こんにちは、高配当株投資家のタグ(@kabu.tagu-blog)です。
高配当株を探すとき、私がよくやるのが「スクリーニング」です。証券会社のツールに条件を入れて、当てはまる銘柄をふるいにかける――あの作業です。2026年6月12日時点で、私はこんな4つの条件で日本株をふるいにかけてみました。
予想配当利回り5%以上 × 配当性向50%以下 × 東証プライム × 時価総額1,500億円以上
結果として残ったのが、ソニーフィナンシャルグループ(8729)・UBE(4208)・クレハ(4023)の3社です(※本記事は条件設計と着眼点を説明するもので、実際に画面に並んだ全銘柄を網羅するものではありません)。保険、化学、化学――業種はバラバラ。利回りはいずれも5%を超え、配当性向は一見50%以下に収まっている。数字だけ見れば「高利回りなのに、無理して配っているわけでもなさそう」という、いかにも良さげな3社に見えます。
ところが、ここからが今回いちばんお伝えしたいところです。この「配当性向50%以下」という条件、実は会社や基準によって"物差し"がまるで違うのです。ソニーFGは独自指標「修正純利益」をベースに約49%、UBEは前期実績で44.8%、クレハに至っては前期が最終赤字で性向そのものが計算できません。同じ「50%以下」という入口を通っても、その中身は三者三様。
つまり、スクリーニングの数字はあくまで"入口"にすぎない。本当に見るべきは、「会社が宣言した還元方針(減配しない/DOE/累進)を、これからも守れるか」のほうだ――というのが、今回の記事の芯になる考え方です。1社ずつ、各社の公式IR資料(決算短信・決算説明資料・中期経営計画)をもとに、配当の「支え方」を正直に点検していきます。
※本記事は特定銘柄の売買を推奨するものではありません。株価・指標は2026年6月12日終値、業績・配当方針は各社の公式IR資料に基づきます。スクリーニング条件の設計や「配当の支え方」の整理は私(タグ)個人の見方です。
そもそも「スクリーニング」とは?なぜこの4条件なのか
具体的な銘柄に入る前に、言葉と条件の意図を整理させてください。
スクリーニング(screening)とは、たくさんの銘柄のなかから、自分で決めた条件に当てはまるものだけを「ふるい分ける」作業のことです。「画面(screen)でふるいにかける」というイメージですね。証券会社のツールやアプリには、たいていこの機能がついていて、「利回り○%以上」「PBR○倍以下」といった条件を入れると、当てはまる銘柄が一覧で出てきます。膨大な上場企業を一つひとつ調べるのは現実的ではないので、まず候補を絞り込む――その第一歩がスクリーニングです。
今回私が入れた4条件には、それぞれ意図があります。
- ① 予想配当利回り5%以上…高配当株を探すのが目的なので、まず利回りで足切りします。日本株の配当利回りは平均で2%台といわれるなか、5%はかなり高い水準です。
- ② 配当性向50%以下…ここが今回の肝です。利回りだけで絞ると、「無理して配っている会社」まで拾ってしまいます。利益以上に配当を出し続ければ、いつか配当は続けられなくなる。だから「利益に対して配当が出すぎていないか」を見る配当性向で、二重にふるいをかけます。
- ③ 東証プライム…日本の株式市場のなかで、最も基準の厳しい区分です。一定の規模・流通性・ガバナンスが求められるため、まずはここに絞ることで、極端に小さい会社や情報の少ない会社を外します。
- ④ 時価総額1,500億円以上…会社の「大きさ」での足切りです。時価総額(=株価×発行済株式数)が大きいほど、一般に事業の規模が大きく、業績や株価が比較的安定しやすい傾向があります。小型株特有の値動きの荒さを避ける狙いです。
ポイントは②です。なぜ「高利回り」だけでなく「低い配当性向」まで条件に入れるのか。ここを少していねいに説明します。
「高利回りだけ」で選ぶと、なぜ危ないのか
配当利回りは「1株あたりの配当 ÷ 株価」で計算します。だから、株価が下がるだけでも、利回りは自動的に上がります。会社が元気で利回りが高いのか、それとも株価が売られた結果として高く見えているだけなのか――利回りの数字そのものは、その区別を教えてくれません。
さらに怖いのが、いわゆる「タコ配(たこはい)」です。これは、稼いだ利益以上の配当を、無理して出し続けている状態をたとえた言葉。タコが自分の足を食べて生きているように見える、という昔ながらの比喩から来ています。利益で配当をまかなえず、過去にためたお金や借金を取り崩して配当を出し続ければ、見かけの利回りは高くても、いずれ立ち行かなくなって減配(配当の減額)に追い込まれる――そうなれば、利回り目当てで買った投資家にとっては期待外れになりかねません。
そこで効いてくるのが「配当性向」です。配当性向とは、「会社が稼いだ利益のうち、何%を配当に回したか」を表す数字(配当総額 ÷ 純利益)。たとえば配当性向50%なら、「稼いだ利益の半分を配当に回し、残り半分は会社に残している」という状態です。これが低いほど「利益に対して配当に余裕がある(無理していない)」と読め、逆に100%を超えると「利益以上に配当を出している」ことになります。
「利回り5%以上(高配当)」と「配当性向50%以下(無理していない)」を両方満たす銘柄を探すというのは、つまり「高い配当を、利益でちゃんと支えられていそうな会社」を探そうとする発想です。理屈としてはとても筋が通っています。
でも、その配当性向の"物差し"は会社で違う
ところが――冒頭でも触れたとおり、ここに大きな落とし穴があります。「配当性向」の計算に使う「利益」が、会社や基準によって違うのです。
たとえば、利益が一時的な特別損失(後で出てくる「減損」など)で大きく沈んだ年は、その利益を分母にすると配当性向が異常に高く出たり、そもそも計算できなくなったりします。逆に、会社が独自に「一時的な要因を除いた利益」を使えば、配当性向は実態に近い数字になることもあります。今回の3社は、まさにこの「物差しの違い」が顕著に表れた組み合わせでした。だからこそ、スクリーニングの数字を鵜呑みにせず、「その会社は何をもとに配当を決めているのか」という方針まで踏み込む必要があるのです。
数字を読む前に|配当利回り・配当性向・DOE・「修正純利益」のざっくりの意味
このあと各社の表に、いくつかの指標が並びます。投資を始めたばかりの方のために、今回特に大事になる4つの言葉を、ごく簡単に整理しておきます(すでにご存じの方は読み飛ばしてください)。
- 配当利回り…「1株配当 ÷ 株価」。投資した金額に対して、1年でどれだけ配当が戻ってくるかの割合です。高いほど一見お得ですが、「株価が下がったから利回りが上がっている」場合もある点に注意。
- 配当性向…さきほど説明したとおり「配当総額 ÷ 純利益」。利益のうち何%を配当に回したか。低いほど余裕があると読めますが、分母の「利益」が一時的に沈むと数字が跳ね上がる(または計算不能になる)クセがあります。
- DOE(ディー・オー・イー/株主資本配当率)…これは少しなじみが薄い言葉かもしれません。「配当総額 ÷ 株主資本(自己資本)」で計算する指標で、「会社が積み上げてきた純資産に対して、何%を配当として還元するか」を表します。配当性向が「その年の利益」を基準にするのに対し、DOEは「これまでにためてきた資本」を基準にします。利益はその年の景気や一時要因で大きくブレますが、資本はそう急には変わりません。だからDOEを基準にすると、利益が一時的に落ち込んだ年でも配当を安定させやすい――近年、減配を避けたい会社がDOEを採り入れる動きが広がっています。今回の3社のうち、UBEとクレハがこのDOEを配当方針の軸に据えています。
- 修正純利益(しゅうせいじゅんりえき)…これはソニーFGが使っている独自の指標です。会計上の当期純利益から、市況の変動や一時的な要因(有価証券の売却損益や為替差額など)を除いて計算した利益のこと。会計基準上の利益が一時要因で大きく振れても、「会社の本来の実力に近い利益」をとらえようという考え方です。後述のとおり、ソニーFGはこの修正純利益を配当の基準にしています。
加えて、いくつか補足の言葉も先に押さえておきます。
- 減損(げんそん/減損損失)…会社が持っている設備や工場などの資産について、「将来これだけの利益を生むと見込んでいたのに、その見込みが立たなくなった」というとき、その価値の目減りを一気に費用として計上することです。会計上の費用なので利益を大きく押し下げますが、実際にその年に現金が出ていくわけではない(過去の投資の評価を見直す処理)という特徴があります。だから「減損で赤字になった=配当を払う現金がない」とは必ずしもならない――この点が、今回のクレハを読むうえで重要になります。
- 累進配当(るいしんはいとう)…「減配せず、配当を維持または増やしていく」ことを基本方針に掲げる考え方です。業績が一時的に悪くても配当を下げない、という株主への約束に近いもので、配当を目当てに長く持ちたい投資家には安心材料になります。
これらの指標は、単独で見るとミスリードを生みます。「利回りが高いからお得」「配当性向が低いから安心」と一言で片づけず、業績の中身・会計基準・会社が掲げる還元方針とセットで読む。この姿勢を持ったうえで、3社を見ていきましょう。
まず結論|3社の「配当の支え方」は三者三様
| 銘柄 | 配当の支え方(方針の軸) | ひとことで |
|---|---|---|
| ソニーFG(8729) | 修正純利益×配当性向40〜50%/減額は原則行わない | 会計赤字でも独自指標で配当を支える |
| UBE(4208) | DOE3.5%以上(早期に4.0%へ)/累進を目指す | 黒字転換を機に大幅増配、資本基準へ軸足 |
| クレハ(4023) | DOE5%目安 | 減損で最終赤字でも資本基準で配当を維持 |
横並びで見ると、3社とも「利益の多寡だけで配当を決めない」という点で共通しているのが分かります。ソニーFGは会計上の利益が赤字でも独自の「修正純利益」で、UBEとクレハは利益ではなく「資本(DOE)」を基準にすることで、配当の安定を図ろうとしている。スクリーニングで並んだ「利回り5%超」という見かけは同じでも、その配当を支える土台の作り方は、3社で見事に違うのです。1社ずつ見ていきましょう。
① ソニーフィナンシャルグループ(8729)|会計は赤字、でも独自指標で配当を支える
何の会社か
ソニー生命保険・ソニー損害保険・ソニー銀行などを傘下に持つ、金融持株会社です。直接の子会社には生命保険・損害保険・銀行のほか、介護事業(ソニー・ライフケア)やベンチャーキャピタル事業もあります。報告セグメントは「生命保険事業」「損害保険事業」「銀行事業」の3つで、収益・利益とも生命保険事業が圧倒的な主力です。生命保険の販売を担う「ライフプランナー」は6,034人(2026年3月期末)。この「ライフプランナー」はソニー生命の登録商標です。
少し背景を補っておくと、ソニーFGは2025年10月1日付で、ソニーグループから「パーシャル・スピンオフ」によって独立した会社です。パーシャル・スピンオフ(部分的な分離独立)の詳しいスキームは公式IR資料に踏み込んだ説明がないため、ここでは「ソニーグループから一部独立して、あらためて株式市場に上場した会社」という事実だけを押さえます。このため2025年度(2026年3月期)は、上場後としては実質的な初年度の通期決算にあたります。
保険会社の業績を読むときに、ひとつ知っておきたいことがあります。生命保険会社は、契約者から預かった保険料を、長期にわたって債券などで運用しています。だから金利の動きや、保有している有価証券(債券など)の売り買いによって、会計上の利益が大きく振れやすいのです。この「振れやすさ」が、ソニーFGの決算を読むときの最大のポイントになります。
株価・バリュエーション(2026年6月12日終値)
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 株価 | 141.5円(前日比 -0.6円/-0.42%) |
| PER(予想) | -倍(最終赤字のため算出不可) |
| PBR | 1.51倍 |
| 予想配当利回り | 5.65% |
| 時価総額 | 9,580億円 |
| 市場・業種 | 東証プライム・保険業 |
まず目を引くのが、PERが「-倍」になっている点です。PERは「株価 ÷ 1株あたり利益」で計算しますが、その利益(会計上の当期純利益)が赤字だと、計算ができなくなります。ソニーFGの2026年3月期は、後述のとおり会計上は最終赤字。だからPERが出せない――これがこの「-倍」の意味です。一方でPBRは1.51倍と、今回の3社のなかで唯一1倍を上回っています。利回りは5.65%と、しっかり5%超です。
直近業績(2026年3月期)|「会計赤字」と「修正純利益の増益」が同居する
ソニーFGの2026年3月期決算は、少し読みごたえがあります。なぜなら、見る基準によって「赤字」にも「大幅増益」にも見えるからです。順番に整理します。
まず、IFRS(国際会計基準。参考開示)ベースの数字です。
| 2026年3月期(IFRS・参考開示/連結) | 金額 | 前期 |
|---|---|---|
| 営業収益 | 1兆175億円(+10.0%) | 9,253億円 |
| 営業利益 | △91億円(赤字転落) | 1,323億円 |
| 親会社所有者帰属当期利益 | △86億円(赤字) | 741億円 |
| 修正純利益(非IFRS指標) | 1,051億円(+71.4%) | 613億円 |
ここがこの会社のいちばん面白い(そして紛らわしい)ところです。会計上の最終損益は△86億円の赤字。ところが、会社が独自に使う「修正純利益」は1,051億円で、前期比+71.4%の大幅増益。同じ年の決算なのに、一方は赤字、一方は大幅増益――まるで正反対の顔が同居しています。
なぜこんなことが起きるのか。会社の説明によれば、IFRSの当期純利益△86億円に対して、調整項目+1,138億円(うち有価証券の売却損益が1,827億円など)を加減して、修正純利益1,051億円が算出されています。かみくだくと、ソニーFGは財務基盤を強くするためなどの目的で、保有していた債券を売却しました。その売却に伴う会計上の損失が、IFRSの利益を一時的に大きく押し下げた。けれども、それは「本業の実力が落ちた」わけではなく、あくまで資産の入れ替えに伴う一時的な要因――だから、そうした一時要因を除いた「修正純利益」で見ると、本来の実力はむしろ伸びている、という整理です。
なお、ソニーFGは同じ2026年3月期について、IFRSとは別に日本基準(J-GAAP)の決算も公表しています。日本基準では経常利益845億円(+88.4%)と増益、最終利益は554億円(△29.6%)でした。ここで大事なのは、「赤字」というのはあくまでIFRS(参考開示)ベースの数字であって、日本基準では黒字だという点です。会計基準が違えば利益の見え方も変わる――この会社を語るときは、「どの基準の、どの利益の話をしているのか」を必ずセットにする必要があります。ちなみに、IFRSの正式採用は2026年度(2027年3月期)からで、2026年3月期まではIFRSは参考開示の位置づけです。
来期(2027年3月期)の会社予想も、この構図が続きます。IFRSベースでは営業利益△180億円・最終利益△160億円と引き続き赤字見通しですが、修正純利益は1,100億円(+4.6%)と増益を見込んでいます。
配当の安心度|「減額は原則行わない×修正純利益40〜50%」
では、会計上は赤字なのに、なぜ利回り5.65%もの配当が出せるのか。その答えが、ソニーFGの株主還元方針にあります。会社が公式資料に明記している方針は、原文では次のとおりです。
・配当を最優先
・1株当たり年間配当額の減額は原則行わず、安定的な配当の成長を目指す
・IFRS修正純利益 × 配当性向40〜50%を目安とする
ここがこの会社の配当を読むカギです。配当性向の分母が、会計上の当期純利益ではなく「修正純利益」になっている。だから、会計上の利益が一時要因で赤字に沈んでも、本来の実力をとらえた修正純利益(1,051億円)をもとに配当を決められる――という建て付けです。冒頭で「スクリーニングの配当性向50%以下は物差しが違う」と書いたのは、まさにこのこと。ソニーFGの配当性向は会社資料で約49%(2026年3月期実績の年換算ベース/2027年3月期予想も49%)とされていますが、この49%は「修正純利益を分母にした数字」であって、会計上の純利益(赤字)で計算したものではありません。
配当の実額も見ておきます。2026年3月期の期末配当は1株3.8円ですが、これは半期分のみ。ソニーグループからのスピンオフの効力発生日が2025年10月1日だったため、2025年度は半期分の支払いとなった事情があります(年換算すると7.6円)。2027年3月期の予想配当は、中間4.0円+期末4.0円=年間8.0円(年換算で前期比+5%)です。
さらに、株主還元としては自社株買いも実施しています。2026年3月期には698億円の自己株式取得を実施済みで、取得枠は1,000億円(期間2025年9月29日〜2026年8月8日)が設定されています。これはスピンオフ上場後の株式の需給への影響を緩和し、資本効率を高める目的とされています(市場環境等により一部または全部が行われない可能性もある旨の注記あり)。
整理すると、ソニーFGは「会計上は赤字でも、独自の修正純利益という土台で配当を支え、減額は原則行わないと宣言している」会社です。スクリーニングの利回り5.65%・配当性向約49%という見かけの数字は、この「修正純利益という独自の物差し」を理解して初めて意味がわかる――そういう銘柄だと言えます。一方で、修正純利益そのものが市況(金利や有価証券の動向)に左右される面はあり、会社も金利上昇でESR(健全性指標)が低下する感応度などを開示しています。「独自指標で支える配当」を、どこまで安定的と見るか。そこがこの銘柄を見るときの論点になる、というのが私の整理です。
※ソニーFGの詳細は、別の個別記事でさらに深掘りします(近日公開)。
② UBE(4208)|黒字転換を機に大幅増配、配当の軸を「資本(DOE)」へ
何の会社か
化学を中核とする会社です。報告セグメントは2026年3月期から6区分に再編され、機能品(ポリイミド、分離膜、セラミックス、リチウムイオン電池用セパレータなど)、高機能ウレタン、医薬、樹脂・化成品(ナイロン原料のカプロラクタム、合成ゴムなど)、機械(成形機・産業機械など)、その他で構成されます。このほか、セメント関連事業を持分法適用関連会社「UBE三菱セメント株式会社」を通じて取り込んでいます。
化学業の特徴を、投資の観点から少し補足します。化学は製品の幅が広く、付加価値の高い「スペシャリティ(高機能)」な製品と、市況(需給や原料価格)に左右されやすい「ベーシック(汎用)」な製品が混在します。UBEは今、後者の汎用品(アンモニアやカプロラクタムなど)を縮小・撤退し、前者の高機能品に経営資源を集中させるポートフォリオ転換を進めている最中です。この「転換期」という位置づけが、業績と配当の両方を読むうえでの背景になります。
株価・バリュエーション(2026年6月12日終値)
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 株価 | 3,068.0円(前日比 +68.5円/+2.28%) |
| PER(予想) | 12.2倍 |
| PBR | 0.68倍 |
| 予想配当利回り | 5.22% |
| 時価総額 | 3,258億円 |
| 市場・業種 | 東証プライム・化学 |
3社のなかでは、PER12.2倍・PBR0.68倍と、最も「割安寄り」に見える数字が並びます。PBRが0.68倍ということは、株価が会社の純資産(解散したら株主に残る価値)の7割弱の水準ということ。ただし、PBRが1倍を割れていること自体は「即お買い得」を意味しません。市場がその会社の将来の稼ぐ力にまだ慎重、というサインでもあるからです。利回りは5.22%です。
直近業績(2026年3月期)|経常+67.7%・黒字転換
UBEの2026年3月期(日本基準・連結)は、利益面で大きく改善した1年でした。
| 2026年3月期(日本基準・連結) | 金額 | 前期比 |
|---|---|---|
| 売上高 | 4,623億円 | △5.0% |
| 営業利益 | 189億円 | +5.0% |
| 経常利益 | 375億円 | +67.7% |
| 親会社株主に帰属する当期純利益 | 239億円 | 黒字転換(前期は△48億円の赤字) |
注目は経常利益の+67.7%という大幅増益と、最終損益の黒字転換です。前期(2025年3月期)は構造改革に伴う特別損失で△48億円の最終赤字でしたが、当期はその特別損失が発生せず、黒字に転換しました。経常利益が大きく伸びたのは、持分法投資損益の改善に加えて、為替差益が増えたことが寄与しています。
売上自体は△5.0%の減収ですが、これには汎用品(ナイロンポリマー・カプロラクタムなど)の販売低迷や、機械の製鋼事業を譲渡して連結から外れたことなどが影響しています。営業利益が+5.0%とプラスを確保できたのは、前期の構造改革による減損で減価償却費が減ったことや、原料価格の下落などが効いた結果です。財務面では自己資本比率46.2%、D/Eレシオ0.82倍となっています。
来期(2027年3月期)の会社予想は、売上高4,850億円(+4.9%)・営業利益235億円(+24.1%)・最終利益245億円(+2.6%)。機能品の新設備による増販効果や、医薬・高機能ウレタンの回復で増収増益を見込んでいます。なお経常利益は当期に計上した為替差益がなくなるため、ほぼ横ばい(△0.0%)の予想です。
配当の安心度|110円→160円へ増配、DOE3.5%以上+累進志向
UBEの配当は、2026年3月期実績で年間110円(前期も110円)、配当性向は44.8%でした。この44.8%が、冒頭のスクリーニング条件「配当性向50%以下」をクリアしている数字です。
そして注目すべきは、来期(2027年3月期)の予想配当が160円へと、110円から大きく引き上げられた点です。会社は中期経営計画のなかで、株主還元方針を次のように示しています。
安定配当を基本方針とし、2026年度以降の株主資本配当率(DOE)を3.5%以上に引き上げる。中期経営計画の進捗を踏まえ、4.0%への引き上げを目指す。(累進配当を目指す)
つまりUBEは、配当の軸を「その年の利益(配当性向)」から「資本(DOE)」へとシフトさせ、DOEを従来の2.5%以上から3.5%以上へ引き上げ、早期に4.0%を目指すとしています。あわせて「累進配当を目指す」と明記しており、減配を避けて配当を維持・成長させていく姿勢を打ち出しています。先ほど説明したとおり、DOEは「利益」ではなく「資本」を基準にするため、利益が一時的にブレても配当を安定させやすい――その方針への転換を、110円→160円という大幅増配と同時に示した、という整理です。
ここで、ファクトの正確さのために、ひとつ時系列の注意点を共有しておきます。この160円という予想配当は、2026年5月20日に公表された中期経営計画の資料で示された数字です。それ以前の5月13日付の決算短信・決算説明資料の時点では、配当方針(DOE水準)の見直しを進めている最中だったため、2027年3月期の配当は「未定」と表記されていました。つまり「短信では未定→中計で160円を提示」という流れだったわけです。古い短信だけを見ると配当が未定に見えるので、情報の鮮度には注意が必要です。
もうひとつ、予想配当性向についての注意です。来期予想配当160円を、来期予想EPS(1株あたり利益)252円20銭で割ると、計算上は約63%になります。これは「50%以下」というスクリーニング条件を超えています。ただし――この約63%という数字は会社が公表しているものではなく、私(タグ)が予想配当と予想EPSから機械的に計算した「参考値」です。会社の配当方針はあくまで「DOE3.5%以上+累進」であって、配当性向を目標にしているわけではありません。スクリーニングの入口では「前期実績の配当性向44.8%」で条件を通過していますが、増配後の予想ベースで計算し直すと性向は上がる――この点は、まさに「スクリーニングの数字は入口にすぎない」ことの具体例だと言えます。
中期経営計画|スペシャリティ化学への転換・子会社の上場準備
UBEは「UBE Vision 2030 Transformation -2nd Stage-」という中期経営計画(2025年度〜2030年度の6ヵ年)を掲げ、2030年に「スペシャリティ化学企業」になることを目指しています。具体的には、ポリイミド・分離膜・セラミックス・セパレータといった高機能品の生産能力を増強する一方、アンモニア・カプロラクタム・ナイロンポリマーといった市況に左右されやすい汎用品(構造改革事業)を縮小・撤退していく方針です。
また、株主還元と関わる動きとして、機械事業(UBEマシナリー)とセメント関連事業(UBE三菱セメント)が、東京証券取引所への株式上場準備を開始しています。会社はこのIPO(新規上場)で得られる資金の一部を使って自己株式取得を検討するとしており、中期経営計画では6ヵ年で株主還元枠1,000億円を見込んでいます。「事業の選択と集中」と「株主還元の強化」を同時に進めようとしている、という構図です。
整理すると、UBEは「黒字転換を機に、配当の軸を資本基準(DOE)に移し、累進志向で大幅増配を打ち出した」会社です。スクリーニングは前期実績の性向44.8%で通過しましたが、増配後の見かけの性向(参考計算で約63%)だけを見て「無理している」と早合点するのは適切ではありません。会社が宣言しているのはあくまでDOE基準。その方針を、ポートフォリオ転換という変化のなかで守り切れるか――そこを見ていく銘柄だ、というのが私の整理です。
※UBEの詳細は、別の個別記事でさらに深掘りします(近日公開)。
③ クレハ(4023)|減損で最終赤字、それでも資本基準(DOE)で配当を維持
何の会社か
こちらも化学が中核の会社です。報告セグメントは5つあり、機能製品事業(PPS樹脂、フッ化ビニリデン樹脂=PVDF、PGA樹脂、炭素繊維など)、化学製品事業(農薬、慢性腎不全用剤「クレメジン」、か性ソーダなど)、樹脂製品事業、建設関連事業、その他関連事業で構成されます。
クレハは、私たちの生活になじみのある製品を持っているのも特徴です。家庭用ラップ「NEWクレラップ」や、釣糸「シーガー」がその代表で、これらは樹脂製品事業のなかのコンシューマー・グッズ分野にあたります。一方で、機能製品事業のPVDF(フッ化ビニリデン樹脂)は、主に車載用リチウムイオン二次電池のバインダー(電池材料をつなぎ留める材料)として使われています。「身近な日用品」と「電池材料のような先端素材」の両方を手がけているわけです。
株価・バリュエーション(2026年6月12日終値)
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 株価 | 3,765円(前日比 +115円/+3.15%) |
| PER(予想) | 19.2倍 |
| PBR | 0.87倍 |
| 予想配当利回り | 5.74% |
| 時価総額 | 1,880億円 |
| 市場・業種 | 東証プライム・化学 |
利回りは5.74%と、3社のなかで最も高い水準です。PBRは0.87倍で1倍を割れています。PER19.2倍は、来期の予想利益(黒字転換見込み)をもとにした数字です。
直近業績(2026年3月期)|減損365億円で最終赤字、でも本業(コア営業利益)は増益
クレハの2026年3月期(IFRS・連結)は、3社のなかで最も「数字の読み解き」が必要な決算です。見出しの最終損益は赤字ですが、その中身を分解すると印象が変わります。
| 2026年3月期(IFRS・連結) | 金額 | 前期 |
|---|---|---|
| 売上収益 | 1,616億円(△0.2%) | 1,620億円 |
| 営業利益 | △185億円(営業損失) | 94億円(利益) |
| 親会社の所有者に帰属する当期利益 | △106億円(損失) | 78億円 |
| (参考)コア営業利益 | 145億円(増益) | 100億円 |
会計上は営業損失△185億円・最終損失△106億円の赤字です。けれども、その最大の要因は減損損失365億円でした。内訳は、EV(電気自動車)市場の停滞が続いてPVDF事業の見込みが立たなくなったことによるPVDF製造設備の減損が340億円、新しい治療薬の登場や薬価引き下げを背景とした慢性腎不全用剤(クレメジン)製造設備の減損が25億円です。
ここで、冒頭の指標解説で触れた「減損」の性質を思い出してください。減損は、過去の投資(設備など)の価値を見直して一気に費用計上する会計処理で、その年に実際に現金が出ていくわけではありません。実際、クレハが「本業の実力」を測るために独自に使っている「コア営業利益」(営業利益から一時的な項目を除いて算出)は、145億円と前期の100億円から増益でした。PPS事業の損益改善や、PVDFの在庫評価損がなくなったことなどが寄与しています。つまり、減損という一時的・非現金的な要因で会計上は赤字に沈んだが、本業の地力はむしろ改善していた――これがクレハの2026年3月期の実像です。
来期(2027年3月期)の会社予想は、売上収益1,720億円(+6.4%)・営業利益110億円・最終利益75億円で、黒字転換を見込んでいます(営業利益の黒字化は、前期の減損が剥落することによる面が大きい)。予想EPSは196円24銭です。なお、コア営業利益ベースでは145億円→100億円へ減益予想で、これは中東情勢によるコスト増やPVDFの減価償却開始などが要因とされています。
配当の安心度|214円→216円、DOE5%目安と自社株買い
クレハの配当は、ここまで見てきた業績と切り離して理解する必要があります。配当の推移はこうです。
| 期 | 年間配当 | 配当性向(連結) |
|---|---|---|
| 2025年3月期(実績) | 86.70円 | 57.9% |
| 2026年3月期(実績) | 214.00円 | -(当期は最終赤字のため記載なし) |
| 2027年3月期(予想) | 216.00円 | 110.1% |
まず目を引くのは、2025年度(2026年3月期)に配当が86.70円から214.00円へと大きく増えている点です。そして2026年3月期は最終赤字だったため、配当性向は計算できず「記載なし」となっています。さらに来期予想は216.00円で、予想EPS196.24円で計算すると予想配当性向は110.1%――つまり「来期予想の利益を超える配当を計画している」ことになります。
「赤字の年に増配し、来期は利益超えの配当を予定する」というと、冒頭で説明した「タコ配」を思い浮かべる方もいるかもしれません。けれども、クレハの場合は背景に明確な方針があります。会社は2025年度から「DOE(株主資本配当率)5%を目安」とする配当方針を導入したのです。原文では次のように説明されています。
当社は、短期的な業績変動の影響を受けずに株主還元の安定性を確保するため、2025年度より株主資本配当率(DOE)を導入しました。2025年度および2026年度において、DOE5%を目安としました。
(次期中計でも)安定的な配当を行うことを基本方針としており、2027年度以降もDOE5%を目安とした配当を計画しています。
ここがポイントです。DOEは「その年の利益」ではなく「資本(株主資本)」を基準にする指標でした。だから、減損で会計上の利益が一時的に赤字に沈んでも、資本を基準にしたDOE5%という方針に沿って配当を出せるわけです。実際、2026年3月期の親会社所有者帰属持分配当率は5.0%でした。減損が「現金の流出を伴わない会計処理」であることも、配当を維持できる現実的な裏づけになります(営業キャッシュフローは+280億円を確保)。来期の予想配当性向110.1%という数字も、「利益基準では高く見えるが、会社の物差しはDOEである」という前提を理解して読む必要があります。冒頭で「スクリーニングの配当性向は会社で物差しが違う」と書いた最も極端な例が、この「前期は計算不能・来期は110%」のクレハだと言えます。
株主還元としては、自社株買いと消却も積極的です。2026年3月期には総額390億57百万円の自己株式取得を実施し、5,491,000株を消却しました。さらに2026年5月12日の決議で、自己株式9,700,000株を2026年6月30日に消却する予定としています。あわせて「保有する自己株式の上限を発行済株式総数の5%程度とし、それを超える分は原則消却する」という方針も示しています。発行済株式数を減らすことは、1株あたりの価値を高める方向に働きます。
中期経営計画|「種まき・基礎固め」、2028年度ROE8%へ
クレハは2026年5月12日に、新しい中期経営計画(2026年度〜2028年度「Technology to Value 2028」)と2035年度の長期経営計画を公表しました。背景には、前の中計で柱と見込んでいたPVDFがEV市場の停滞で失速し、目標未達となった反省があります。会社はこれを受けて従来の2030年度目標を撤回し、新計画を「種まき・基礎固めの期間」と位置づけました。2028年度の目標はコア営業利益190億円・ROE8.0%・売上収益1,850億円などです。なお新中計では、配当は引き続きDOE5%を目安とする一方、自己株式取得は現時点では計画なしとしています。
整理すると、クレハは「減損で会計上は最終赤字だが、本業(コア営業利益)はむしろ増益。配当はDOE5%という資本基準の方針に沿って維持し、自社株買い・消却も組み合わせている」会社です。利回り5.74%・予想配当性向110.1%という見かけの数字は、この「DOEという物差し」と「赤字の正体が非現金の減損である」ことを理解して、初めて意味がつかめます。一方で、会社の物差しが資本基準である以上、業績の回復(来期黒字転換やPVDF・PGA事業の立て直し)が遅れた場合に、会社が掲げる「機動的にDOEの配当率を見直す」という一文がどう効いてくるか――そこを見ていく銘柄だ、というのが私の整理です。
※クレハの詳細は、別の個別記事でさらに深掘りします(近日公開)。
3銘柄まとめ|スクリーニングで残った3社を並べて見る
| 項目 | ソニーFG(8729) | UBE(4208) | クレハ(4023) |
|---|---|---|---|
| 株価(2026/6/12終値) | 141.5円 | 3,068.0円 | 3,765円 |
| 予想利回り | 5.65% | 5.22% | 5.74% |
| PER(予想) | -倍(赤字) | 12.2倍 | 19.2倍 |
| PBR | 1.51倍 | 0.68倍 | 0.87倍 |
| 時価総額 | 9,580億円 | 3,258億円 | 1,880億円 |
| 業種 | 保険業 | 化学 | 化学 |
| 直近の最終損益 | IFRS赤字(修正純利益は+71.4%) | 黒字転換(経常+67.7%) | 減損で赤字(コア営業益は増益) |
| 配当の支え方 | 修正純利益×40〜50%/減額原則せず | DOE3.5%以上→4.0%へ/累進志向 | DOE5%目安 |
| 配当の動き | 年8.0円予想(年換算+5%) | 110→160円へ増配 | 214→216円 |
| スクリーニング上の性向 | 約49%(修正純利益ベース) | 前期実績44.8%(増配後の参考計算は約63%) | 前期は算出不能/来期予想110.1% |
| 決算期・会計基準 | 2026年3月期・IFRS(参考)/日本基準 | 2026年3月期・日本基準 | 2026年3月期・IFRS |
こうして横並びで見ると、「利回り5%超」という同じ見出しの下に、ずいぶん性質の違う3社が並んでいるのが分かります。会計上は赤字でも独自指標で配当を支える会社(ソニーFG)、黒字転換を機に資本基準へ軸足を移して大幅増配した会社(UBE)、減損で赤字でも資本基準で配当を維持する会社(クレハ)。そして、スクリーニングの「配当性向50%以下」という条件も、修正純利益ベース・前期実績ベース・算出不能と、物差しがバラバラです。同じ条件を通っても、中身はこれだけ違う――これが今回いちばんお伝えしたかったことです。
高利回り×低配当性向スクリーニングを使うときのチェックリスト
今回の3社を通して見えてきた「スクリーニングの数字を入口で終わらせない」ための確認ポイントを、私なりにチェックリストの形にまとめておきます。気になる高配当銘柄がスクリーニングに引っかかったとき、買う前にこの順番で確認すると、思考が整理しやすくなります。
- その配当性向は「何の利益」で計算されているかを確認する。 会計上の当期純利益か、会社独自の指標(ソニーFGの修正純利益、クレハのコア営業利益など)か。一時的な特別損失(減損など)で利益が沈んだ年は、性向が異常値になったり計算不能になったりする。スクリーニングに出た性向の数字は、まず「分母は何か」を疑う。
- 会社が配当を「何で決めているか」(方針の軸)を読む。 配当性向を基準にしているのか、DOE(資本基準)か、累進配当の宣言があるか。今回のUBE・クレハのように、利益が一時的にブレてもDOEで配当を安定させる設計の会社もある。利回りの数字より、この「方針」のほうが配当の継続性を左右する。
- 赤字や減益の「正体」を見分ける。 本業が崩れたのか、それとも減損のような一時的・非現金的な要因か。減損で会計赤字でも、本業(コア営業利益)が増益で、営業キャッシュフローが黒字なら、配当を支える現金はあることが多い。「赤字=配当が危ない」と短絡しない。
- 増配後・見通しベースで数字を計算し直す。 スクリーニングは多くの場合「直近実績」で判定する。UBEのように増配を発表したばかりの会社では、増配後の予想で性向を計算し直すと印象が変わる(ただしそれが会社の目標値とは限らない点に注意)。
- 情報の鮮度をそろえる。 UBEのように「短信では配当未定→後日の中計で増配を提示」というケースもある。古い資料だけを見ると判断を誤る。最新の開示まで追う。
このリストに沿って見れば、少なくとも「利回りが高くて、性向も低そうだから安心」という見かけだけで判断する事態は避けられます。スクリーニングはスタート地点であって、結論ではありません。
よくある質問(FAQ)
Q1. 配当利回りが5%もあれば、安心して買っていいのですか?
A. 利回りの高さは「安全」を意味しません。利回りは「配当 ÷ 株価」なので、株価が下がるだけでも自動的に高くなります。また、利益以上に配当を出している「タコ配」状態なら、見かけの利回りが高くても、いずれ配当が続かなくなる恐れがあります。大切なのは利回りの数字そのものより、「その配当が続きそうか(会社の還元方針・業績・現金の状況)」をセットで確認することです。
Q2. 配当性向が低い=安心、で合っていますか?
A. 単純にはそう言えません。配当性向は「配当 ÷ 利益」ですが、分母の「利益」が会社や基準によって違うのが落とし穴です。一時的な特別損失(減損など)で利益が沈んだ年は性向が跳ね上がったり計算できなくなったりしますし、ソニーFGのように会社独自の「修正純利益」を分母にしているケースもあります。性向の数字を見たら、まず「何の利益で割っているのか」を確認してください。
Q3. DOE(株主資本配当率)と配当性向は、何が違うのですか?
A. 分母(基準にするもの)が違います。配当性向は「その年の利益」を基準にするのに対し、DOEは「会社が積み上げてきた株主資本(純資産)」を基準にします。利益は景気や一時要因で大きくブレますが、資本はそう急には変わりません。そのため、DOEを基準にすると、利益が一時的に落ち込んだ年でも配当を安定させやすいという特徴があります。今回のUBE(DOE3.5%以上)やクレハ(DOE5%目安)は、このDOEを配当方針の軸にしています。
Q4. クレハは赤字なのに、なぜ増配や高い配当ができるのですか?
A. 2026年3月期の最終赤字の主因は「減損損失365億円」という一時的・非現金的な会計処理で、本業の実力をとらえる「コア営業利益」はむしろ増益(100→145億円)でした。減損はその年に現金が出ていくわけではなく、営業キャッシュフローも黒字を確保しています。加えて、クレハは配当の方針を「DOE5%目安」という資本基準に置いているため、その年の利益が赤字でも資本をもとに配当を出せる設計になっています。ただし、これは「赤字でも無条件に配当が続く」という意味ではなく、業績の回復が遅れれば会社が掲げる「機動的なDOEの見直し」が論点になりえます。
Q5. 結局、この3社のなかでどれを選べばいいですか?
A. 本記事は特定の銘柄をおすすめする趣旨ではないので、「これを買うべき」という答えは出しません。お伝えしたいのは、3社は「利回り5%超」という見出しこそ同じでも、配当を支える土台がまったく違う、ということです。ソニーFGなら「独自指標(修正純利益)で支える配当」をどう評価するか、UBEなら「資本基準への転換と累進志向」をどう見るか、クレハなら「減損による赤字と資本基準の配当維持」をどう受け止めるか。利回りの数字を横並びで比べるのではなく、それぞれの「配当の支え方」を理解したうえで、自分が何を重視するかで判断するのが、遠回りなようでいちばんの近道だと考えています。
まとめ|利回りの数字より、配当を支える「方針」を見る
予想配当利回り5%以上・配当性向50%以下・東証プライム・時価総額1,500億円以上――この4条件で2026年6月12日にふるいをかけて残ったのが、ソニーFG(8729)・UBE(4208)・クレハ(4023)の3社でした。利回りはいずれも5%超。けれども、1社ずつ公式IR資料で点検してみると、配当の「支え方」はまったく違いました。
- ソニーフィナンシャルグループ…会計上(IFRS参考開示)は最終赤字だが、一時要因を除いた独自指標「修正純利益」は+71.4%の増益。配当は「修正純利益×40〜50%/減額は原則行わない」という方針で支えられている。スクリーニングの性向約49%も修正純利益ベースの数字。
- UBE…前期の構造改革損失が剥落して黒字転換(経常+67.7%・最終益239億円)。これを機に配当の軸を「資本(DOE)」へ移し、DOE3.5%以上(早期に4.0%へ)+累進志向で、110円→160円へ大幅増配。前期実績の性向44.8%で条件は通過したが、増配後の参考計算では約63%(会社公表値ではない)。
- クレハ…減損365億円で会計上は最終赤字だが、本業のコア営業利益は100→145億円へ増益。配当は「DOE5%目安」という資本基準で214→216円を維持し、自社株買い・消却も組み合わせる。前期の性向は算出不能、来期予想は110.1%。
3社に共通するのは、「その年の会計上の利益の多寡だけで配当を決めていない」という点です。独自指標、あるいは資本基準(DOE)を使うことで、利益が一時的にブレても配当を安定させようとしている。だからこそ、スクリーニングで出てきた「利回り5%超・性向50%以下」という見かけの数字は、入口にすぎません。その数字の分母が何で、会社が配当を何で決めているのか――そこまで踏み込んで初めて、配当の継続性が見えてきます。
投資家として大事なのは、「利回りが高い=お得」「性向が低い=安心」と、見かけの数字で飛びつかないこと。利回りの数字より、その配当を支える「方針」を見る。これが、高配当株をスクリーニングで探すときの基本だと私は考えています。
3社とも、私は引き続きウォッチしていきます。各社の詳細はそれぞれ個別記事でさらに深掘りする予定です(近日公開)。状況が大きく動いたら、また決算や開示の数字をもとに、このブログで点検していくつもりです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
※本記事は2026年6月12日終値および各社の公式IR資料(決算短信・決算説明資料・中期経営計画)に基づき作成した個人の整理です。株価・PER・PBR・利回り・時価総額は2026年6月12日終値時点。決算は3社とも2026年3月期ですが、会計基準・赤字要因・配当の支え方が異なります(ソニーFG=IFRSは参考開示で赤字・日本基準は黒字/UBE=日本基準で黒字転換/クレハ=IFRSで減損による最終赤字)。スクリーニング条件の設計・「配当の支え方」の整理・UBEの予想配当性向(参考計算)は私(タグ)個人の見方・計算であり、会社公表値ではありません。記載の数値・見通しは将来を保証するものではなく、特定銘柄の売買を推奨するものでもありません。投資の最終判断はご自身の責任でお願いいたします。