株主優待の廃止を知らせる紙には、だいたい同じことが書いてあります。
「株主の皆様への公平な利益還元のあり方について慎重に検討を重ねました結果」
公平にする。つまり、優待をやめたぶんは配当で返す、と読めます。
では、本当に返したのでしょうか。
2024年から2026年9月までに株主優待の廃止を発表した会社を179社ぶん集めて、1社ずつ調べました。廃止のお知らせの原文、その前後の配当、発表した翌日の株価、そして有価証券報告書(ゆうかしょうけんほうこくしょ)に載っている個人株主の人数まで見ています。
先に結論を3つ書きます。
- 179社のうち76社は、もう上場していません。全体の42.5%です。
- 上場したまま優待だけをやめた、時価総額1,000億円以上の会社は17社でした。そのうち16社が「公平な利益還元」という同じ言葉を使っていました。
- 優待をやめたあと個人株主が何人減ったかを数えたら、比較できた14社のうち11社で減っていました。いちばん減った会社は55.1%減です。そして戻した会社が1社だけありました。くら寿司です。
9月28日(月)が9月末の権利付き最終日です。優待を取りにいく前に、いま持っている優待株が「やめる側」に回ったときに何が起きるのかを見ておく価値はあると思います。
3年で179社が株主優待をやめた
まず母数です。2024年・2025年・2026年(9月中旬まで)に株主優待の廃止を発表した会社を集めました。同じ会社が複数回出てくるぶんを除いて179社です。
年ごとの発表数はこうなっています。
| 年 | 廃止を発表した会社 |
|---|---|
| 2024年 | 71社 |
| 2025年 | 69社 |
| 2026年(9月中旬まで) | 40社 |
延べ180件、同じ会社が2回発表しているぶんを除いて179社です。2024年1月からの33か月で割ると、月に5.4社のペースでなくなっている計算になります。
ここで先に断っておきます。この179社は、株主優待を集計している個人サイトの廃止リストをもとにした一覧です。取引所が「これが全部です」と出しているものではないので、漏れがある可能性があります。ただし179社の一社一社について、時価総額と上場状況、そして今も優待があるかどうかは、私が個別に確認しました。
そのうち76社は、もう上場していない
179社を今日の時点で調べ直したら、驚くことになりました。
| 社数 | 割合 | |
|---|---|---|
| もう上場していない | 76社 | 42.5% |
| 上場中・優待なし | 90社 | 50.3% |
| 上場中・今も優待がある | 13社 | 7.3% |
優待をやめた会社の4割以上が、そのあと市場から消えています。
念のため3つの方法で確かめました。株価情報サイトで時価総額が表示されないこと、株価データの提供が止まっていること、そして最終売買日が過去の日付で止まっていることです。
たとえばイオンモールは最終売買日が6月26日、パラマウントベッドホールディングスは2月4日で止まっています。どちらも、その会社が出した「上場廃止のお知らせ」の日付と一致しました。
優待の廃止が「非公開化の予告」だった会社
なぜ、優待をやめた会社が市場から消えるのか。順番を3社で確かめました。
イオンモールは2025年4月11日に優待の廃止を発表しています。同じ日に、イオンによる完全子会社化のための株式交換契約を結んだことも発表しました。6月26日に上場廃止です。
パラマウントベッドホールディングスは2025年9月24日に廃止を発表、11月18日に公開買付け(こうかいかいつけ、TOB=ティーオービー)が成立し、2026年2月4日に上場廃止。
マンダムは2025年9月10日に廃止を発表、経営陣による買収(MBO=エムビーオー)を経て2026年5月14日に上場廃止です。
つまり、優待の廃止は「この会社はもうすぐ市場からいなくなります」という合図であることがあるわけです。
今まさにその途中にいる会社もあります。日本ドライケミカル(時価総額1,062億円)です。2026年5月13日の廃止のお知らせに、こう書いてあります。
当社株式が上場廃止となる予定であることを前提として行われたものです
優待をやめる理由が、買収に賛成したからだと明記されています。この会社はまだ上場していますが、「上場したまま優待だけをやめた会社」ではありません。
「配当予想の修正(無配)及び株主優待制度の廃止」という1本の紙
ここが、この記事のいちばん苦い部分です。
パラマウントベッドホールディングスが出したお知らせは、タイトルがこうでした。
2026年3月期配当予想の修正(無配)及び株主優待制度の廃止に関するお知らせ
マンダムのタイトルも「2026年3月期配当予想の修正(無配)及び株主優待制度廃止に関するお知らせ」で、ほぼ同じです。
配当を増やすどころか、同じ紙で配当をゼロにしていました。
非公開化に向かう会社は、買い取り価格が決まっているので、途中の配当や優待を出す理由がなくなります。理屈としては分かります。でも「優待廃止のお知らせ」という同じ見出しの紙が、片方では増配とセットで、もう片方では無配とセットで届くということです。
だから、優待廃止のお知らせを見たら、まず「これはどちらの種類か」を確かめる必要があります。買収の話が同時に出ていないか。配当の話が一緒に書いてあるか。ここを読み分けないと、話がまったく違ってきます。
調べる対象は、優待だけをやめた大型17社
ここからが本題です。
179社から、もう上場していない76社と、非公開化が決まっている日本ドライケミカルを除きます。さらに時価総額1,000億円以上にしぼります。
対象は17社になりました。179社の9.5%です。この17社はすべて「優待をやめた側」で、いまはどこも優待がありません。
| 会社 | 時価総額 | 廃止の発表 | |
|---|---|---|---|
| 1 | アサヒグループホールディングス | 2兆4,488億円 | 2024年8月7日 |
| 2 | 東京センチュリー | 1兆3,142億円 | 2025年5月14日 |
| 3 | MonotaRO(モノタロウ) | 9,774億円 | 2025年1月31日 |
| 4 | マクニカホールディングス | 7,320億円 | 2024年5月7日 |
| 5 | 三菱マテリアル | 6,830億円 | 2026年2月27日 |
| 6 | ヤマハ | 5,783億円 | 2024年7月31日 |
| 7 | コスモス薬品 | 5,149億円 | 2024年7月12日 |
| 8 | DIC(ディーアイシー) | 4,525億円 | 2025年2月12日 |
| 9 | 全国保証 | 4,347億円 | 2024年11月5日 |
| 10 | 日清紡ホールディングス | 4,125億円 | 2026年6月30日 |
| 11 | サイゼリヤ | 3,351億円 | 2024年7月10日 |
| 12 | 日本M&Aセンターホールディングス | 2,213億円 | 2024年1月30日 |
| 13 | 四国化成ホールディングス | 1,974億円 | 2024年7月30日 |
| 14 | 武蔵精密工業 | 1,838億円 | 2025年2月7日 |
| 15 | トランス・コスモス | 1,592億円 | 2025年4月30日 |
| 16 | くら寿司 | 1,385億円 | 2024年12月11日 |
| 17 | Genky DrugStores(ゲンキードラッグストアーズ) | 1,077億円 | 2024年4月25日 |
食品、楽器、ドラッグストア、金融、化学、鉄──業種はバラバラです。共通点は「同じ時期に、同じ判断をした」ことだけです。
10社が2024年の発表なので、そのあと2年ぶんの答え合わせができます。
16社が同じ言葉を使っていた──「公平な利益還元」
17社の廃止のお知らせを全部読みました。16社が「公平な利益還元」という言葉を使っていました。
言い回しまでよく似ています。
ヤマハ(2024年7月31日)
株主の皆様への公平な利益還元のあり方という観点から慎重に検討を重ねました結果、この度、配当等による利益還元に集約することとし
武蔵精密工業(2025年2月7日)
株主の皆様への公平な利益還元のあり方という観点から慎重に検討を重ねた結果、この度、配当等による利益還元に集約することが適切であると判断し
ほぼ同じ文です。そして「配当(等)による利益還元に集約する」という言い回しは、17社のうち11社が使っていました。
日本M&AセンターホールディングスとマクニカHDは、根拠として同じものを挙げていました。
コーポレートガバナンス・コードに示された上場企業に対して求められる株主の実質的な平等性確保の観点から
優待は、100株持っている人にも1万株持っている人にも同じものが届きます。持ち株数に比例しません。だから「平等ではない」という理屈です。
そして、この2社は株主の人数を理由に挙げました。
日本M&Aセンターホールディングスは「2023年9月末現在においては、株主様の数も100,000名を超え、株主優待制度導入時よりも遙かに多くの株主の皆様に当社株式を保有いただくこととなりました」。マクニカHDは「2024年3月末現在においては、株主様の数が3万名を超え」。
つまり、優待の目的はもう達成した、という言い方です。後半で、この言葉の答え合わせをします。
ただ1社だけ、違うことを書いた会社
17社のうち、全国保証だけが「公平」と書きませんでした。
株主優待制度の目的の一つであった知名度向上に貢献できたと判断したため、株主優待制度について現状においては廃止し、今後は配当等による利益還元を行っていくことといたしました
「公平」ではなく「知名度が上がったからもういい」。正直です。
そして「現状においては廃止し」という書き方をしています。ほかの16社は「廃止することといたしました」で言い切っているので、ここだけ含みがあります。
優待をやめる理由が「事業から撤退したから」だった会社
もう2社、理由が特殊な会社があります。
日清紡ホールディングス(2026年6月30日)。
事業ポートフォリオ見直しの一環として、2025年10月に不織布事業から撤退したことに伴い、優待品として提供していた不織布関連製品の生産も終了することとなりました
優待の品物が作れなくなったからやめた、という会社です。17社で唯一、物理的な理由でした。
Genky DrugStores(2024年4月25日)。
当社が株主優待としてご進呈しておりました『ゲンキー商品券』について、偽造されたものが発見され
優待券が偽造されたから、というのも1社だけです。
三菱マテリアルは、廃止と一緒に配当の方針を変えると書きました。
安定的な配当の継続を重視し、DOE(ディーオーイー=株主資本配当率)をベースとした配当方針への変更を検討しています
2005年3月に始めた優待を、21年でやめたことになります。
発表の翌日、株価は上がったのか下がったのか
優待の廃止が発表されると、株価は下がる。そう思っていました。
17社ぶん、発表の翌営業日の終値を調べました。ほとんどの会社が取引終了後(15時30分)に発表しているので、反応が出るのは翌日です。
| 会社 | 翌営業日 | その日の日経平均 |
|---|---|---|
| くら寿司 | △15.78% | +1.21% |
| ヤマハ | △14.13% | △2.49% |
| コスモス薬品 | △9.05% | +0.20% |
| Genky DrugStores | △5.70% | +0.81% |
| 武蔵精密工業 | △3.62% | +0.04% |
| サイゼリヤ | △2.26% | +0.94% |
| 東京センチュリー | △2.16% | △0.98% |
| 日清紡ホールディングス | △0.22% | +0.59% |
| DIC | +1.42% | +1.28% |
| トランス・コスモス | +1.44% | +1.13% |
| マクニカHD | +1.59% | △1.63% |
| 三菱マテリアル | +1.62% | △1.35% |
| MonotaRO | +2.33% | △2.66% |
| 四国化成HD | +2.34% | +1.49% |
| 全国保証 | +3.26% | +2.61% |
| アサヒグループHD | +7.18% | △0.74% |
| 日本M&AセンターHD | +15.23% | +0.61% |
下がったのが8社、上がったのが9社。ほぼ半々でした。
差は31ポイント近くあります。くら寿司の△15.78%から、日本M&Aセンターホールディングスの+15.23%までです。
いちばん上がった2社が何をしたかというと、数字の入った配当の約束を同時に出しています。
日本M&Aセンターホールディングスは、中期経営目標期間の配当性向を40%から60%へ引き上げ、あわせて2回目の自己株式取得を発表しました。アサヒグループホールディングスは、「2025年までに配当性向40%」の達成を1年前倒しし、年間配当を141円に増額、さらに1株を3株にする株式分割も同じ日に出しています。
一方でくら寿司とヤマハは、優待の廃止だけを単独で出しました。
ただし、きれいに割り切れるわけでもありません。Genky DrugStoresは同じ日に増配を発表しているのに△5.70%でしたし、東京センチュリーも「剰余金の配当(増配)及び株主優待制度の廃止」という題で出して△2.16%でした。コスモス薬品にいたっては「累進配当を基本として」と書いたうえで△9.05%です。
増配とセットで出せば下がらない、とまでは言えません。
配当はどうなったか──16社が増やし、1社は据え置き
本題です。「公平な利益還元」と書いた会社は、配当で返したのでしょうか。
株式分割をした会社が複数あるので、分割の影響を取り除いた1株あたり配当で並べます。最後に優待を実施した期と、いちばん新しい予想を比べました。
16社が増やし、1社(日清紡ホールディングス)は据え置きでした。減らした会社はありません。
増やし方には大きな差があります。
| 会社 | 配当(分割調整後) | 変化 |
|---|---|---|
| 四国化成HD | 13円 → 30円 | +130.8% |
| MonotaRO | 19円 → 37円 | +94.7% |
| トランス・コスモス | 81円 → 145円 | +79.0% |
| サイゼリヤ | 18円 → 30円 | +66.7% |
| マクニカHD | 50円 → 80円 | +60.0% |
| 東京センチュリー | 58円 → 90円 | +55.2% |
| くら寿司 | 10円 → 15円 | +50.0% |
| アサヒグループHD | 38.33円 → 57円 | +48.7% |
| DIC | 100円 → 140円 | +40.0% |
| コスモス薬品 | 60円 → 84円 | +40.0% |
| 日本M&AセンターHD | 23円 → 29円 | +26.1% |
| 三菱マテリアル | 100円 → 116円 | +16.0% |
| 武蔵精密工業 | 35円 → 40円 | +14.3% |
| 全国保証 | 115円 → 123円 | +7.0% |
| ヤマハ | 24.67円 → 26円 | +5.4% |
| Genky DrugStores | 12.50円 → 13円 | +4.0% |
| 日清紡HD | 36円 → 36円 | ±0% |
上は四国化成ホールディングスの+130.8%、下はGenky DrugStoresの+4.0%と日清紡ホールディングスの±0%です。「配当で返す」と書いたときの返し方は、会社によってまったく違いました。
ひとつ注意があります。武蔵精密工業は2026年3月期の50円から、2027年3月期は40円への減配を予想しています。最後に優待を出した2024年3月期の35円からは増えていますが、直近の2期からは下げる見通しです。「配当等による利益還元に集約する」と書いた会社の配当が、途中から下を向いている形です。
もうひとつ。この増配が優待をやめたおかげかというと、それは分かりません。業績が伸びたから増やした会社もあるはずです。ここでは「増やしたかどうか」という事実だけを見ています。
100株の人にとって、受取額は増えたのか
ここが、この記事でいちばん自分で計算した部分です。
優待は100株でも1万株でも、だいたい同じ金額のものが届きます。だから優待をやめると、小さく持っている人ほど損をします。「公平」というのは、大きく持っている人から見た公平です。
では100株だけ持っている人にとって、受け取るものは増えたのか減ったのか。
金額がはっきり書いてある優待だった10社で計算しました。
| 会社 | 100株の増配 | やめた優待 | 差引 |
|---|---|---|---|
| マクニカHD | +3,000円 | 1,000円 | +2,000円 |
| アサヒグループHD | +1,867円 | 1,000円 | +867円 |
| 四国化成HD | +1,700円 | 1,500円 | +200円 |
| サイゼリヤ | +1,200円 | 2,000円 | △800円 |
| Genky DrugStores | +50円 | 1,000円 | △950円 |
| MonotaRO | +1,800円 | 3,000円 | △1,200円 |
| 東京センチュリー | +3,200円 | 5,000円 | △1,800円 |
| 全国保証 | +800円 | 3,000円 | △2,200円 |
| 武蔵精密工業 | +500円 | 5,000円 | △4,500円 |
| コスモス薬品 | +2,400円 | 10,000円 | △7,600円 |
10社のうち7社で、配当の増加が優待の金額に届いていません。
いちばん差が大きいのはコスモス薬品の△7,600円です。この会社の優待は「株主様お買物優待券」5,000円分を年2回、合わせて年1万円でした。配当を100株あたり2,400円増やしましたが、1万円には遠く届きません。
武蔵精密工業の△4,500円も大きいです。5,000円相当のギフトセットか7,000円相当のサプリメントを選べる優待でしたが、増配は100株あたり500円です。
逆にマクニカホールディングスは+2,000円。QUOカード(クオカード)1,000円分をやめて、配当を100株あたり3,000円増やしました。やめた優待の3倍を配当で返したことになります。
金額を計算しなかった会社についても書いておきます。三菱マテリアル、ヤマハ、DIC、日本M&Aセンターホールディングスの4社は、やめる前の優待が現物や優待価格で、会社が金額を書いていないため計算できませんでした。たとえばDICは、オリジナルカレンダー1部と、川村記念美術館の入館券付き絵葉書2枚と、グループ製品でした。日清紡ホールディングスとトランス・コスモスは、そもそも100株では優待をもらえませんでした。日清紡は1,000株以上、トランス・コスモスは500株以上が対象です。
優待をやめたあと、個人株主は何人減ったか
ここからが、今回いちばん手間をかけたところです。
株主優待は、個人の株主を集めるための制度です。やめたら、個人株主はどうなったのか。
有価証券報告書の「所有者別状況」という表に、個人株主が何人いるかが人数で載っています。17社ぶん、合計78期を読みました。
最後に優待を実施した基準日の人数と、いちばん新しい期末の人数を比べます。
比較できたのは14社です。日清紡ホールディングスは廃止後の有価証券報告書がまだ出ていません。全国保証は2026年3月31日を基準日とする優待まで実施したので、まだ「やめたあと」の数字がありません。そしてくら寿司は、あとで書くように別枠です。
結果は、14社のうち11社で減りました。
| 会社 | 最後の優待基準日 | その時点 | 最新 | 増減 |
|---|---|---|---|---|
| 四国化成HD | 2023年12月31日 | 7,903人 | 3,550人 | △55.1% |
| コスモス薬品 | 2024年5月31日 | 29,598人 | 13,524人 | △54.3% |
| Genky DrugStores | 2024年6月20日 | 10,804人 | 5,032人 | △53.4% |
| 武蔵精密工業 | 2024年3月31日 | 10,101人 | 6,170人 | △38.9% |
| サイゼリヤ | 2023年8月31日 | 51,157人 | 40,493人 | △20.8% |
| MonotaRO | 2024年12月31日 | 40,195人 | 31,988人 | △20.4% |
| トランス・コスモス | 2025年3月31日 | 6,438人 | 5,796人 | △10.0% |
| 東京センチュリー | 2025年3月31日 | 27,025人 | 25,542人 | △5.5% |
| 日本M&AセンターHD | 2024年3月31日 | 106,925人 | 102,755人 | △3.9% |
| ヤマハ | 2024年3月31日 | 37,161人 | 36,570人 | △1.6% |
| 三菱マテリアル | 2025年9月30日 | 95,481人 | 95,432人 | △0.1% |
| マクニカHD | 2024年3月31日 | 25,408人 | 27,426人 | +7.9% |
| DIC | 2024年12月31日 | 40,611人 | 49,817人 | +22.7% |
| アサヒグループHD | 2023年12月31日 | 124,266人 | 211,403人 | +70.1% |
ここで、ひとつ罠がありました。
有価証券報告書には「個人その他の所有割合」という欄もあります。ヤマハで見ると22.75%から16.55%へ、6.20ポイントの急落に見えます。でも表の下の注記にこう書いてあります。
自己株式21,292,664株は、「個人その他」に212,926単元…含まれております
会社が持っている自社株が「個人」に混ざっています。自己株式を除いて計算し直すと、11.37%から11.56%でほぼ横ばいでした。生の数字をそのまま使うと、真逆の結論になります。なので人数のほうで比べています。
いちばん減ったのは55.1%減。増えた会社もあった
四国化成ホールディングスは7,903人から3,550人。半分以下です。コスモス薬品は29,598人から13,524人、Genky DrugStoresは10,804人から5,032人。上位3社がそろって半減しています。
コスモス薬品については、もう少し丁寧に確かめました。この会社は途中で1株を2株にする株式分割をしています。株数が2倍になって買いやすくなったのに、それでも個人株主は16,074人減っていました。分割は株主を増やす方向にはたらくので、減った理由にはなりません。
しかも、いちばん落ち込んだのは廃止の直後です。2024年5月末の29,598人が、1年後の2025年5月末には8,843人まで減りました。2026年5月末で13,524人まで戻していますが、もとの半分以下のままです。
では、増えた3社は何が違ったのか。
アサヒグループホールディングスは+70.1%、124,266人から211,403人です。ただしこの間に1株を3株にする株式分割をしています。マクニカホールディングスの+7.9%も、1株を3株の分割をした後の数字です。株式分割は最低投資金額を下げるので、個人株主が増える強い要因です。
分割をしていないのに増えたのは、DICの1社だけでした。40,611人から49,817人へ+22.7%です。
ここで、前半の答え合わせをします。日本M&Aセンターホールディングスは「株主の数も10万名を超えた」と書いて優待をやめました。そのあと106,925人から102,755人へ、4,170人減っています。目的は達成した、と書いた直後から減っているわけです。
そして──ここが正直なところですが──100株の受取額の増減と、個人株主の減り方は、きれいには対応しませんでした。
いちばん損をした2社(コスモス薬品△7,600円、武蔵精密工業△4,500円)は、確かに大きく減っています。増えた2社(マクニカ+2,000円、アサヒ+867円)は個人株主も増えました。両端は合っています。
でも四国化成ホールディングスは差引+200円のプラスなのに、55.1%も減りました。逆にGenky DrugStoresは△950円と小さいのに53.4%減です。
お金の損得だけでは、株主が去る理由は説明できませんでした。
くら寿司の70日
最後に、17社でただ1社だけ違う道を歩いた会社の話です。
くら寿司は2024年12月11日、株主優待の廃止を発表しました。理由はこう書いてあります。
配当を含めた株主の皆様への公平な利益還元のあり方という観点から、慎重に協議した結果、株主優待制度を廃止することといたしました
ほかの16社と同じ言葉です。
翌日、株価は1,932.5円から1,627.5円へ、△15.78%。その日の日経平均は+1.21%です。市場は上がっていたのに、この会社だけ15%下げました。17社でいちばん大きな下げです。
そして2025年2月19日、再導入を発表します。
しかしながら、多くの株主様から株主優待制度の再開等のご意見やご要望を頂戴いたしました。このことに鑑み、改めて株主の皆様に対する利益還元について協議した結果
廃止から70日後でした。
翌日の株価は1,295円から1,545円へ、+19.31%。その日の日経平均は△1.24%です。今度は市場が下がっているのに、この会社だけ19%上げました。
「公平な利益還元」は、株主の声に70日で負けたことになります。
戻ってきた優待は、前より良かった
ここが面白いところで、くら寿司はただ戻したのではありません。
| 廃止前 | 再導入後 | |
|---|---|---|
| 中身 | 1,000円使うごとに500円分使える割引券 | そのまま使える食事券 |
| 100株 | 2,500円分 | 2,500円分 |
会社自身が、変更点としてこう書いています。
廃止前の制度におきましては、1,000円のご利用ごとに500円分の利用が可能な割引券でしたが、分かりやすさ、利便性を考慮し食事券での発行とさせていただきます
割引券は2,500円分使うのに5,000円払う必要がありました。食事券ならそのまま2,500円です。額面は同じでも、実質的に価値が上がっています。
さらに2026年2月18日、株式分割に合わせて優待の中身を変え、100〜199株という新しい区分を作りました。分割前から持っていた株主の優待額は変わらないまま、より少ない株数でも優待がもらえるようになっています。拡充が続いています。
では、個人株主はどうなったか。
| くら寿司 | 個人株主 |
|---|---|
| 2024年10月31日(廃止を発表する前) | 40,999人 |
| 2025年10月31日(再導入のあと) | 51,422人 |
10,423人増えました。+25.4%です。
優待をやめた会社で個人株主が減り、戻した会社で増えた。同じ制度の効き目が、1社の中で両方向に出たわけです。
まとめ:優待廃止のお知らせを見たら、どこを読むか
長くなったので、使える形にまとめます。
1. まず「会社ごといなくなる話」かどうかを見る
179社のうち76社(42.5%)はもう上場していません。廃止のお知らせと同じ日、あるいはその前後に、公開買付けや完全子会社化の発表がないか。あれば話がまったく違います。パラマウントベッドホールディングスやマンダムのように、優待と配当を同じ紙で同時にゼロにすることがあります。
2. 配当の約束に数字が入っているかを見る
「配当等による利益還元に集約する」とだけ書いてある会社と、配当性向60%・累進配当・DOEといった数字を書いた会社があります。発表翌日にいちばん上がった2社(日本M&AセンターHD +15.23%、アサヒグループHD +7.18%)は、どちらも数字を出していました。ただしそれで必ず上がるわけではありません。
3. 自分の株数で計算し直す
会社の言う「公平」は、大きく持っている人から見た公平です。100株だけなら、10社のうち7社で受け取りが減りました。いちばん大きいコスモス薬品で年7,600円のマイナスです。優待の金額と、増配の金額を自分の株数で比べてください。
4. そして、戻ってくることもある
くら寿司は70日で撤回しました。理由は「多くの株主様からご意見やご要望を頂戴した」です。株主が声を出したから戻った、と会社自身が書いています。
9月28日(月)が9月末の権利付き最終日です。いま持っている優待株が、来年も同じ優待を出しているとは限りません。でも、やめた会社が必ず配当で返してくれるわけでもなければ、やめた優待が二度と戻らないわけでもない、ということです。
この記事で見た資料
- 各社が出した「株主優待制度の廃止に関するお知らせ」(17社ぶん全文)
- くら寿司「株主優待制度の再導入に関するお知らせ」(2025年2月19日)
- 各社の有価証券報告書「所有者別状況」(17社・78期)
- 各社の配当実績・予想(株式分割の影響を除いて計算)
- 各社の株価(発表日と翌営業日の終値)、日経平均株価
※時価総額・株価は2026年9月18日時点。配当は各社の直近予想。記事中の「差引」「増減」はすべて私が計算したものです。