本記事は2026年8月16日時点で公表されている各社の決算短信・決算説明資料をもとに作成しています。株価・指標は2026年8月14日(金)終値基準です。特定の銘柄の購入や売却を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。
はじめに|ニュースは「好調」、決算はどうか
「インバウンドでホテルが満室」「客室単価が過去最高」。こういうニュースを毎日のように見かけます。
では、ホテルの株を持っている人は儲かっているのでしょうか。
確かめる方法はひとつです。決算を見ることです。売上ではなく、利益を見る。
今回は、ホテルが本業の上場4社について、最新の決算を並べて確認しました。すべて公式の決算短信・決算説明資料から数字を拾い、比率は自分で計算し直しています。
- 帝国ホテル(9708)
- リゾートトラスト(4681)
- 藤田観光(9722)
- ロイヤルホテル(9713)
この記事の結論
先に答えを出します。
4社とも増収でした。でも、営業利益が増えたのは1社だけです。
そして、その1社(リゾートトラスト)の利益は、ホテルではなく会員権から出ていました。
「インバウンドで儲かっている」というニュースと、投資家が受け取る利益の間には、はっきりしたズレがあります。順番に見ていきます。
その前に|有名ホテルは、ほとんど買えない
ホテル株の話をするとき、最初に知っておきたいことがあります。
名前を知っているホテルの多くは、株式市場に上場していません。
- ホテルオークラ
- ホテルニューオータニ
- パレスホテル
- 星野リゾート
御三家と呼ばれる3つのうち、上場しているのは帝国ホテルだけ。星野リゾートも会社そのものは上場していません。
つまり「インバウンドでホテルが儲かっているらしいから買ってみよう」と思っても、選べる先はかなり限られているのです。今回の4社は、その数少ない選択肢ということになります。
業界の全体像|市場は6兆5,000億円、でも稼働率には差がある
個別の会社に入る前に、業界全体の数字を押さえておきます。
日経『業界地図 2027年度版』によると、全国の旅館・ホテル市場の規模は6兆5,000億円(2025年度推計、帝国データバンク)。決して小さくない市場です。
そして観光庁のデータとして、こう紹介されています。
- シティホテルの稼働率は75%
- リゾートホテルの稼働率は57%
- それぞれ前年を約2〜3ポイント上回った
ここで注目したいのが、シティホテルとリゾートホテルで18ポイントも差があることです。都市部のホテルは埋まっていても、リゾートは半分強しか埋まっていない。
今回の4社で言えば、リゾートトラストは会員制リゾートが主体で、実際にエクシブの稼働率は48.0%、ベイコートは49.2%。リゾートホテルの平均57%よりさらに低い水準でした。この業界全体の構図が、そのまま個社の数字にも出ています。
外資の高級ブランドが続々と入ってくる
もうひとつ、投資家として頭に入れておきたいのが競争環境です。業界地図には、外資系ラグジュアリーブランドの日本進出が並んでいます。
- カペラホテルグループ(シンガポール)が2025年に日本初進出
- ラッフルズ(アコー/仏)が2028年に日本進出予定
- ドーチェスター・コレクション(英)が2028年にアジア初進出。東京駅前のトーチタワーに開業予定
すでにマリオット、ヒルトン、ハイアット、フォーシーズンズ、アマン、ザ・ペニンシュラ、マンダリン オリエンタルなどが日本で展開しています。
高い単価を取れる客層をめぐる競争は、これから激しくなる。今回の記事で見ていく「単価の上昇で稼ぐ」というやり方が、いつまで続けられるのか。ここは次の決算以降を見るうえでの論点になります。
なお、ここまでの数字は業界地図(二次資料)に載っているものです。ここから先の個別企業の数字は、すべて各社の公式資料から確認しています。
ホテル株を見るときの基本指標「RevPAR」
もうひとつ、覚えておくと便利な指標を紹介します。RevPAR(レブパー)です。
日本語では「客室1室あたり収益」。計算式はこうです。
RevPAR = ADR(エーディーアール=平均客室単価)× OCC(オーシーシー=客室稼働率)
たとえば、1泊3万円の部屋が7割埋まっていれば、RevPARは2万1,000円。1泊2万円の部屋が9割埋まっていれば、RevPARは1万8,000円。
単価が高くても、空室が多ければ収益は伸びない。逆に単価が安くても、満室に近ければ稼げる。この両方を1つの数字にまとめたのがRevPARです。ホテルの収益力を見るときの、いちばん基本的なものさしになります。
なぜこれを紹介するかというと、今回の4社を見るとADRとOCCが逆方向に動いているからです。単価は上がっているのに、稼働率は下がっている会社がある。片方だけを見ると判断を誤ります。
ただし残念なことに、今回の4社でADRと稼働率を開示しているのは、リゾートトラストだけでした。帝国ホテルは決算補足資料そのものを作っておらず、ロイヤルホテルも部門別の売上までしか出していません。藤田観光は「ADRが上昇した」と文章では書いていますが、数値は公表していません。
ですから今回はRevPARで4社を並べることができません。開示の姿勢そのものも、投資家が会社を見るときの材料のひとつだと思います。
4社の最新決算
まず注意点をひとつ。藤田観光だけ決算期が12月です。今回の数字は1月~6月の6か月分で、他3社の3か月分(4月~6月)とは期間が違います。金額の大小は比べられないので、増減率で見てください。
| 会社 | 対象期間 | 売上高 | 営業利益 | 最終利益 |
|---|---|---|---|---|
| 帝国ホテル | 4-6月(3か月) | 148億円 +9.0% | 7.2億円 △6.1% | 2.9億円 △65.4% |
| ロイヤルホテル | 4-6月(3か月) | 76億円 +4.9% | 4.6億円 △32.0% | 3.6億円 △22.6% |
| 藤田観光 | 1-6月(6か月) | 408億円 +2.0% | 63億円 △8.8% | 80億円 +77.4% |
| リゾートトラスト | 4-6月(3か月) | 613億円 +16.0% | 81億円 +78.4% | 55億円 +79.1% |
4社とも増収。でも営業利益が増えたのはリゾートトラストだけです。
営業利益率も出しておきます。
| 会社 | 営業利益率 |
|---|---|
| 藤田観光 | 15.38% |
| リゾートトラスト | 13.25% |
| ロイヤルホテル | 6.03% |
| 帝国ホテル | 4.83% |
では、なぜ売上が伸びているのに利益が減るのか。1社ずつ中身を見ていきます。
帝国ホテル|見出しは減益、でも本業は増益
帝国ホテルの第1四半期は、売上高148億円(+9.0%)、営業利益7億1,600万円(△6.1%)、最終利益2億8,600万円(△65.4%)でした。
ニュースの見出しだけを見ると「大幅減益」に見えます。でも、中身を開けると景色がまったく違いました。
| セグメント | 売上高 | 前年同期比 | 営業利益 |
|---|---|---|---|
| ホテル事業 | 146億2,600万円 | +8.5% | 15億3,800万円(+16.4%) |
| 不動産賃貸事業 | 1億8,900万円 | +90.5% | △2億2,600万円(営業損失) |
ホテル事業の営業利益は16.4%の増益です。全社が減益になったのは、不動産賃貸事業で2億2,600万円の営業損失が出たから。会社の説明によると、タワー館の営業再開にあたっての設備補修等の費用を計上したためです。
そして最終利益が65.4%も減った理由も、短信にはっきり書かれています。「法人税等調整額の計上により」。税金の会計処理によるもので、稼ぐ力が落ちたわけではありません。
「増収減益」「最終利益65%減」という見出しだけで判断すると、事実を取り違えます。
帝国ホテルは今期、30年ぶりの新規ホテルとなる「帝国ホテル京都」を開業しました。祇園町(ぎおんまち)の弥栄会館(やさかかいかん)の一部を保存・活用したホテルです。
また、帝国ホテル東京の建て替えについては、タワー館の解体工事着工を2030年度末頃に目指すと変更しています。より質の高い事業計画の検討に時間が必要と判断したためです。
通期予想は据え置きで、営業利益24億円(+12.8%)と増益を見込んでいます。ただしここに大きな注意点があります。
上期(4~9月)の営業利益予想は「0円」です。
これ、意味を確認しておきましょう。第1四半期(4~6月)で7億1,600万円の営業黒字を出しています。それなのに上期のトータルが0円ということは、第2四半期(7~9月)で7億円の赤字を出す計画ということになります。
そして通期は24億円の黒字予想。つまり下期(10~3月)だけで24億円を稼ぐという前提です。
ホテルは季節性のある商売なので、この形自体が異常というわけではありません。ただ、第1四半期の進捗率29.8%という数字だけを見て「順調」と判断するのは早いということです。会社自身が上期は利益ゼロだと言っているのですから。
同じことが次に見るロイヤルホテルにも当てはまります。両社とも、勝負は下期です。
なお帝国ホテルは、決算補足説明資料そのものを作っていません。決算説明会も開催していません。ですから稼働率や客室単価は開示されておらず、他社と比べることができません。
ロイヤルホテル|客室売上+17.2%、でも営業利益は32%減
リーガロイヤルホテルを運営するロイヤルホテルは、今回いちばんわかりやすい形が出ました。
第1四半期は、売上高76億1,800万円(+4.9%)、営業利益4億5,900万円(△32.0%)、最終利益3億6,300万円(△22.6%)です。
部門別の売上を見てください。
| 部門 | 前年同期 | 当期 | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 客室 | 33億6,700万円 | 39億4,500万円 | +17.2% |
| 宴会 | 14億5,000万円 | 13億9,900万円 | △3.5% |
| 食堂 | 9億7,100万円 | 10億900万円 | +3.9% |
| その他 | 14億6,900万円 | 12億6,300万円 | △14.0% |
客室の売上は17.2%も伸びています。インバウンドの効果は確実に出ている。それでも営業利益は32%の減益です。
会社は事業環境をこう説明しています。
インバウンド消費の増加等の好影響を受ける一方で、中国政府による日本渡航自粛要請や中東情勢の不安定化の影響、原材料費・光熱費・人件費をはじめとした各種コストの上昇により、引き続き厳しい事業環境下に置かれております
売上が伸びても、コストがそれ以上に増えている。これがホテル業界のいまの姿です。
ロイヤルホテルは今期、2026年4月に「リーガロイヤルリゾート沖縄北谷(ちゃたん)」(全209室)と「アンカード・バイ・リーガ 大阪なんば」を開業しました。2029年3月末頃には北海道千歳に「リーガグラン千歳(ちとせ)」を開業し、北海道へ初進出することも発表しています。2035年までにグループ35ホテルが目標です。
こちらも通期予想は据え置きですが、上期(4~9月)の営業利益予想は△1億円の赤字。帝国ホテルと同じく、下期に大きく偏った計画です。
藤田観光|最終利益+77.4%の正体
ホテル椿山荘東京(ちんざんそうとうきょう)やワシントンホテルを運営する藤田観光は、中間期(1~6月)で売上高407億5,500万円(+2.0%)、営業利益62億7,000万円(△8.8%)、中間純利益80億1,500万円(+77.4%)でした。
営業利益は減っているのに、最終利益は77%増。またこのパターンです。
理由は短信にはっきり書かれています。「投資有価証券の売却があり」。キャッシュフロー計算書を見ると、投資有価証券の売却による収入が87億6,700万円計上されています。
本業ではなく、持っていた株を売った利益です。
セグメント別に見ると、こうなっています。なお「リゾート」は箱根小涌園(こわきえん)などを指します。
| セグメント | 売上高 | 前年同期比 | 営業利益 | 前年同期比 |
|---|---|---|---|---|
| WHG事業(ワシントンホテル等) | 243億7,000万円 | △0.9億円 | 52億7,300万円 | △7億5,800万円 |
| ラグジュアリー&バンケット(椿山荘等) | 104億4,400万円 | +6.6億円 | 9億5,600万円 | +2億900万円 |
| リゾート(箱根小涌園など) | 52億1,900万円 | +1.2億円 | 6,800万円 | △4,100万円 |
主力のWHG事業が7億5,800万円の減益。理由は客室改装による売り止めです。「東京ベイ有明ワシントンホテル」の客室・ロビー改装、「キャナルシティ・福岡ワシントンホテル」の4月からの全館休館などで、延べ約10万室の売り止め影響が出ました。加えて改装に伴う一時費用と減価償却費も増えています。
10万室というのは相当な数です。売る部屋がなければ、当然売上は立ちません。将来のための投資なので悪い話ではありませんが、その間は利益が減る。投資家としては、この期間をどう見るかということになります。
一方で明るい材料もありました。ラグジュアリー&バンケット事業(ホテル椿山荘東京など)は2億900万円の増益です。会社の説明によると、伸びたのは3つの部門でした。
- 婚礼部門:料理・飲物・装花(そうか)などの商品力を強化し、施行件数(せこうけんすう)と単価がどちらも増加
- 料飲部門:慶事(けいじ)需要の高まりで利用人数が増加。アフタヌーンティーのコラボ企画も寄与
- 宿泊部門:海外OTA(オーティーエー=オンライン旅行会社)でのプロモーションによりインバウンド宿泊者が増加
ここは注目してよいところです。婚礼や宴会は、インバウンドとは関係のない国内需要。ホテル椿山荘東京では新しい宴会場も建設中で、会社は今後の収益拡大を狙っています。
インバウンド一本足ではない収益源を持っている、というのは強みになり得ます。
「訪日外国人数は前年と同水準」
そしてこの記事でいちばん重要かもしれない一文が、藤田観光の短信にあります。
ホテル・観光業界においては、中東情勢等が不透明であるものの、訪日外国人数は前年と同水準となりました
インバウンドは「増え続けている」のではなく、「前年と同じ水準」。会社自身がそう書いています。
では何が増収を支えたのか。会社は「欧米豪からのインバウンド需要獲得に伴うADR(エーディーアール=客室平均単価)の上昇」と説明しています。人数ではなく、単価です。
藤田観光は通期予想を上方修正しました。営業利益を120億円から132億円(+10.0%)へ引き上げています。
ただし忘れてはいけないのが、前期の営業利益実績は137億9,500万円だということ。上方修正はされましたが、前期比では減益の計画です。
なお藤田観光は2026年1月1日付で1株を5株にする株式分割を実施しています。過去の株価や配当と比べるときは調整が必要です。
リゾートトラスト|唯一の増益。でも稼いでいるのはホテルではない
4社で唯一、営業増益だったのがリゾートトラストです。しかも大幅増益でした。
第1四半期は売上高612億6,100万円(+16.0%)、営業利益81億1,600万円(+78.4%)、当期利益54億6,700万円(+79.1%)。第1四半期としての売上高・営業利益・経常利益はいずれも過去最高です。
ここだけ見ると「インバウンドでホテルが大儲け」に見えます。でも、セグメントを開けると別の会社の顔が出てきます。
| セグメント | 売上高 | 前年同期比 | 営業利益 | 前年同期比 |
|---|---|---|---|---|
| 会員権 | 188億9,200万円 | +46.8% | 69億2,000万円 | +72.7% |
| ホテルレストラン | 274億7,600万円 | +5.0% | 10億9,300万円 | +20.6% |
| メディカル | 147億100万円 | +8.3% | 22億1,800万円 | +21.8% |
営業利益の約7割(67.6%)は会員権事業から出ています。ホテルレストランは約1割(10.7%)にすぎません。
売上ではホテルレストランが274億円と最大なのに、利益では会員権に大きく負けている。ホテルレストランの営業利益率は3.98%です。
会員権の1Q契約高は352億円で、6期連続の過去最高更新。この会社の稼ぎ頭は、ホテルの宿泊ではなく会員権の販売なのです。
「ホテル株」として買うと、中身が違う。ここは押さえておきたいところです。
稼働率は下がっている
リゾートトラストは稼働率と単価を開示しています。ここも興味深い数字でした。
| 施設 | 稼働率(前年→当期) | 消費単価(前年→当期) |
|---|---|---|
| エクシブ | 51.2% → 48.0% | 20,773円 → 21,778円 |
| ベイコート | 52.3% → 49.2% | 34,992円 → 36,474円 |
| トラスティ | 89.4% → 88.8% | 11,338円 → 12,247円 |
主力のエクシブとベイコートは、稼働率が下がっています。それでも増収なのは、単価が上がったから。会社自身が「ホテル稼働はやや苦戦したものの単価の上昇効果が貢献」と書いています。
ここで、さきほど紹介したRevPARの考え方を使ってみましょう。エクシブは稼働率が51.2%から48.0%へ3.2ポイント下がり、単価が20,773円から21,778円へ4.8%上がりました。単純にかけ算すると、1室あたりの収益はほぼ横ばいという計算になります。
つまりエクシブに関して言えば、単価の値上げで稼働率の低下をなんとか埋めたという状態です。「単価が上がったから好調」とは言い切れません。
そして冒頭で見た業界全体の数字を思い出してください。リゾートホテルの稼働率は業界平均で57%でした。エクシブの48.0%、ベイコートの49.2%は、業界平均よりさらに低い水準です。リゾートは埋まりにくいという業界の構図が、そのまま数字に出ています。
配当は年36円(前年比2円増配)で、過去最高を予定しています。
ここまでをまとめると
4社を並べて見えてきたのは、こういう構図です。
1. インバウンドの人数は、もう伸びていない
藤田観光が「訪日外国人数は前年と同水準」と明記しています。
2. 増収を支えているのは「単価」
藤田観光はADR上昇、リゾートトラストは稼働が下がるなか単価上昇、ロイヤルホテルは客室売上+17.2%。人数ではなく単価で稼いでいます。
3. その単価上昇を、コストが食っている
人件費、光熱費、原材料費。加えて各社とも改装や新規開業への投資が重なっています。だから増収でも営業減益になる。
4. 最終利益は、本業と関係ないところで動いている
帝国ホテルは税金で△65.4%、藤田観光は株の売却益で+77.4%。最終利益の見出しだけでは、その会社の実力はわかりません。
では、この4社をどう見分けるか
同じ「ホテル株」でも、4社は性格がかなり違いました。整理するとこうなります。
| 会社 | どこで稼いでいるか | 見るべき数字 |
|---|---|---|
| 帝国ホテル | ホテル事業(営業利益率10.52%) | 下期の営業利益、京都の立ち上がり |
| ロイヤルホテル | 客室(売上の51.8%) | コストの上昇が止まるか |
| 藤田観光 | ワシントンホテル+婚礼・宴会 | 改装明けのWHG事業、国内需要 |
| リゾートトラスト | 会員権(営業利益の67.6%) | 会員権の契約高 |
リゾートトラストだけ、見るべき数字が「宿泊」ではありません。この会社の業績を占うなら、稼働率や客室単価より、会員権が何億円売れたかを見るほうが早い。
一方、藤田観光は婚礼や宴会という国内需要の柱を持っています。インバウンドが止まったときに効いてくるのは、こういう部分です。
「ホテル株」とひとくくりにせず、その会社が実際にどこでお金を稼いでいるかを確かめる。セグメント情報は決算短信の後ろのほうに載っていますが、ここを開けるかどうかで見え方がまったく変わります。
株価はどう動いたか
株価の比較には工夫が必要でした。決算発表日が7月30日から8月12日まで2週間もばらついているためです。「全社出そろった後」で揃えると1営業日しか取れません。
そこで、全社の決算発表前(7月29日終値)から、全社発表後(8月14日終値)までで比べます。この期間に4社すべての決算発表が入っています。
| 会社 | 7/29終値 | 8/14終値 | 騰落率 |
|---|---|---|---|
| 藤田観光 | 1,985円 | 2,333円 | +17.53% |
| (参考)日経平均 | 61,434.19 | 68,713.80 | +11.85% |
| ロイヤルホテル | 905円 | 901円 | △0.44% |
| リゾートトラスト | 1,855.5円 | 1,831.5円 | △1.29% |
| 帝国ホテル | 1,000円 | 985円 | △1.50% |
ここが今回いちばん考えさせられる部分です。
同じ期間に日経平均は11.85%上がっています。それなのに、4社のうち3社は下落しました。
上回ったのは藤田観光だけ。通期の上方修正を出した会社です。
参考までに、各社の決算発表日と翌営業日の動きも出しておきます。
| 会社 | 発表日終値 | 翌営業日終値 | 騰落率 |
|---|---|---|---|
| 帝国ホテル(7/30発表) | 1,000円 | 1,008円 | +0.80% |
| ロイヤルホテル(8/5発表) | 906円 | 902円 | △0.44% |
| 藤田観光(8/6発表) | 1,972円 | 2,235円 | +13.34% |
| リゾートトラスト(8/12発表) | 1,905.5円 | 1,860.0円 | △2.39% |
ただし、発表が場中だったか引け後だったかを確認できていないので、この表は参考値です。そして決算が原因で株価が動いたとは断定できません。株価は相場全体、為替、金利、需給、他の材料でも動きます。
財務は4社ともしっかりしている
ここまで利益の話ばかりしてきましたが、財務の状態も確認しておきます。
| 会社 | 自己資本比率 | 前期末 |
|---|---|---|
| ロイヤルホテル | 61.6% | 60.6% |
| 帝国ホテル | 60.5% | 59.9% |
| 藤田観光 | 43.4% | 37.3% |
| リゾートトラスト | - | - |
4社とも自己資本比率は改善しています。特に藤田観光は37.3%から43.4%へ6ポイント以上高まりました。投資有価証券の売却益で利益剰余金が71億円増えたことと、借入金の返済を進めたことが効いています。
帝国ホテルとロイヤルホテルは60%台。ホテルは装置産業で借入が重くなりがちですが、この2社に関しては財務の余裕があります。
つまり、いま利益が出にくいのは財務が苦しいからではありません。単価は上げられているが、それ以上にコストが増えている、という構造の問題です。ここは分けて理解しておきたいところです。
リゾートトラストの通期計画も見ておく
もうひとつ補足しておきます。リゾートトラストの通期計画です。
| セグメント | 通期営業利益計画 | 前期比 |
|---|---|---|
| 会員権 | 242億円 | △5.3% |
| メディカル | 90億円 | +8.5% |
| ホテルレストラン | 70億円 | +24.2% |
全社の通期営業利益計画は310億円(+6.3%)です。
面白いのは、稼ぎ頭の会員権は5.3%の減益計画なのに、ホテルレストランは24.2%の増益計画になっていること。会社は今期、ホテル部門の収益改善を見込んでいるわけです。
第1四半期のホテルレストランの営業利益は10億9,300万円。通期70億円に対する進捗率は15.6%です。リゾート施設は夏休みシーズンの第2四半期に稼ぐ構造なので、この数字だけで判断はできませんが、次の決算でここが伸びているかどうかは確認したいポイントです。
なお、リゾートトラストの通期売上高計画は2,550億円で3.0%の減収です。これは会計上、未開業物件の販売収益が繰り延べられることによるもので、事業が縮小するという意味ではありません。会社は「評価売上高」「評価営業利益」という独自の指標で実力値を示しており、そちらでは評価営業利益365億円(+11.3%)を計画しています。
ただしこの「評価営業利益」は会社独自の指標です。他社の営業利益と並べて比べることはできません。
PER・PBR・配当利回り
2026年8月14日終値で計算した指標です。
| 会社 | 株価 | 予想PER | PBR | 予想配当利回り | 配当性向 | 時価総額 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 帝国ホテル | 985円 | 63.1倍 | 2.38倍 | 0.61% | 38.4% | 1,170億円 |
| リゾートトラスト | 1,831.5円 | 18.5倍 | 2.39倍 | 1.97% | - | 3,975億円 |
| 藤田観光 | 2,333円 | 11.2倍 | 3.25倍 | 0.86% | 9.6% | 1,424億円 |
| ロイヤルホテル | 901円 | 17.9倍 | 0.78倍 | 0.67% | 11.9% | 138億円 |
※PERは会社予想EPSから計算しています。リゾートトラストのみ通期EPSが資料に明示されていないため、株探の掲載値を使用しました。ロイヤルホテルはA種優先株式(非上場)があるため、1株あたりの価値の評価は単純ではありません。
ここで目立つのは3点です。
ひとつ、帝国ホテルのPER63.1倍。通期の最終利益予想が18億5,000万円と小さい(△56.9%)ため、こうなります。利益の水準に対して株価が高い状態です。
ふたつ、配当利回りはすべて2%未満。前回の自動車株では4%台が3社ありましたが、ホテル株はまったく違います。インカムを狙う投資先ではないということです。
みっつ、PBR1倍割れはロイヤルホテルだけ。しかも時価総額138億円と小型です。
次の決算で確認したい項目
帝国ホテル
- 上期の営業利益予想「0円」を守れるか(Q1で7億円の黒字なので、Q2で使い切る計画)
- 帝国ホテル京都の立ち上がり
- 不動産賃貸事業の営業損失が続くか
ロイヤルホテル
- 上期の営業赤字△1億円の予想どおりか
- 客室売上の伸び(+17.2%)が続くか
- 沖縄・大阪の新規2ホテルの寄与
藤田観光
- 客室改装の売り止め影響が終わり、WHG事業が戻るか
- 上方修正した営業利益132億円に届くか(前期実績137億円には届かない計画)
- 訪日外国人数が「前年と同水準」から動くか
リゾートトラスト
- 会員権の契約高が7期連続で過去最高を更新できるか
- エクシブ・ベイコートの稼働率が戻るか
- ホテルレストラン事業の通期計画(営業利益70億円、+24.2%)の進み方
まとめ
要点を整理します。
- 4社とも増収。でも営業増益は1社だけでした。
- その1社(リゾートトラスト)の営業利益の約7割は会員権事業から。ホテルレストランは約1割です。
- 帝国ホテルは「増収減益」に見えて、ホテル事業だけなら+16.4%の増益。全社の減益は不動産賃貸事業の損失、最終利益△65.4%は税金の計上によるものです。
- ロイヤルホテルは客室売上+17.2%でも営業利益△32.0%。コスト上昇が単価上昇を上回っています。
- 藤田観光の最終利益+77.4%は、投資有価証券の売却によるもの。本業の営業利益は8.8%の減益です。
- 「訪日外国人数は前年と同水準」と藤田観光が明記しています。伸びているのは人数ではなく単価です。
- 帝国ホテルとロイヤルホテルは、上期の営業利益予想が0円と赤字。利益は下期に集中する計画です。
- 日経平均が+11.85%上がった期間に、4社中3社が下落しました。
- 配当利回りはすべて2%未満。インカム目的の投資先ではありません。
最後に、この記事でいちばんお伝えしたいことを。
「インバウンドが好調」というニュースは、そのまま「ホテル株が儲かる」にはつながりません。
単価は上がっています。でもコストも上がっている。そして最終利益は、税金や株の売却といった本業の外側で大きく動きます。売上ではなく営業利益を見る。セグメントを開けて、どこで稼いでいるか確かめる。そこまでやって、はじめてその会社の姿が見えてきます。
答え合わせは、次の決算に出ます。
主な参照資料
- 帝国ホテル「2027年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」2026年7月30日
- ロイヤルホテル「2027年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」2026年8月5日
- 藤田観光「2026年12月期 第2四半期(中間期)決算短信〔日本基準〕(連結)」2026年8月6日
- リゾートトラスト「2027年3月期 第1四半期 決算説明資料」「決算説明資料 補足資料(3ヵ月情報)」2026年8月12日
- 株価・日経平均:株探(2026年7月29日・8月14日終値)
- 業界の全体像および未上場ホテルの位置づけ:日経『業界地図 2027年度版』ホテル(高級・リゾート系)