※本記事は2026年8月10日終値と、ツムラが2026年8月6日に発表した2027年3月期第1四半期決算を基に作成しています。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。
漢方薬でおなじみのツムラ(4540)が、2027年3月期第1四半期決算を発表しました。
数字をひと目見ると、売上高は15.3%増、経常利益は57.8%増、最終利益は47.8%増。漢方だけに、業績にもよく効いているように見えます。
ただし、決算は「よく効きました」で終わらせず、効能と注意事項の両方を読むのが大切です。本業の利益を示す営業利益は2.1%増にとどまり、経常利益の大幅増には為替差益が大きく寄与しました。
今回は、国内の医療用漢方、中国事業、原価上昇、配当・株主優待、株価指標まで、投資初心者にも分かりやすく整理します。
結論:増収は力強いが、利益の中身を分けて見る決算
今回のポイントは次の5つです。
- 売上高は497億400万円で、前年同期比15.3%増
- 営業利益は78億8,100万円で、同2.1%増
- 経常利益は97億5,300万円で、同57.8%増。ただし為替差益21億4,300万円を含む
- 医療用漢方製剤の実売数量は3.4%増。限定出荷後の流通在庫は適正水準
- 年間配当予想は158円、8月10日終値3,757円ベースの予想配当利回りは約4.21%
売上の成長は確認できました。一方、原価率上昇や中国市場の厳しさもあり、「すべてが絶好調」とまでは言えません。
2027年3月期第1四半期の業績
| 項目 | 2027年3月期1Q | 前年同期比 |
|---|---|---|
| 売上高 | 497億400万円 | +15.3% |
| 営業利益 | 78億8,100万円 | +2.1% |
| 経常利益 | 97億5,300万円 | +57.8% |
| 親会社株主に帰属する四半期純利益 | 64億5,700万円 | +47.8% |
売上高は2桁増ですが、営業利益は小幅増です。営業利益率は前年同期の17.9%から15.9%へ2.0ポイント低下しました。
売上が大きく伸びたのに営業利益があまり増えなかった主因は、原価率の悪化と販管費の増加です。
国内の医療用漢方は数量ベースでも伸びた
国内事業の売上高は414億7,500万円で6.7%増。主力の医療用漢方製剤129処方は397億5,900万円で6.8%増でした。
ここで確認したいのが「実売数量」です。これはツムラから卸へ出荷した量ではなく、卸から医療機関へ実際に納入された量を指します。実売数量は3.4%増となり、値上げや在庫移動だけではない需要の伸びを確認できました。
前年は限定出荷や流通在庫の影響で、出荷と実売がずれていました。今回は会社が「出荷・実売の乖離は解消し、流通在庫は適正水準が継続」と説明しています。
販売上位では、五苓散(ごれいさん)の売上高が14.9%増、実売数量も14.8%増と好調でした。浮腫、頭痛、めまいなどに関連する処方の伸びが国内事業を支えています。
「育薬処方」と「Growing処方」とは
ツムラ資料には、初見では少し難しい言葉が登場します。
「育薬処方」は、医療ニーズが高いものの既存治療で困っている領域で、漢方の科学的根拠を積み上げる重点処方です。「Growing処方」は、その次の戦略候補として、診療ガイドラインへの掲載などを目指す処方です。
育薬処方の売上高は104億9,200万円で6.2%増、Growing処方は67億3,400万円で12.0%増でした。重点的に情報提供や研究を行う処方が、全体より高い伸びを示した点は前向きです。
中国事業は売上約2倍、赤字から黒字へ
中国事業の売上高は82億2,800万円で94.8%増、営業利益は前年同期の2億6,100万円の赤字から3億8,200万円の黒字へ転換しました。
大幅増の背景には、上海虹橋中薬飲片有限公司を連結した効果があります。「飲片(いんぺん)」は、生薬を処方や煎じ薬に使えるよう刻むなどして加工したものです。
原料生薬の販売も11.1%増でしたが、飲片は連結効果で582.7%増となりました。中国事業が急に自然増だけで6倍になったわけではない点には注意が必要です。
さらに会社は質疑応答で、中国では受診控えが増え、市場そのものが少し縮小しているとの認識を示しました。売上計画達成の難易度は期初より上がっていると説明しています。
売上15%増でも営業利益2%増にとどまった理由
売上原価率は前年同期より2.1ポイント上昇し、54.5%となりました。このうち約1.5ポイントは為替影響によるものと会社が説明しています。
中国で生産する漢方エキス粉末などは、購入・投入時期が異なるため、足元の為替だけでは影響を測りにくい特徴があります。現在の円相場だけを見て「次の四半期はすぐ改善」と決めつけるのは早計です。
販管費も、虹橋飲片の連結、給与、研究費などで17億3,100万円増えました。国内事業と中国事業の増収効果を、為替と販管費増がかなり吸収した形です。
会社は第2四半期以降、中国の加工費や生薬費の低下、販管費の抑制で原価率改善を目指すとしています。
経常利益57.8%増は「本業だけの数字」ではない
経常利益は97億5,300万円で57.8%増、最終利益は64億5,700万円で47.8%増でした。
ただし今期は、海外子会社への貸付金などに関する為替差益21億4,300万円を計上しています。前年同期は反対に16億9,800万円の為替差損でした。
前年のマイナスが今期はプラスへ反転したため、経常利益の伸び率が大きく見えています。本業の勢いを見るときは、営業利益の2.1%増と併せて判断する必要があります。
通期予想は据え置き
会社は2027年3月期の通期予想を変更していません。
| 項目 | 通期予想 | 前期比 |
|---|---|---|
| 売上高 | 2,136億円 | +10.9% |
| 営業利益 | 375億円 | +6.5% |
| 経常利益 | 355億円 | -11.3% |
| 親会社株主に帰属する当期純利益 | 262億円 | -6.8% |
第1四半期の上期計画に対する進捗率は、売上高48.5%、営業利益45.8%、経常利益59.5%、最終利益58.2%です。
国内の実売数量には上振れ余地がある一方、中国市場や原価の不確実性も残るため、現段階では予想据え置きが自然と考えられます。
配当158円、利回りは約4.21%
2027年3月期の年間配当予想は158円で、中間79円・期末79円です。前期の147円から11円の増配予想となります。
8月10日終値3,757円で計算した予想配当利回りは約4.21%です。ツムラは配当性向40%を目安とし、2031年度に向けて50%以上を目指す方針を示しています。
株主優待は3年以上の長期保有が条件
株主優待の基準日は毎年9月30日です。
- 100株以上を3年以上継続保有:バスハーブ小(210ml)1本
- 1,000株以上を3年以上継続保有:バスハーブ大(650ml)1本
- 100株以上を3年以上継続保有:ツムラ漢方記念館見学会へ抽選招待
購入してすぐ受け取れる優待ではありません。3年以上という条件は長いですが、企業側が長期保有株主を重視していることは伝わります。
8月10日終値ベースの株価指標
| 指標 | 2026年8月10日 |
|---|---|
| 株価 | 3,757円 |
| 予想PER | 10.7倍 |
| PBR | 0.86倍 |
| 予想配当利回り | 4.21% |
| 時価総額 | 約2,884億円 |
| 年初来高値 | 4,403円 |
| 年初来安値 | 3,513円 |
PERとPBRだけを見れば、割高感の強い水準ではありません。配当利回りも4%を超えています。
一方、低い評価には、中国市場、為替、原料調達、大型投資によるキャッシュフロー負担などへの警戒も織り込まれている可能性があります。
今後の確認ポイント
次の決算では、次の5点を確認したいところです。
- 医療用漢方の実売数量が3%前後の伸びを維持できるか
- 原価率54.5%が会社説明どおり改善するか
- 中国事業が連結効果だけでなく、収益性を伴って成長するか
- 営業キャッシュフローのマイナスが一時的か
- 年間配当158円と通期業績予想が維持されるか
まとめ
ツムラの第1四半期は、国内の医療用漢方が数量ベースでも伸び、中国事業が黒字化した点は評価できます。配当158円、利回り4%超、PBR1倍割れも高配当株投資家には気になる材料です。
ただし、経常利益57.8%増の一部は為替差益によるもので、本業の営業利益は2.1%増です。中国事業の約2倍の増収にも新規連結の効果が含まれます。
数字の見た目だけでなく、「国内需要の伸び」「原価率」「中国の実力値」「為替要因」を分けて見ることが、今回の決算を理解するポイントです。
主な出典
- ツムラ「2027年3月期 第1四半期決算短信」
- ツムラ「2027年3月期 第1四半期 決算説明会資料」
- ツムラ「決算説明会資料(スクリプト・Q&A)」
- ツムラ「株主還元(配当・優待)」
- 株探「ツムラ(4540)株価・時系列・バリュエーション」(2026年8月10日終値)