『会社四季報 業界地図 2027年版』の「総合商社」のページの見出しは、こうです。
26年度は資源価格上昇で三菱が追い上げ。投資規模の巨大化が鮮明
天気予想は、26年度後半が「曇り」、27年度が「晴れ」。
傘は持って出るけれど、帰りは畳めそうな天気です。
この記事では、総合商社8社の最新決算(2026年4〜6月の第1四半期)を、決算短信と各社の決算説明資料で確認しました。先に言っておくと、今回は「どこが1位か」の答えが、見る物差しによって変わります。その理由を、できるだけやさしく並べていきます。
1. 先に結論を3つ
1つめ。4〜6月の首位争いは、上位3社が48億円の中にひしめいています。
純利益は、三菱商事2,985億円、三井物産2,941億円、伊藤忠商事2,938億円。三井と伊藤忠の差は、たった3億円です。
2つめ。でも、臨時の利益を抜いて「1年の計画」で並べると、1位が入れ替わります。
1年の純利益予想では、三菱が1兆1,000億円で頭ひとつ抜けています。ところが、資産の売却益のような臨時の利益を除いた「ふだんの稼ぎ」の計画で比べると、伊藤忠9,000億円、三井約8,260億円、三菱約8,200億円。三菱は3番目になります。2年前の4〜6月と比べても、伊藤忠は+42.2%、三菱は△15.8%でした。
3つめ。バフェットの会社は、5大商社すべての筆頭株主になりました。そして5社とも増配予想です。
米国バークシャー・ハサウェイの子会社が、三菱・三井・伊藤忠・丸紅・住友の5社すべてで議決権の10%を超えました。自社株買いも、伊藤忠3,000億円、三井2,000億円、丸紅1,000億円、住友800億円と大きな金額が並びます。
2. なぜ今、商社なのか
中東情勢で、原油やLNG(液化天然ガス)が高くなりました。業界地図も天気予想の理由に「地政学要因やデータセンター向け需要でエネルギー、銅価格が高騰」と書いています。
燃料を「買う側」の電力会社は、この4〜6月に大手10社のうち4社(東京電力ホールディングス、中部電力、中国電力、沖縄電力)が営業赤字になりました。燃料費が先に上がり、電気料金への反映が遅れたためです。
では、燃料や資源の権益を持ち、「売る側」にいる商社はどうだったのか。業界地図には、こう書かれています。
総合商社各社は原油や天然ガスなどの権益を持ち、油価高騰は業績を押し上げる
今回は、この一文を数字で確かめるところから始めます。
3. 対象は8社。時価総額の1位は伊藤忠
| 会社 | コード | 株価 | 時価総額 |
|---|---|---|---|
| 伊藤忠商事 | 8001 | 2,321円 | 18兆3,926億円 |
| 三菱商事 | 8058 | 4,910円 | 18兆2,187億円 |
| 三井物産 | 8031 | 5,069円 | 14兆5,210億円 |
| 住友商事 | 8053 | 1,770円 | 8兆4,614億円 |
| 丸紅 | 8002 | 4,952円 | 8兆2,241億円 |
| 豊田通商 | 8015 | 7,329円 | 6兆9,191億円 |
| 双日 | 2768 | 5,729円 | 1兆2,031億円 |
| 兼松 | 8020 | 2,272.5円 | 3,841億円 |
株価は2026年9月15日の終値です。時価総額は株価に発行済株式数を掛けて計算しました。
業界地図が「5大総合商社」としているのが、伊藤忠・三井・三菱・住友・丸紅の5社。これに「その他の大手商社」の豊田通商・双日・兼松を加えた8社です。8社とも時価総額は1,000億円以上なので、全社を比べます。
時価総額でも、伊藤忠と三菱の差は1,739億円しかありません。利益でも株価でも、首位争いが接戦です。
商社のもうけ方も、先に確認しておきます。業界地図によると、以前は商品を右から左へ流して得る手数料(口銭)や売買の差益が中心でした。いまは、資源の権益を持ったり、小売りやサービスの会社に出資したりして、「事業投資・運営に軸足を移してきている」。資源の値段で利益が大きく動く会社と、生活に近い事業で稼ぐ会社が同じ「総合商社」に並んでいるのは、このためです。
4. 比較の前提
- 8社とも3月期決算で、国際会計基準(IFRS、アイエフアールエス)です。同じ4〜6月の3か月を横に並べられます
- 比べる利益は「親会社の所有者に帰属する四半期利益」(伊藤忠は「当社株主に帰属する四半期純利益」)で統一しました。以下「純利益」と書きます
- 商社は売上(収益)の金額が大きく、取引の仲介の仕方で数字の出方が変わるので、売上ではなく利益で比べます
- 株式分割をした会社が3社あります。伊藤忠が1株を5株に(2026年1月1日)、兼松が1株を2株に(同)、住友が1株を4株に(2026年7月1日)。配当や株価の推移は、分割後の株数に合わせて比べています
- 三菱・伊藤忠・丸紅は、決算短信を2回(監査法人のレビュー前と後)出しています。数字が同じことを確かめ、レビュー後の版を使いました
5. 第1四半期の一覧|8社すべて増益
| 会社 | 純利益 | 前年比 | 前年同期 | 1年の予想 | 前期比 | 進捗率 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 三菱商事 | 2,985億円 | +47.0% | 2,031億円 | 1兆1,000億円 | +37.4% | 27.1% |
| 三井物産 | 2,941億円 | +53.4% | 1,916億円 | 9,200億円 | +10.3% | 32.0% |
| 伊藤忠商事 | 2,938億円 | +3.5% | 2,839億円 | 9,500億円 | +5.5% | 30.9% |
| 住友商事 | 1,901億円 | +11.2% | 1,709億円 | 6,300億円 | +4.9% | 30.2% |
| 丸紅 | 1,864億円 | +20.7% | 1,544億円 | 5,800億円 | +6.6% | 32.1% |
| 豊田通商 | 1,353億円 | +37.5% | 983億円 | 4,300億円 | +16.1% | 31.5% |
| 双日 | 302億円 | +43.4% | 211億円 | 1,300億円 | +25.5% | 23.2% |
| 兼松 | 117億円 | +67.6% | 70億円 | 350億円 | +7.6% | 33.4% |
8社すべてが増益で、1年の予想も8社すべてが増益です。
4〜6月の結果を受けて1年の予想を変えたのは、豊田通商だけでした。4,000億円から4,300億円への上方修正で、理由は原文で「業績予想時に見込んでいた為替レートを円安に見直したこと」などです。
6. 首位争いは48億円差
上位3社を並べます。
- 三菱商事 2,985億円
- 三井物産 2,941億円
- 伊藤忠商事 2,938億円
三菱と三井の差が45億円、三井と伊藤忠の差が3億円。1位と3位でも48億円です。
3,000円のランチに例えると、50円玉1枚に届かない差です。
1年の予想で並べると、三菱1兆1,000億円、伊藤忠9,500億円、三井9,200億円。業界地図の「資源に強い三菱が首位を奪還する見通し」と、数字は一致しています。
ただ、1年の予想に対する4〜6月の進み具合(進捗率)は、三菱が27.1%で、5大商社のなかでいちばん低くなっています。三井は32.0%、丸紅は32.1%でした。
ただし、ここからが今回の本題です。
7. 同じ「増益」でも、中身はまったく別物
3社の増益率は、三井+53.4%、三菱+47.0%、伊藤忠+3.5%。数字だけ見ると、伊藤忠が大きく出遅れているように見えます。
ところが、決算短信の「主な増減要因」を読むと、3社の中身は別物でした。
三菱は、資源の値段で伸びました。原文は「市況上昇による増加」。金属資源の部門の純利益が275億円から866億円へ、3倍を超えました。
三井は、資産の入れ替えによる利益が大きく乗りました。有価証券の損益が37億円から870億円に増え、その理由は「米国不動産所有・運営事業(CIM Group)残存持分の公正価値評価益」。いちばん伸びた部門は、この不動産事業を持つ「イノベーション&コーポレートディベロップメント」で、103億円から652億円(+549億円)でした。
伊藤忠は、前の年の反動で小さく見えています。有価証券の損益が1,305億円から381億円へ、924億円減りました。理由は「前年同期C.P. Pokphand売却の反動」。前の年の4〜6月に、タイの会社(CPポカパン)の株を売った大きな利益があったのです。一方で、営業利益は+20.3%、持分法投資損益は+74.8%と伸びています。
では、この「臨時の利益」を除いて比べたら、どうなるのか。次の章で並べ直します。
8. 【深掘り①】「基本給」で並べ直す
たとえ話から始めます。
給料の手取りが同じくらいの3人がいるとします。1人は今年ボーナスが大きかった。1人は家を売ったお金が入った。1人は去年だけ臨時収入があって、今年は基本給が上がった。来年も続くのは、基本給のほうです。
商社の決算も同じで、上位3社はそれぞれ「基本給」にあたる数字を、自分の決算説明資料で公表しています。呼び方は違いますが、考え方は同じで、資産の売却益や一時的な損益を除いた、ふだんの稼ぎです。
- 三菱商事は「巡航利益」
- 伊藤忠商事は「基礎収益」
- 三井物産は名前を付けていませんが、「資産リサイクル」と「評価性/一過性要因」の金額を公表しているので、純利益から差し引いて計算しました(三井の区分に合わせた私の計算です)
以下、この3つをまとめて「ふだんの稼ぎ」と書きます。
| 4〜6月の純利益 | うち臨時の利益 | ふだんの稼ぎ | 前年のふだんの稼ぎ | 伸び | |
|---|---|---|---|---|---|
| 三菱商事 | 2,985億円 | +289億円 | 2,696億円 | 1,657億円 | +62.7% |
| 三井物産 | 2,941億円 | +434億円 | 2,507億円 | 1,726億円 | +45.2% |
| 伊藤忠商事 | 2,938億円 | +445億円 | 約2,495億円 | 約1,810億円 | +38% |
先にお断りしておくと、3社の定義は少しずつ違います。ぴったり同じ物差しではなく、「各社が自分で出している、臨時を除いた数字」として見てください。
ここから分かることは3つです。
1. 臨時の利益を除いても、4〜6月は三菱が首位です。2位の三井との差は189億円に広がります。三菱の先頭は、臨時の利益に頼ったものではありません
2. 伊藤忠は、前の年に臨時の利益が1,030億円ありました。そのうち約880億円がCPポカパンの売却です。今年は445億円(アゼルバイジャンの石油権益の売却340億円など)。臨時を除くと+38%で、会社は「第1四半期に限らず、過去の全四半期の決算においても最高益」と説明しています
3. 三井は、臨時の利益が前の年の190億円から434億円に増えました。+53.4%のうち、一部はこの臨時分です
去年のボーナスが大きすぎて、今年の昇給が目立たなかった。伊藤忠の+3.5%は、そういう数字でした。
三菱の臨時の利益の中身も、説明資料に書かれています。今年は「海外食品原料事業傘下事業売却」+230億円、「千代田化工建設持分法適用化時再評価」+190億円など。前年は「エネルギーインフラ関連事業完工損益」+120億円、「TH Foods株式売却」+90億円などがありました。
この「ふだんの稼ぎ」は、配当を考えるうえでも大事な物差しです。三井物産は、利益配分の方針に「再現性の高いキャッシュ創出力の水準に基づき、配当を通じ株主に直接還元していく」と書いています。
9. 【深掘り②】1年の計画で並べると、順位が入れ替わる
次に、1年の予想を「純利益」と「ふだんの稼ぎ」の2つで並べます。
| 1年の純利益予想 | 1年のふだんの稼ぎの計画 | 差(臨時の利益などの見込み) | |
|---|---|---|---|
| 伊藤忠商事 | 9,500億円 | 9,000億円 | 一過性の利益900億円、リスクへの備え△400億円 |
| 三井物産 | 9,200億円 | 約8,260億円 | 資産リサイクル・評価性/一過性要因940億円 |
| 三菱商事 | 1兆1,000億円 | 約8,200億円 | 約2,800億円 |
- 伊藤忠:決算説明資料の「26年度通期見通し」(基礎収益9,000億円、一過性損益900億円、バッファー▲400億円)
- 三井:決算説明資料の「2027年3月期 事業計画」(当期利益9,200億円のうち、資産リサイクル・評価性/一過性要因940億円)から計算
- 三菱:決算説明資料の注記に「2026年度の巡航利益見通し(約8,200億円)」とあります。三菱の定義は「巡航利益=連結純利益-リサイクル・特殊要因」なので、1兆1,000億円との差の約2,800億円が、リサイクル・特殊要因などの見込みになる計算です。会社はこの約2,800億円の内訳そのものは示していません
1年の純利益で首位の三菱は、ふだんの稼ぎの計画で並べると3番目です。伊藤忠が9,000億円でいちばん上、三井と三菱は約8,200億円台で並びます。
業界地図には「利益のボラティリティーが小さい非資源主体の伊藤忠」という一文があります(ボラティリティーは、利益のぶれの大きさのことです)。臨時の利益や資源の値動きに左右されにくい稼ぎの厚さが、この計画の数字にも表れています。
なお、リスクへの備え(バッファー)の扱いも会社ごとに違います。順位は目安として見てください。
10. 【深掘り③】2年で見ると、印象が逆になる
増益率は「去年がどうだったか」で大きさが変わります。そこで、2年前の4〜6月も並べました。
| 2年前の4〜6月 | 前年の4〜6月 | 今年の4〜6月 | 2年前と比べて | |
|---|---|---|---|---|
| 三菱商事 | 3,544億円 | 2,031億円(△42.7%) | 2,985億円 | △15.8% |
| 三井物産 | 2,761億円 | 1,916億円(△30.6%) | 2,941億円 | +6.5% |
| 伊藤忠商事 | 2,066億円 | 2,839億円(+37.4%) | 2,938億円 | +42.2% |
2年前の数字は、各社の前年(2026年3月期)の第1四半期決算短信に載っているものです。
三菱の+47.0%は、前の年に42.7%落ちた反動を含んでいます。2年前の3,544億円には、まだ届いていません。
伊藤忠の+3.5%は、前の年に37.4%伸びたあとの数字です。2年で見ると42.2%増えています。
同じ3社でも、1年で見るか2年で見るかで、印象が逆になります。どちらが正しいという話ではなく、「増益率は、比べる相手の年で大きさが変わる」ということです。
11. 【深掘り④】追い風の分だけ抜き出す
最後に、増えた利益のうち「円安と資源高のおかげ」の分を抜き出します。これも各社が決算説明資料で分解しています。
| 前年からの増益のうち | 三菱商事 | 三井物産 | 伊藤忠商事(ふだんの稼ぎ) |
|---|---|---|---|
| 資源の値段 | +340億円 | +140億円 | +40億円 |
| 為替(円安) | +170億円 | +170億円 | +120億円 |
| 中東の影響 | ― | ― | +50億円 |
| 追い風の合計 | +510億円 | +310億円 | +210億円 |
- 三菱の資源の内訳は、原料炭+190億円、銅+200億円、鉄鉱石▲10億円、油価・ガス価▲20億円、LNG▲20億円
- 三井の資源の内訳は、鉄鉱石+40億円、原料炭+40億円、銅他+60億円。為替は連結取込+260億円、経常為替▲90億円の合計
- 伊藤忠の為替は、期中平均レートが1ドル144.59円から159.57円になったことによるもの
3社のなかで追い風をいちばん受けたのは三菱で、+510億円でした。伊藤忠は+210億円で、ふだんの稼ぎの増加685億円のうち、残りの475億円は新しい投資の貢献(+110億円)や既存事業の成長(+315億円)などだと会社は説明しています。
三菱自身も、決算説明資料にこう書いています。
為替・一部資源価格は期初前提よりも円安・高値圏で推移しており、第2四半期に向けて上方修正余地を精査
つまり、追い風がこのまま続けば、三菱は次の決算(第2四半期)で1年の予想を上げる可能性がある、と会社自身が示しています。上げると決まったわけではありません。
ここまでのまとめ。4〜6月の利益の金額では、臨時の利益を除いても三菱が首位です。ただし三菱の先頭は、追い風に支えられている分が大きく、2年前の水準にはまだ戻っていません。一方の伊藤忠は、臨時の利益が減った年でもふだんの稼ぎを伸ばし、1年の計画ではトップに立っています。
12. 三菱商事|資源と円安で+47%
三菱商事(8058)の部門別の純利益です。
| 部門 | 前年4〜6月 | 今年4〜6月 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 金属資源 | 275億円 | 866億円 | +591億円 |
| エネルギー&パワーソリューション | 407億円 | 719億円 | +312億円 |
| 食品産業 | 218億円 | 362億円 | +144億円 |
| モビリティ | 271億円 | 312億円 | +41億円 |
| マテリアルソリューション | 125億円 | 178億円 | +53億円 |
| 社会インフラ | 363億円 | 296億円 | △67億円 |
| S.L.C. | 278億円 | 205億円 | △73億円 |
(前年は、今年4月の組織改編と社内金利の見直しを反映して組み替えた数字。決算説明会資料より)
金属資源の増益理由は「豪州原料炭事業(市況上昇)、銅事業(市況上昇)」。エネルギーは「LNG北米事業/LNG自社持分販売事業(生産開始に伴う取引増加)」です。説明資料には、LNGカナダが第1四半期に100カーゴ目の出荷を達成したことも書かれています。
もう1つ大きな動きがあります。7月14日、米国テキサス州・ルイジアナ州のシェールガス事業の取得を完了しました。業界地図が「投資額は同社史上最高額」と書いている案件です。説明資料には「現地7月14日に買収完了し、利益貢献開始」とあります。
1年の予想は1兆1,000億円のまま。配当は前期110円から125円に増やす予想です。今期の自社株買いは、9月15日時点ではまだ発表していません。
13. 三井物産|臨時の利益と、140円の下限
三井物産(8031)の部門別です。
| 部門 | 前年4〜6月 | 今年4〜6月 | 増減 | 原文の主な要因 |
|---|---|---|---|---|
| 金属資源 | 515億円 | 612億円 | +97億円 | 銅・鉄鉱石・原料炭価格、鉄鉱石数量 |
| エネルギー | 202億円 | 344億円 | +142億円 | 海外エネルギー事業IPOに伴うFVTPL、米国ガス |
| モビリティ・デジタル・インフラ | 494億円 | 730億円 | +236億円 | 自動車、ガスインフラ |
| 化学品 | 309億円 | 266億円 | △43億円 | 前年同期評価性/一過性の反動 |
| ウェルネスエコシステム | 148億円 | 184億円 | +36億円 | 食料 |
| イノベーション&コーポレートディベロップメント | 103億円 | 652億円 | +549億円 | CIM Groupリサイクル益、量子コンピューティング事業IPOに伴うFVTPL |
FVTPLは、持っている株などを時価で評価し直し、その差を利益(または損失)として計上するやり方のことです。投資先が株式を上場(IPO)すると値段が付き直すので、その差が利益に出ることがあります。
三井の説明資料の分解では、前年からの増益1,025億円のうち、資産リサイクル(主にCIM Group)が+420億円、上場株などの評価益(FVTPL)が+280億円でした。家を売った年は、年収が増えて見えます。
それでも、1年の予想9,200億円は据え置いています。4〜6月で32.0%まで進んでいても上げないのは、臨時の利益を1年に引き伸ばして考えていない、と読めます。
株主への還元は、はっきりしています。
- 配当は前期115円から140円に(+25円)
- 中期経営計画の3年間(2027年3月期〜2029年3月期)は、1株140円を下限とする累進配当
- 8月4日に、最大2,000億円の自社株買いを発表。取得した株はすべて消却する予定
- 同じ日に、3年間の還元の目安を「基礎営業キャッシュ・フローの50%水準」から「50%超」に引き上げ
7月22日には、米国の自動車販売大手Penske Automotive Groupの浮動株を買い取る提案(法的拘束力のない提案書)を出しています。
14. 伊藤忠商事|臨時が減った年に、ふだんの稼ぎが最高
伊藤忠商事(8001)は、第8章・第9章で見たとおり、ふだんの稼ぎ(基礎収益)が約1,810億円から約2,495億円へ38%増えました。会社の説明では、8つのカンパニーと「その他及び修正消去」の全9セグメントで増益です。
数字の背景には、投資を積み重ねてきたことがあります。
- 4月15日、日立建機の株式の追加取得を完了
- 4月、100%出資の会社を通じた伊藤忠食品へのTOB(株式公開買付け)が成立
- 8月3日、東京センチュリーの米国航空機リース子会社(ACG)への出資参画について基本合意
- 8月31日、電通総研へのTOB開始予定を発表
業界地図には、岡藤正広会長の「商社は資源もやらなあかん」という発言が紹介されています。今期の資源の利益は、ふだんの稼ぎのうち380億円(前年275億円)。非資源の比率は85%で、前年と変わっていません。
還元は「総還元性向40%以上」と「累進配当」が方針です。
- 配当は前期42円(分割後換算)から44円に
- 8月3日に3,000億円を上限とする自社株買いを発表。うち1,500億円は、自社の株を買い取るTOB(自己株式の公開買付け)で実施し、応募8,340万3,785株のうち8,273万5,750株を買い付けました。残りは市場で買う方針です
15. 住友商事|730億円の損と、720億円の税金
住友商事(8053)の4〜6月は、純利益1,901億円(+11.2%)。住友もふだんの稼ぎ(基礎的収益)を公表していて、1,370億円から1,770億円へ+400億円でした。
目を引くのは、マダガスカルのニッケル事業「アンバトビー」からの撤退です。
- 5月1日に、全持分の譲渡を決議。売却対価はマイナス4億1,800万ドル(マイナス669億円)。つまり、相手にお金を払って引き取ってもらう形です
- 4〜6月の資料では、売却損失が約730億円、それに対する税効果が約720億円、外部アドバイザー費用などが約20億円。差し引きは約30億円のマイナスでした
730億円の損を出して、税金の負担が720億円軽くなる。大きな損でも、決算の数字の上ではほとんど目立たない形になりました。業界地図は、この事業を「累計4000億円超の損失を計上した最大の懸案」とし、売却の発表と同時に「株価も急騰した」と書いています。
部門別では、資源が106億円から254億円に(銅の価格上昇など)。一方で自動車は397億円から117億円に減りました。前年に米国のタイヤ販売会社を売った利益があった反動です。
還元は「総還元性向40%以上」と「累進配当」。
- 7月1日に1株を4株に分割
- 配当は分割後で40円(分割前に直すと160円、前期150円)
- 5月1日に決めた800億円の自社株買いは、9月3日に取得を終えました
株価は1年で+63.8%。5大商社のなかでいちばん上がっています。
16. 丸紅|エネルギーと銅で+20.7%
丸紅(8002)の4〜6月は、純利益1,864億円(+20.7%)。短信の説明です。
- 売上総利益:エネルギー・化学品が+322億円(石油化学品取引、石油・天然ガス事業)、食料・アグリが+123億円、エアロスペース・モビリティが+122億円
- 持分法投資損益:金属が+97億円「商品価格の上昇に伴うチリ銅事業及び豪州原料炭事業の増益」
配当は前期107.5円から115円へ。8月3日に1,000億円を上限とする自社株買いを発表しました。方針は「中長期的な利益成長に合わせて増配していく累進配当」です。
17. 豊田通商・双日・兼松
豊田通商(8015)は、純利益1,353億円(+37.5%)で、8社のうちただ1社、1年の予想を上げました(4,000億円→4,300億円)。
もう1つ大きな出来事があります。5〜6月に、自社の株を買い取るTOBを実施しました。大株主の豊田自動織機が、持っていた株(議決権の11.19%)のすべてを応募し、豊田通商はそのうち1億1,808万1,700株を含む計1億1,809万5,432株を、1株5,620円・総額約6,637億円で取得して、6月30日に消却しました。短信は、資本が3月末から5,716億円減ったことについて「自己株式の消却等に伴い利益剰余金が5,914億円減少したこと等により」と説明しています。
双日(2768)は、純利益302億円(+43.4%)。1年の予想は1,300億円(+25.5%)、配当は165円から180円へ。配当利回りは3.14%で、8社のなかでいちばん高くなっています。
兼松(8020)は、純利益117億円(+67.6%)。会社は「営業利益および四半期利益は第1四半期の過去最高益を更新」と説明しています。配当は前期63円(分割後換算)から70円へ。
18. 同じ「資源」でも、効く資源が違う
業界地図は、三菱と三井をまとめて「LNGや鉄鉱石、原料炭など資源に強み」と書いています。ただ、決算短信に載っている「値段が動いたとき、1年の純利益がいくら動くか」(感応度)を並べると、2社の中身は違います。
| 1単位の変動で、1年の純利益 | 三菱商事 | 三井物産 |
|---|---|---|
| 原油 1ドル/バレル | 24億円 | 9億円 |
| 銅 100ドル/トン | 26億円 | 5億円 |
| 鉄鉱石 1ドル/トン | 短信に記載なし | 30億円 |
| 為替 1円(米ドル) | 約50億円 | 46億円(ほかに豪ドル1円で18億円) |
- 三菱:2026年3月期決算短信「事業等のリスク」より
- 三井:2026年3月期決算短信「2027年3月期連結業績予想における前提条件」より。原油は期ずれを考慮した連結油価、ヘッジ後の実感応度
銅が100ドル動いたときの影響は、三菱が三井の約5倍。鉄鉱石は、三井だけが感応度を載せています。同じ「資源に強い財閥系」でも、効きやすい資源が違うということです。第11章で、三菱の資源の追い風のなかで銅(+200億円)が大きかったのも、この違いと合っています。
商社は、第2章で見た電力会社とは反対の位置にいます。三菱の2026年3月期決算短信には、LNGのスポット価格が「ホルムズ海峡閉鎖やカタールLNGの戦争被害を背景として、20米ドル超まで上昇しました」とあります。電力会社にとってはコストが上がる出来事が、権益を持つ商社にとっては売る値段が上がる出来事になりました。
ただし、中東情勢は商社にとってプラスだけではありません。三菱の説明資料は、豪州原料炭事業の「燃料価格高騰による採算悪化」や、自動車事業の「中東向け取引数量減少」を挙げています。伊藤忠は、エネルギー価格の上昇によるコスト増と中東関連ビジネスの停滞がありつつ、基礎化学品の市況上昇などで、第1四半期の中東影響を差し引き+50億円と説明しています。
19. バフェットが、5大商社すべての筆頭株主に
5大商社は、それぞれ「主要株主である筆頭株主の異動」を適時開示しています。
| 会社 | 10%を超えた時期(開示) | 異動後の議決権比率 |
|---|---|---|
| 三菱商事 | 2025年8月28日 | 10.23% |
| 三井物産 | 2025年9月(9月21日に連絡を受け、10月9日に筆頭株主と開示) | 10.12% |
| 伊藤忠商事 | 2026年2月27日 | 10.07% |
| 丸紅 | 2026年5月1日付 | 10.10% |
| 住友商事 | 2026年5月7日 | 10.05% |
株主の名前はすべて、National Indemnity Company(Berkshire Hathaway Inc.の完全子会社)。各社の開示の時点で、5社とも、いちばんの大株主の住所はネブラスカ州オマハになりました。
三井物産の2025年9月22日の開示には、こう書かれています。
追加取得前の段階において、同社より、当社株式を長期保有する方針であり、将来的に追加取得を検討する意向がある旨を確認しています
20. 配当・自社株買い・株価(2026年9月15日終値)
配当と自社株買い
| 会社 | 前期の配当 | 今期の予想 | 増配 | 今期に発表した自社株買い |
|---|---|---|---|---|
| 三菱商事 | 110円 | 125円 | +15円 | 9月15日時点で発表なし |
| 三井物産 | 115円 | 140円 | +25円 | 最大2,000億円(8月4日) |
| 伊藤忠商事 | 42円 | 44円 | +2円 | 最大3,000億円(8月3日) |
| 住友商事 | 37.5円 | 40円 | +2.5円 | 800億円(9月3日に取得終了) |
| 丸紅 | 107.5円 | 115円 | +7.5円 | 最大1,000億円(8月3日) |
| 豊田通商 | 120円 | 125円 | +5円 | 約6,637億円(自己株式のTOB、5〜6月) |
| 双日 | 165円 | 180円 | +15円 | ― |
| 兼松 | 63円 | 70円 | +7円 | ― |
伊藤忠・兼松・住友は株式分割後の株数に合わせた金額です。
8社すべてが増配予想です。
株価と指標
| 会社 | 株価 | PER | PBR | 配当利回り | 1年前比 | 年初比 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 三菱商事 | 4,910円 | 16.34倍 | 1.87倍 | 2.55% | +42.7% | +34.4% |
| 伊藤忠商事 | 2,321円 | 16.97倍 | 2.40倍 | 1.90% | +35.3% | +16.1% |
| 三井物産 | 5,069円 | 15.62倍 | 1.60倍 | 2.76% | +39.1% | +6.6% |
| 住友商事 | 1,770円 | 13.35倍 | 1.77倍 | 2.26% | +63.8% | +27.1% |
| 丸紅 | 4,952円 | 13.88倍 | 1.81倍 | 2.32% | +40.9% | +11.3% |
| 豊田通商 | 7,329円 | 15.98倍 | 2.66倍 | 1.71% | +80.3% | +33.1% |
| 双日 | 5,729円 | 9.20倍 | 1.04倍 | 3.14% | +44.1% | +15.3% |
| 兼松 | 2,272.5円 | 10.80倍 | 1.77倍 | 3.08% | +45.0% | +25.4% |
| 日経平均株価 | 63,484.10 | +41.8% | +22.5% | |||
| TOPIX | 4,037.16 | +27.7% | +16.1% |
PER(ピーイーアール、株価収益率)と配当利回りは、各社の1年の予想から計算しました。PBR(ピービーアール、株価純資産倍率)は、6月末の親会社の所有者に帰属する持分を、自己株式を除いた株数で割った1株あたりの金額で計算しています。1年前は2025年9月12日、年初は2026年1月5日の終値と比べています。
- 8社すべて、PBRは1倍を超えています
- 1年前と比べると、8社すべてがTOPIX(トピックス、東証株価指数)を上回りました。日経平均を上回ったのは、三菱・住友・豊田通商・双日・兼松の5社です
- 年初から見ると、日経平均を上回ったのは三菱・住友・豊田通商・兼松の4社。三井は+6.6%で、TOPIXも下回っています
- PERは伊藤忠が16.97倍で8社のなかでいちばん高く、双日が9.20倍でいちばん低くなっています
三井の株価が年初から伸びていない理由を、はっきり示す資料はありません。4〜6月の増益に臨時の利益が多く含まれていることは、材料の1つとして並べておきます。
21. これから見るもの
1. 第2四半期の決算(10月末〜11月上旬)で、三菱が1年の予想を上げるか。会社は「上方修正余地を精査」と書いています
2. 三井の臨時の利益が、1年でどこまで積み上がるか。事業計画では940億円を見込んでいます
3. 伊藤忠の電通総研TOBとACG出資が、最終的にまとまるか
4. 銅・原油・為替の動き。三菱は原油1ドルで24億円、銅100ドルで26億円、1円で約50億円動きます
5. バークシャーの持株比率がさらに上がるか。三井物産は2025年9月の開示で、同社から「将来的に追加取得を検討する意向」を確認したと書いています
まとめ
業界地図の「資源価格上昇で三菱が追い上げ」は、数字のうえでそのとおりでした。4〜6月の純利益は三菱が首位で、臨時の利益を除いても首位です。
ただ、物差しを変えると、答えが変わります。
- 1年の「ふだんの稼ぎ」の計画では、伊藤忠が9,000億円で上。三菱は約8,200億円で3番目
- 2年前の4〜6月と比べると、伊藤忠は+42.2%、三菱は△15.8%
- 前年からの増益のうち、円安と資源高の追い風は、3社のなかで三菱が+510億円といちばん大きい
首位争いの48億円差の中で、三菱は追い風で、三井は資産の入れ替えで、伊藤忠はふだんの稼ぎで伸びていました。
どの物差しが正しいかは、何を知りたいかによって変わります。今年の勢いを見るなら純利益、来年も続く力を見るならふだんの稼ぎ、というように、決算を読むときに物差しを1本だけにしないことが、この3社の比較からいちばん伝えたかったことです。
そして、その5大商社の筆頭株主は、5社とも同じオマハの保険会社でした。
情報の基準日
- 株価・指標:2026年9月15日終値
- 決算数値:各社の2027年3月期第1四半期決算短信(2026年7月31日〜8月6日発表)、決算説明資料
- 業界地図:『会社四季報 業界地図 2027年版』(東洋経済新報社)304〜305ページ「177 総合商社」
参照した一次資料
- 8社の2027年3月期第1四半期決算短信(三菱・伊藤忠・丸紅は監査法人レビュー済み版)、2026年3月期決算短信
- 三菱・三井・伊藤忠の2026年3月期第1四半期決算短信(2年前の数字)
- 三菱商事:2026年度第1四半期 決算説明会資料、2025年度決算 説明会資料(5月1日)、主要株主である筆頭株主の異動(2025年8月28日)、特定子会社の異動(2026年7月15日)
- 三井物産:2027年3月期第1四半期 決算説明会資料、2026年3月期第1四半期 決算説明会資料、中期経営計画2029(5月1日)、自己株式取得に係る事項の決定(8月4日)、Penske Automotive Groupへの提案(7月22日)、主要株主の異動(2025年9月22日・10月9日)
- 伊藤忠商事:2026年度第1四半期 決算説明資料(スクリプト付を含む)、自己株式の取得並びに自己株式の公開買付け(8月3日)、同・結果(9月2日)、ACG出資(8月3日)、電通総研TOB開始予定(8月31日)、日立建機の追加持分取得完了(4月15日)、筆頭株主の異動(3月2日)
- 住友商事:2026年度第1四半期 決算説明会資料、アンバトビーニッケルプロジェクトの譲渡(5月1日)、自己株式の取得(5月1日)、同・取得終了(9月4日)、筆頭株主の異動(5月7日)
- 丸紅:自己株式の取得(8月3日)、剰余金の配当(5月13日)、筆頭株主の異動(5月7日)
- 豊田通商:通期業績予想の修正(7月31日)、自己株式の公開買付けの結果・主要株主の異動(6月3日)
- 兼松:2027年3月期第1四半期 決算補足説明資料
- 株価:株探 日足時系列、日経平均株価、TOPIX
※この記事は決算資料をもとにした情報の整理であり、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。投資の判断はご自身の責任でお願いします。