※本記事は、製紙大手5社が発表した2027年3月期第1四半期決算と、2026年8月16日までの開示情報を基に作成しています。株価・指標は2026年8月14日終値ベースです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。
王子ホールディングス、レンゴー、日本製紙、大王製紙、北越コーポレーション。いずれも「紙」に関わる会社ですが、Q1の利益率、配当、財務には大きな差が出ました。
今回Q1の営業利益率はレンゴーが6.49%。残る4社はすべて1%未満です。一方、予想配当利回り首位は王子HDの4.11%、自己資本比率首位は北越の60.1%でした。
つまり、「足元で最も稼げた会社」「利回りが最も高い会社」「財務が最も厚い会社」は別です。低PBRや高配当の一言で製紙株をまとめず、利益の質まで1枚めくって比較します。
結論:Q1の収益力はレンゴー、利回りは王子HD、財務比率は北越
- レンゴーは営業利益72.5%増、営業利益率6.49%で5社中トップ
- 王子HDは予想配当利回り4.11%で首位だが、予想配当性向は約93.6%
- 日本製紙は二つの重大事象の影響を算定できず、通期業績予想を未定に変更
- 大王製紙は経常利益が約8.7倍でも、営業利益28.7%減、親会社株主帰属最終赤字
- 北越は自己資本比率60.1%で首位だが、営業利益78.9%減
- 8月4日から14日の共通窓ではレンゴー株が9.6%上昇。ただし決算だけとの因果は断定しない
Q1の営業利益率と増益幅で先行したのはレンゴーです。ただし、低コスト在庫の払い出しや値上げ前の前倒し需要が含まれます。Q1の伸び率をそのまま通期へ延長できるわけではありません。
王子HDは利回りが魅力ですが、会社予想利益に対する配当負担は軽くありません。北越は財務比率が高いものの、足元の損益は大幅悪化しています。比較軸を一つに絞ると、各社の弱点を見落とします。
5社のQ1を同じ表で比較
単位は億円。営業利益率と通期進捗率は会社開示値から再計算しています。
| 会社 | 売上高 | 営業利益 | 前年同期比 | 営業利益率 | 親会社株主帰属最終利益 | 通期営業利益予想 | 進捗率 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 王子HD | 4,685.1 | 38.8 | +4.8% | 0.83% | 31.6 | 600 | 6.5% |
| レンゴー | 2,757.5 | 179.0 | +72.5% | 6.49% | 115.8 | 460 | 38.9% |
| 日本製紙 | 3,144.7 | 29.1 | -47.0% | 0.93% | -2.3 | 未定 | ― |
| 大王製紙 | 1,611.6 | 15.0 | -28.7% | 0.93% | -4.6 | 240 | 6.2% |
| 北越コーポ | 725.6 | 6.9 | -78.9% | 0.95% | 16.3 | 30 | 22.9% |
売上規模は王子HDが最大ですが、売上を営業利益へ変える力ではレンゴーが大きく上回りました。
ただし、会社によって事業構成は違います。レンゴーは板紙・段ボールだけでなく軟包装や重包装も展開。王子HDと日本製紙は海外パルプや印刷用紙などの影響が大きく、大王製紙は紙・板紙とホーム&パーソナルケア、北越は紙パルプの比重が高い会社です。営業利益率の差を、そのまま永続的な会社ランキングにはしません。
レンゴー:営業利益72.5%増、ただし一時要因を分ける
レンゴーの売上高は2,757億5,000万円で10.6%増、営業利益は178億9,800万円で72.5%増、親会社株主に帰属する四半期純利益は115億7,500万円で92.8%増でした。
通期営業利益460億円に対する進捗率は38.9%。上期予想250億円に対しては71.6%で、5社の中では利益進捗が最も強く見えます。
事業別では、板紙・紙加工、軟包装、重包装、海外のすべてが営業増益。海外は前年の営業赤字から黒字に転じました。
ただし、質疑応答まで読むと増益の中身に注意点があります。軟包装の「数量・価格」による増益76億円のうち、約半分は価格改定によるコスト転嫁。低コスト在庫の払い出し効果が約20億円、数量効果が約10億円と説明されています。板紙・段ボールでは7月の価格改定を前にした需要の前倒しも数量を2%弱押し上げました。
年間配当予想は50円で、前期の40円から10円増配予定。会社予想EPS125.78円に対する配当性向は約39.8%です。ただし、増配と上限250億円の自己株取得はQ1当日に初めて発表された施策ではありません。
結論は「今回Q1の利益率と増益幅で先行。ただし一時要因を除いたQ2以降の再現性を確認」です。
王子HD:利回り4.11%、利益計画は下期偏重
王子HDの売上高は4,685億800万円で2.4%増、営業利益は38億8,100万円で4.8%増でした。親会社株主帰属純利益は31億6,200万円で、前年の51億5,700万円の赤字から黒字転換しています。
ただし、最終黒字転換を本業だけの回復とは言えません。営業外では為替差損益が改善し、構造改革費用も減りました。営業利益率は0.83%です。
事業別では生活産業資材と機能材が改善。一方、資源環境ビジネスは営業減益、印刷情報メディアは33億円の営業赤字で、前年より赤字が拡大しました。
通期営業利益予想600億円へのQ1進捗は6.5%です。ただし会社は上期120億円、下期480億円という下期偏重の計画を示し、Q1について「概ね当初想定通り」と説明しています。進捗率だけで「未達」と断定するのも、会社説明だけで「安心」と結論づけるのも早計です。
年間配当予想36円、8月14日終値875.6円に対する利回りは4.11%で5社首位。会社予想EPS38.47円に対する配当性向は約93.6%です。会社は配当性向50%を目安とし、当面24円を下限とする方針ですが、36円全体の余裕が大きいとは言えません。
王子HDは「利回り首位」と「配当余力」を分け、下期の利益改善を確認する銘柄です。
日本製紙:予想未定の理由は事故と地震の両方
日本製紙の売上高は3,144億6,600万円で7.5%増、営業利益は29億900万円で47.0%減でした。親会社株主に帰属する四半期純損益は2億3,300万円の赤字です。
なお、非支配株主控除前の四半期純利益は3億6,300万円の黒字です。非支配株主帰属利益5億9,600万円を差し引いた結果、親会社株主帰属では赤字になりました。「連結全体が全面的な純損失」と誤解しないよう、利益の名称を正確に使う必要があります。
通期業績予想は、売上高から最終利益まで未定へ変更されました。理由は二つです。
一つ目は、5月26日に米国子会社Nippon Dynawave Packagingで発生したタンク崩壊事故。二つ目は、7月28日の令和8年熊本地震による八代工場の被害です。会社は両方の影響を合理的に算定することが困難と説明しています。
地震はQ1末の6月30日より後に発生しました。したがって、Q1の営業利益47%減を地震のせいにするのは誤りです。地震は今後の業績予想を未定にした要因として扱います。
年間配当15円は据え置きましたが、会社予想EPSがないためPERと配当性向は通常の方法では計算できません。PBR0.32倍だけで割安と決めず、NDPと八代工場の復旧状況、業績影響、新しい通期予想を待つ局面です。
大王製紙:経常利益8.7倍の見出しを営業利益で点検
大王製紙の売上高は1,611億6,000万円で1.8%増、営業利益は14億9,500万円で28.7%減、経常利益は12億4,700万円で前年の約8.7倍でした。親会社株主に帰属する四半期純損益は4億6,300万円の赤字です。
経常利益8.7倍は事実ですが、前年の経常利益が1億4,400万円と低かった反動があります。今期は為替差益9億8,100万円が発生し、受取配当金も増えました。本業に近い営業利益は減っているため、「8.7倍の好決算」だけでは中身を正しく伝えられません。
事業別では、紙・板紙が2億5,700万円の営業赤字。一方、ホーム&パーソナルケアは11億5,900万円の営業黒字となり、前年の赤字から改善しました。紙の苦戦と、衛生用品などの改善が同時に起きています。
通期営業利益240億円と年間配当14円は据え置き。Q1営業利益の通期進捗は6.2%、上期45億円に対しては33.2%です。まずQ2で営業利益をどこまで積み上げるかが確認点です。
北越:自己資本比率60.1%でも、営業利益78.9%減
北越の売上高は725億5,700万円で0.3%増、営業利益は6億8,700万円で78.9%減でした。
会社の増減分析では、原燃料価格の悪化が32億円、販売価格が7億円、数量が6億円の減益要因です。中東情勢を背景にした原燃料価格上昇や、海外パルプ価格の下落が重荷になりました。
自己資本比率は60.1%で5社首位です。ただし、Q1末の有利子負債は前期末から83億2,700万円増えています。財務比率が最も高いことと、何も懸念がないことは同じではありません。
通期営業利益30億円への進捗率は22.9%ですが、会社は上期に10億円の営業赤字を予想しています。これはQ2単独で約16億9,000万円の営業赤字を織り込む計算です。進捗率が25%に近いから順調、とは評価できません。
年間配当26円、予想配当性向は約82.6%。財務の厚さと、今期利益に対する配当負担も分けて見ます。
配当・PBR・財務を比較
| 会社 | 株価 | PBR | 予想利回り | 年間配当 | 予想配当性向 | 自己資本比率 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 王子HD | 875.6円 | 0.69倍 | 4.11% | 36円 | 約93.6% | 39.8% |
| レンゴー | 1,636.5円 | 0.79倍 | 3.06% | 50円 | 約39.8% | 37.2% |
| 日本製紙 | 1,420円 | 0.32倍 | 1.06% | 15円 | 算定不能 | 29.3% |
| 大王製紙 | 973円 | 0.66倍 | 1.44% | 14円 | 約18.0% | 26.7% |
| 北越コーポ | 895円 | 0.57倍 | 2.91% | 26円 | 約82.6% | 60.1% |
配当利回りなら王子HDが4%台で首位。レンゴーは3.06%なので、基準を示さず「高配当」と断定せず、3%台と表現するのが正確です。
PBRは全社1倍未満ですが、PBRは株価が1株純資産の何倍かを示す指標にすぎません。利益率、資産の収益性、事業リスクを無視して「1倍未満だから必ず割安」とは言えません。
株価は8月4日から14日の共通窓で比較
| 会社 | 8月4日終値 | 8月14日終値 | 変化率 |
|---|---|---|---|
| 王子HD | 872.6円 | 875.6円 | +0.3% |
| レンゴー | 1,493.5円 | 1,636.5円 | +9.6% |
| 日本製紙 | 1,338円 | 1,420円 | +6.1% |
| 大王製紙 | 974円 | 973円 | -0.1% |
| 北越コーポ | 891円 | 895円 | +0.4% |
比較期間中に最も上昇したのはレンゴーです。ただし、各社の決算発表日時は同じではなく、期間中の株価には相場全体、為替、金利、個別ニュースなども影響します。「決算だけで9.6%上昇した」とは断定しません。
日本製紙も6.1%上昇していますが、業績予想は未定です。この上昇を業績改善の証拠にはできません。
次の決算で確認したいこと
王子HD
- 上期営業利益120億円、通期600億円に向けた回復
- 印刷情報メディアの赤字縮小
- 年間配当36円に対する利益余力
レンゴー
- 低コスト在庫約20億円と前倒し需要の反動
- 海外事業の黒字継続
- 通期予想据え置き後の進捗
日本製紙
- NDPと八代工場の復旧状況、損失額
- 通期業績予想の再公表
- 年間配当15円を支える利益見通し
大王製紙
- 紙・板紙の営業黒字化
- ホーム&パーソナルケアの改善継続
- 上期営業利益45億円への進捗
北越コーポレーション
- Q2の営業赤字見通しと実績
- 原燃料・海外パルプ市況
- 年間配当26円に対する利益余力
まとめ
今回Q1の営業利益率と増益幅ではレンゴーが先行しました。ただし、一時要因を含むためQ2で持続性を確認します。
王子HDは予想配当利回り4.11%で首位ですが、利益計画は下期偏重で予想配当性向も高め。北越は自己資本比率60.1%と財務が厚い一方、営業利益は大幅減でした。
日本製紙は二つの重大事象によって業績予想が未定。大王製紙は経常利益の見出しより、営業減益と親会社株主帰属赤字を見る必要があります。
製紙5社は、利回り、収益力、財務で首位が異なります。低PBR・高配当と一括りにせず、自分が重視する軸と、その裏側のリスクをセットで確認することが大切です。
主な参照資料
- 王子HD:2027年3月期Q1決算短信・説明資料・質疑応答
- レンゴー:2027年3月期Q1決算短信・説明資料・質疑応答
- 日本製紙:2027年3月期Q1決算短信、NDP事故第5報、熊本地震による影響
- 大王製紙:2027年3月期Q1決算短信
- 北越:2027年3月期Q1決算短信・説明資料
- 株探:各社株価・指標・時系列