※この記事は各社の決算資料をもとにした情報提供です。投資の判断はご自身でお願いします。
※情報基準日:2026年9月7日終値。決算の数字は各社の最新の開示(2026年7月〜8月公表)です。
『会社四季報 業界地図 2027年版』の人材派遣のページを開くと、こんな見出しがあります。
「AI台頭で変わる人材要件。リスキリングによる質向上が急務」
数を集める商売から、質を上げる商売へ。それが急務だ、と書いてあります。業界の規模は9兆9,005億円(労働者派遣事業の売上高、2024年度・厚生労働省)。
では、その「質への転換」は、もう決算に出ているのでしょうか。6社の最新決算を、会社ごとの一次資料で開いてみました。
そうしたら、出ていました。しかも、想像していたよりはっきりした形で。
先に、この記事で追いかける数字を1つだけ説明させてください。「請求単価」です。
これは、派遣先の会社が、派遣会社に払う金額のことです。派遣で働く人が受け取る時給とは、別のものです。派遣会社の売上は、ざっくり「何人 × 請求単価 × 働いた時間」で決まります。
この請求単価が、いま上がっています。では、上がった分は働く人に回っているのか。そこも含めて見ていきます。
1. まず結論
- 売上がほとんど伸びていないのに、利益が伸びている会社が並んでいます。UTグループは売上+1.2%で営業利益+42.4%。メイテックグループは売上+1.5%で営業利益+9.1%
- 理由は各社が自分で書いています。人を増やすのをやめて、1人あたりの単価を上げたからです。メイテックのエンジニア社員数は12,399名で、前年より189名減っています
- ただし、人数も単価も両方増やした会社が1社あります。NISSOホールディングスです。純利益は+91.0%
- 逆に、転換できていない会社もあります。パソナグループは2026年5月期が2期連続の営業赤字でした
- 上がった単価が、働く人に回っているかどうかは、会社によって書き方が違います。WDBは「派遣料金及び派遣スタッフの報酬を引き上げました」と両方書き、オープンアップは処遇改善が利益を押し下げたと書いています
- そして、いちばん大事な話。その「単価」について、公正取引委員会の調査が入っています。パーソル、パソナ、リクルートの3社が開示しています
- さらに、この業界は上場企業が減り続けています。この2年で4社が上場廃止になりました
2. なぜこの6社なのか
先に、どうやって6社を選んだかを書いておきます。
業界地図のページには20社近くが載っていますが、上場していて時価総額が1,000億円以上ある会社は、5社しかありません。
| 会社 | コード | 時価総額 | 決算期 | 今回 |
|---|---|---|---|---|
| リクルートホールディングス | 6098 | 23兆7,662億円 | 3月 | 参考として扱う |
| パーソルホールディングス | 2181 | 6,717億円 | 3月 | 対象 |
| メイテックグループHD | 9744 | 2,609億円 | 3月 | 対象 |
| オープンアップグループ | 2154 | 1,785億円 | 6月 | 対象 |
| UTグループ | 2146 | 1,360億円 | 3月 | 対象 |
| パソナグループ | 2168 | 644億円 | 5月 | 対象(対照) |
| フルキャストホールディングス | 4848 | 642億円 | 12月 | 対象外 |
| アルプス技研 | 4641 | 530億円 | 12月 | 対象外 |
| ワールドホールディングス | 2429 | 503億円 | 12月 | 対象外 |
| WDBホールディングス | 2475 | 354億円 | 3月 | 参考として扱う |
| NISSOホールディングス | 9332 | 230億円 | 3月 | 対象(対照) |
※時価総額は2026年9月7日終値・株探。
リクルートは外しました。時価総額23.8兆円で、いちばん小さいUTグループの175倍です。しかも人材派遣は事業の一部で、第1四半期の営業利益2,554億円は全社の数字。同じ表に置くと「人材派遣の話」が「リクルートの話」になってしまいます。
NISSOとパソナは、時価総額が1,000億円を下回りますが、対象に入れました。この2社が、この記事のいちばん重要な部分だからです。NISSOは「人数も単価も増やした」唯一の会社、パソナは「転換できていない」会社。投資候補としてではなく、比較の材料として扱います。そのため、後半の株価やPERの表では、この2社を分けて示します。
3. この業界は、上場企業が減り続けています
もうひとつ、選びながら気づいたことがあります。業界地図に載っている会社が、次々と上場から消えています。
| 会社 | 上場廃止 | 買った相手 |
|---|---|---|
| アウトソーシング(2427) | 2024年6月 | ベインキャピタル系(BCJ-78)のTOB |
| テクノプロ・ホールディングス(6028) | 2025年12月 | 米ブラックストーン |
| フォーラムエンジニアリング(7088) | 2026年5月 | KJ003(米KKR系)のTOB |
| nmsホールディングス(2162) | 2026年8月28日 | 同業のワールドホールディングスのTOB |
テクノプロは、業界地図によると売上高2,389億円・営業利益238億円。技術者派遣では最大手級の会社です。それが上場企業ではなくなりました。
nmsホールディングスは、いちばん新しい例です。業界地図の相関図には、ワールドホールディングスからnmsへ「TOBで完全子会社化へ」という赤い矢印が描かれています。その矢印は、もう完了しています。
会社の開示によると、ワールドホールディングスは2026年6月1日から公開買付けを実施し、7月10日に終了。11,825,411株の応募があり、議決権の61.59%を取得しました(もともと32.91%を保有)。7月30日に株式等売渡請求を行い、nmsは2026年8月28日をもって上場廃止となりました。
2007年の上場以来、株主の皆様をはじめ、関係者の皆様には、当社の経営にご理解と温かいご支援を賜りましたことを心より御礼申し上げます。(nmsホールディングス「当社株式の上場廃止に関するお知らせ」2026年8月27日)
買いたいと思っても、買える会社が減っている。これがこの業界のいまの姿です。
4. 比較の前提
ここが今回いちばんややこしいところなので、先に整理します。
決算期が、会社ごとにバラバラです。
| 会社 | 今回見る決算 | 期間 | 会計基準 |
|---|---|---|---|
| パーソルHD | 2027年3月期 第1四半期 | 2026年4〜6月 | IFRS |
| メイテックG | 2027年3月期 第1四半期 | 2026年4〜6月 | 日本基準 |
| UTグループ | 2027年3月期 第1四半期 | 2026年4〜6月 | 日本基準 |
| NISSOHD | 2027年3月期 第1四半期 | 2026年4〜6月 | 日本基準 |
| オープンアップG | 2026年6月期 通期 | 2025年7月〜2026年6月 | IFRS |
| パソナG | 2026年5月期 通期 | 2025年6月〜2026年5月 | 日本基準 |
「6社の第1四半期を横に並べる」ということができません。オープンアップとパソナは通期の決算です。この記事では、期間が違うことを毎回書きながら進めます。
会計基準も分かれます。パーソルとオープンアップはIFRS(国際会計基準)で、オープンアップは「事業利益」という独自の指標を使っています。会社の説明では「売上総利益から販売費及び一般管理費を減算したもので、雇用調整助成金や減損損失などの特別項目を除いたもの」。日本基準の営業利益とは別のものです。
5. 決算の一覧
まず、期間が揃っている4社の第1四半期(2026年4〜6月)です。
| 会社 | 売上 | 前年比 | 営業利益 | 前年比 | 純利益 | 前年比 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| パーソルHD | 4,240億円 | +13.5% | 188.8億円 | +22.6% | 121.9億円 | +14.3% |
| UTグループ | 422.4億円 | +1.2% | 35.0億円 | +42.4% | 22.3億円 | +44.9% |
| メイテックG | 346.0億円 | +1.5% | 53.2億円 | +9.1% | 35.7億円 | +7.3% |
| NISSOHD | 292.8億円 | +17.3% | 7.07億円 | +64.7% | 4.28億円 | +91.0% |
※パーソルはIFRSのため売上収益・営業利益。
次に、通期の2社です。
| 会社 | 期間 | 売上 | 前年比 | 利益 | 前年比 |
|---|---|---|---|---|---|
| オープンアップG | 2026年6月期 | 1,674億円 | △10.9% | 事業利益163.9億円 | +4.9% |
| パソナG | 2026年5月期 | 3,084億円 | △0.2% | 営業損失△11.4億円 | 前期も△12.3億円 |
6. 本題:売上と利益の伸びが、一致していません
さっきの表を、もう一度見てください。
UTグループは、売上が+1.2%しか増えていないのに、営業利益が+42.4%増えています。メイテックも、売上+1.5%に対して営業利益+9.1%。オープンアップにいたっては、売上が10.9%減っているのに、事業利益は+4.9%増えています。
ふつう、人材派遣は「何人を、いくらで派遣したか」で売上が決まる商売です。売上が伸びないということは、人数か単価のどちらかが伸びていないということ。それなのに利益が増えている。
何が起きているのか。各社が短信の本文に、自分で書いていました。
7. 各社が書いている「人数」
まず人数です。原文を並べます。
2026年6月末のエンジニア社員数(MT・MFの合計)は12,399名(前年6月末比▲189名、▲1.5%)と、前年同期比で若干減少しました。(メイテックグループHD)
稼働人数は前年を下回りました。(オープンアップグループ、建設領域について)
離職率は改善傾向にあるものの、採用単価の上昇等により需給バランスを鑑みた採用を実施した結果、前年同期比で技術職社員数が減少しております。(UTグループ)
派遣スタッフの人数は前年同期と同水準であった一方、派遣単価が改善したことにより、売上高は微増いたしました。(WDBホールディングス)
減っているか、横ばい。増えていません。
メイテックの決算説明資料を見ると、もっと細かく分かります。本体のメイテックはエンジニア社員数8,020名→7,868名(△152名)、子会社のメイテックフィルダーズは4,568名→4,531名(△37名)。合計で189名の減少です。
8. 各社が書いている「単価」
次に単価です。
IT開発におけるAI関連案件の拡大や契約単価の向上、高稼働率の維持に加え、ITインフラにおける採用抑制などコストマネジメントを推進した結果、セグメント利益は前年を上回りました。(オープンアップグループ)
派遣単価が改善したことにより、売上高は微増いたしました。(WDBホールディングス)
製造スタッフの請求単価の上昇により、1人当たりの月平均売上高が466千円(前年同期比3.7%増)となりました。(NISSOホールディングス)
パーソルの決算説明資料は、いちばん細かく分けています。第1四半期の登録型派遣は、就業者数+1.1%、請求単価+2.3%、就業日数+1.8%、就業時間△0.4%。そして別の事業についてはこう書いています。
登録型派遣・フリーランス:請求単価増が就業人数減少を吸収
人数を増やすのをやめて、単価を上げる。6社が同じことをしていました。業界地図の言う「リスキリングによる質向上」は、決算の上ではこういう形で表れています。
9. メイテックグループ:エンジニアが189名減って、営業利益は9.1%増
技術者派遣の老舗です。売上346.0億円(+1.5%)、営業利益53.2億円(+9.1%)、純利益35.7億円(+7.3%)。
エンジニア社員数は12,399名で、前年より189名減りました。それでも利益が増えたのは、稼働率と稼働時間が維持されているからです。決算説明資料によると、本体の稼働率は96.4%→96.3%でほぼ横ばい、稼働時間は1日8.26時間→8.22時間。子会社のメイテックフィルダーズは稼働率が93.3%→94.1%へ0.8ポイント上がっています。
会社はこう書いています。
稼働率等が堅調に推移したことを背景に、売上高は、前年同期比6億30百万円(1.9%)増収の343億59百万円となりました。(エンジニアリングソリューション事業)
ただし注意点があります。通期の予想は減益です。売上1,408億円(+2.3%)、営業利益205億円(+3.0%)に対して、純利益は139億円で△7.7%。第1四半期の進捗率は25.7%です。
配当も、2026年3月期の196円から2027年3月期は181円へ減る予想です。
10. UTグループ:営業利益+42.4%の中身は、単価だけではありません
製造系の人材サービス大手です。売上422.4億円(+1.2%)、営業利益35.0億円(+42.4%)、純利益22.3億円(+44.9%)。
この+42.4%は、単価改善だけで説明できません。短信の数字を分解すると、こうなっています。
| 項目 | 前年同期 | 当期 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 417.5億円 | 422.4億円 | +1.2% |
| 売上総利益 | 79.7億円 | 83.6億円 | +4.9% |
| 販売費及び一般管理費 | 55.0億円 | 48.5億円 | △11.9% |
| 営業利益 | 24.6億円 | 35.0億円 | +42.4% |
販管費が6.5億円減っています。営業利益の増加10.4億円のうち、6.5億円が経費の削減分です。会社は「人員配置の最適化や単価(改善)」と書いており、採用単価の上昇を受けて採用そのものを絞った結果でもあります。
もうひとつ、前の年との比較に注意が必要です。前年同期(2026年3月期の第1四半期)の純利益は15億44百万円で、その前の年から68.7%減っていました。今回の+44.9%は、大きく落ち込んだ翌年の数字です。2年前の水準にはまだ戻っていません。
こちらも通期の予想は減益です。売上1,700億円(+1.9%)、営業利益100億円(△5.8%)、純利益61億円(△14.3%)。第1四半期の進捗率は36.7%と高いのですが、会社は今期の着地を慎重に見ています。
ただし、人数については明るい兆しも書かれています。決算説明資料によると、技術職社員数は33,008名で前期比△2.2%。ところが前の四半期末と比べると+86人で、会社はこう書いています。
募集費は前Q比でも減少、一方で採用効率の上昇により社員数の純減傾向は底打ちし、前Q対比で増員基調へ転換
減らし続ける局面は、いったん終わったようです。
なお、UTグループは2026年1月1日に1株を15株に分割しています。1株あたりの数字を過去と比べるときは注意が必要です。
11. オープンアップグループ:減収の理由は、人数ではありませんでした
ここは、私が最初に読み違えたところです。売上収益が10.9%減っているので「人数を減らしたから」と思いましたが、違いました。
会社はこう書いています。
これは、前連結会計年度に連結子会社化した株式会社エイセブホールディングス以下3社の業績寄与があったものの、事業ポートフォリオ最適化に伴い前連結会計年度に実施した英国事業売却による売上収益の剥落影響が大きかったことによるものであります。
減収の主因は、英国事業を売ったことです。人数の減少も建設領域では起きていますが、10.9%減の主犯ではありません。
そのうえで、利益の中身は「質への転換」そのものです。売上総利益率が27.6%へ2.4ポイント上昇しました。会社の説明は「高付加価値案件へのシフトや収益性改善施策の推進により」。事業利益は163.9億円で+4.9%、営業利益は166.9億円で+2.8%です。
ただし親会社の所有者に帰属する当期利益は118.2億円で△5.8%と減っています。理由も書いてあります。
前連結会計年度は英国事業売却に伴う税務上の一時的な影響により法人税率が低下していたことから、その反動により当連結会計年度の法人所得税費用が増加し、当期利益は前年を下回りました。
税金の反動です。本業が悪くなったわけではありません。
配当は85円から90円へ増配の予想。配当性向は62.2%です。
12. パーソルホールディングス:就業者数+1.1%、請求単価+2.3%
売上収益4,240億円(+13.5%)、営業利益188.8億円(+22.6%)、純利益121.9億円(+14.3%)。6社のなかでは規模がいちばん大きい会社です。
決算説明資料に、四半期ごとの内訳が載っています。登録型派遣の第1四半期は、就業者数+1.1%、請求単価+2.3%。前の年の同じ時期は就業者数+2.2%、請求単価+2.1%でしたから、人数の伸びが鈍って、単価の伸びが上回った形です。
事業別では、こう書いています。
IT・DXソリューション:エンジニア社員数が増加
エンジニアリング:自動車関連企業からの請負受注が伸び悩む
登録型派遣・フリーランス:請求単価増が就業人数減少を吸収
通期の予想は売上1兆6,650億円(+7.0%)、営業利益710億円(+6.7%)、純利益445億円(+4.2%)。第1四半期の進捗率は27.4%です。配当は11.50円から13.00円へ増配の予想。
13. NISSOホールディングス:唯一、人数も単価も増やしました
ここが例外です。売上292.8億円(+17.3%)、営業利益7.07億円(+64.7%)、純利益4.28億円(+91.0%)。6社でいちばん高い増益率です。
主力の製造生産系人材サービスは、期末在籍人数16,172名で前年同期から2,049名増。1人あたりの月平均売上高も466千円で+3.7%。離職率は月平均3.5%で0.2ポイント改善しています。
人数も単価も、両方増えています。ほかの5社と正反対です。
ただし、増収にはM&Aの分が入っています。会社の説明資料にはこうあります。
連結売上高は、M&Aの寄与による在籍人数の増加、請求単価の上昇等もあり前年同期比で17.3%増加
事業ごとの濃淡もあります。自動車関連は「HEVとBEVが併存する状況で、人材需要は様子見局面に。結果、前年同期比で在籍人数が減少するも請求単価上昇等により、売上高は微減」。半導体関連は「データセンター、AI関連の需要増を背景に人材ニーズは継続して拡大、在籍人数、売上高ともに順調に増加」。
つまり「全部増やした」のではなく、半導体で増やし、自動車では減らして単価で支えたという中身です。
通期の予想は売上1,185億円(+6.3%)、営業利益35億円(+9.7%)、純利益21億円(+10.4%)。第1四半期の進捗率は20.4%です。6社で唯一、通期でも増益を見込んでいます。
14. パソナグループ:2期連続の営業赤字
業界地図で「人材派遣の国内草分け。約40万人のスタッフが登録」と紹介されている会社です。
2026年5月期は売上3,084億円(△0.2%)、営業損失△11億49百万円、純損失△33億88百万円。前の期も営業損失△12億37百万円、純損失△86億58百万円でした。2期連続の営業赤字です。
ただ、中身を見ると「人材派遣が赤字」ではありません。セグメント別の利益はこうなっています。
| セグメント | 2026年5月期のセグメント利益 |
|---|---|
| BPOソリューション、エキスパートソリューション | +99.9億円 |
| キャリアソリューション | +42.4億円 |
| グローバルソリューション | +2.6億円 |
| ライフソリューション | +4.7億円 |
| 地方創生・観光ソリューション | △14.9億円 |
| 合計 | +134.8億円 |
| 調整額(グループ管理費用など) | △146.3億円 |
| 連結の営業損失 | △11.4億円 |
本業のセグメントは合計で134億円の利益を出しています。それを、全社の管理費用146億円が上回っているという構造です。
減収の理由も書いてあります。「BPOソリューションの大型受託案件がピークアウトした影響、ならびにキャリアソリューションの人材紹介事業において社内システムの刷新及び人員の入れ替えに伴う営業効率の低下」。
2027年5月期の予想は、売上3,250億円(+5.3%)、営業利益15億円で黒字転換の見込み。ただし純利益は△10億円の赤字予想です。
なお、パソナは1株あたり純資産が3,397円06銭あります。株価は1,603円ですから、PBRは0.47倍。純資産の半分以下で取引されている計算です。
15. その単価は、働く人に回っているのでしょうか
ここまで「請求単価が上がった」という話をしてきました。では、上がった分は、派遣で働いている人に回っているのでしょうか。
先に結論を言うと、金額では分かりません。6社とも、請求単価の動きは書きますが、派遣スタッフに払う時給を金額で開示している会社は、ひとつもありません。
ただし、言葉としては出てきます。しかも、書き方が会社によってかなり違います。
いちばんはっきり書いているのはWDBホールディングスです。決算説明資料に、こうあります。
2026年4月に、派遣料金及び派遣スタッフの報酬を引き上げました。
両方を上げたと書いています。さらに、利益率が下がっている理由についても書いています。
2023年3月期以降は、経常利益率が低下しておりますが、これは将来にわたる継続的な成長に向け、派遣スタッフの報酬アップおよびプラットフォームの開発等に投資を行っているためです。
短信のほうにも「2022年4月以降、派遣スタッフの待遇改善を継続して実施しております」とあります。利益率を下げてでもスタッフの報酬を上げている、と会社が言っているわけです。
オープンアップグループは、もっと生々しい形で数字に出ています。建設領域について、こう書いています。
選ばれる採用及び人材定着に向けた処遇改善を実施するとともに…(中略)…しかしながら、稼働人数の減少及び処遇改善に伴う売上原価の増加により、セグメント利益は前年を下回りました。
建設領域の売上収益は575.9億円(+1.2%)に対して、セグメント利益は69.6億円で△7.6%。処遇改善が、はっきり利益を押し下げています。同じ会社のIT領域はセグメント利益+9.1%ですから、部門によって様子が違います。
UTグループは、株式で還元しています。「断続的に働いた積算労働時間にもとづいて、一定の要件を充足する技術職社員を対象に当社株式を交付する社員向け株式報酬制度」を導入していて、第1四半期に株式報酬費用3.3億円を売上原価に計上しています。2026年6月に初回の株式交付を実施したとのことです。
パソナも、販管費が増えた理由に「IT関連費用及び社員の賃金上昇等により人件費が増加」と書いています。
一方で、メイテック、パーソル、NISSOの短信・説明資料には、スタッフや社員の報酬を引き上げたという記述が見当たりません。書いていないことは、やっていないことを意味しません。ただ、投資家に向けて何を説明するかという姿勢の違いは出ています。
まとめると、こうなります。
| 会社 | 働く人への還元についての記述 |
|---|---|
| WDBHD | 「2026年4月に、派遣料金及び派遣スタッフの報酬を引き上げました」「報酬アップ…に投資」 |
| オープンアップG | 「処遇改善を実施」→「処遇改善に伴う売上原価の増加により、セグメント利益は前年を下回りました」 |
| UTグループ | 技術職社員への株式報酬制度。第1四半期に3.3億円を売上原価に計上 |
| パソナG | 「社員の賃金上昇等により人件費が増加」 |
| メイテックG/パーソルHD/NISSOHD | 該当する記述は見当たらず |
「単価が上がった」の中身は、会社によって違います。値上げ分を利益にしている会社と、働く人に回して利益を削っている会社が、同じ表のなかに混ざっています。
16. その「単価」に、公正取引委員会の調査が入っています
ここまで「単価が上がった」という話をしてきました。この記事でいちばん書いておかなければならないのが、次の事実です。
派遣料金の設定について、公正取引委員会の調査が入っています。3社が開示しています。
パーソルホールディングスは2026年6月2日に、こう開示しました。
当社の子会社であるパーソルテンプスタッフ株式会社ならびに孫会社であるパーソルエクセルHRパートナーズ株式会社、エムシーパートナーズ株式会社は、本日、労働者派遣役務の提供に関して独占禁止法違反の疑いがあるとして、公正取引委員会による立入検査を受けました。
パソナグループは、2026年5月期の決算短信に項目を立てて書いています。
当社子会社の株式会社パソナは、労働者派遣における料金設定に関して、公正取引委員会による調査の対象となっております。当社は、公正取引委員会の調査に対し全面的に協力しております。
リクルートホールディングスも、業績予想の注記に書いています。
日本の人材派遣事業において、2026年6月に独占禁止法違反の疑いで公正取引委員会の立入検査を受けましたが、現在検査に協力中であり、現時点で財務的な影響額を合理的に見積ることが困難であるため、業績予想には勘案していません。
大事なのは、これが「疑い」の段階だということです。違反があったと認定されたわけではありません。3社とも「全面的に協力する」と書いています。
そして、単価が上がったことと、この調査を、因果でつなぐことはできません。私は結びつける材料を持っていません。ここでできるのは、「単価が上がっている」という事実と、「その料金設定について調査が入っている」という事実を、両方そのまま並べることだけです。
なお、今回の6社のうち、メイテック・オープンアップ・UT・NISSOは、この件についての開示をしていません。調査対象として名前が挙がっているのは、事務系の登録型派遣を手がける会社です。技術者派遣や製造系の会社とは、扱っている仕事が違います。
投資家として見るべきなのは、「財務的な影響額を合理的に見積ることが困難」とリクルートが書いている点でしょう。金額が読めないものが、業績予想に入っていないということです。
17. 第1四半期は増益。でも通期の予想は減益です
もうひとつ、見落としやすい点があります。
| 会社 | 第1四半期の純利益 | 通期予想の純利益 |
|---|---|---|
| メイテックG | +7.3% | △7.7% |
| UTグループ | +44.9% | △14.3% |
| NISSOHD | +91.0% | +10.4% |
| パーソルHD | +14.3% | +4.2% |
メイテックとUTは、第1四半期が増益なのに、通期では減益を予想しています。しかも両社とも、この予想を修正していません(「直近に公表されている業績予想からの修正の有無:無」)。
進捗率で見ると、メイテックは25.7%、UTは36.7%。UTは4分の1の期間で3分の1以上を稼いでいることになります。それでも予想を据え置いているということは、会社が下期を慎重に見ているということです。
通期で増益を見込んでいるのは、NISSOとパーソルとオープンアップです。
18. 配当
| 会社 | 前期 | 今期予想 | 増減 |
|---|---|---|---|
| メイテックG | 196円 | 181円 | 減配 |
| オープンアップG | 85円 | 90円 | 増配 |
| パーソルHD | 11.50円 | 13.00円 | 増配 |
| NISSOHD | 25円 | 25円 | 据え置き |
| パソナG | 75円 | 75円 | 据え置き |
| UTグループ | ― | 14.00円 | ※株式分割のため単純比較不可 |
メイテックだけが減配の予想です。通期の純利益が△7.7%の予想ですから、それに合わせた形になります。
パソナの75円には注意が必要です。内訳は普通配当15円と特別配当60円。2027年5月期の予想も同じ内訳です。8割が特別配当という形になっています。
UTグループは2026年1月1日に1株を15株へ分割したため、前期との単純比較ができません。今期の予想は第1四半期末3円77銭+期末10円23銭で、合計14円00銭です。
19. 株価は、UTグループが+24.18%
決算の発表が7月15日(パソナ)から8月7日までばらついているので、全社の発表前にあたる7月14日を起点にしました。
| 7月14日終値 | 9月7日終値 | 騰落率 | |
|---|---|---|---|
| UTグループ | 182円 | 226円 | +24.18% |
| パーソルHD | 259.3円 | 294.8円 | +13.69% |
| NISSOHD | 615円 | 677円 | +10.08% |
| メイテックG | 3,215.0円 | 3,345.0円 | +4.04% |
| パソナG | 1,544円 | 1,603円 | +3.82% |
| オープンアップG | 1,969円 | 1,965円 | △0.20% |
| TOPIX | 4,038.98 | 4,125.80 | +2.15% |
| 日経平均 | 67,743.50円 | 66,399.84円 | △1.98% |
この期間、日経平均は1.98%下がっています。そのなかでUTグループが24%上がり、パーソルが13%上がりました。増益率の高かった会社が買われた形ですが、株価は相場や需給などいろいろな材料で動くので、決算だけが理由とは言い切れません。
オープンアップだけが、ほぼ横ばいでした。
20. PER・PBR・配当利回り
時価総額1,000億円以上の4社です。
| 会社 | 株価 | 予想EPS | PER | 1株純資産 | PBR | 配当利回り |
|---|---|---|---|---|---|---|
| パーソルHD | 294.8円 | 19.60円 | 15.04倍 | 99.26円 | 2.97倍 | 4.41% |
| メイテックG | 3,345.0円 | 180.04円 | 18.58倍 | 571.47円 | 5.85倍 | 5.41% |
| オープンアップG | 1,965円 | 144.77円 | 13.57倍 | 944.36円 | 2.08倍 | 4.58% |
| UTグループ | 226円 | 10.72円 | 21.08倍 | 43.98円 | 5.14倍 | 6.19% |
比較の材料として見ている2社は、こちらです。
| 会社 | 株価 | 予想EPS | PER | 1株純資産 | PBR | 配当利回り |
|---|---|---|---|---|---|---|
| NISSOHD | 677円 | 62.36円 | 10.86倍 | 533.13円 | 1.27倍 | 3.69% |
| パソナG | 1,603円 | △26.58円 | 算定不可 | 3,397.06円 | 0.47倍 | 4.68% |
PER(ピーイーアール)は株価を会社予想の1株利益で割った値、PBR(ピービーアール)は株価を1株あたり純資産で割った値です。1株純資産は、IFRSの2社は開示されている「1株当たり親会社所有者帰属持分」、日本基準の会社は自己資本を発行済株式数(自己株式を除く)で割って計算しました。
パソナは今期も純損失の予想なので、PERが計算できません。一方でPBRは0.47倍。純資産の半分以下という評価です。
人材派遣は、工場や店舗のような大きな資産を持たない商売です。だからPBRが高く出やすく、メイテック5.85倍、UT5.14倍という数字になります。PBRが低いことがそのまま割安を意味するわけではありません。
配当利回りは、UTグループが6.19%、メイテックが5.41%と高めです。ただしメイテックは減配の予想、UTは分割直後で比較が難しい点に注意が必要です。
21. これから何を見るか
- 公正取引委員会の調査の行方:リクルートが「財務的な影響額を合理的に見積ることが困難」と書いています。結論が出れば、業績予想に反映されます
- 人数が反転するかどうか:メイテックのエンジニア社員数12,399名。UTは技術職社員数33,008名で、すでに前四半期比+86人と「増員基調へ転換」と書いています。単価だけで利益を伸ばすのには限界があります
- 上がった単価が、働く人にどこまで回るか:WDBは派遣料金と報酬を両方引き上げ、オープンアップは処遇改善で建設領域のセグメント利益が△7.6%。回すほど利益は削られます
- メイテックとUTの通期予想:第1四半期は増益なのに通期は減益予想。据え置いたままなのか、途中で修正されるのか
- NISSOのM&A抜きの伸び:在籍+2,049名にM&A分が含まれます。次の四半期で既存事業だけの伸びが見えるか
- パソナの調整額:セグメント利益134億円を全社費用146億円が上回る構造。ここが縮まらないと黒字になりません
- 上場企業の数:この2年で4社が消えました。次にTOBの対象になる会社があるか
まとめ
業界地図の見出しは「AI台頭で変わる人材要件。リスキリングによる質向上が急務」でした。
決算を開くと、質への転換は、すでに数字になっていました。人を増やすのをやめて、単価を上げる。メイテックはエンジニアが189名減り、UTは売上+1.2%で営業利益+42.4%、オープンアップは売上総利益率が2.4ポイント上がりました。
ただし、その先に4つの但し書きがあります。
ひとつ。その利益の増え方は、単価だけではありません。UTの営業利益+42.4%のうち、6.5億円は販管費の削減でした。
ふたつ。上がった単価が働く人に回っているかは、会社によって書き方が違います。WDBは「派遣料金及び派遣スタッフの報酬を引き上げました」と両方書き、オープンアップは処遇改善で建設領域のセグメント利益が7.6%減ったと書いています。金額で開示している会社は1社もありません。
みっつ。その単価について、公正取引委員会の調査が入っています。3社が開示しています。疑いの段階ですが、リクルートは「影響額を見積ることが困難」と書いています。
よっつ。第1四半期が好調でも、メイテックとUTは通期で減益を予想しています。会社自身が下期を慎重に見ています。
そして、この業界は買える会社が減り続けています。この2年でアウトソーシング、テクノプロ、フォーラムエンジニアリング、nmsの4社が上場から消えました。
次に見るのは、人数が反転するかどうか、上がった単価がどこまで働く人に回るか、そして公正取引委員会の調査の行方です。
主な参照資料
- パーソルホールディングス「2027年3月期 第1四半期決算短信〔IFRS〕(連結)」「第1四半期決算説明資料」(2026年8月7日)、「公正取引委員会による当社子会社への立入検査について」(2026年6月2日)
- メイテックグループホールディングス「2027年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」「第1四半期決算説明資料」(2026年7月30日)
- オープンアップグループ「2026年6月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」(2026年8月7日)
- UTグループ「2027年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」「第1四半期決算説明資料」(2026年8月7日)
- NISSOホールディングス「2027年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」「第1四半期決算説明資料」(2026年8月6日)
- パソナグループ「2026年5月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」(2026年7月15日)
- リクルートホールディングス「2027年3月期 第1四半期決算短信〔IFRS〕(連結)」(2026年8月7日)
- WDBホールディングス「2027年3月期 第1四半期決算短信」「2027年3月期1Q 決算説明資料」(2026年8月7日)
- nmsホールディングス「当社株式の上場廃止に関するお知らせ」(2026年8月27日)、「ワールドホールディングスによる当社株式に対する公開買付けの結果及び親会社の異動に関するお知らせ」(2026年7月13日)
- テクノプロ・ホールディングス「当社株式の上場廃止に関するお知らせ」(2025年12月8日)
- フォーラムエンジニアリング「当社株式の上場廃止に関するお知らせ」(2026年5月12日)
- アウトソーシング「当社株式の上場廃止に関するお知らせ」(2024年6月5日)
- 株探(株価・時価総額)
- 『会社四季報 業界地図 2027年版』(東洋経済新報社)「97 人材派遣」