※本記事は、2026年8月7日に発表されたINPEXの2026年12月期中間決算と、同日終値3,499円を基準に作成しています。決算発表は取引終了後の15時30分だったため、8月7日終値には今回の決算に対する通常取引での評価が反映されていません。
INPEX(1605)が、高配当株や株主還元を重視する投資家には見逃しにくい決算を発表しました。
2026年の年間配当予想を108円から112円へ引き上げ、さらに1,400億円の自己株式取得を決定。通期の親会社株主に帰属する利益、以下「最終利益」の予想も、5月時点の4,500億円から過去最高となる5,100億円へ引き上げました。
一方、上期の売上収益は前年同期比4.6%減少しています。
売上は減ったのに、最終利益は17.7%増加。決算表を見て「結局、良いのか悪いのか、どっちやねん」となりやすい内容です。
今回は、利益を支えたイクシスLNG、原油価格と円安の影響、中東情勢、配当112円と1,400億円の自社株買い、そして8月7日終値での株価水準を、投資初心者向けに整理します。
個人的な買う・買わないの判断ではなく、公開資料から確認できる事実と、次の決算で見る項目をまとめます。
先に結論:過去最高益と大型還元。ただし外部環境の追い風も大きい
今回の決算を先に整理すると、次のようになります。
良かった点
- 上期最終利益は2,631億円、前年同期比17.7%増
- 上期として過去最高の最終利益
- 主力のイクシスLNGが安定操業を継続
- 通期最終利益予想を4,500億円から5,100億円へ上方修正
- 年間配当予想を108円から112円へ増額
- 前年の年間100円から12円増配予想
- 1,400億円の自己株式取得を決定
- 配当と自社株買いを合わせた総還元性向は約53%の見込み
確認したい点
- 上期売上収益は4.6%減少
- 原油販売量は22.8%減少
- 中東情勢によりアブダビの販売に制約が発生
- 原油価格上昇と円安が業績を押し上げた
- 下期の為替前提は1ドル160円と円安水準
- アバディLNGなどへの大型投資が続く
- 8月7日終値での配当利回りは約3.20%
- 8月7日終値は決算発表前の価格で、翌営業日以降は変動する可能性がある
「株主還元はかなり強い。ただし、利益は原油価格、為替、地政学にも左右される」というのが全体像です。
INPEXは何で稼いでいる会社か
INPEXは、日本最大級の石油・天然ガス開発会社です。
ガソリンスタンドで燃料を販売する会社というより、エネルギーの採掘現場に近い会社です。
主な仕事を簡単に整理すると、次のようになります。
- 地下にある原油や天然ガスを探す
- 油田やガス田を開発する
- 原油や天然ガスを生産する
- 天然ガスをLNGにして日本やアジアへ供給する
- 国内で天然ガスのパイプラインや発電事業を運営する
- CCS、水素、再生可能エネルギーなどにも投資する
LNGは、天然ガスをマイナス162度程度まで冷やして液体にしたものです。体積を小さくできるため、専用船で大量に運べます。
INPEXの利益を見る際は、原油価格だけでなく、天然ガス、LNGプロジェクトの操業、為替、中東情勢を一緒に確認する必要があります。
2026年上期は売上1兆4億円、最終利益2,631億円
2026年1月から6月までの連結業績は以下のとおりです。
| 項目 | 2025年上期 | 2026年上期 | 前年同期比 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 1兆488億円 | 1兆4億円 | -4.6% |
| 営業利益 | 6,168億円 | 6,187億円 | +0.3% |
| 税引前利益 | 6,449億円 | 6,443億円 | -0.1% |
| 親会社帰属利益 | 2,235億円 | 2,631億円 | +17.7% |
| 1株利益 | 186.65円 | 226.33円 | +21.3% |
売上は483億円減少しましたが、営業利益は18億円増加。最終利益は396億円増え、上期として過去最高となりました。
「売上は後退、利益は前進」という、少し不思議に見える決算です。
売上が減った最大の理由は原油販売量の減少
上期の原油売上収益は6,949億円で、前年同期比10.9%減少しました。
| 原油 | 2025年上期 | 2026年上期 | 前年同期比 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 7,801億円 | 6,949億円 | -10.9% |
| 販売量 | 7,150万1,000バレル | 5,517万バレル | -22.8% |
| 海外平均単価 | 73.51ドル | 79.51ドル | +8.2% |
| 平均為替 | 148.43円 | 158.40円 | 6.7%円安 |
中東情勢の影響で、アブダビの原油販売量が減少しました。
会社全体では、販売数量の減少が1,695億円の減収要因となっています。そのうち原油の影響が1,781億円でした。
原油の値段は上がっても、販売できる量が大きく減れば、売上は伸びません。高い単価で売れたものの、レジへ持って行けた商品数が少なかった状態です。
原油高と円安が販売量減少の一部を補った
販売量は減りましたが、原油価格と為替は追い風になりました。
上期の期中平均ブレント原油価格は、前年の1バレル70.81ドルから87.60ドルへ上昇しました。
売上に使われた平均為替は1ドル158.37円で、前年の148.37円から約10円の円安です。
売上収益の増減要因は次のとおりです。
- 販売数量の減少:-1,695億円
- 平均単価の上昇:+492億円
- 円安:+556億円
- その他:+162億円
原油価格と為替という2本の蛇口からプラスが流れ込みましたが、販売数量という配管が細くなり、売上全体では減収となりました。
利益を見る際も、会社自身の改善と外部環境の追い風を分ける必要があります。
天然ガスは売上8.2%増
天然ガスは原油と異なり、増収となりました。
| 天然ガス・LPG除く | 2025年上期 | 2026年上期 | 前年同期比 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 2,514億円 | 2,719億円 | +8.2% |
| 販売量 | 2,538億5,500万立方フィート | 2,568億800万立方フィート | +1.2% |
| 海外平均単価 | 5.03ドル | 5.24ドル | +4.2% |
天然ガスの販売数量と海外平均単価が増え、円安も売上を押し上げました。
INPEXを「原油価格だけで動く会社」と考えると、天然ガスとLNGの存在を見落とします。
利益の主役はイクシスLNG
イクシスLNGは、オーストラリア北西沖のガス田から天然ガスを生産し、ダーウィンの陸上設備でLNGに加工する大型プロジェクトです。
INPEXが操業主体を務め、権益の67.82%を保有しています。
2026年上期はLNGを64カーゴ出荷しました。カーゴは、LNG船1隻分の出荷単位と考えると分かりやすいです。
イクシスの利益貢献は次のとおりです。
- 2025年上期:1,390億円
- 2026年上期:1,730億円
- 2026年通期予想:約3,800億円
2026年は年初から安定生産を続けており、年間のLNG出荷数は従来見通しを数カーゴ上回る見込みです。
ただし、下期には低圧生産設備の接続作業に伴う一時的な停止を複数回予定しています。好調な操業が続くかは、次の決算でも重要な確認点です。
中東だけに依存しない事業構成が強み
INPEXはアブダビに大きな原油権益を持っています。一方、イクシスLNGはオーストラリア、アバディLNGはインドネシアにあります。
会社は、イクシスとアバディについて、アジア市場に近く、ホルムズ海峡のような地政学上のチョークポイントを経由しない点を強みとして説明しています。
チョークポイントとは、船舶が集中して通る狭い海峡など、物流上の重要地点です。ここが封鎖・混乱すると、エネルギー輸送へ大きな影響が出ます。
アブダビの販売減少は痛手ですが、オーストラリアのイクシスが利益を補いました。油田を1か所に集めず、複数地域に持つことが、地政学リスクを和らげています。
事業別ではイクシスが全体利益の約66%
上期のセグメント利益は次のとおりです。
| セグメント | 2026年上期の利益 |
|---|---|
| 国内石油・天然ガス | 79億円 |
| 海外・イクシス | 1,731億円 |
| 海外・その他 | 779億円 |
| その他 | 24億円 |
イクシスの1,731億円は、セグメント利益合計の約66%を占めます。
国内事業は天然ガス販売量が増えましたが、売上原価の増加などにより利益が54.4%減少しました。再生可能エネルギーやCCS、水素などを含む「その他」は黒字ですが、会社全体への利益貢献はまだ小さい水準です。
将来事業の看板は増えていますが、現在の利益タンクへ最も多く注いでいるのは、依然としてイクシスです。
通期最終利益を5,100億円へ上方修正
会社は2026年通期予想を次のように修正しました。
| 項目 | 5月予想・油価83ドルケース | 8月予想 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 2兆2,910億円 | 1兆9,730億円 | -3,180億円 |
| 営業利益 | 1兆3,680億円 | 1兆2,230億円 | -1,450億円 |
| 税引前利益 | 1兆4,160億円 | 1兆2,780億円 | -1,380億円 |
| 親会社帰属利益 | 4,500億円 | 5,100億円 | +600億円 |
| 1株利益 | 386.94円 | 438.82円 | +51.88円 |
売上収益、営業利益、税引前利益は、5月に示した油価83ドルケースから下方修正です。一方、最終利益は600億円上方修正されました。
したがって「業績予想を全面的に上方修正」と表現するのは正確ではありません。
販売価格の上昇、イクシスの安定操業、円安、上期の予想超過、投資インセンティブや税金などの影響を反映し、最終利益は過去最高となる見込みです。
通期前提は原油81.4ドル、1ドル159.2円
会社が8月に置いた通期前提は次のとおりです。
- ブレント原油価格:1バレル81.4ドル
- 為替:1ドル159.2円
- 下期原油価格:1バレル75ドル
- 下期為替:1ドル160円
上期実績は原油87.60ドル、為替158.29円でした。
下期は原油価格の低下を見込む一方、為替は上期より円安の前提です。実際の原油価格が75ドルを下回る、または円高が進む場合は、会社予想に対して逆風となります。
反対に、原油高や円安が続けば上振れ要因になり得ます。ただし、中東情勢の悪化は価格を押し上げるだけでなく、販売量や輸送を止める可能性もあります。
「原油高なら必ずINPEXにプラス」と一本線で考えないことが重要です。
営業キャッシュフロー1兆550億円を見込む
会社は、イクシス下流事業会社を含む独自管理ベースで、2026年通期の営業キャッシュフローを1兆550億円と見込んでいます。
一方、投資キャッシュフローは8,590億円の支出、差し引いたフリーキャッシュフローは1,960億円のプラス予想です。
主な投資先は次のとおりです。
- 既存の石油・天然ガス事業の維持と増強
- アブダビ上部ザクム油田などの追加開発
- オーストラリアやマレーシアの新規鉱区
- アバディLNGの開発準備資金
- CCS、水素、再生可能エネルギー
稼いだ現金を配当だけに使う会社ではなく、将来のLNG開発にも大きく振り向ける会社です。
次の大型案件はアバディLNG
アバディLNGは、インドネシアのアラフラ海にある大型天然ガス開発計画です。
2026年は基本設計や販売先との交渉、資金調達、許認可の準備を進めています。
決算資料に登場するFEEDは、設備の仕様や費用を固める基本設計。FIDは、実際に巨額投資へ踏み切る最終投資決定です。
会社は2027年のFIDを目指し、2030年代初頭の生産開始を計画しています。
将来の成長源として期待されますが、LNGプロジェクトは投資額が大きく、完成まで長い時間がかかります。建設費の上昇、スケジュール、販売契約、資金調達を継続して確認する必要があります。
年間配当を108円から112円へ増額
2026年の普通株式配当は次のとおりです。
- 中間配当:54円予想から56円へ増額
- 期末配当:54円予想から56円へ増額
- 年間配当:108円予想から112円へ増額
- 前年実績:年間100円
前年からは12円増配となる予想です。
配当の推移は、2020年24円、2021年48円、2022年62円、2023年74円、2024年86円、2025年100円、2026年112円予想です。
会社は2025年から2027年の中期計画期間に、年間90円を起点とする累進配当を掲げています。
累進配当とは、基本的に前年度の配当を下回らないようにし、維持または増配を目指す方針です。ただし、112円が永久に保証されるという意味ではなく、会社方針や事業環境が変わる可能性はあります。
1,400億円の自社株買いを決定
INPEXは、1,400億円の自己株式取得も決定しました。
会社は、過去最高益を見込むことに加え、現在の株価が成長性を十分に反映しておらず、割安だと認識していることを理由に挙げています。
2026年の配当総額は約1,303億円、自社株買いは1,400億円。合計した株主還元額は約2,703億円となり、過去最高の見込みです。
総還元性向は約53%です。
配当112円は株主が受け取る現金。自社株買いは市場に出回る株式数を減らし、1株当たり利益や資本効率の改善につながる可能性があります。
ただし、自社株買いは配当と違い、株主へ同額の現金が直接支払われるわけではありません。配当利回りと総還元を混ぜずに確認します。
8月7日終値では配当利回り約3.20%
2026年8月7日の株価は次のとおりです。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 始値 | 3,530円 |
| 高値 | 3,540円 |
| 安値 | 3,491円 |
| 終値 | 3,499円 |
| 前日比 | +39円、+1.13% |
| 出来高 | 502万2,200株 |
8月7日終値と会社の最新予想を使った参考値は以下のとおりです。
| 項目 | 参考値 |
|---|---|
| 予想1株利益 | 438.82円 |
| 参考PER | 約7.97倍 |
| 中間期BPS | 4,390.36円 |
| 参考PBR | 約0.80倍 |
| 年間配当予想 | 112円 |
| 予想配当利回り | 約3.20% |
| 100株購入額 | 34万9,900円 |
| 100株の年間配当予想 | 1万1,200円 |
PERとPBRは、8月7日終値を最新の会社予想EPSと中間期BPSで割った参考計算です。株価サイトに表示される更新前の数値と異なる場合があります。
配当利回り3.20%は一定の水準ですが、4%や5%を超える銘柄と同じ意味で「かなりの高配当」と強調する水準ではありません。
一方、累進配当、大型自社株買い、QUOカード優待まで含め、株主還元全体を確認する銘柄です。
8月7日終値は決算発表前の価格
今回の決算発表は8月7日15時30分でした。東京証券取引所の通常取引が終わった後です。
したがって、8月7日終値3,499円は、配当112円、1,400億円の自社株買い、過去最高益予想を受けた通常市場の反応ではありません。
夜間PTSが上昇していても、参加者数や出来高が通常市場と異なります。翌営業日の始値や終値と同じになるとは限りません。
記事や動画を公開する際は「決算後に株価が上昇した」と先回りして断定せず、次の通常取引が終わってから更新します。
株主優待は400株以上を1年以上保有
INPEXのQUOカード優待は、毎年12月末に400株以上を1年以上継続保有する株主が対象です。
| 保有株数 | 1年以上2年未満 | 2年以上3年未満 | 3年以上 |
|---|---|---|---|
| 400株以上800株未満 | 1,000円 | 2,000円 | 3,000円 |
| 800株以上 | 2,000円 | 5,000円 | 8,000円 |
1年以上とは、同じ株主番号で6月末と12月末の株主名簿に400株以上を3回連続で記録されることです。
8月7日終値では、400株に139万9,600円が必要です。年間配当予想は4万4,800円となります。
100株保有者はQUOカードの対象外ですが、施設見学会は100株以上の株主から抽選で実施されています。
優待を主目的に400株へ増やすというより、必要資金と長期保有条件を確認した上で考える制度です。
INPEXを見るうえでのリスク
原油価格
原油価格が下落すると、販売単価と利益が下がる可能性があります。一方、急激な原油高が中東紛争によって起きた場合、販売量や輸送が減ることもあります。
為替
海外売上が大きいため、円安は円換算の利益を押し上げやすく、円高は逆風になりやすい構造です。今回の通期予想は1ドル159.2円を前提としています。
地政学
アブダビの生産設備に重大な損害は報告されていませんが、販売や出荷には制約が出ました。中東情勢は価格だけでなく、数量と物流にも影響します。
イクシスへの利益集中
イクシスは大きな利益を生みますが、設備トラブルや計画停止が会社全体へ与える影響も大きくなります。
大型投資
アバディLNGなどは将来の成長源ですが、巨額の投資と長い開発期間が必要です。投資額、完成時期、販売契約を確認します。
株主還元方針の期間
累進配当と総還元性向50%以上は、2025年から2027年の中期計画における方針です。その先も同じ条件が続くと決まったわけではありません。
次の決算で確認したい7項目
- イクシスLNGの安定操業と出荷数
- アブダビの原油販売量が回復するか
- 原油価格が通期前提81.4ドルに対してどう動くか
- 為替が通期前提1ドル159.2円に対してどう動くか
- 通期最終利益5,100億円を維持できるか
- 1,400億円の自社株買いの進捗
- アバディLNGの基本設計、販売契約、2027年FIDへの進捗
まとめ
INPEXの2026年上期は、売上収益が4.6%減った一方、最終利益は17.7%増の2,631億円となり、上期として過去最高を記録しました。
主力のイクシスLNGが安定操業を続け、原油販売価格の上昇と円安も利益を支えました。通期最終利益予想は5,100億円へ引き上げられ、こちらも過去最高となる見込みです。
年間配当予想は108円から112円へ増額。さらに1,400億円の自社株買いを決定し、2026年の株主還元額は約2,703億円、総還元性向は約53%となる予想です。
一方、原油販売量は22.8%減少し、中東情勢、原油価格、円安への依存、イクシスへの利益集中、大型投資は確認が必要です。
8月7日終値3,499円での予想配当利回りは約3.20%。配当利回りだけを見れば突出した水準ではありませんが、累進配当と大型自社株買いを含む還元姿勢が今回の注目点です。
決算発表は取引終了後だったため、次の通常取引で市場がどう評価するかも含めて確認していきます。
※本記事は特定銘柄の売買を推奨するものではありません。業績予想、配当予想、株主優待は今後変更される可能性があります。投資判断はご自身でお願いします。