解説お願いします。」
ありがとうございます。気持ちはとてもよく分かります。PBR0.46倍、配当利回り3.56%、そして"ラピダス"という北海道だけの巨大テーマ——たしかに惹かれる材料がそろっています。
ただ、こういうときこそ「期待」と「会社が出している数字」を分けて見たい。今回は北海道電力(9509)を主役に、電力6社(北海道・東北・関西・九州・東京電力HD・電源開発)を横並びで比べながら、「PBR0.46は本当に割安なのか、それとも"訳あり"なのか」を、最新決算ベースで点検します。
この記事の結論(先に3行)
- 北電のPBR0.46は電力の中でも"割安グループ"。利回り3.56%も高め。 ただし——
- 会社自身が来期(2027年3月期)は純利益ほぼ半減を予想。だから「PBRは割安、でも予想PERは6社で最も高い9.2倍」という逆転が起きています。
- カギは泊原発3号機の再稼働。安全審査合格・知事同意という2大関門はすでにクリアし、2027年早期の再稼働を目指す"工程"に乗りました。果実が出るのは数年先、という時間軸で見るのが現実的です。
北海道電力(9509)の足元の株価と指標
まず現在地から。
| 項目 | 数値(2026/6/5終値) |
|---|---|
| 株価 | 925.8円 |
| PBR | 0.46倍 |
| 予想PER | 9.2倍 |
| 予想配当利回り | 3.56% |
| 時価総額 | 1,993億円 |
株価チャートを長期で見ると、2024年にかけて1,750円台まで急騰したあと、足元は925円前後まで調整しています。この急騰こそ、まさに「ラピダス=北海道に次世代半導体工場が来る → 電力需要が増える」という期待が買われた局面でした。
つまり今の925円は、いったん盛り上がった期待がはく落したあとの水準。ご質問者さんが「最後の買いチャンス」と感じたのも、この調整局面だからこそ、でしょう。では、期待がはく落したあとに残った"中身"はどうなっているのか。決算を見ていきます。
2026年3月期の決算(実績)
2026年3月期(2025年度)の連結業績は次のとおりです。
| 項目 | 2026年3月期 | 前期比 |
|---|---|---|
| 売上高 | 8,560億円 | -5.1% |
| 営業利益 | 732億円 | -3.4% |
| 経常利益 | 613億円 | -4.2% |
| 純利益 | 440億円 | -31.5% |
売上・各利益はゆるやかな減少ですが、純利益だけ-31.5%と大きく落ちているのが目を引きます。これは、前期にあった核燃料売却益(特別利益)が大きく減ったことが主因です。核燃料売却益は毎年あるものではない特別な利益なので、その反動と捉えるのが自然でしょう。加えて、泊原発の再稼働に向けた費用や、物価・金利の上昇も利益を圧迫しています。
1株あたりで見ると、EPS(1株純利益)は207.40円、BPS(1株純資産)は1,992.91円、自己資本比率は18.5%。自己資本比率は前期の17.5%から改善したものの、後で見るように電力6社の中では低めの水準で、財務はまだ回復の途上にあります。
ここが肝:来期(2027年3月期)は会社が「減益」を予想している
今回いちばんお伝えしたいのがここです。北電は来期について、会社自身が大幅な減益を予想しています。
| 項目 | 2026年3月期(実績) | 2027年3月期(会社予想) |
|---|---|---|
| 経常利益 | 613億円 | 300億円(-51%) |
| 純利益 | 440億円 | 220億円(-50%) |
| EPS | 207.40円 | 100.27円 |
経常利益は半減、EPSも207円から100円へほぼ半分です。理由は、燃料費等調整制度の「期ずれ」が、差益(プラス)から差損(マイナス)に転じること。これは電力会社に共通の現象で、北電に限った話ではありません(後述のとおり関西・九州も来期は減益予想です)。
ここで、冒頭の「PBR0.46は割安」という話に戻ります。割安に見える株価には、ちょっとしたカラクリがあります。
- PBR(株価÷1株純資産)=0.46倍 … たしかに割安。
- 予想PER(株価÷来期予想EPS)=9.2倍 … これは後述する6社の中で最も高い。
なぜPBRは最安グループなのにPERは最も高いのか。答えは単純で、分母の来期EPSが100円まで半減するからです。実績EPS(207円)で計算すればPERは4.5倍まで下がりますが、市場は「来期は半減」という会社予想のほうを見て、すでに9.2倍で評価している——つまり減益をある程度織り込んだ株価だ、とも読めます。「PBRで見れば割安、でも来期の利益で見れば割安とは言い切れない」。この二面性が、北電を見るうえでの出発点です。
配当:増配は続いている。ただし方針は「DOE2%目安」
高配当株として気になる配当を見ます。北電の配当は、しっかり増配基調です。
| 期 | 年間配当 | 配当性向 |
|---|---|---|
| 2025年3月期 | 20円 | 6.5% |
| 2026年3月期 | 32円 | 15.4% |
| 2027年3月期(予想) | 33円 | 32.9% |
2年で20円→33円へ。利回り3.56%は、後述の6社の中でも上位です。無配ではなく、むしろ増配しているのは素直に好材料。ただし注意点が2つ。
1つ目は、来期は利益が半減するのに増配するため、配当性向が15.4%→32.9%へ急上昇すること。利益に対する配当の重さが増す方向です。利益が計画どおり回復しないと、配当の伸びしろは細くなります。
2つ目は配当方針。北電は「DOE(株主資本配当率)2%を目安とした安定配当」を掲げ、「泊3号機の再稼働までは、DOE2%を目指しつつ財務基盤の回復を優先する」としています(2026年度予想はDOE1.8%水準で、目安の2%にはまだ届いていません)。配当性向の目標や累進配当のような約束はなく、配当も"泊の再稼働"に紐づいているのがポイントです。
つまり、業績も財務も配当も、北電のストーリーはすべて「泊原発3号機の再稼働」に向かって一本の線でつながっている。そこを次に見ます。
ラピダス(次世代半導体工場)と北海道の電力需要
ご質問にあった「ラピダス」。ここは正確に整理しておきます。
実は、北電の決算短信にも、決算説明資料にも、「ラピダス」という固有名詞は一度も出てきません。 経営ビジョン2035でも同じで、北電が使っているのは「次世代半導体工場」「データセンター」という一般的な言葉です。報道などで知られる"ラピダスの千歳工場"を、会社の資料では一般名詞で表現している、という関係です。
そのうえで、北電は北海道の電力需要が伸びるという見立てを示しています。
- 北海道エリアの電力需要(使用端・会社想定):2024年度 約276〜280億kWh → 2030年度 約340億kWh → 2035年度 約380億kWh
- 2024年度比で2035年度に約4割増という想定
「次世代半導体工場やデータセンターといったデジタル産業の立地」を背景に、石狩〜苫小牧のベルト地帯をデータセンターの重点誘致エリアに——という構想です。北海道の地の利(再エネポテンシャル・冷涼な気候)を生かす成長戦略といえます。
ただし、ここでも会社は冷静で、「規模感には不確実性がある」「現時点の想定」とはっきり留保をつけています。「4割増は確定」ではなく「そうなる可能性を見込んでいる」段階。期待として持ちつつ、断定はしない、という距離感が適切でしょう。
泊原発3号機:業績・配当の"ピボット"が動き出した
北電のストーリーの中心、泊原発3号機。ここが今回、想像以上に前進していました。再稼働に向けた2つの大きな関門が、すでにクリアされています。
| 段階 | 状況 |
|---|---|
| ① 原子力規制委員会の安全審査 | 2025年7月30日に合格(設置変更許可) ※約12年越し |
| ② 地元同意(北海道知事) | 2025年12月に鈴木知事が再稼働に同意(対象:泊村・共和町・岩内町・神恵内村) |
| ③ 工事計画の認可 | 審査中。早ければ2026年度前半に認可の見通し |
| ④ 防潮堤などの安全対策工事 | 2027年3月ごろの完成を目標 |
| → 再稼働 | 2027年のできるだけ早期を目標(2030年代前半に全基再稼働) |
最大の難関だった「安全審査」と「知事同意」が両方とも済んでいる点は大きい。残るのは工事計画認可と工事という"実務"の段階で、北電の「2027年早期再稼働」は、もはや単なる期待ではなく工程表に乗った計画になっています(とはいえ工事や認可の遅延リスクはゼロではありません)。
そして北電は、再稼働後に電気料金を値下げする方針を示したうえで、経営ビジョン2035でこんな未来図を描いています。
| 指標 | 泊3号機 再稼働前 | 2030年度 | 2035年度 |
|---|---|---|---|
| 経常利益 | 400億円以上 | 700億円以上 | 900億円以上 |
| ROE | — | 8%以上 | 8%以上 |
| 自己資本比率 | 20%以上 | — | 25%以上(将来30%) |
※経常利益は「泊再稼働に伴う料金値下げ」を織り込んだ後の数字です。
当期613億円→来期予想300億円までいったん沈む経常利益を、泊再稼働と需要増で700億→900億円へ回復・成長させるという絵です。配当のDOE2%目安も、自己資本比率の回復(→配当原資の基準が上がる)とセットで効いてきます。「泊が動けば、業績も財務も配当も一段上がる」——この一本道が北電の投資ストーリーの核心です。逆に言えば、泊が遅れれば全部が後ろにずれます。
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電力6社で、北電の立ち位置を測る
北電単独では見えないものが、横並びにすると見えてきます。2026年3月期決算と6月5日終値で6社を並べました。
業績・財務
| 銘柄 | 売上高 | 当期純利益(前期比) | 来期純利益(会社予想) | 自己資本比率 |
|---|---|---|---|---|
| 北海道電力 9509 | 8,560億 | 440億(-31.5%) | 220億(-50.0%) | 18.5% |
| 東北電力 9506 | 23,724億 | 850億(-53.5%) | 未定 | 19.4% |
| 九州電力 9508 | 22,472億 | 1,545億(+20.0%) | 1,300億(-15.9%) | 19.9% |
| 関西電力 9503 | 40,566億 | 3,801億(-9.6%) | 3,100億(-18.4%) | 35.1% |
| 東京電力HD 9501 | 63,286億 | -4,543億(赤字) | 未定 | 21.8% |
| 電源開発(J-POWER) 9513 | 11,823億 | 585億(-36.7%) | 810億(+38.4%) | 37.6% |
配当・バリュエーション
| 銘柄 | 株価 | PBR | 予想PER | 予想利回り | 配当(当期→来期予想) |
|---|---|---|---|---|---|
| 北海道電力 9509 | 925.8円 | 0.46倍 | 9.2倍 | 3.56% | 32→33円 |
| 東北電力 9506 | 993.3円 | 0.45倍 | -(予想未定) | 4.03% | 40→40円 |
| 九州電力 9508 | 1,643円 | 0.78倍 | 6.3倍 | 3.04% | 50→50円 |
| 関西電力 9503 | 2,341円 | 0.75倍 | 8.4倍 | 3.42% | 75→80円 |
| 東京電力HD 9501 | 528.4円 | 0.35倍 | -(赤字) | -(無配) | 0→0円 |
| 電源開発(J-POWER) 9513 | 3,959円 | 0.50倍 | 8.6倍 | 2.65% | 100→105円 |
各社をひと言で整理すると——
- 関西電力:原発利用率84%の高稼働で利益も財務(自己資本比率35%)も6社最強クラス。配当方針も「連結配当性向25〜35%目安」と明確。"再稼働が効いた優等生"。
- 九州電力:原発が高稼働(利用率82%台)で当期は増益。配当は50円で横ばいの安定型。
- 東北電力:女川2号機が再稼働。北電に立ち位置が近く、配当方針も同じDOE2%目安。利回りは6社で最も高い4.03%。
- 東京電力HD:本業(営業・経常)は黒字だが、廃炉・賠償の特別損失で最終赤字、無配が続く。来期予想は「未定」。
- 電源開発(J-POWER):当期は減損などで減益だが、その反動で来期は6社唯一の増益予想。BPS約8,000円に対し株価4,000円弱で、低PBRの代表格。
※ひとつ注記。関西電力の来期純利益(3,100億円)は、関連会社「きんでん」の株式売却益(特別利益 約1,050億円)が含まれているとみられ、本業の実力そのままの数字ではない点には留意が必要です。
なお、電力株は2024年に各社いっせいに買われ、2025〜2026年に調整という共通の値動きをしています(北電1,750→925、関西2,929→2,341、九州1,958→1,643など)。北電だけの物語ではなく、セクター全体の物色と一服、という大きな流れも頭に入れておきたいところです。
「低PBR」は割安か、それとも"訳あり"か
最後に、ご質問の核心「PBR0.46=割安なのか」に、6社を使って答えます。PBRが低い順に並べると、こうなります。
東電0.35 < 東北0.45 ≒ 北電0.46 < J-POWER0.50 < 関西0.75 < 九州0.78
ここに、はっきりした傾向が出ています。原発の再稼働が進んで利益が安定している関西・九州は、PBRが0.75〜0.78と相対的に高い。一方、再稼働前で利益が読みにくい北電・東北、そして無配・赤字の東電は、PBRが0.3〜0.4台に放置されている。
つまり、「低PBR=割安」というより、「低PBR=市場が"利益の不安定さ"を織り込んだ結果」と見るのが実態に近い。低PBRには低いなりの理由がある、ということです。東電のPBR0.35が「割安だから買い」とは多くの人が言わないのと同じ構図です。
この見方は、以前に取り上げたデンソー(6902)のPBR1倍割れの話とも地続きです。PBRが1倍に近づく(是正される)には、"利益が安定して伸びる絵"が必要。北電にとってのその答えが、まさに泊原発の再稼働なのです。だから北電は、
- 「泊が動いて、需要増が利益に乗る」未来が実現すれば、低PBRが是正される余地がある
- その実現には数年かかり、足元は会社自身が減益を予想している
という、期待が先・数字が後の銘柄だといえます。ご質問者さんの「最後の買いチャンス」という熱は、この"期待"の部分。それを否定はしませんが、会社が出している「来期は減益」という現実も、同じテーブルに置いて判断したい——それが、この記事でいちばんお伝えしたかったことです。
まとめ:北海道電力をどう見るか
最後に、強みと留意点を並べて締めます。
強み(伸びしろ)
- PBR0.46・利回り3.56%と、電力の中でも割安・高配当グループ
- 増配基調(20→32→33円)で配当方針も明文化(DOE2%目安)
- 泊3号機の再稼働は、安全審査合格・知事同意という2大関門をクリア済み="工程に乗った計画"
- 次世代半導体工場・データセンターによる北海道の電力需要増(2035年に約4割増の会社想定)
留意点(リスク)
- 来期は会社自身が純利益ほぼ半減を予想(だから低PBRでも予想PERは6社最高の9.2倍)
- 自己資本比率18.5%は6社で低め=財務はまだ回復途上
- 需要増は「規模感に不確実性あり」と会社も留保。泊再稼働も工事・認可の遅延リスクは残る
- 果実(利益・配当の本格回復)が出るのは数年先という時間軸
北電は、「割安・高配当の今」と「泊再稼働で化けるかもしれない未来」、そして「足元は減益という現実」が同居する銘柄です。短期の値ごろ感だけでなく、泊3号機の工程と、来期以降に利益が計画どおり戻るかを見ながら、ご自身のスタンス(配当をもらいながら数年待てるか等)で判断するのがよさそうです。ご質問、ありがとうございました。引き続き、決算が出たら数字でアップデートしていきます。
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※本記事は2026年6月5日時点の終値および各社2026年3月期決算短信・決算説明資料・北海道電力「経営ビジョン2035」・公的機関の公表情報に基づき作成しています。記載の数値・見通しは将来を保証するものではなく、特定銘柄の売買を推奨するものでもありません。投資の最終判断はご自身の責任でお願いいたします。