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総合商社8社、首位争いは48億円差。でも「臨時の利益」を抜いて1年で比べると、1位は入れ替わった|最新決算で確認

『会社四季報 業界地図 2027年版』の「総合商社」のページの見出しは、こうです。

26年度は資源価格上昇で三菱が追い上げ。投資規模の巨大化が鮮明

天気予想は、26年度後半が「曇り」、27年度が「晴れ」。

傘は持って出るけれど、帰りは畳めそうな天気です。

この記事では、総合商社8社の最新決算(2026年4〜6月の第1四半期)を、決算短信と各社の決算説明資料で確認しました。先に言っておくと、今回は「どこが1位か」の答えが、見る物差しによって変わります。その理由を、できるだけやさしく並べていきます。

1. 先に結論を3つ

1つめ。4〜6月の首位争いは、上位3社が48億円の中にひしめいています。

純利益は、三菱商事2,985億円、三井物産2,941億円、伊藤忠商事2,938億円。三井と伊藤忠の差は、たった3億円です。

2つめ。でも、臨時の利益を抜いて「1年の計画」で並べると、1位が入れ替わります。

1年の純利益予想では、三菱が1兆1,000億円で頭ひとつ抜けています。ところが、資産の売却益のような臨時の利益を除いた「ふだんの稼ぎ」の計画で比べると、伊藤忠9,000億円、三井約8,260億円、三菱約8,200億円。三菱は3番目になります。2年前の4〜6月と比べても、伊藤忠は+42.2%、三菱は△15.8%でした。

3つめ。バフェットの会社は、5大商社すべての筆頭株主になりました。そして5社とも増配予想です。

米国バークシャー・ハサウェイの子会社が、三菱・三井・伊藤忠・丸紅・住友の5社すべてで議決権の10%を超えました。自社株買いも、伊藤忠3,000億円、三井2,000億円、丸紅1,000億円、住友800億円と大きな金額が並びます。

2. なぜ今、商社なのか

中東情勢で、原油やLNG(液化天然ガス)が高くなりました。業界地図も天気予想の理由に「地政学要因やデータセンター向け需要でエネルギー、銅価格が高騰」と書いています。

燃料を「買う側」の電力会社は、この4〜6月に大手10社のうち4社(東京電力ホールディングス、中部電力、中国電力、沖縄電力)が営業赤字になりました。燃料費が先に上がり、電気料金への反映が遅れたためです。

では、燃料や資源の権益を持ち、「売る側」にいる商社はどうだったのか。業界地図には、こう書かれています。

総合商社各社は原油や天然ガスなどの権益を持ち、油価高騰は業績を押し上げる

今回は、この一文を数字で確かめるところから始めます。

3. 対象は8社。時価総額の1位は伊藤忠

会社 コード 株価 時価総額
伊藤忠商事 8001 2,321円 18兆3,926億円
三菱商事 8058 4,910円 18兆2,187億円
三井物産 8031 5,069円 14兆5,210億円
住友商事 8053 1,770円 8兆4,614億円
丸紅 8002 4,952円 8兆2,241億円
豊田通商 8015 7,329円 6兆9,191億円
双日 2768 5,729円 1兆2,031億円
兼松 8020 2,272.5円 3,841億円

株価は2026年9月15日の終値です。時価総額は株価に発行済株式数を掛けて計算しました。

業界地図が「5大総合商社」としているのが、伊藤忠・三井・三菱・住友・丸紅の5社。これに「その他の大手商社」の豊田通商・双日・兼松を加えた8社です。8社とも時価総額は1,000億円以上なので、全社を比べます。

時価総額でも、伊藤忠と三菱の差は1,739億円しかありません。利益でも株価でも、首位争いが接戦です。

商社のもうけ方も、先に確認しておきます。業界地図によると、以前は商品を右から左へ流して得る手数料(口銭)や売買の差益が中心でした。いまは、資源の権益を持ったり、小売りやサービスの会社に出資したりして、「事業投資・運営に軸足を移してきている」。資源の値段で利益が大きく動く会社と、生活に近い事業で稼ぐ会社が同じ「総合商社」に並んでいるのは、このためです。

4. 比較の前提

  • 8社とも3月期決算で、国際会計基準(IFRS、アイエフアールエス)です。同じ4〜6月の3か月を横に並べられます
  • 比べる利益は「親会社の所有者に帰属する四半期利益」(伊藤忠は「当社株主に帰属する四半期純利益」)で統一しました。以下「純利益」と書きます
  • 商社は売上(収益)の金額が大きく、取引の仲介の仕方で数字の出方が変わるので、売上ではなく利益で比べます
  • 株式分割をした会社が3社あります。伊藤忠が1株を5株に(2026年1月1日)、兼松が1株を2株に(同)、住友が1株を4株に(2026年7月1日)。配当や株価の推移は、分割後の株数に合わせて比べています
  • 三菱・伊藤忠・丸紅は、決算短信を2回(監査法人のレビュー前と後)出しています。数字が同じことを確かめ、レビュー後の版を使いました

5. 第1四半期の一覧|8社すべて増益

会社 純利益 前年比 前年同期 1年の予想 前期比 進捗率
三菱商事 2,985億円 +47.0% 2,031億円 1兆1,000億円 +37.4% 27.1%
三井物産 2,941億円 +53.4% 1,916億円 9,200億円 +10.3% 32.0%
伊藤忠商事 2,938億円 +3.5% 2,839億円 9,500億円 +5.5% 30.9%
住友商事 1,901億円 +11.2% 1,709億円 6,300億円 +4.9% 30.2%
丸紅 1,864億円 +20.7% 1,544億円 5,800億円 +6.6% 32.1%
豊田通商 1,353億円 +37.5% 983億円 4,300億円 +16.1% 31.5%
双日 302億円 +43.4% 211億円 1,300億円 +25.5% 23.2%
兼松 117億円 +67.6% 70億円 350億円 +7.6% 33.4%

8社すべてが増益で、1年の予想も8社すべてが増益です。

4〜6月の結果を受けて1年の予想を変えたのは、豊田通商だけでした。4,000億円から4,300億円への上方修正で、理由は原文で「業績予想時に見込んでいた為替レートを円安に見直したこと」などです。

6. 首位争いは48億円差

上位3社を並べます。

  • 三菱商事 2,985億円
  • 三井物産 2,941億円
  • 伊藤忠商事 2,938億円

三菱と三井の差が45億円、三井と伊藤忠の差が3億円。1位と3位でも48億円です。

3,000円のランチに例えると、50円玉1枚に届かない差です。

1年の予想で並べると、三菱1兆1,000億円、伊藤忠9,500億円、三井9,200億円。業界地図の「資源に強い三菱が首位を奪還する見通し」と、数字は一致しています。

ただ、1年の予想に対する4〜6月の進み具合(進捗率)は、三菱が27.1%で、5大商社のなかでいちばん低くなっています。三井は32.0%、丸紅は32.1%でした。

ただし、ここからが今回の本題です。

7. 同じ「増益」でも、中身はまったく別物

3社の増益率は、三井+53.4%、三菱+47.0%、伊藤忠+3.5%。数字だけ見ると、伊藤忠が大きく出遅れているように見えます。

ところが、決算短信の「主な増減要因」を読むと、3社の中身は別物でした。

三菱は、資源の値段で伸びました。原文は「市況上昇による増加」。金属資源の部門の純利益が275億円から866億円へ、3倍を超えました。

三井は、資産の入れ替えによる利益が大きく乗りました。有価証券の損益が37億円から870億円に増え、その理由は「米国不動産所有・運営事業(CIM Group)残存持分の公正価値評価益」。いちばん伸びた部門は、この不動産事業を持つ「イノベーション&コーポレートディベロップメント」で、103億円から652億円(+549億円)でした。

伊藤忠は、前の年の反動で小さく見えています。有価証券の損益が1,305億円から381億円へ、924億円減りました。理由は「前年同期C.P. Pokphand売却の反動」。前の年の4〜6月に、タイの会社(CPポカパン)の株を売った大きな利益があったのです。一方で、営業利益は+20.3%、持分法投資損益は+74.8%と伸びています。

では、この「臨時の利益」を除いて比べたら、どうなるのか。次の章で並べ直します。

8. 【深掘り①】「基本給」で並べ直す

たとえ話から始めます。

給料の手取りが同じくらいの3人がいるとします。1人は今年ボーナスが大きかった。1人は家を売ったお金が入った。1人は去年だけ臨時収入があって、今年は基本給が上がった。来年も続くのは、基本給のほうです。

商社の決算も同じで、上位3社はそれぞれ「基本給」にあたる数字を、自分の決算説明資料で公表しています。呼び方は違いますが、考え方は同じで、資産の売却益や一時的な損益を除いた、ふだんの稼ぎです。

  • 三菱商事は「巡航利益
  • 伊藤忠商事は「基礎収益
  • 三井物産は名前を付けていませんが、「資産リサイクル」と「評価性/一過性要因」の金額を公表しているので、純利益から差し引いて計算しました(三井の区分に合わせた私の計算です)

以下、この3つをまとめて「ふだんの稼ぎ」と書きます。

4〜6月の純利益 うち臨時の利益 ふだんの稼ぎ 前年のふだんの稼ぎ 伸び
三菱商事 2,985億円 +289億円 2,696億円 1,657億円 +62.7%
三井物産 2,941億円 +434億円 2,507億円 1,726億円 +45.2%
伊藤忠商事 2,938億円 +445億円 約2,495億円 約1,810億円 +38%

先にお断りしておくと、3社の定義は少しずつ違います。ぴったり同じ物差しではなく、「各社が自分で出している、臨時を除いた数字」として見てください。

ここから分かることは3つです。

1. 臨時の利益を除いても、4〜6月は三菱が首位です。2位の三井との差は189億円に広がります。三菱の先頭は、臨時の利益に頼ったものではありません
2. 伊藤忠は、前の年に臨時の利益が1,030億円ありました。そのうち約880億円がCPポカパンの売却です。今年は445億円(アゼルバイジャンの石油権益の売却340億円など)。臨時を除くと+38%で、会社は「第1四半期に限らず、過去の全四半期の決算においても最高益」と説明しています
3. 三井は、臨時の利益が前の年の190億円から434億円に増えました。+53.4%のうち、一部はこの臨時分です

去年のボーナスが大きすぎて、今年の昇給が目立たなかった。伊藤忠の+3.5%は、そういう数字でした。

三菱の臨時の利益の中身も、説明資料に書かれています。今年は「海外食品原料事業傘下事業売却」+230億円、「千代田化工建設持分法適用化時再評価」+190億円など。前年は「エネルギーインフラ関連事業完工損益」+120億円、「TH Foods株式売却」+90億円などがありました。

この「ふだんの稼ぎ」は、配当を考えるうえでも大事な物差しです。三井物産は、利益配分の方針に「再現性の高いキャッシュ創出力の水準に基づき、配当を通じ株主に直接還元していく」と書いています。

9. 【深掘り②】1年の計画で並べると、順位が入れ替わる

次に、1年の予想を「純利益」と「ふだんの稼ぎ」の2つで並べます。

1年の純利益予想 1年のふだんの稼ぎの計画 差(臨時の利益などの見込み)
伊藤忠商事 9,500億円 9,000億円 一過性の利益900億円、リスクへの備え△400億円
三井物産 9,200億円 約8,260億円 資産リサイクル・評価性/一過性要因940億円
三菱商事 1兆1,000億円 約8,200億円 約2,800億円
  • 伊藤忠:決算説明資料の「26年度通期見通し」(基礎収益9,000億円、一過性損益900億円、バッファー▲400億円)
  • 三井:決算説明資料の「2027年3月期 事業計画」(当期利益9,200億円のうち、資産リサイクル・評価性/一過性要因940億円)から計算
  • 三菱:決算説明資料の注記に「2026年度の巡航利益見通し(約8,200億円)」とあります。三菱の定義は「巡航利益=連結純利益-リサイクル・特殊要因」なので、1兆1,000億円との差の約2,800億円が、リサイクル・特殊要因などの見込みになる計算です。会社はこの約2,800億円の内訳そのものは示していません

1年の純利益で首位の三菱は、ふだんの稼ぎの計画で並べると3番目です。伊藤忠が9,000億円でいちばん上、三井と三菱は約8,200億円台で並びます。

業界地図には「利益のボラティリティーが小さい非資源主体の伊藤忠」という一文があります(ボラティリティーは、利益のぶれの大きさのことです)。臨時の利益や資源の値動きに左右されにくい稼ぎの厚さが、この計画の数字にも表れています。

なお、リスクへの備え(バッファー)の扱いも会社ごとに違います。順位は目安として見てください。

10. 【深掘り③】2年で見ると、印象が逆になる

増益率は「去年がどうだったか」で大きさが変わります。そこで、2年前の4〜6月も並べました。

2年前の4〜6月 前年の4〜6月 今年の4〜6月 2年前と比べて
三菱商事 3,544億円 2,031億円(△42.7%) 2,985億円 △15.8%
三井物産 2,761億円 1,916億円(△30.6%) 2,941億円 +6.5%
伊藤忠商事 2,066億円 2,839億円(+37.4%) 2,938億円 +42.2%

2年前の数字は、各社の前年(2026年3月期)の第1四半期決算短信に載っているものです。

三菱の+47.0%は、前の年に42.7%落ちた反動を含んでいます。2年前の3,544億円には、まだ届いていません。

伊藤忠の+3.5%は、前の年に37.4%伸びたあとの数字です。2年で見ると42.2%増えています。

同じ3社でも、1年で見るか2年で見るかで、印象が逆になります。どちらが正しいという話ではなく、「増益率は、比べる相手の年で大きさが変わる」ということです。

11. 【深掘り④】追い風の分だけ抜き出す

最後に、増えた利益のうち「円安と資源高のおかげ」の分を抜き出します。これも各社が決算説明資料で分解しています。

前年からの増益のうち 三菱商事 三井物産 伊藤忠商事(ふだんの稼ぎ)
資源の値段 +340億円 +140億円 +40億円
為替(円安) +170億円 +170億円 +120億円
中東の影響 +50億円
追い風の合計 +510億円 +310億円 +210億円
  • 三菱の資源の内訳は、原料炭+190億円、銅+200億円、鉄鉱石▲10億円、油価・ガス価▲20億円、LNG▲20億円
  • 三井の資源の内訳は、鉄鉱石+40億円、原料炭+40億円、銅他+60億円。為替は連結取込+260億円、経常為替▲90億円の合計
  • 伊藤忠の為替は、期中平均レートが1ドル144.59円から159.57円になったことによるもの

3社のなかで追い風をいちばん受けたのは三菱で、+510億円でした。伊藤忠は+210億円で、ふだんの稼ぎの増加685億円のうち、残りの475億円は新しい投資の貢献(+110億円)や既存事業の成長(+315億円)などだと会社は説明しています。

三菱自身も、決算説明資料にこう書いています。

為替・一部資源価格は期初前提よりも円安・高値圏で推移しており、第2四半期に向けて上方修正余地を精査

つまり、追い風がこのまま続けば、三菱は次の決算(第2四半期)で1年の予想を上げる可能性がある、と会社自身が示しています。上げると決まったわけではありません。

ここまでのまとめ。4〜6月の利益の金額では、臨時の利益を除いても三菱が首位です。ただし三菱の先頭は、追い風に支えられている分が大きく、2年前の水準にはまだ戻っていません。一方の伊藤忠は、臨時の利益が減った年でもふだんの稼ぎを伸ばし、1年の計画ではトップに立っています。

12. 三菱商事|資源と円安で+47%

三菱商事(8058)の部門別の純利益です。

部門 前年4〜6月 今年4〜6月 増減
金属資源 275億円 866億円 +591億円
エネルギー&パワーソリューション 407億円 719億円 +312億円
食品産業 218億円 362億円 +144億円
モビリティ 271億円 312億円 +41億円
マテリアルソリューション 125億円 178億円 +53億円
社会インフラ 363億円 296億円 △67億円
S.L.C. 278億円 205億円 △73億円

(前年は、今年4月の組織改編と社内金利の見直しを反映して組み替えた数字。決算説明会資料より)

金属資源の増益理由は「豪州原料炭事業(市況上昇)、銅事業(市況上昇)」。エネルギーは「LNG北米事業/LNG自社持分販売事業(生産開始に伴う取引増加)」です。説明資料には、LNGカナダが第1四半期に100カーゴ目の出荷を達成したことも書かれています。

もう1つ大きな動きがあります。7月14日、米国テキサス州・ルイジアナ州のシェールガス事業の取得を完了しました。業界地図が「投資額は同社史上最高額」と書いている案件です。説明資料には「現地7月14日に買収完了し、利益貢献開始」とあります。

1年の予想は1兆1,000億円のまま。配当は前期110円から125円に増やす予想です。今期の自社株買いは、9月15日時点ではまだ発表していません。

13. 三井物産|臨時の利益と、140円の下限

三井物産(8031)の部門別です。

部門 前年4〜6月 今年4〜6月 増減 原文の主な要因
金属資源 515億円 612億円 +97億円 銅・鉄鉱石・原料炭価格、鉄鉱石数量
エネルギー 202億円 344億円 +142億円 海外エネルギー事業IPOに伴うFVTPL、米国ガス
モビリティ・デジタル・インフラ 494億円 730億円 +236億円 自動車、ガスインフラ
化学品 309億円 266億円 △43億円 前年同期評価性/一過性の反動
ウェルネスエコシステム 148億円 184億円 +36億円 食料
イノベーション&コーポレートディベロップメント 103億円 652億円 +549億円 CIM Groupリサイクル益、量子コンピューティング事業IPOに伴うFVTPL

FVTPLは、持っている株などを時価で評価し直し、その差を利益(または損失)として計上するやり方のことです。投資先が株式を上場(IPO)すると値段が付き直すので、その差が利益に出ることがあります。

三井の説明資料の分解では、前年からの増益1,025億円のうち、資産リサイクル(主にCIM Group)が+420億円、上場株などの評価益(FVTPL)が+280億円でした。家を売った年は、年収が増えて見えます。

それでも、1年の予想9,200億円は据え置いています。4〜6月で32.0%まで進んでいても上げないのは、臨時の利益を1年に引き伸ばして考えていない、と読めます。

株主への還元は、はっきりしています。

  • 配当は前期115円から140円に(+25円)
  • 中期経営計画の3年間(2027年3月期〜2029年3月期)は、1株140円を下限とする累進配当
  • 8月4日に、最大2,000億円の自社株買いを発表。取得した株はすべて消却する予定
  • 同じ日に、3年間の還元の目安を「基礎営業キャッシュ・フローの50%水準」から「50%超」に引き上げ

7月22日には、米国の自動車販売大手Penske Automotive Groupの浮動株を買い取る提案(法的拘束力のない提案書)を出しています。

14. 伊藤忠商事|臨時が減った年に、ふだんの稼ぎが最高

伊藤忠商事(8001)は、第8章・第9章で見たとおり、ふだんの稼ぎ(基礎収益)が約1,810億円から約2,495億円へ38%増えました。会社の説明では、8つのカンパニーと「その他及び修正消去」の全9セグメントで増益です。

数字の背景には、投資を積み重ねてきたことがあります。

  • 4月15日、日立建機の株式の追加取得を完了
  • 4月、100%出資の会社を通じた伊藤忠食品へのTOB(株式公開買付け)が成立
  • 8月3日、東京センチュリーの米国航空機リース子会社(ACG)への出資参画について基本合意
  • 8月31日、電通総研へのTOB開始予定を発表

業界地図には、岡藤正広会長の「商社は資源もやらなあかん」という発言が紹介されています。今期の資源の利益は、ふだんの稼ぎのうち380億円(前年275億円)。非資源の比率は85%で、前年と変わっていません。

還元は「総還元性向40%以上」と「累進配当」が方針です。

  • 配当は前期42円(分割後換算)から44円に
  • 8月3日に3,000億円を上限とする自社株買いを発表。うち1,500億円は、自社の株を買い取るTOB(自己株式の公開買付け)で実施し、応募8,340万3,785株のうち8,273万5,750株を買い付けました。残りは市場で買う方針です

15. 住友商事|730億円の損と、720億円の税金

住友商事(8053)の4〜6月は、純利益1,901億円(+11.2%)。住友もふだんの稼ぎ(基礎的収益)を公表していて、1,370億円から1,770億円へ+400億円でした。

目を引くのは、マダガスカルのニッケル事業「アンバトビー」からの撤退です。

  • 5月1日に、全持分の譲渡を決議。売却対価はマイナス4億1,800万ドル(マイナス669億円)。つまり、相手にお金を払って引き取ってもらう形です
  • 4〜6月の資料では、売却損失が約730億円、それに対する税効果が約720億円、外部アドバイザー費用などが約20億円。差し引きは約30億円のマイナスでした

730億円の損を出して、税金の負担が720億円軽くなる。大きな損でも、決算の数字の上ではほとんど目立たない形になりました。業界地図は、この事業を「累計4000億円超の損失を計上した最大の懸案」とし、売却の発表と同時に「株価も急騰した」と書いています。

部門別では、資源が106億円から254億円に(銅の価格上昇など)。一方で自動車は397億円から117億円に減りました。前年に米国のタイヤ販売会社を売った利益があった反動です。

還元は「総還元性向40%以上」と「累進配当」。

  • 7月1日に1株を4株に分割
  • 配当は分割後で40円(分割前に直すと160円、前期150円)
  • 5月1日に決めた800億円の自社株買いは、9月3日に取得を終えました

株価は1年で+63.8%。5大商社のなかでいちばん上がっています。

16. 丸紅|エネルギーと銅で+20.7%

丸紅(8002)の4〜6月は、純利益1,864億円(+20.7%)。短信の説明です。

  • 売上総利益:エネルギー・化学品が+322億円(石油化学品取引、石油・天然ガス事業)、食料・アグリが+123億円、エアロスペース・モビリティが+122億円
  • 持分法投資損益:金属が+97億円「商品価格の上昇に伴うチリ銅事業及び豪州原料炭事業の増益」

配当は前期107.5円から115円へ。8月3日に1,000億円を上限とする自社株買いを発表しました。方針は「中長期的な利益成長に合わせて増配していく累進配当」です。

17. 豊田通商・双日・兼松

豊田通商(8015)は、純利益1,353億円(+37.5%)で、8社のうちただ1社、1年の予想を上げました(4,000億円→4,300億円)。

もう1つ大きな出来事があります。5〜6月に、自社の株を買い取るTOBを実施しました。大株主の豊田自動織機が、持っていた株(議決権の11.19%)のすべてを応募し、豊田通商はそのうち1億1,808万1,700株を含む計1億1,809万5,432株を、1株5,620円・総額約6,637億円で取得して、6月30日に消却しました。短信は、資本が3月末から5,716億円減ったことについて「自己株式の消却等に伴い利益剰余金が5,914億円減少したこと等により」と説明しています。

双日(2768)は、純利益302億円(+43.4%)。1年の予想は1,300億円(+25.5%)、配当は165円から180円へ。配当利回りは3.14%で、8社のなかでいちばん高くなっています。

兼松(8020)は、純利益117億円(+67.6%)。会社は「営業利益および四半期利益は第1四半期の過去最高益を更新」と説明しています。配当は前期63円(分割後換算)から70円へ。

18. 同じ「資源」でも、効く資源が違う

業界地図は、三菱と三井をまとめて「LNGや鉄鉱石、原料炭など資源に強み」と書いています。ただ、決算短信に載っている「値段が動いたとき、1年の純利益がいくら動くか」(感応度)を並べると、2社の中身は違います。

1単位の変動で、1年の純利益 三菱商事 三井物産
原油 1ドル/バレル 24億円 9億円
銅 100ドル/トン 26億円 5億円
鉄鉱石 1ドル/トン 短信に記載なし 30億円
為替 1円(米ドル) 約50億円 46億円(ほかに豪ドル1円で18億円)
  • 三菱:2026年3月期決算短信「事業等のリスク」より
  • 三井:2026年3月期決算短信「2027年3月期連結業績予想における前提条件」より。原油は期ずれを考慮した連結油価、ヘッジ後の実感応度

銅が100ドル動いたときの影響は、三菱が三井の約5倍。鉄鉱石は、三井だけが感応度を載せています。同じ「資源に強い財閥系」でも、効きやすい資源が違うということです。第11章で、三菱の資源の追い風のなかで銅(+200億円)が大きかったのも、この違いと合っています。

商社は、第2章で見た電力会社とは反対の位置にいます。三菱の2026年3月期決算短信には、LNGのスポット価格が「ホルムズ海峡閉鎖やカタールLNGの戦争被害を背景として、20米ドル超まで上昇しました」とあります。電力会社にとってはコストが上がる出来事が、権益を持つ商社にとっては売る値段が上がる出来事になりました。

ただし、中東情勢は商社にとってプラスだけではありません。三菱の説明資料は、豪州原料炭事業の「燃料価格高騰による採算悪化」や、自動車事業の「中東向け取引数量減少」を挙げています。伊藤忠は、エネルギー価格の上昇によるコスト増と中東関連ビジネスの停滞がありつつ、基礎化学品の市況上昇などで、第1四半期の中東影響を差し引き+50億円と説明しています。

19. バフェットが、5大商社すべての筆頭株主に

5大商社は、それぞれ「主要株主である筆頭株主の異動」を適時開示しています。

会社 10%を超えた時期(開示) 異動後の議決権比率
三菱商事 2025年8月28日 10.23%
三井物産 2025年9月(9月21日に連絡を受け、10月9日に筆頭株主と開示) 10.12%
伊藤忠商事 2026年2月27日 10.07%
丸紅 2026年5月1日付 10.10%
住友商事 2026年5月7日 10.05%

株主の名前はすべて、National Indemnity Company(Berkshire Hathaway Inc.の完全子会社)。各社の開示の時点で、5社とも、いちばんの大株主の住所はネブラスカ州オマハになりました。

三井物産の2025年9月22日の開示には、こう書かれています。

追加取得前の段階において、同社より、当社株式を長期保有する方針であり、将来的に追加取得を検討する意向がある旨を確認しています

20. 配当・自社株買い・株価(2026年9月15日終値)

配当と自社株買い

会社 前期の配当 今期の予想 増配 今期に発表した自社株買い
三菱商事 110円 125円 +15円 9月15日時点で発表なし
三井物産 115円 140円 +25円 最大2,000億円(8月4日)
伊藤忠商事 42円 44円 +2円 最大3,000億円(8月3日)
住友商事 37.5円 40円 +2.5円 800億円(9月3日に取得終了)
丸紅 107.5円 115円 +7.5円 最大1,000億円(8月3日)
豊田通商 120円 125円 +5円 約6,637億円(自己株式のTOB、5〜6月)
双日 165円 180円 +15円
兼松 63円 70円 +7円

伊藤忠・兼松・住友は株式分割後の株数に合わせた金額です。

8社すべてが増配予想です。

株価と指標

会社 株価 PER PBR 配当利回り 1年前比 年初比
三菱商事 4,910円 16.34倍 1.87倍 2.55% +42.7% +34.4%
伊藤忠商事 2,321円 16.97倍 2.40倍 1.90% +35.3% +16.1%
三井物産 5,069円 15.62倍 1.60倍 2.76% +39.1% +6.6%
住友商事 1,770円 13.35倍 1.77倍 2.26% +63.8% +27.1%
丸紅 4,952円 13.88倍 1.81倍 2.32% +40.9% +11.3%
豊田通商 7,329円 15.98倍 2.66倍 1.71% +80.3% +33.1%
双日 5,729円 9.20倍 1.04倍 3.14% +44.1% +15.3%
兼松 2,272.5円 10.80倍 1.77倍 3.08% +45.0% +25.4%
日経平均株価 63,484.10 +41.8% +22.5%
TOPIX 4,037.16 +27.7% +16.1%

PER(ピーイーアール、株価収益率)と配当利回りは、各社の1年の予想から計算しました。PBR(ピービーアール、株価純資産倍率)は、6月末の親会社の所有者に帰属する持分を、自己株式を除いた株数で割った1株あたりの金額で計算しています。1年前は2025年9月12日、年初は2026年1月5日の終値と比べています。

  • 8社すべて、PBRは1倍を超えています
  • 1年前と比べると、8社すべてがTOPIX(トピックス、東証株価指数)を上回りました。日経平均を上回ったのは、三菱・住友・豊田通商・双日・兼松の5社です
  • 年初から見ると、日経平均を上回ったのは三菱・住友・豊田通商・兼松の4社。三井は+6.6%で、TOPIXも下回っています
  • PERは伊藤忠が16.97倍で8社のなかでいちばん高く、双日が9.20倍でいちばん低くなっています

三井の株価が年初から伸びていない理由を、はっきり示す資料はありません。4〜6月の増益に臨時の利益が多く含まれていることは、材料の1つとして並べておきます。

21. これから見るもの

1. 第2四半期の決算(10月末〜11月上旬)で、三菱が1年の予想を上げるか。会社は「上方修正余地を精査」と書いています
2. 三井の臨時の利益が、1年でどこまで積み上がるか。事業計画では940億円を見込んでいます
3. 伊藤忠の電通総研TOBとACG出資が、最終的にまとまるか
4. 銅・原油・為替の動き。三菱は原油1ドルで24億円、銅100ドルで26億円、1円で約50億円動きます
5. バークシャーの持株比率がさらに上がるか。三井物産は2025年9月の開示で、同社から「将来的に追加取得を検討する意向」を確認したと書いています

まとめ

業界地図の「資源価格上昇で三菱が追い上げ」は、数字のうえでそのとおりでした。4〜6月の純利益は三菱が首位で、臨時の利益を除いても首位です。

ただ、物差しを変えると、答えが変わります。

  • 1年の「ふだんの稼ぎ」の計画では、伊藤忠が9,000億円で上。三菱は約8,200億円で3番目
  • 2年前の4〜6月と比べると、伊藤忠は+42.2%、三菱は△15.8%
  • 前年からの増益のうち、円安と資源高の追い風は、3社のなかで三菱が+510億円といちばん大きい

首位争いの48億円差の中で、三菱は追い風で、三井は資産の入れ替えで、伊藤忠はふだんの稼ぎで伸びていました。

どの物差しが正しいかは、何を知りたいかによって変わります。今年の勢いを見るなら純利益、来年も続く力を見るならふだんの稼ぎ、というように、決算を読むときに物差しを1本だけにしないことが、この3社の比較からいちばん伝えたかったことです。

そして、その5大商社の筆頭株主は、5社とも同じオマハの保険会社でした。

情報の基準日

  • 株価・指標:2026年9月15日終値
  • 決算数値:各社の2027年3月期第1四半期決算短信(2026年7月31日〜8月6日発表)、決算説明資料
  • 業界地図:『会社四季報 業界地図 2027年版』(東洋経済新報社)304〜305ページ「177 総合商社」

参照した一次資料

  • 8社の2027年3月期第1四半期決算短信(三菱・伊藤忠・丸紅は監査法人レビュー済み版)、2026年3月期決算短信
  • 三菱・三井・伊藤忠の2026年3月期第1四半期決算短信(2年前の数字)
  • 三菱商事:2026年度第1四半期 決算説明会資料、2025年度決算 説明会資料(5月1日)、主要株主である筆頭株主の異動(2025年8月28日)、特定子会社の異動(2026年7月15日)
  • 三井物産:2027年3月期第1四半期 決算説明会資料、2026年3月期第1四半期 決算説明会資料、中期経営計画2029(5月1日)、自己株式取得に係る事項の決定(8月4日)、Penske Automotive Groupへの提案(7月22日)、主要株主の異動(2025年9月22日・10月9日)
  • 伊藤忠商事:2026年度第1四半期 決算説明資料(スクリプト付を含む)、自己株式の取得並びに自己株式の公開買付け(8月3日)、同・結果(9月2日)、ACG出資(8月3日)、電通総研TOB開始予定(8月31日)、日立建機の追加持分取得完了(4月15日)、筆頭株主の異動(3月2日)
  • 住友商事:2026年度第1四半期 決算説明会資料、アンバトビーニッケルプロジェクトの譲渡(5月1日)、自己株式の取得(5月1日)、同・取得終了(9月4日)、筆頭株主の異動(5月7日)
  • 丸紅:自己株式の取得(8月3日)、剰余金の配当(5月13日)、筆頭株主の異動(5月7日)
  • 豊田通商:通期業績予想の修正(7月31日)、自己株式の公開買付けの結果・主要株主の異動(6月3日)
  • 兼松:2027年3月期第1四半期 決算補足説明資料
  • 株価:株探 日足時系列、日経平均株価、TOPIX

※この記事は決算資料をもとにした情報の整理であり、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。投資の判断はご自身の責任でお願いします。

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たぐ

コロナショック直前の2020年に投資をスタート。リアルタイムで暴落を経験しながら独学で投資の基礎を習得。 現在の運用総額5,000万円超・年間配当収入120万円超を達成。投資信託・ETF・個別株・米国株など100銘柄超に分散投資し、相場の波に強いポートフォリオを構築中。 高配当株の長期保有と新NISAの積立を組み合わせた"2刀流"スタイルで資産形成を実践。保有銘柄の決算・配当・株価をブログで赤裸々公開しています。YouTubeでも投資情報を発信中!

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