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航空株4社、ジェット燃料2.2倍の直撃はどこに出た?|最新決算で確認

※この記事は、各社が公表した決算短信・決算説明資料をもとに、2026年8月20日時点の情報でまとめたものです。特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資の判断はご自身の責任でお願いします。株価・指標は2026年8月20日の終値を基準にしています。

はじめに

ニュースで「中東情勢が緊迫」と流れると、必ずセットで出てくるのが原油高の話です。

そして原油が上がると、真っ先に名前が挙がるのが航空会社です。飛行機は燃料で飛んでいますから、燃料代が上がれば苦しくなる。それはそのとおりです。

実際、2026年の春はすさまじい上がり方でした。ジェット燃料のもとになるシンガポールのケロシン相場は、2026年2月には1バレル80ドル台だったものが、4月には230ドルを超えました。日本経済新聞社の『業界地図 2027年度版』にも「航空燃料価格は一時2.5倍まで上昇」と書かれています。

ケロシンというのは灯油の一種で、ジェット燃料の原料になるものです。以下、この記事では何度か出てきます。

そして今回、各社が発表した2027年3月期の第1四半期は、期間でいうと2026年4月から6月。まさに、その燃料高をまともに浴びた最初の決算です。

では、4社の決算はそろって痛んだのか。

答えは「いいえ」でした。

決算を開けてみると、燃料費の増え方が会社によってまったく違っていたのです。しかも、その差は小さくありません。一番大きい会社と一番小さい会社で、20倍近くの開きがありました。

今回はここを見ていきます。

結論

先に結論をお伝えします。

2026年4月から6月、市場のジェット燃料は前年同期の2.2倍になりました。それでも4社の決算に出た燃料費の増え方は、プラス4.5%からプラス86.6%まで、20倍近い差がつきました。

差を生んだのは、大きく3つです。

1つめ、ヘッジ。 燃料の値段をあらかじめ決めておく取引のことです。市場のドバイ原油の期中平均は112.5ドルでしたが、スカイマークが実際に負担した単価はヘッジ後で74.2ドルでした。3割以上安い水準です。

2つめ、燃油(ねんゆ)サーチャージ。 燃料代の上昇分を運賃に上乗せする仕組みです。国際線には制度がありますが、国内線にはまだありません。国際線を持っているかどうかが、そのまま転嫁できるかどうかにつながっています。

3つめ、国際線と貨物。 ANAと日本航空は、国際線の旅客と貨物の単価を上げることで、燃料代の増加をかなりの部分取り返しました。

そして、ここからが今回いちばん申し上げたいところです。

4社のうち2社は、そもそも赤字の理由が燃料ではありませんでした。 さらに日本航空は、飛行機を飛ばす事業が2つとも赤字で、連結の黒字はまったく別の事業が作っていました。

「燃料が上がったから航空株は苦しい」。この一文だけでは、今回の決算はまったく説明できません。

1. そもそも、航空株は4社しか買えない

本題に入る前に、ひとつ確認しておきます。

日本の空を飛んでいる航空会社はたくさんありますが、株式市場で買えるのは4社だけです。

会社 コード 市場
ANAホールディングス 9202 東証プライム
日本航空 9201 東証プライム
スカイマーク 9204 東証グロース
スターフライヤー 9206 東証スタンダード

名前をよく聞く会社でも、上場していない会社がたくさんあります。以下に出てくる「傘下(さんか)」は、そのグループに属しているという意味です。

  • ピーチ・アビエーション(ANAの完全子会社)
  • ジップエア・トーキョー(日本航空の子会社で、国際線だけを飛ばすLCC)
  • ジェットスター・ジャパン
  • スプリング・ジャパン(日本航空が子会社化)
  • ソラシドエアAIRDO(持株会社リージョナルプラスウイングスの傘下)
  • フジドリームエアラインズ(物流会社の鈴与が100%出資)
  • アイベックスエアラインズ

つまり「LCC(エルシーシー。ローコストキャリア、格安航空会社のこと)に投資したい」と思っても、LCCそのものを単体で買うことはできません。ピーチを買いたければANAを、ジップエアを買いたければ日本航空を買うことになります。

前回のホテル株の回でも同じことを書きましたが、日本の株式市場では「業界としては大きいのに、買える銘柄がごく限られている」ということがよくあります。空運はその典型です。

なお、業界の規模そのものは大きく、国際航空運送協会(IATA、アイアタ)の2026年予測では、世界の航空業界の売上高は1兆1,650億ドル、日本円で188兆9,630億円とされています。(出典:日経『業界地図 2027年度版』)

2. 今回の決算は「燃料が2.2倍になった四半期」

では、実際にどれくらい上がったのか。ANAが決算説明会資料で開示している数字が、いちばんはっきりしています。

指標 前年同期 今回 増え方
ドバイ原油(1バレルあたり) 68.0ドル 112.5ドル +65.4%
シンガポールケロシン(1バレルあたり) 81.4ドル 182.5ドル +124.2%
為替(1ドルあたり) 145.2円 159.2円 +9.6%

原油が1.65倍、ジェット燃料のもとになるケロシンは2.2倍です。しかも円安が9.6%進んでいますから、円で払う金額はさらに膨らみます。

ひとつ注意点があります。ANAはこの182.5ドルについて「3〜5月平均」と資料に明記しています。決算の対象期間は4〜6月ですが、燃料は買ってから燃やすまでに時間差があるため、少し前の相場が反映されるのです。細かい話ですが、数字を正確に扱うために書き添えておきます。

もうひとつ、この数字が信用できると考えた理由があります。スターフライヤーも決算説明資料で同じドバイ原油の期中平均を開示しており、そちらは112.3ドルでした。ANAの112.5ドルとほぼ一致します。別々の会社が別々に出した数字が合っているので、相場の水準としては確かなものと見てよさそうです。

3. 比較の前提|4社は「同じものさし」では測れない

ここは少し地味ですが、飛ばさずに読んでいただきたいところです。

今回の4社は、決算の対象期間はぴったりそろっています。4社とも2026年4月1日から6月30日までの3か月です。前回のホテル株の回では藤田観光だけ決算期が違って苦労しましたが、今回その問題はありません。

その代わり、別のズレがあります。

その1。会計基準が違います。

日本航空だけがIFRS(国際会計基準)を使っています。IFRSには経常利益という項目がありません。ですから、4社を並べた表に「経常利益」の欄を作ることはできません。

また日本航空は、決算短信の見出しで「EBIT(イービット)」という独自の指標を使っています。これは「財務・法人所得税前利益」の略で、税金や利息を引く前の利益です。ただし、損益計算書の中にはきちんと「営業利益」の行もありますので、今回の比較表ではそちらを使います。

その2。連結か、単体かが違います。

ANAと日本航空は連結、つまりグループ全体の数字です。スカイマークとスターフライヤーは非連結、つまりその会社1社だけの数字です。

グループ全体と1社を比べているわけですから、金額の大小を並べても意味がありません。今回は増減率と利益率で比べます。

その3。売上の呼び方も違います。

ANAは「売上高」、日本航空は「売上収益」、スカイマークは「事業収益」、スターフライヤーは「営業収入」。中身はどれも本業で稼いだお金ですが、名前が違います。表の中では便宜上「売上」でそろえますが、正式な名前は各社で異なる点をご承知おきください。

4. 4社の決算一覧

前置きが長くなりました。数字を見ていきます。

会社 売上 前年同期比 営業利益 営業利益率
ANAホールディングス 6,727億円 +22.6% 207億円 3.1%
日本航空 5,237億円 +11.2% 108億円 2.1%
スカイマーク 249億円 +6.0% △33億円 △13.3%
スターフライヤー 110億円 +6.2% △11億円 △10.2%

※日本航空はIFRSの営業利益です。スカイマークとスターフライヤーは非連結です。△はマイナスを表します。

まず目につくのは、4社とも増収だということです。売上はどこも前年より増えています。需要が弱かったわけではありません。

一方で利益はどうか。大手2社は黒字を確保していますが、利益率はかなり薄くなっています。ANAは前年の6.7%から3.1%へ、日本航空は9.2%から2.1%へ。

そして下位2社は営業赤字です。

前年と比べると、こうなります。

会社 営業利益 前年同期 今回 変化
ANAホールディングス 367億円 207億円 △43.5%
日本航空 433億円 108億円 △75.0%
スカイマーク △16億円 △33億円 赤字が拡大
スターフライヤー △0.4億円 △11億円 赤字が拡大

日本航空の営業利益が4分の1近くまで減っているのが目立ちます。

ここまでを見ると、たしかに「燃料高で全滅」に見えます。ところが、中身を開けると話が変わります。

5. 【本題】燃料費の増え方が、20倍違った

ここが今回いちばんお伝えしたいところです。

各社が開示している燃料費を並べてみます。

対象 前年同期 今回 増え方
市場のジェット燃料(シンガポールケロシン) 81.4ドル 182.5ドル +124.2%
ANAホールディングス(燃油費・燃料税) 1,005億円 1,875億円 +86.6%
日本航空(航空燃油費) 940億円 1,488億円 +58.4%
スカイマーク(燃料費・燃料税) 76.7億円 80.1億円 +4.5%
スターフライヤー 非開示 非開示

もう一度見てください。

市場のジェット燃料は2.2倍になりました。ANAの燃料費は約1.9倍に増えています。日本航空も1.6倍です。

ところがスカイマークは、たった4.5%しか増えていません

金額でいうと、3億4,800万円です。年間ではなく四半期の数字とはいえ、燃料が2倍になった局面で、燃料費がほとんど増えていない。これは奇妙に見えます。

ひとつ、注意していただきたいことがあります。科目の名前がそろっていません。 ANAとスカイマークは「燃油費・燃料税」で税金を含んでいますが、日本航空は「航空燃油費」です。ですから、売上に占める比率の水準そのものを厳密に比べることはできません。今回お伝えしているのは、あくまで「前の年と比べてどれだけ増えたか」です。

その前提の上で、それでも4.5%と86.6%という差は、誤差では説明がつきません。

では、なぜこうなったのか。

6. 差がついた理由①|燃料の値段を、先に決めてあった

スカイマークの決算補足説明資料に、答えが書いてあります。

同社が開示しているドバイ原油の単価は、こうなっています。

項目 前年同期 今回 増え方
ドバイ原油(ヘッジ後 70.9ドル 74.2ドル +4.7%
燃料費の為替レート(ヘッジ後) 146.2円 158.8円 +8.6%

市場の期中平均は112.5ドルでした。ところがスカイマークが実際に負担した単価は74.2ドルです。

差額は38ドル。率にして3分の1以上、安く調達できていたことになります。

これがヘッジです。あらかじめ「この値段で買う」という約束をしておくことで、相場が急に上がっても、決めた値段で買えるという仕組みです。保険に近いイメージで考えていただくとわかりやすいかもしれません。

ANAも同じことをしています。ただし、やり方が違います。ANAの決算説明会資料には、ヘッジの方針がこう書かれています。

  • 国内線の消費量を対象にヘッジする(3年前から取引を開始)
  • 国際線の消費量は原則としてヘッジの対象外(燃油サーチャージで対応する)

そしてヘッジ率は、総消費量に対して2026年度が30%、2027年度が20%、2028年度が10%(いずれも2026年6月末時点)です。

つまりANAは、飛ばしている燃料のうち3割しか値段を固定していません。残りの7割は、上がった相場でそのまま買っています。だから燃料費が86.6%も増えたわけです。

ここで、ひとつ大事なことを申し上げます。

ヘッジをしていた会社が正しくて、していなかった会社が間違っていた、という話ではありません。

ヘッジは値段を固定する取引です。相場が上がれば得をしますが、下がれば逆に、市場より高い値段で買い続けることになります。

実際、今回の決算には、そのマイナス面も出ています。

  • 日本航空の「キャッシュ・フロー・ヘッジの有効部分」はマイナス186億円
  • スターフライヤーの繰延(くりのべ)ヘッジ損益はマイナス11億円
  • ANAの包括利益はマイナス120億円(前年はプラス109億円)

ケロシン相場は4月に230ドルを超えたあと、5月には150ドル前後まで下がっています。上がりきったところから下がってきたので、ヘッジの評価に逆風が吹いた形です。

得をした面と、損をした面。どちらもあります。良し悪しを決めつけずに、事実として押さえておくのがよさそうです。

7. 差がついた理由②|燃料代を、お客さんに回せるかどうか

もうひとつの分かれ道が、燃油サーチャージです。

国際線の航空券を買ったことのある方はご存じかと思いますが、運賃とは別に「燃油サーチャージ」という項目が付いてきます。燃料代が上がったときに、その分を上乗せする仕組みです。

この制度は、国内線にはありません。

ここが今回、大きな意味を持ちました。

ANAは決算説明会資料で、中東情勢による第1四半期の収支影響を、こう整理しています。

項目 金額
市況急騰による燃油費の増加 △710億円
ヘッジによる回収 +160億円
運賃・燃油サーチャージによる回収 +390億円
コスト削減など +30億円
正味の影響 △320億円

710億円の痛手のうち、390億円を運賃と燃油サーチャージで取り返しています。ヘッジの160億円より、こちらのほうがはるかに大きいのです。

ANAはこれを「燃油急騰により増加した費用のカバー率を55%まで改善した」と説明しています。期初の第1四半期の計画では21%の見込みでしたから、想定を大きく上回ったことになります。

日本航空も同じ方向です。決算短信には、国際線についてこう書かれています。

「燃油サーチャージテーブルの引き上げや中東における外国航空会社の運休に伴う需給のひっ迫を的確にとらえ、収益最大化を狙ったレベニューマネジメントが奏功した結果、前年同期比で単価が大幅に上昇し、順調に推移しました」

国際貨物についても「燃油サーチャージのスキーム変更等による価格転嫁を進める」と明記しています。実際、日本航空の国際線の貨物郵便収入は355億円から541億円へ、1.5倍に伸びました。

一方、スカイマークとスターフライヤーは国内線だけを飛ばしています。上乗せする制度そのものがありません。

ちなみに日本航空は、決算短信の中で「国内路線事業では、燃油サーチャージ導入や競合他社との協業、業界横断での需給バランスの改善等により、早期に利益率を高め」と書いています。国内線にも燃油サーチャージを導入したいという方針です。ただし時期も金額も書かれていませんので、いつどうなるかはまだわかりません。

8. ANAホールディングス|「22.6%増収」の中身を開ける

ここから1社ずつ見ていきます。

ANAの売上は5,487億円から6,727億円へ、22.6%増えました。第1四半期としては過去最高です。

数字だけ見ると、かなりの好調に見えます。ところが、中身を開けると印象が変わります。

航空事業の売上の内訳がこうなっています。

項目 前年同期 今回 増減
ANA国際旅客 2,062億円 2,476億円 +413億円
ANA国内旅客 1,619億円 1,636億円 +17億円
ANA貨物郵便 494億円 657億円 +163億円
日本貨物航空 なし 579億円 +579億円
ピーチ・アビエーション 292億円 357億円 +64億円
AirJapan 29億円 なし △29億円
その他 470億円 500億円 +30億円
合計 4,968億円 6,208億円 +1,239億円

日本貨物航空の579億円は、前年同期には存在しなかった売上です。

ANAは2025年8月に日本郵船から日本貨物航空を買収し、完全子会社にしました。連結に加わったのが前年度の第2四半期からなので、前年の第1四半期の数字には入っていません。

航空事業の売上増1,239億円のうち、579億円、およそ47%が買収によるものです。ですから「22.6%の増収」を、そのまま実力の伸びと受け取ることはできません。

逆に減っている項目もあります。AirJapanの29億円です。業界地図の年表にも「2026年3月 ANAHDの『Air Japan』運航休止」とあり、ANAの資料にも「前年度末で運航休止」と注記されています。

もうひとつ気になるのが国内旅客です。1,619億円から1,636億円へ、17億円しか増えていません。伸び率にして1.1%です。国際旅客が413億円増えているのと比べると、国内線の伸びの鈍さが目立ちます。

業界地図172ページのポイント欄にも「高単価な出張需要の低迷で国内線の収支悪化」と書かれており、決算の数字はその指摘と整合しています。

なお通期の予想に対する進捗(しんちょく)率は、営業利益で13.9%です。数字だけ見ると遅れているように見えますが、航空業界の第1四半期には季節性があります。単純に4分の1と比べて判断するのは避けたほうがよさそうです。

9. 【本題その2】日本航空|飛行機を飛ばす事業は、2つとも赤字だった

今回、いちばん驚いた数字がこれです。

日本航空の連結のEBITは127億円の黒字でした。前年の455億円からは72.1%の減少ですが、黒字は黒字です。

ところが、セグメント別に開けると、こうなっています。

セグメント 前年同期 今回
フルサービスキャリア事業 307億円 △8億円
LCC事業 42億円 △1億円
マイル/金融・コマース事業 102億円 120億円
その他(旅行事業など) 13億円 26億円
調整額 △10億円 △10億円
連結 455億円 127億円

フルサービスキャリア(FSC、エフエスシー。座席や機内サービスが手厚い航空会社のこと)事業が赤字。LCC事業も赤字

日本航空は、飛行機を飛ばす2つの事業が、どちらも赤字だったのです。

では127億円の黒字はどこから来たのか。マイル/金融・コマース事業の120億円です。マイレージや提携クレジットカード、コマース(物販)などの事業です。

会社自身も、決算短信でこう説明しています。

「マイル発行と償還により生み出される収益は高い利益率を維持し、中東情勢の緊迫化に伴う航空事業への一時的な下押し圧力を吸収することで、グループ全体の黒字確保に大きく貢献しました」

このセグメントの売上収益は497億円から563億円へ増えており、利益も102億円から120億円へ増えています。航空事業が苦しんでいる四半期に、ここだけが伸びています。

前回の自動車株の回で「ホンダの二輪の利益が四輪を上回っていた」という話を書きましたが、構造としては同じです。看板になっている事業と、実際に利益を作っている事業が、必ずしも一致しない。 決算はセグメントまで開けないと見えません。

もうひとつ、日本航空で押さえておきたい数字があります。旅客数が減っていることです。

項目 前年同期比
国際線 有償旅客数 99.6%
国内線 有償旅客数 97.3%
合計 有償旅客数 97.7%

国内線の旅客は2.7%減っています。それでも国内線の旅客収入は1,342億円から1,390億円へ増えました。人数が減った分を、単価の上昇が上回ったということです。

前回のホテル株の回で「人数ではなく単価で稼いでいる」という話を書きましたが、航空にも同じ構図があります。

10. LCC|いちばん苦しいのは、ここかもしれない

業界地図172ページの解説欄には、燃料費が経営に与える影響について「コストに占める燃料費比率の高いLCCでは……」という記述があります。

実際の決算はどうだったか。

日本航空のLCC事業は、売上収益が304億円から324億円へ6.7%増えました。ところが利益は、42億円の黒字から1億円の赤字へ転落しています。

中身を見ると、2社で明暗が分かれています。

会社 有償旅客数 前年同期比 座席利用率
ジップエア 101.9% 77.1% → 88.5%(+11.3pt)
スプリング・ジャパン 64.1% 88.1% → 84.1%

ジップエアは座席利用率が11.3ポイントも改善しています。決算短信によれば、保有するボーイング787-8型機の全8機にSpaceXの「Starlink」を搭載し、2026年5月5日にアジア初の全機Starlink対応エアラインになったとのことです。機内のWi-Fiが無料で高速になったわけです。

一方でスプリング・ジャパンは旅客数が35.9%減と大きく落ちています。中国路線が主力の会社です。ただし決算短信には「中国キャリアの減便による需給引き締まりを背景に、緻密かつ効率的なレベニューマネジメントを推進し、旅客単価は前年より大きく上昇した」とあり、人数を絞って単価を上げた形と読めます。

ANAのピーチ・アビエーションはどうか。

項目 前年同期 今回 増え方
旅客数 221.3万人 241.8万人 +9.3%
座席利用率 80.2% 83.3% +3.1pt
売上高 292億円 357億円 +22.0%
単価(売上高÷旅客数) 13,231円 14,772円 +11.6%

人数も単価も両方伸びています。数字だけ見れば、かなり良い内容です。

ただし、ピーチの営業利益は開示されていません。航空事業セグメントの中に含まれてしまっているため、いくら儲かったのか(あるいは損したのか)は外からわかりません。

ここは正直に書いておきます。開示されていないものは、推測で書きません。そして、開示するかどうかという姿勢そのものも、投資家が会社を見るときの材料のひとつだと思います。

LCCについてもうひとつ。冒頭で書いたとおり、日本のLCCはどれも単体では買えません。ピーチが好調でもANAの中に埋もれ、ジップエアが伸びても日本航空の一部です。「LCCに投資する」という選択肢は、日本の株式市場には用意されていません。

11. スカイマークとスターフライヤー|赤字の理由は、燃料ではなかった

最後に下位2社です。ここが今回、いちばん意外だったところかもしれません。

スカイマーク 9204

まず大事な前提から。

スカイマークの第1四半期は、毎年赤字です。

年度 事業収益 営業損益
2023年3月期 第1四半期 162億円 △22億円
2024年3月期 第1四半期 221億円 △14億円
2025年3月期 第1四半期 235億円 △21億円
2026年3月期 第1四半期 235億円 △16億円
2027年3月期 第1四半期 249億円 △33億円

5年連続です。会社自身も決算補足説明資料で「季節性による赤字」と説明しています。ですから、今回の赤字を「転落」と表現するのは正しくありません。

では、なぜ赤字幅が広がったのか。営業費用の内訳を見ると、はっきりしています。

費用科目 前年差
整備費 +9億7,700万円
航空機材リース料 +4億5,900万円
その他 +4億300万円
減価償却費 +3億4,900万円
人件費(賞与除く) +2億9,800万円
空港使用料 +2億5,200万円
燃料費・燃料税 +3億4,800万円
賞与 +2,600万円
合計 +31億1,500万円

費用増31億円のうち、燃料はわずか3.5億円です。 いちばん増えたのは整備費で9.8億円。会社の説明では「前年実施の引当金(ひきあてきん)取り崩し反動による増加」と「為替要因(円安)による増加」です。

次いで航空機材リース料と減価償却費。これは新しい機体を入れているためで、決算補足説明資料によれば、同社はボーイング737-8と737-10を合わせて27機契約済み、全機を新型に入れ替える計画です。新型は燃料の消費量が15〜19%少なくなるとされています。

つまりスカイマークは、燃料高そのものよりも、機体の入れ替えと整備費で費用が増えているわけです。

なお燃料費については、もうひとつ興味深い開示があります。市況要因(原油高・円安)では8億500万円の増加でしたが、「政府支援による減少」が4億5,600万円あり、差し引き3億4,800万円の増加にとどまっています。制度の名前までは資料に書かれていないので、ここは会社の説明どおりに書き留めるだけにしておきます。

スターフライヤー 9206

スターフライヤーは、営業損益が0.4億円の赤字から11.2億円の赤字へ広がりました。売上は6.2%増えていますから、費用が売上以上に増えたことになります。

では何が増えたのか。決算短信には、こう書かれています。

「当第1四半期累計期間においては前年同期と比較して大幅な円安基調であったことから、外貨建ての定期整備費用について、その引当金を円換算したことによる引当金繰入額が増加し、その結果、事業費ならびに販売費および一般管理費の合計である営業費用は12,154百万円(前年同期比16.5%増)となりました」

燃料費のことは、一言も書かれていません。 会社が挙げているのは、円安によって膨らんだ整備費の引当金です。

海外に払う整備費をあらかじめ費用として計上しておくとき、円安が進むと円に直したときの金額が増えます。それが利益を押し下げた、ということです。

なおスターフライヤーは、四半期の燃料費の金額を開示していません。決算短信も決算説明資料も全ページ確認しましたが、金額を示す表もグラフもありませんでした。同社が開示しているのは、市場のドバイ原油の期中平均(67.9ドル→112.3ドル)だけです。

前回のホテル株の回で、帝国ホテルが客室稼働率を開示していないという話を書きました。同じことが起きています。開示されていないものは推測しない。 これは今回も守ります。

輸送の実績自体は悪くありません。有償旅客数は39.2万人から40.5万人へ増え、提供座席キロも増えています。座席利用率は78.3%から77.4%へ0.9ポイント下がりましたが、大きな崩れではありません。

12. 財務と配当|数字が動いた理由に注意

財務の状態も見ておきます。

会社 自己資本比率 前期末 今回
ANAホールディングス 37.7% 35.6%
日本航空 40.3% 42.9%
スカイマーク 28.0% 22.7%
スターフライヤー 19.6% 10.7%

※日本航空は親会社所有者帰属持分比率です。

スターフライヤーの10.7%という数字が目を引きます。前期末の19.6%からほぼ半分です。

ただし、これを「業績が悪化して財務が痛んだ」と読むのは間違いです。

純資産が減った35億9,600万円の内訳を、決算短信はきちんと説明しています。

要因 金額
剰余金(じょうよきん)の配当(2026年6月29日実施) △16億3,700万円
四半期純損失 △8億1,000万円
繰延ヘッジ損益の減少 △11億4,800万円

赤字による減少は8.1億円で、全体の4分の1以下です。 いちばん大きいのは配当16.4億円。しかもそのうち12.4億円は、利益ではなく資本剰余金を取り崩して出したものです。

数字の大きさに驚く前に、なぜ動いたのかを確認する。今回はそのいい例だと思います。

日本航空も似た注意点があります。資本が1,556億円増えていますが、これは社債型種類株式(しゅるいかぶしき)の発行によるもので、株式の発行による収入は1,936億円です。普通株式の株数は増えていませんので、既存の株主の持ち分が薄まる増資ではありません。

配当の状況は次のとおりです。

会社 前期実績 今期予想
ANAホールディングス 年65円 年60円(中間30円+期末30円)
日本航空 年96円 年96円(中間48円+期末48円)/据え置き
スカイマーク 年7円 中間0円、期末は未定
スターフライヤー 0円 未定

ANAは前期の65円から60円へ、予想を減らしています。日本航空は96円で据え置きです。

なお、ANAには自社株買いの動きもあります。自己株式が3,051万株から4,830万株へ、1,779万株増えました。

13. 株価の動き

株価も見ておきます。

今回、比較の期間を決めるのに少し工夫が必要でした。決算発表日が7月29日(ANA)、7月31日(スターフライヤー)、8月3日(日本航空)、8月7日(スカイマーク)と10日間ばらついているためです。全社の発表後にそろえると、比較できる期間がほとんど取れません。

そこで今回は、全社が発表する前の7月28日の終値から、直近の8月20日の終値までで見ることにしました。決算をはさんだ動きをまとめて見る形です。

銘柄 7月28日終値 8月20日終値 騰落率
ANAホールディングス 9202 3,140.0円 3,043.0円 △3.09%
日本航空 9201 2,988.5円 2,990.0円 +0.05%
スカイマーク 9204 412円 424円 +2.91%
スターフライヤー 9206 1,926円 1,916円 △0.52%
日経平均株価 62,364.92円 66,216.79円 +6.18%

同じ期間に、日経平均は6.18%上がっています。

4社とも、日経平均には届きませんでした。 一番良かったスカイマークでも2.91%で、日経平均の半分以下です。

ここで気をつけたいことがあります。「決算が悪かったから株価が下がった」とは書けません。 株価は決算だけで動くものではなく、相場全体の地合い、為替、金利、需給、ほかの材料でも動きます。今回は「決算をはさんだ期間に、4社とも日経平均に届かなかった」という事実だけを押さえておきます。

14. PER・PBR・配当利回り

指標も確認します。まず株探に表示されている数字です。

銘柄 終値 PER PBR 予想配当利回り
ANAホールディングス 9202 3,043.0円 14.0倍 1.10倍 1.97%
日本航空 9201 2,990.0円 11.7倍 0.89倍 3.21%
スカイマーク 9204 424円 31.9倍 0.91倍 -(配当未定)
スターフライヤー 9206 1,916円 24.5倍 -(表示なし) -(配当未定)

自分でも計算してみたところ、一部の数字が合いませんでした。理由がわかったので、書いておきます。

ANAのPER。 決算短信の予想1株当たり利益は209.26円で、これで計算すると14.5倍になります。株探は14.0倍です。差の理由は、ANAが発行している社債型種類株式の配当の扱いでした。短信の209.26円はこの配当を差し引いた後の数字、株探の217.0円は差し引く前の数字です。

日本航空のPBR。 これが一番大きくずれました。会社が開示している1株当たり純資産は2,499.09円で、これで計算するとPBRは1.20倍です。ところが株探は0.89倍。調べたところ、株探は社債型種類株式を含む持分1兆4,473億円を普通株式数で割っており、1株あたり約3,362円という計算になっていました。会社の開示は種類株式を除いた後の数字です。

どちらが間違いということではなく、何を分母に置くかで数字が変わるという話です。この記事では会社の開示に沿って1.20倍としておきます。

スターフライヤーのPBRは、計算できません。 同社には非上場のA種・B種の種類株式があり、純資産36億円のうち普通株主に帰属する分がいくらなのかが外からわかりません。株探がPBRを表示していないのも、おそらく同じ理由です。無理に計算しても意味のある数字にならないので、「出せない」と正直に書いておきます。

配当利回りは、ANAが1.97%、日本航空が3.21%です。スカイマークとスターフライヤーは配当予想が未定のため、算出できません。

日本航空の3.21%という水準を魅力に感じる投資家もいると思います。ただし、配当性向は会社予想の1株利益に対して37.6%で、その1株利益の予想が前期比20.1%の減益であることは押さえておきたいところです。

15. 次の決算で見たい項目

第2四半期(2026年7〜9月)の決算で、私が確認しようと思っている点を挙げておきます。

1つめ、燃料相場がどこまで戻るか。 ANAは第2四半期の前提としてシンガポールケロシンを120ドルと置いていましたが、資料の作成時点で直近が約150ドルと書いています。前提より高い水準です。ANAは第2四半期について「中東情勢の緊張の再燃」「燃油市況の悪化」「円安の継続」をリスクとして挙げています。

2つめ、カバー率が維持できるか。 ANAは燃料増加分のカバー率を55%まで改善しましたが、これは需要が強かったから成立した面があります。値上げを続けても客が減らないかどうか。ANAは「価格弾力性は想定と比べて限定的」と書いていますが、第2四半期も同じとは限りません。

3つめ、国内線の旅客がどうなるか。 日本航空の国内線旅客は2.7%減、ANAの国内旅客収入は1.1%増にとどまりました。業界地図も「高単価な出張需要の低迷」を指摘しています。ここが戻るかどうかは、下位2社の業績にも直結します。

4つめ、国内線の燃油サーチャージ。 日本航空が導入の方針を示していますが、時期も金額も未定です。仮に制度ができれば、国内線しか飛ばない2社にとっても環境が変わります。

5つめ、再編の動き。 2026年5月29日に「国内航空のあり方に関する有識者会議 報告書」が公表され、特定既存航空会社への出資規制の廃止などが盛り込まれたと、日本航空の決算短信に書かれています。同社は「他社との戦略的な協業体制の構築を推進する」としています。何がどう動くかはまだわかりませんが、注目しておきたいところです。

6つめ、スカイマークの期末配当。 現時点で未定とされています。通期の当期純利益予想は8億円で、前期比51.2%の減益です。

まとめ

長くなりましたので、整理します。

1. ジェット燃料は2.2倍になったが、決算に出た大きさは会社ごとにまったく違った。 燃料費の増え方は、スカイマークの+4.5%からANAの+86.6%まで、20倍近い差がついた。

2. 差を生んだのはヘッジと燃油サーチャージ。 スカイマークがヘッジ後に負担した原油は74.2ドル。市場の期中平均112.5ドルより3割以上安い。ANAは710億円の燃料費増のうち390億円を運賃と燃油サーチャージで、160億円をヘッジで取り返した。

3. ただしヘッジには裏がある。 相場が下がれば逆に不利になる。日本航空のヘッジ関連の評価はマイナス186億円だった。良し悪しの話ではない。

4. ANAの22.6%増収の半分近くは買収によるもの。 航空事業の売上増1,239億円のうち579億円は、買収した日本貨物航空の分で、前年には存在しなかった。

5. 日本航空は、飛行機を飛ばす2つの事業がどちらも赤字だった。 連結の黒字127億円は、マイル/金融・コマース事業の120億円が支えている。

6. 下位2社の赤字の理由は、燃料ではなかった。 スカイマークは整備費と新機材、スターフライヤーは円安で膨らんだ整備の引当金。スカイマークの第1四半期赤字は5年連続で、会社自身が季節性と説明している。

7. 4社とも増収だが、4社とも日経平均には届かなかった。 ただし株価は決算だけで動くものではない。

「燃料が上がったから航空株は苦しい」。ニュースの見出しとしては間違っていませんが、決算を開けると、そのひと言では説明できないことばかりでした。

どこで儲けて、どこで痛んでいるのか。それは決算書のセグメントと費用の内訳を見ないとわかりません。今回はそれがよく出た四半期だったと思います。

次の決算も追いかけます。

主な参照資料

  • ANAホールディングス「2027年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」(2026年7月29日)
  • ANAホールディングス「2027年3月期 第1四半期 決算説明会資料」(2026年7月29日)
  • 日本航空「2027年3月期 第1四半期決算短信〔IFRS〕(連結)」(2026年8月3日)
  • スカイマーク「2027年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(非連結)」(2026年8月7日)
  • スカイマーク「2027年3月期 第1四半期 決算補足説明資料」(2026年8月7日)
  • スターフライヤー「2027年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(非連結)」(2026年7月31日)
  • スターフライヤー「2027年3月期 第1四半期 決算説明資料」(2026年7月31日)
  • 株探(株価・指標、2026年8月20日終値)
  • 日本経済新聞社『日経業界地図 2027年度版』172〜173ページ「空運」(業界の全体像・業界規模のみ参照)

※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資の判断はご自身の責任でお願いします。

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たぐ

コロナショック直前の2020年に投資をスタート。リアルタイムで暴落を経験しながら独学で投資の基礎を習得。 現在の運用総額5,000万円超・年間配当収入120万円超を達成。投資信託・ETF・個別株・米国株など100銘柄超に分散投資し、相場の波に強いポートフォリオを構築中。 高配当株の長期保有と新NISAの積立を組み合わせた"2刀流"スタイルで資産形成を実践。保有銘柄の決算・配当・株価をブログで赤裸々公開しています。YouTubeでも投資情報を発信中!

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