※本記事は2026年8月13日終値と、東京海上ホールディングスが2026年8月12日に発表した2027年3月期第1四半期決算を基に作成しています。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。
東京海上ホールディングス(8766)が、2027年3月期第1四半期決算を発表しました。
保険収益は12.3%増、親会社の所有者に帰属する四半期利益は3.3%増。一方、会社が本業の実力を見るために使う「修正純利益」は3.6%減りました。
さらに中身を見ると、海外保険は9.2%増益でしたが、国内損保は20.8%減益です。
「利益は増えたのか、減ったのか。どちらですか」と聞きたくなる決算ですが、答えは見る利益によって違います。保険会社の資料は専門用語が多く、読んでいるこちらの理解力まで保険に入りたくなります。
今回は、通常の利益と修正純利益の違い、海外保険が伸びた理由、国内損保が減益になった理由、政策株式売却、年間配当245円、8月13日終値の株価指標まで、株式投資初心者向けに整理します。
結論:全体は計画どおり、国内損保は要確認
- 保険収益は2兆471億円で12.3%増
- 親会社の所有者に帰属する四半期利益は2,643億円で3.3%増
- 修正純利益は2,613億円で3.6%減
- 修正純利益の通期予想9,500億円に対する進捗率は28%
- 海外保険の修正純利益は9.2%増
- 国内損保の修正純利益は20.8%減
- 通期業績予想と年間配当245円予想は据え置き
- 8月13日終値は7,622円、予想配当利回りは3.21%
会社は、第1四半期について「トップライン・ボトムラインともに概ね計画どおり」と説明しています。
修正純利益の減少だけで決算全体を悪いと判断する内容ではありません。ただし、国内損保では自動車の保険金単価上昇や北米賠償責任保険の大口事故が利益を押し下げました。次の決算でも確認したい部分です。
東京海上は国内だけの保険会社ではない
東京海上ホールディングスは、東京海上日動を中心とする保険グループです。
事業は大きく3つに分かれます。
- 国内保険:国内の自動車保険、火災保険、生命保険など
- 海外保険:北米、欧州、中南米、アジアなどの保険事業
- ソリューション:コンサルティング、資産運用、介護など
今回の修正純利益2,613億円のうち、海外保険は1,643億円を占めました。東京海上は日本の自動車保険だけで稼ぐ会社ではなく、海外利益の割合が大きいグローバル保険グループです。
第1四半期は保険収益12.3%増
| 項目 | 1Q実績 | 前年同期比 |
|---|---|---|
| 保険収益 | 2兆471億円 | +12.3% |
| 税引前四半期利益 | 3,782億円 | +11.5% |
| 親会社の所有者に帰属する四半期利益 | 2,643億円 | +3.3% |
| 修正純利益 | 2,613億円 | -3.6% |
保険収益は、保険契約から得た収益を会計基準に基づいて期間ごとに認識したものです。一般企業の売上高に近い位置づけですが、まったく同じものではありません。
親会社の所有者に帰属する四半期利益は増えました。しかし、修正純利益は前年の2,711億円から2,613億円へ減少しています。
「修正純利益」は保険事業の実力を見る利益
修正純利益は、通常の純利益から次のような損益を調整した、東京海上独自の経営指標です。
- 株式や金融商品の売却・評価による損益
- 金利変動に備える資産・負債管理やヘッジ取引の損益
- 買収した事業に関連する無形資産の償却や減損など
簡単にいえば、株式売却などで大きく動く一時的な損益を外し、保険事業の実力に近づけた利益です。
通常の純利益だけを見ると3.3%増ですが、修正純利益では3.6%減です。今回はどちらか一方ではなく、両方を見る必要があります。
なお、東京海上は2026年3月期からIFRS、つまり国際会計基準を任意適用しています。過去の記事や古い決算資料と数字を比較するときは、会計基準と修正純利益の定義が同じか確認が必要です。
修正純利益の進捗率は28%
2027年3月期の通期予想は据え置かれました。
| 項目 | 通期予想 | 前期比 | 1Q進捗率 |
|---|---|---|---|
| 親会社の所有者に帰属する当期利益 | 8,300億円 | +56.2% | 31.8% |
| 修正純利益 | 9,500億円 | +7.8% | 27.5% |
修正純利益の進捗率は、会社資料では四捨五入して28%です。単純な4分の1である25%を上回っています。
ただし、保険会社の利益は自然災害や大口事故が発生する時期によって偏ります。第1四半期の進捗率だけで、上方修正を先回りするのは早いでしょう。
海外保険の修正純利益は9.2%増
海外保険事業は、今回の決算を支えました。
| 項目 | 1Q実績 | 前年同期比 |
|---|---|---|
| 保険収益 | 1兆2,258億円 | +18.9% |
| 修正純利益 | 1,643億円 | +9.2% |
| コンバインド・レシオ | 88.8% | 0.1ポイント改善 |
北米の特殊なリスクを扱う保険、中南米、アジアなどが利益を支えました。海外全体の保険引受と資産運用は堅調で、会社計画をやや上回る進捗です。
一方、修正純利益は円換算で9.2%増ですが、為替の影響を除くと2.1%減です。
海外子会社の利益は外貨で稼ぐため、円安になると円換算額が大きく見えます。今期第1四半期の海外事業に使う平均為替レートは1ドル159.57円、前年は144.59円でした。「海外9.2%増」には円安の追い風も含まれます。
コンバインド・レシオ88.8%とは
コンバインド・レシオは、保険料収入に対して、保険金と事業経費がどれくらいかかったかを見る指標です。
100%を下回れば、保険の引き受けそのものでは利益が出ている状態です。海外保険の88.8%は、保険料100円に対して保険金と経費が約88.8円というイメージです。
数字は小さいほど良い傾向ですが、保険商品や地域によって適正水準が違います。88.8%という数字だけで他社と単純比較するのではなく、前年や会社計画との比較が重要です。
国内損保は20.8%減益
国内損保の修正純利益は、前年の976億円から772億円へ20.8%減少しました。
| 項目 | 前年同期 | 今回 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 修正純利益 | 976億円 | 772億円 | -20.8% |
| コンバインド・レシオ | 86.6% | 88.7% | +2.1ポイント |
主な減益要因は次のとおりです。
- 北米の賠償責任保険で大口事故が発生
- 国内自動車保険の保険金単価が想定以上に上昇
- 国内の自然災害に伴う保険金が増加
- 円安で外貨建て支払備金の負担が増加
コンバインド・レシオは悪化しましたが、88.7%で100%を下回っています。国内損保の引受事業が赤字になったわけではありません。
自動車保険は修理費上昇との追いかけっこ
国内自動車保険では、事故の発生頻度は会社の想定どおりでした。一方、車両・対物の保険金単価は前年同期比7.5%上昇し、会社の通期想定6%を上回りました。
部品価格や修理費、人件費などのインフレが、1件あたりの保険金を押し上げています。
会社は自動車保険の料率改定を進めており、その効果は第2四半期以降に大きく表れる見込みです。保険料の値上げが保険金単価の上昇に追いつくかが、今後の重要な確認点です。
自然災害の保険金は国内で増加
自然災害に伴う正味発生保険金は、税引前で237億円でした。前年同期の181億円から31.1%増えています。
- 国内:41億円から147億円へ増加
- 海外:140億円から90億円へ減少
国内では令和8年台風6号などの影響がありました。
年間予想は国内と海外の合計で2,000億円です。第1四半期は237億円ですが、台風シーズンを含む残りの期間があります。保険会社にとって自然災害は、カレンダーどおり均等に来てくれる相手ではありません。
国内生命保険は16.2%増益
国内生命保険の修正純利益は216億円で、前年同期比16.2%増えました。
利益改善には「ブロック出再」が寄与しています。
ブロック出再とは、保有する生命保険契約のまとまりと、それに伴うリスクの一部を再保険会社へ移す仕組みです。今回の決算では、この取引によって将来利益の一部を示すCSMが増え、利益として認識する金額も増加しました。
CSMは「契約上のサービス・マージン」の略で、保険契約から将来得られる利益を、サービス提供に合わせて少しずつ利益へ振り替える仕組みです。
政策株式は年間計画の54.7%を売却
東京海上日動は、取引先との関係維持などを目的に保有してきた政策株式の売却を進めています。
- 2026年度の売却計画:4,300億円
- 第1四半期の売却額:2,354億円
- 進捗率:54.7%
- 売却益:2,094億円
第1四半期だけで年間計画の半分以上を売却しました。
ただし、政策株式の売却益は毎年同じように続く本業利益ではありません。そのため、修正純利益ではこうしたキャピタル損益を調整しています。
政策株式を現金化した後、その資金を成長投資、配当、自社株買いへどう振り向けるかも重要です。
北米の商業用不動産ローンも確認点
東京海上は、北米で商業用不動産向けローンを保有しています。資料では「CREローン」と表記されています。
CREはCommercial Real Estate、つまり商業用不動産です。オフィスや商業施設などに関連する融資を指します。
2026年6月末のローン残高は76億ドル、予想信用損失の引当率は8.9%でした。3月末の8.7%から少し上昇しています。
現時点で会社全体の決算を崩す数字ではありませんが、米国不動産市況や金利の影響を受けるため、今後も引当率と損失の推移を確認します。
年間配当245円、15期連続増配を予定
2027年3月期の年間配当予想は245円で、今回変更はありません。
| 年度 | 1株配当 |
|---|---|
| 2024年度 | 172円 |
| 2025年度 | 218円 |
| 2026年度予想 | 245円 |
前期から27円、約12.4%の増配です。会社資料では15期連続増配を見込んでいます。
東京海上は配当を株主還元の基本とし、利益成長に合わせて持続的に引き上げる方針です。2026年度は4,000億円の自己株式取得も計画しています。
配当245円が発表されたのは今回の第1四半期ではなく、2026年5月の通期計画です。今回の決算では、その予想が据え置かれました。
8月13日終値の株価とバリュエーション
| 項目 | 2026年8月13日時点 |
|---|---|
| 終値 | 7,622円 |
| 前日比 | -129円(-1.66%) |
| 予想PER | 17.3倍 |
| PBR | 1.76倍 |
| 予想配当利回り | 3.21% |
| 最低投資金額 | 76万2,200円 |
| 時価総額 | 約14兆7,409億円 |
決算発表翌日の株価は1.66%下落しました。ただし、1日の値動きだけで市場が決算のどの部分を評価したかを断定することはできません。
予想配当利回りは3.21%です。配当利回り3%台という事実は示せますが、利回りだけで「高配当株」と断定するより、増配の継続性、国内損保の採算、自然災害、海外利益の為替依存を合わせて確認したいところです。
次の決算で確認したい8項目
- 通期修正純利益9,500億円に対する進捗
- 為替効果を除いた海外保険の利益成長
- 国内自動車保険の保険金単価
- 保険料改定が採算改善につながるか
- 北米賠償責任保険で大口事故が続かないか
- 国内外の自然災害による保険金
- 北米商業用不動産ローンの引当率
- 政策株式売却後の資金活用と株主還元
まとめ
東京海上の第1四半期は、保険収益が12.3%増え、親会社の所有者に帰属する利益も3.3%増加しました。一方、保険事業の実力に近い修正純利益は3.6%減少しました。
海外保険は9.2%増益となり、グループ全体を支えています。ただし、為替の影響を除くと2.1%減であり、円安の追い風も含まれます。
国内損保は、自動車の保険金単価上昇、北米賠償責任保険の大口事故、自然災害などで20.8%減益でした。保険料改定の効果が第2四半期以降に表れるかがポイントです。
通期修正純利益9,500億円、年間配当245円の予想は据え置かれました。15期連続増配を見込む株主還元は魅力的な材料ですが、増配の土台となる保険事業の採算を次の決算でも確認しましょう。