※本記事は、2026年8月21日時点で公表されている資料をもとに作成しています。株価と指標は2026年8月21日終値です。特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身でお願いします。
ネット通販の普及で、倉庫は荷物を置くだけの場所から、入出荷、在庫管理、流通加工、輸配送までを担う物流拠点へ変わっています。
では、EC市場が拡大すれば倉庫会社はそろって増益になるのでしょうか。
2027年3月期第1四半期の普通倉庫大手5社を比べると、答えは「いいえ」でした。売上は5社中4社が増えましたが、営業利益は3社が増益、2社が減益です。
さらに、安田倉庫は最終利益が550%増えた一方、営業利益は0.3%増にとどまりました。見出しだけを見ると景色がまったく違います。
今回比較するのは、三菱倉庫、三井倉庫ホールディングス、住友倉庫、日本トランスシティ、安田倉庫の5社です。
結論からいうと、倉庫株は「荷物が増えたか」だけではなく、次の3層に分けて見る必要があります。
- 物流本業でどれだけ利益を出したか
- 不動産が利益を補ったか
- 株式や事業の売却益が最終利益に混ざっていないか
まず結論|本業の伸び、利益率、最終利益で首位が違う
| 比較軸 | 会社 | 内容 |
|---|---|---|
| Q1営業利益額 | 三井倉庫HD | 57.0億円で5社最大。ただし10.8%減益 |
| Q1営業増益率 | 住友倉庫 | 28.1%増。物流と不動産がともに増益 |
| Q1営業利益率 | 三井倉庫HD | 7.06%。住友倉庫の6.96%と僅差 |
| 主要4利益が増加 | 日本トランスシティ | 売上・営業・経常・最終利益がそろって増加 |
| 最終増益率 | 安田倉庫 | 550.0%増。ただし約50億円の株式売却益が主因 |
| 年間配当額 | 住友倉庫 | 103円。DOEを使った下限配当方針あり |
一番目を引くのは安田倉庫の最終利益550%増ですが、本業の伸びを示す営業利益はほぼ横ばいです。
反対に、住友倉庫は最終利益にも株式売却益が入っているものの、物流と不動産がそろって営業増益でした。
倉庫だけに、利益の「保管場所」を間違えないことが大切です。
今回の5社と、比較から外した会社
今回の対象は、普通倉庫を中心に総合物流と不動産を展開する5社です。
- 三菱倉庫(9301)
- 三井倉庫ホールディングス(9302)
- 住友倉庫(9303)
- 日本トランスシティ(9310)
- 安田倉庫(9324)
ニチレイやヨコレイなどの冷凍冷蔵倉庫、三菱地所や大和ハウス工業などの物流施設開発、ダイフクなどの物流自動化は、それぞれ電力コスト、賃貸稼働率、設備受注が業績を左右します。
同じ「倉庫関連」でも利益構造が違うため、今回は横比較から外しました。
第1四半期決算を一覧で比較
単位は億円。億円未満は四捨五入しています。
| 会社 | 営業収益・売上高 | 前年比 | 営業利益 | 前年比 | 経常利益 | 前年比 | 最終利益 | 前年比 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 三菱倉庫 | 705.8 | +2.9% | 38.6 | △2.6% | 54.0 | △13.2% | 60.8 | △67.3% |
| 三井倉庫HD | 807.0 | +9.6% | 57.0 | △10.8% | 60.2 | △7.8% | 37.0 | +12.9% |
| 住友倉庫 | 504.4 | +5.4% | 35.1 | +28.1% | 60.0 | +26.1% | 59.7 | +89.3% |
| 日本トランスシティ | 320.9 | +3.5% | 21.6 | +2.5% | 29.2 | +16.7% | 18.4 | +12.9% |
| 安田倉庫 | 199.1 | △2.7% | 9.8 | +0.3% | 10.7 | +6.6% | 40.1 | +550.0% |
売上の伸びが最大だった三井倉庫HDは営業減益です。一方、安田倉庫は減収でも営業利益をほぼ維持しました。
倉庫業では、貨物量や運賃だけでなく、作業委託費、人件費、施設賃借費、不動産収益、一時的な売却益が利益を動かします。
営業利益率の首位は三井倉庫HD
Q1営業利益を営業収益または売上高で割ると、営業利益率は次のようになります。
| 会社 | Q1営業利益率 |
|---|---|
| 三井倉庫HD | 7.06% |
| 住友倉庫 | 6.96% |
| 日本トランスシティ | 6.73% |
| 三菱倉庫 | 5.46% |
| 安田倉庫 | 4.94% |
利益率は三井倉庫HDが首位ですが、前年同期比では10.8%減益でした。
住友倉庫は利益率が僅差の2位で、営業利益の伸び率は28.1%と5社首位です。「いまの利益率」と「今回の成長率」は分けて考える必要があります。
三菱倉庫|倉庫収入は増えたが、物流利益は減少
三菱倉庫は営業収益705.8億円、営業利益38.6億円でした。売上は2.9%増えましたが、営業利益は2.6%減っています。
倉庫、陸上運送、港湾運送は増収でした。一方、国際運送取扱は海上運賃単価の下落などで減収となりました。
物流事業全体では、作業運送委託費、施設賃借費、人件費などが増加。倉庫の利用が伸びても、運営コストがそれ以上に増えれば利益は減ります。
不動産事業は、賃貸施設の稼働率上昇や分譲マンション販売収入などで増収増益でした。
最終利益は67.3%減ですが、前年同期に192.97億円の投資有価証券売却益がありました。今期も固定資産処分益35.35億円があるため、最終利益の比較だけで本業を判断するのは危険です。
なお、三菱倉庫は今期から営業利益に持分法投資損益や資産回転型ビジネス損益を加えた「事業利益」を主要指標としています。この記事の5社比較は、条件をそろえるため営業利益を使っています。
三井倉庫HD|売上は最も伸びたが、物流は減益
三井倉庫HDは営業収益807.0億円、営業利益57.0億円でした。営業収益は9.6%増で5社最大の伸びですが、営業利益は10.8%減です。
物流事業は増収減益でした。前年にあった航空貨物の高付加価値輸送需要の反動などが響いています。
一方、不動産事業は増収増益。不動産が物流の減益を一部補いましたが、全社の営業利益を増益には戻せませんでした。
最終利益は12.9%増です。これは営業減益と矛盾しているように見えますが、保険代理店事業の売却益が影響しています。
「売上が一番伸びた会社」と「本業利益が一番伸びた会社」は別でした。
住友倉庫|物流と不動産がそろって増益
住友倉庫は営業収益504.4億円、営業利益35.1億円。営業利益は28.1%増で5社首位です。
国際輸送や陸上運送などが伸び、物流事業が増益。不動産事業も増収増益でした。2本柱がそろって営業増益になった点は、ほかの4社と比べても分かりやすい強みです。
最終利益は89.3%増ですが、ここには政策保有株式の売却益が含まれます。ただし営業利益自体も28.1%増えているため、「全部が一時利益」と片づけるのも正しくありません。
株主還元では、年間配当103円を下限とし、DOE3.5~4.5%を目安としています。DOEは利益の振れよりも安定しやすい株主資本を基準に配当を考える指標です。
日本トランスシティ|物量の一部が減っても増収増益
日本トランスシティは売上高320.9億円、営業利益21.6億円でした。売上、営業利益、経常利益、最終利益の4項目がそろって増えたのは5社で同社だけです。
倉庫、港湾運送、陸上運送、国際複合輸送の主要部門はすべて増収でした。
一方で、期中平均保管残高や貨物取扱数量には減少した項目もあります。それでも、共配センターの稼働、海上・航空輸送の取扱増、料金適正化などで全体を増収増益にしました。
これは「荷物の量が増えなければ利益も増えない」とは限らない例です。単価、業務構成、施設稼働率も重要になります。
年間配当予想は43.5円で、前期の43円から0.5円増配予想です。
安田倉庫|最終利益550%増の正体
安田倉庫は営業収益199.1億円で2.7%減収、営業利益9.8億円で0.3%増益でした。
本業は大幅増益ではありません。それでも最終利益は6.2億円から40.1億円へ550%増えました。
最大の理由は、投資有価証券売却益50.15億円です。
会社は中間期と通期の最終利益予想を修正しましたが、通期営業利益予想41億円は前期比4.4%減のままです。
つまり、今回のポイントは「550%増」という数字を否定することではありません。数字自体は正しいものの、その増加を物流本業の成長と読み替えないことです。
年間配当予想74円は据え置きです。
通期予想と進捗率
| 会社 | 通期営業収益・売上高 | 通期営業利益 | Q1進捗率 | 年間配当予想 |
|---|---|---|---|---|
| 三菱倉庫 | 2,800億円 | 175億円 | 22.0% | 44円 |
| 三井倉庫HD | 3,160億円 | 230億円 | 24.8% | 50円 |
| 住友倉庫 | 2,000億円 | 122億円 | 28.8% | 103円 |
| 日本トランスシティ | 1,300億円 | 86億円 | 25.1% | 43.5円 |
| 安田倉庫 | 820億円 | 41億円 | 24.0% | 74円 |
単純な営業利益進捗率では住友倉庫が28.8%で首位です。
ただし、四半期ごとの季節性、不動産売却や物流案件の開始時期があるため、25%を超えただけで上方修正を断定することはできません。
株価・PER・PBR・配当利回り
2026年8月21日終値基準です。
| 会社 | 株価 | 予想PER | 実績PBR | 年間配当予想 | 予想配当利回り |
|---|---|---|---|---|---|
| 三菱倉庫 | 1,510.5円 | 22.48倍 | 1.36倍 | 44円 | 2.91% |
| 三井倉庫HD | 3,308円 | 19.97倍 | 1.82倍 | 50円 | 1.51% |
| 住友倉庫 | 4,160円 | 18.39倍 | 1.00倍 | 103円 | 2.48% |
| 日本トランスシティ | 1,403円 | 12.95倍 | 0.84倍 | 43.5円 | 3.10% |
| 安田倉庫 | 2,586円 | 12.00倍 | 0.71倍 | 74円 | 2.86% |
5社をまとめて「高配当株」と呼ぶのは適切ではありません。予想配当利回りは1%台から3%台まで差があります。
PBRは三井倉庫HDが1.82倍と最も高く、日本トランスシティと安田倉庫は1倍を下回ります。市場が成長性や資本効率をどう評価しているかにも差が出ています。
決算発表後の株価反応
次営業日の終値を見ると、三菱倉庫は約8%下落、三井倉庫HDは約11%下落しました。住友倉庫は約6%上昇、日本トランスシティは約2%上昇、安田倉庫は小幅安でした。
営業減益の2社が下落し、営業増益が大きかった住友倉庫が上昇したため、決算内容が意識された可能性はあります。
ただし、株価は指数、市況、金利、需給などでも動きます。決算だけが原因だったとは断定できません。
次の決算で確認したい5点
1. 三菱倉庫の物流コスト
倉庫・陸運の増収が、委託費、賃借費、人件費の増加を上回れるかを確認します。
2. 三井倉庫HDの航空貨物反動
前年の高付加価値輸送需要の反動が一巡し、物流利益が回復するかが焦点です。
3. 住友倉庫の営業増益の持続性
物流と不動産がそろって伸びる状態が第2四半期以降も続くかを見ます。
4. 日本トランスシティの料金適正化
物量が伸びなくても単価と業務構成で利益を増やせるかが重要です。
5. 安田倉庫の本業と一時利益
株式売却益を除き、メディカル物流や新施設が営業利益を押し上げるかを確認します。
まとめ
倉庫大手5社の第1四半期は、EC需要という同じ追い風があっても営業利益の方向がそろいませんでした。
- 本業の営業増益率は住友倉庫が首位
- 営業利益率は三井倉庫HDが首位だが、今回は営業減益
- 日本トランスシティは主要4利益がそろって増加
- 安田倉庫の最終利益550%増は株式売却益が主因
- 三菱倉庫の最終減益も前年の売却益反動が大きい
倉庫株を見るときは、最終利益の大きな数字だけで判断せず、物流、不動産、一時利益の3つに仕分けることが大切です。
主な参照資料
- 三菱倉庫「2027年3月期 第1四半期決算短信」「2026年度第1四半期 決算説明会資料」
- 三井倉庫ホールディングス「2027年3月期 第1四半期決算短信」「第1四半期決算説明会資料」
- 住友倉庫「2027年3月期 第1四半期決算短信」「配当情報・自己株式取得」
- 日本トランスシティ「2027年3月期 第1四半期決算短信」
- 安田倉庫「2027年3月期 第1四半期決算短信」「第2四半期(累計)連結業績予想の修正」
- Yahoo!ファイナンス各社ページ・株価時系列(2026年8月21日終値)