「株の売買手数料を無料にしたら、証券会社は何で稼ぐの?」。SBI証券の2026年4〜6月の営業利益は318億円と、前年同期より67.3%増えました。条件を満たす国内株式の対象取引が無料であることと、会社全体の利益が伸びることは、矛盾しません。
ただし、ここでいちばん大事な点があります。SBI証券の株は直接買えません。上場しているのは親会社のSBIホールディングスです。しかも親会社には証券のほかに銀行、保険、投資事業があります。「SBI証券が好調だから、SBIホールディングスの配当も自動的に増える」とは言えません。
今回は野村ホールディングス(8604)、大和証券グループ本社(8601)、SBIホールディングス(8473)を、最新の2027年3月期第1四半期決算と、2026年9月25日の東証終値で比べます。3社とも時価総額1,000億円以上です。比較するのは、利益額の大小よりも、その利益がどこで生まれ、相場が静かなときに何が残るのか。高配当株を選ぶときにも使える見方を整理します。
先に結論:3社の「利益の中身」は違う
| 上場会社 | 9月25日終値 | 時価総額の目安 | 決算で目立ったこと | 配当を見る際の落とし穴 |
|---|---|---|---|---|
| 野村ホールディングス(8604) | 1,586円 | 約4.90兆円 | 個人向けの資産管理収入と、海外を含む市場・企業向け事業の双方が好調 | 好調な四半期利益をそのまま毎期の配当に置き換えない |
| 大和証券グループ本社(8601) | 1,845.5円 | 約2.90兆円 | 資産管理・運用を軸に利益が拡大 | 年44円は中期計画期間中の下限。今期の正式な年間配当予想ではない |
| SBIホールディングス(8473) | 3,298円 | 約2.18兆円 | SBI証券は営業利益が過去最高。一方、親会社には銀行・保険・投資事業もある | SBI証券の決算数字を親会社の配当原資そのものと見なさない |
株価・時価総額は野村、大和、SBIの時系列・個別ページによります。SBIの株価は2025年12月の株式分割後の値です。株価はその後変動します。
一言で言えば、野村は「資産管理と市場取引の両輪」、大和は「資産管理・運用を利益の土台にする戦略」、SBIは「証券の強さを持つ複合金融グループ」です。同じ「証券株」と呼んでも、持っている事業の組み合わせは違います。
「口座が増えた」と「配当が増える」の間には4つの階段がある
証券会社のニュースでは「口座数が増加」「預り資産が過去最高」という見出しをよく見ます。どちらも大切ですが、株主の配当まで一気につながるわけではありません。次の順番で見てください。
- 口座が増える。
- その口座に資産が入り、預り資産が増える。
- 売買、資産運用、融資、企業向けサービスなどから会社の収入が増える。
- 人件費やシステム費などを差し引いて利益が残り、会社の資本・還元方針を踏まえて配当が決まる。
店にたとえると、会員登録した人数、実際に買い物をした人数、店の売上、店主の手元に残る利益は全部別です。証券会社でも同じ。預り資産は顧客のものであり、会社の売上でも会社の所有物でもありません。株価上昇で資産の時価が上がれば、新たに入金がなくても預り資産の合計は増えます。「預り資産が5兆円増えた=新しいお金が5兆円入った」と読むのは誤りです。
投資家としては、どこか一段だけ伸びているのか、口座から利益まで順番につながっているのかを確かめたいところです。
手数料無料でも稼げる理由は「無料にした範囲」が限られるから
SBI証券の「ゼロ革命」は、条件を満たした利用者の国内株式の対象となる現物・信用取引の売買手数料を無料とするものです。外国株式、先物・オプションなど、すべての取引やすべての収入が無料になるわけではありません。制度の対象・条件はSBI証券の案内で確認できます。
SBI証券の第1四半期決算説明資料では、2026年4〜6月の営業収益は915.81億円(前年同期比47.5%増)、営業利益は318.46億円(同67.3%増)。同社は両方を過去最高としています。委託手数料だけでも110.79億円ありました。対象国内株の手数料が無料だから「委託手数料ゼロ」ではない、ということが数字でわかります。
もう一段深く見ると、SBI証券の営業収益の内訳は、委託手数料12.1%、金融収益41.5%、トレーディング損益23.7%、引受・募集等4.1%、その他18.6%。これは営業収益の構成比であって、利益の構成比ではありません。金融収益には信用取引などに伴う金利収入が含まれます。株の売買手数料だけが証券会社の稼ぎだと思っていると、ここを見落とします。
一方で「無料なのに利益が増えた。だから手数料を全部無料にしても永久に利益は増える」とは言えません。資金調達コスト、相場の出来高、顧客の取引内容、金融市場の環境によって収支は変わります。無料化で入口を広げ、その先で複数の収入を得られるかが今回の見どころです。
SBI証券の「預り資産75兆円」は売上ではない
SBI証券の2026年6月末の口座数は約1,638万口座、預り資産残高は約75.3兆円です。前者は統合した系列会社などの口座を含む表示で、全口座が同じ頻度で使われているわけではありません。後者も顧客から預かった資産の時価を含む残高で、そのまま会社の売上にはなりません。
たとえば、同じ1,000万円を預かっていても、顧客が国内株を長く保有するだけなのか、投資信託を保有するのか、信用取引を利用するのかによって、会社に入る収入は違います。さらに株価が上がれば残高は増えますが、それは顧客の新規入金と同じではありません。
「口座数で勝っているから利益も勝つ」ではなく、預かる資産から何のサービスを提供し、いくらの収入が残るかを確かめる。これが、ネット証券を比べるときの一段深い見方です。
ただし、SBIホールディングス株は「SBI証券だけ」を買う株ではない
ここは誤解が生じやすいので、はっきり分けます。SBI証券は非上場のグループ会社です。一般投資家が東証で買える8473はSBIホールディングスであり、証券事業のほかに銀行、保険、プライベート・エクイティ投資などを抱えています。完全子会社化についての公式説明も確認できます。
SBIホールディングスの第1四半期決算短信では、グループ全体の収益は5,710.13億円、税引前利益は2,258.14億円、親会社所有者に帰属する利益は1,480.65億円でした。重要なのは内訳です。金融サービス事業の税引前利益は1,159.92億円。一方、PE投資事業は1,199.16億円で、今四半期はPE投資事業の利益が金融サービス事業を約39億円上回りました。
この数字から「SBI証券より投資事業のほうが優秀」とは言えません。金融サービス事業には証券以外の銀行・保険なども含まれ、SBI証券単体と同じ区切りではないからです。また、PE投資事業の利益は市場環境や投資先の評価・売却などに左右されやすく、今四半期の水準が毎期続くとは考えません。
それでも、上場する親会社の株を買うときには大事な事実です。SBI証券の好調を材料にSBIホールディングスを検討するなら、親会社全体で何が利益を作り、どの利益が配当を支えやすいかまで見る必要があります。投資家が「SBI証券を買ったつもり」になるのは避けたいところです。
野村:継続収入を育てながら、市場取引の大きさも引き受ける
野村ホールディングスの第1四半期決算は、収益合計(金融費用控除後)6,867億円、税前利益2,115億円、親会社株主に帰属する利益1,456億円でした。前年同期比でもそれぞれ31%、32%、39%増えています。
個人向けに近いウェルス・マネジメント部門の税前利益は711億円。預かり資産などから継続的に入る「ストック収入」は過去最高になりました。同部門で、直近4四半期のストック収入を同じ部門の金融費用以外の費用で割った割合は76%です。
つまり、野村の個人向け部門では、繰り返し入る収入だけで、その部門の対象費用の約4分の3に相当する水準まで育った、という意味です。グループ全体の費用を76%賄えるという意味でも、利益率76%という意味でもありません。資産価格が下がれば、その収入も減る可能性はあります。ただ「売買が盛り上がらない四半期に何が残るか」を見る指標として有用です。
もう片方のホールセール部門は税前利益933億円で、ウェルス部門の711億円を上回りました。ここには海外を含む市場取引や企業向けの資金調達・M&A支援などが入ります。大きく稼げる半面、市場の動きや大型案件の有無に左右されます。野村を「預り資産からの安定収入だけの会社」と見るのも、「相場次第の会社だけ」と見るのも片手落ちです。
投資家が見るべきなのは、この両輪のバランスです。好調な四半期に市場関連利益が膨らんでいるのか、相場が平穏でも入りやすい収入が増えているのか。今の利益額と、次の四半期にも残りやすい部分は別と考えると、配当への見方も落ち着きます。
大和:「利益の土台」を会社自身が分けて見せている
大和証券グループ本社の2027年3月期第1四半期決算短信では、純営業収益が2,203.99億円、営業利益が775.12億円、経常利益が880.89億円、親会社株主に帰属する利益が564.14億円でした。前年同期比で営業利益は114.3%増、経常利益は101.5%増です。ここでも売上と利益を混同しないため、収益を見るときは「営業収益」4,343.64億円と、金融費用などを控除した「純営業収益」を分けます。
部門別の経常利益は、ウェルス・マネジメントが372.74億円、アセット・マネジメントが303.62億円、グローバル・マーケッツ&インベストメント・バンキングが227.10億円。資産管理・運用が好調でしたが、市場や大型案件に関わる部門も伸びています。
大和は「ベース利益」という見方を示しています。これはウェルス・マネジメント、証券アセット・マネジメント、不動産アセット・マネジメントの経常利益を合わせたもの。アセット・マネジメント部門の利益を何でも足しているわけではありません。事業の中で、比較的積み重ねやすい利益を見たいという狙いです。会社の戦略資料でもこの区分が使われています。
ただし「ベース利益=必ず残る利益」でもありません。株価が下がれば運用資産の時価が減り、残高に連動した報酬も細ります。不動産にも市況があります。むしろ、ベース利益を市場が不安定になったときのチェック対象として追うほうが健全でしょう。
配当は「前期実績」「下限」「今期予想」を混ぜない
高配当株投資では、ここを誤ると比較が大きくずれます。2026年9月27日に確認できる会社開示を、区分ごとに並べます。
| 会社 | 前期(2026年3月期)年間配当の実績 | 今期(2027年3月期)について確認できるもの | 注意 |
|---|---|---|---|
| 野村 | 51円 | 半期ごとの連結配当性向40%以上を重視。年間額は未定 | 総還元性向50%以上は自社株買いを含む目処。配当だけが50%ではない |
| 大和 | 64円 | 中期計画期間中は年間44円を下限。半期ごと配当性向50%以上 | 44円は年間予想額ではなく下限。64円も前期実績 |
| SBIホールディングス | 95円(分割後換算) | 中間配当予想30円。年間95円以上を目指すと表明 | 期末・年間の正式予想は未定。「目指す」と「予想」を区別 |
出典:野村の配当方針、野村の前期実績、大和の配当方針、SBIの配当情報。SBIの前期95円は株式分割後の換算です。
仮に、前期の配当実績を9月25日の株価で割ると、野村は約3.22%、大和は約3.47%、SBIは約2.88%になります。しかし、これは過去の実績を現在の株価で割った参考比率であり、今期の予想配当利回りではありません。大和の44円を株価で割った約2.38%も「下限÷株価」であって、会社が正式に予想した利回りではありません。金融サイトに出る配当利回りの数字を使う前に、その分子が「予想・下限・実績」のどれかを確かめたいところです。
とくにSBIでは、SBI証券の営業利益が増えたこと、親会社の税引前利益が増えたこと、親会社が年間95円以上を目指すことの3つは、それぞれ別の事実です。これらをつなげて「今期95円が確定」とするのは飛躍です。
PBRが低い会社を選べばよい、という話でもない
9月25日終値のPBRは、野村約1.21倍、大和約1.43倍、SBI約1.14倍でした。PBRは株価を1株当たり純資産で割る指標で、銀行・証券のような金融株を眺めるときに役立つことがあります。しかし、低い順に「SBIが最も割安」とは言えません。
まず、3社の事業が違います。野村は資産管理と世界の市場取引、大和は資産管理・運用と投資銀行、SBIは銀行・保険・投資も大きい。さらに野村は米国会計基準、大和は日本基準、SBIホールディングスはIFRSで決算を作っています。純資産の見え方も完全には同じではありません。
会社が株主の資本を使ってどれくらい利益を出すか、その利益の何割が続きやすいか、投資や規制のためにどのくらい資本を残す必要があるか。PBRの数字は、こうした中身を確かめる入口です。「低いから買い」「高いから売り」という結論を先に置かないことが大切です。今期の会社予想利益が一様に開示されていないため、今回の比較では予想PERの横並びも作りません。
よくある3つの疑問を、決算の数字に戻して考える
Q1. 手数料を無料にしたのに、SBI証券の委託手数料が約111億円あるのはなぜ?
無料なのは、条件を満たす国内株式の対象取引です。会社資料の「委託手数料」は、それ以外の外国株式や先物・オプションなども含む広い項目です。このため両方の数字は同時に成立します。ただし、「どの商品が何億円稼いだ」と、資料にない内訳まで推測して断定することはしません。売買手数料を無料にした範囲と、決算科目の範囲を先に比べるのが確実です。
Q2. SBI証券の営業利益318億円を4倍して、SBIホールディングスの年間利益や配当を予想できる?
できません。四半期の利益が毎回同じとは限らないうえ、318億円はSBI証券という非上場子会社の連結営業利益です。SBIホールディングスは、さらに銀行・保険・投資などを含む別の決算をIFRSで作っています。営業利益と税引前利益も定義が異なります。単純に318億円×4として親会社の年間利益を作ると、期間・法人・会計基準の3つを一度に飛ばしてしまいます。
Q3. 相場が上がれば預り資産が増えるのだから、資産管理の利益は安定している?
売買手数料だけに比べれば、保有期間中に繰り返し得られる収入があるのは強みです。ただし「安定」は「減らない」ではありません。運用資産の時価が下がれば残高に連動する報酬が減る可能性があります。商品ごとに会社が受け取る率も違いますし、人件費やシステム費が増えれば、収入が増えても利益は伸びません。野村のストック収入費用カバー率や、大和のベース利益は、こうした変化を次の決算でも追うための道具です。
この3問に共通するのは、見出しの数字を別の数字にそのまま読み替えないことです。「無料」と「委託手数料」、「子会社」と「親会社」、「残高」と「利益」は、それぞれ定義を確認してからつなぎます。
相場が静かになったら、どこを見るか
決算が好調なときほど、次に見るべきものを決めておくと役立ちます。想定してみましょう。株価の上昇が止まり、売買高が減り、大型の企業案件が一服する場面です。
- 野村:市場取引・案件の利益が落ち着いたとき、ウェルス部門のストック収入と費用カバー率がどう動くか。ストック資産が「相場の上昇」以外でも純増しているか。
- 大和:会社が定義するベース利益がどれだけ残るか。資産運用部門の残高が、市場上昇だけでなく新しい資金でも増えているか。費用の増加を収益が上回れるか。
- SBI:SBI証券の収益構成と、親会社の金融サービス事業・PE投資事業を分ける。投資事業の利益が一服しても、グループの利益と還元方針を支えられるか。
これは「次の四半期に必ず悪くなる」という予測ではありません。好調期の数字を見た後に、何が続きやすく、何が一時的かを確認するための点検表です。実際には市場環境、金利、為替、投資先の動きによって各社の業績は変わります。
投資家が持ち帰りたい4つの質問
証券株に限らず、他の金融株を見るときにも次の順番を使えます。
- どの上場会社の株を買うのか。 人気サービスを運営する会社と、上場する親会社は同じとは限らない。
- 口座や預り資産が、実際の収入につながっているか。 顧客資産を自社の売上と混ぜない。
- 収入から費用を引いた後、相場が落ち着いても残りそうな利益はどこか。 継続収入も無風ではないが、一度きりの売却益と同じ扱いにしない。
- 配当の数字は予想か、下限か、実績か。 自社株買いを含む「総還元」と、現金で受け取る「配当」も分ける。
この4問を通せば、単純な「口座数1位」「利益率1位」「利回り1位」に振り回されにくくなります。今回の3社に、全員に共通する1位はありません。自分が重視するのが安定した現金配当なのか、相場好調時の利益の伸びなのか、事業の広がりなのかによって、注目点は変わります。
まとめ
SBI証券の対象国内株取引の手数料が無料でも、同社の収入と利益は伸びています。鍵は、証券会社の収入が売買手数料だけではないこと。しかし、そこで話を止めると、上場株の選び方を間違えます。野村は継続収入と市場関連収入の両方、大和は会社が区分するベース利益、SBIホールディングスは証券を含む金融サービスと投資事業の双方を見る必要があります。
「口座→預り資産→会社の収入→費用を引いた利益→配当」のどこに強みがあり、どこで数字が切れているか。今回の決算では、この一段ずつを確かめることが、利回りの高さだけで選ぶよりも深い投資判断につながると思います。
※本記事は2026年9月27日までに確認した公開情報に基づく解説です。株価は9月25日東証終値。会社開示の会計基準・利益定義は異なり、単純比較できません。将来の株価・配当・利益を保証するものではありません。投資判断はご自身でお願いします。