この記事は個別銘柄の売買を勧めるものではありません。2027年3月期第1四半期の会社開示と、2026年9月11日終値を基準に作成しています。業績予想には不確実性があり、株価指標は今後変動します。
ハムやソーセージの値上げが続いています。売価が上がれば食肉会社の利益も増えそうですが、実際の決算はそれほど単純ではありません。
プリマハム、日本ハム、伊藤ハム米久ホールディングスの最新第1四半期を見ると、3社すべてで親会社株主に帰属する最終利益が前年同期を下回りました。
ところが、売上高の動きは正反対です。プリマハムと日本ハムは増収、伊藤ハム米久は減収。それでも営業利益は3社とも前年と大きく離れていません。
差を作ったのは値上げの有無だけではなく、値上げ後の販売数量、牛・豚・鶏の仕入れ価格、在庫の持ち方、海外事業、物流費です。
今回は時価総額1,000億円以上の食肉大手3社について、次の順番で比較します。
- 商品が売れたか
- 利益率を残せたか
- 利益が現金になったか
- 配当や自社株買いへ回せるか
難しい指標を増やすのではなく、「値上げ後も売れたのか」「肉を仕入れて売るタイミングが合ったのか」という身近な見方へ置き換えていきます。
まずは結論
第1四半期の親会社帰属最終利益は、プリマハムが前年同期比3.3%減、日本ハムが5.6%減、伊藤ハム米久が3.9%減でした。3社とも最終減益です。
ただし、内容は次のように分かれます。
- プリマハムは、香薫、ハンバーグ、サラダチキンなど加工食品の数量が伸びました。しかし海外事業、固定費、輸入豚の採算が重く、全社営業利益は2.0%減でした。
- 日本ハムは、輸入食肉の価格設定と在庫管理、スポーツ事業が寄与し、会社独自の事業利益は19.5%増えました。一方、IFRSの営業利益と最終利益はともに5.6%減でした。
- 伊藤ハム米久は、加工食品の営業利益が41.8%減りました。それでも国内外の食肉事業が増益となり、連結営業利益は0.3%増と前年並みを確保しました。
もう一つ重要な共通点があります。3社とも、加工食品系の利益率は前年同期より下がりました。
ハムやソーセージを値上げしても、販売数量が落ちたり、原料・包材・物流費がそれ以上に上がったりすれば、利益率は改善しません。今の食肉株を見るうえでは、「値上げしたか」より「値上げ後にも数量と利益率を守れたか」が重要です。
比較対象は時価総額1,000億円以上の3社
添付の業界地図に掲載された食肉上場会社から、2026年9月11日終値時点で時価総額1,000億円以上の会社を選びました。
| 会社 | コード | 9月11日終値 | 時価総額 |
|---|---|---|---|
| プリマハム | 2281 | 2,390円 | 1,207億円 |
| 日本ハム | 2282 | 6,247円 | 5,887億円 |
| 伊藤ハム米久ホールディングス | 2296 | 5,000円 | 2,873億円 |
3社とも3月決算で、今回の対象期間は2026年4月1日から6月30日までです。期間はそろっています。
会計基準は異なります。プリマハムと伊藤ハム米久は日本基準、日本ハムはIFRSです。日本ハムには経常利益がないため、全社比較では売上高、営業利益、親会社帰属最終利益を使います。
日本ハムが示す「事業利益」は、為替差損益やIFRS調整などを加減した会社独自の管理指標です。経営の実力を見るうえで重要ですが、他社の営業利益と同じ数字ではありません。記事では事業利益と営業利益を分けて記載します。
食肉会社には性格の違う2つの商売がある
食肉会社の決算が分かりにくいのは、一つの会社の中に性格が違う商売が入っているからです。
一つ目は加工食品です。ハム、ソーセージ、総菜などを工場で作って売ります。こちらはメーカー型の商売です。
加工食品では、販売単価、販売数量、商品構成、工場の稼働率、原料・包材・物流費が利益を決めます。売価を上げても数量が大きく減ると、工場の固定費を少ない商品で負担することになり、利益率が悪化する場合があります。
二つ目は食肉です。牛・豚・鶏を生産・調達し、小売店や外食企業などへ販売します。こちらは相場と在庫管理の性格が強い商売です。
肉の相場が上がると、安く仕入れた在庫を高く売れる会社には追い風です。しかし、高値で仕入れた後に販売価格が下がれば逆風になります。相場が上がったか下がったかだけでなく、仕入れと販売のタイミング、価格転嫁、在庫の管理が重要です。
この2つを分けると、3社の違いが見えやすくなります。
第1四半期の全社業績
| 会社 | 売上高 | 前年比 | 営業利益 | 前年比 | 最終利益 | 前年比 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| プリマハム | 1,224.16億円 | +5.7% | 24.78億円 | △2.0% | 17.31億円 | △3.3% |
| 日本ハム | 3,849.46億円 | +8.7% | 172.36億円 | △5.6% | 107.72億円 | △5.6% |
| 伊藤ハム米久 | 2,810.64億円 | △5.4% | 91.44億円 | +0.3% | 61.29億円 | △3.9% |
プリマハムは増収減益、日本ハムも法定数字では増収減益、伊藤ハム米久は減収ながら営業利益がほぼ横ばいです。
伊藤ハム米久の売上5.4%減には注意が必要です。前年の第1四半期には、連結子会社ANZCOとその子会社について、決算期変更により6か月分の業績が含まれていました。今回の3か月分とそのまま比べているため、売上減のすべてを需要低迷と説明するのは誤りです。
日本ハムは会社独自の事業利益が194.15億円で19.5%増でした。それでもIFRS営業利益は172.36億円で5.6%減です。主な差は為替差損益やIFRS調整などです。
「日本ハムは利益19.5%増」とだけ言うと、どの利益か分かりません。今回は、本業を見る事業利益は増えたが、法定営業利益と最終利益は減った、と整理します。
3社とも加工食品の利益率が低下
加工食品系セグメントの利益率を、各社の前年同期と比べます。
| 会社 | 前年Q1 | 今回Q1 | 主な背景 |
|---|---|---|---|
| プリマハム | 営業利益率2.9% | 2.8% | 数量増を固定費増と海外赤字が相殺 |
| 日本ハム | 事業利益率0.7% | 0.6% | 業務用数量減、原料・物流費増 |
| 伊藤ハム米久 | 営業利益率約2.1% | 1.2% | 数量減、原料・物流費増 |
セグメント範囲と利益の定義は同じではないため、3社の絶対値を順位づけする表ではありません。それぞれの会社で前年より改善したかを見ています。
3社に共通しているのは、加工食品の利益率が低下したことです。ただし、下がり方には差があります。
プリマハムは数量を増やし、加工食品の営業利益も2.9%増やしました。それでも利益率は2.9%から2.8%へわずかに下がりました。数量成長が利益率上昇へつながる一歩手前です。
日本ハムは国内コンシューマ向け主力商品が伸びましたが、業務用商品の数量減や物流費などが利益を押し下げました。海外では北米が改善した一方、タイは鶏肉原料価格と為替の影響を受けています。
伊藤ハム米久は最も厳しく、加工食品の営業利益が41.8%減りました。価格改定や内部改善による13億円のプラスがありましたが、数量減6億円、原材料・光熱費11億円、物流単価5億円のマイナスを吸収できませんでした。
値上げ効果がなかったわけではありません。値上げ・改善の効果より、数量とコストの悪化が大きかったということです。
プリマハム――数量先行、利益率改善はこれから
プリマハムの第1四半期は、売上高が5.7%増えました。加工食品事業は売上高795.56億円で3.7%増、営業利益22.65億円で2.9%増です。
数量面は3社の中でも分かりやすく好調でした。
- ハム・ソーセージ合計は前年比103%
- コンシューマ向けは105%
- 加工食品合計は107%
- ハンバーグ群は122%
- サラダチキン群は111%
香薫を中心とする主力商品と、ハンバーグ、サラダチキン、コンビニ向け業務用商品が伸びました。値上げ後にも一定の数量を確保できていることは強みです。
一方、数量が伸びたから全社利益も伸びたわけではありません。
国内加工食品では、販売数量伸長と収益改善が3億円のプラスになりましたが、人件費などの固定費増が3億円のマイナスとなり、効果が相殺されました。
海外事業は、生産数量が増えたものの、円安と原料価格上昇を日本向けの販売価格へ転嫁しきれず、営業損失が前年の2億円から4億円へ拡大しました。
食肉事業も売上高は9.6%増えましたが、営業利益は13.3%減りました。輸入豚は販売数量が伸びても利益率が悪化しています。国産豚も販売価格は改善しましたが、飼料価格上昇と出荷頭数減が重なりました。
プリマハムを見る次のポイントは、数量が伸び続けるかだけではありません。増えた数量で固定費を吸収し、加工食品の営業利益率を上げられるかです。海外赤字の縮小と輸入豚の採算回復も必要です。
日本ハム――利益エンジンは強いがQ1を年間へ延長しない
日本ハムの売上高は8.7%増の3,849.46億円でした。会社独自の事業利益は19.5%増の194.15億円となり、第1四半期として過去最高です。
最大のけん引役は食肉事業です。売上高は12.2%増の2,808.05億円、事業利益は20.4%増の152.64億円でした。
会社は、輸入食肉の適正な価格形成と在庫コントロール、販売部門のブランド戦略を増益理由に挙げています。単に肉価が上がったためではなく、仕入れた肉をどの価格で販売し、在庫をどう動かしたかが利益につながりました。
スポーツ・エンターテイメント事業も好調です。売上高125.44億円、事業利益49.11億円で、事業利益は29.2%増えました。エスコンフィールドHOKKAIDOの観客動員が堅調で、チケット、広告、グッズ、飲食が伸びています。
ただし、スポーツ事業の利益率は食肉や加工食品と性格が違います。日本ハムの全社利益を支える重要事業ですが、食肉会社3社の製造力を比べる数字には使いません。
注意したいのは、Q1の食肉増益がそのまま年間へ続くとは限らないことです。
会社はQ&Aで、2Q以降に輸入鶏肉相場の下落や、豪州事業の生体相場価格上昇、販売価格の弱含みを見込んでいます。特に豪州事業は2Qが厳しくなり、3Q以降に減益幅が和らぐ想定です。
第1四半期の事業利益を単純に4倍すると776億円になりますが、会社の通期事業利益予想は610億円です。会社自身が下期まで同じ採算は続かないと見ているため、Q1の数字を年間へ延長しないことが重要です。
伊藤ハム米久――食肉の分散効果、加工食品の回復待ち
伊藤ハム米久の売上高は5.4%減の2,810.64億円でした。営業利益は0.3%増の91.44億円、経常利益は0.1%減の91.54億円です。
連結利益が前年並みを保てたのは、加工食品の減益を食肉が補ったためです。
加工食品事業は売上高2.6%減、営業利益41.8%減でした。販売重量はハム・ソーセージが2.4%減、調理加工食品が3.8%減、合計3.1%減です。
価格改定や商品改廃、コスト削減だけでは、販売数量減と原材料・物流コストを吸収できませんでした。次の決算では、加工食品の数量減が縮小するか、営業利益率が1.2%から回復するかが焦点です。
一方、食肉事業の経常利益は17.0%増の84.89億円でした。
国内では輸入牛肉・輸入鶏肉の採算改善と国産鶏肉の販売が寄与しました。海外では、ANZCOの北米向け牛肉販売価格上昇と、欧州・北米向け羊肉販売の好調が続いています。
加工食品と食肉を持つ事業分散が、今回はクッションになりました。ただし、通期では前年に好調だった輸入鶏肉とANZCOの反動を見込んでいます。
食肉増益が鈍化する前に、加工食品の数量と利益率を戻せるか。ここが伊藤ハム米久の見どころです。
利益は現金になったか
損益計算書で利益が出ていても、その利益がすぐ現金になるとは限りません。肉を仕入れて在庫として持てば、現金が棚卸資産へ変わります。
| 会社 | 営業CF | 投資CF | フリーCF | 主な変化 |
|---|---|---|---|---|
| プリマハム | +8.70億円 | +2.26億円 | +10.96億円 | 棚卸資産は約8億円増 |
| 日本ハム | +19.61億円 | △105.94億円 | △86.33億円 | 棚卸資産206.40億円増 |
| 伊藤ハム米久 | △60.33億円 | △95.29億円 | △155.62億円 | 棚卸資産約138億円増 |
フリーキャッシュフローは営業キャッシュフローと投資キャッシュフローの合計です。
プリマハムは第1四半期のフリーキャッシュフローが約11億円の黒字でした。日本ハムは設備投資などにより約86億円の赤字、伊藤ハム米久は営業キャッシュフローも赤字となり、約156億円の赤字です。
日本ハムの棚卸資産は前期末から206億円増えました。会社は主因を原料・製品の単価上昇と説明し、過度に在庫を抱えているとは考えていないとしています。
伊藤ハム米久では棚卸資産が約138億円、売上債権が57億円増え、短期借入金なども増えました。
ただし、四半期のキャッシュフローは仕入れ、税金、設備投資の時期で動きます。第1四半期の赤字だけで財務が悪いと断定するのは早計です。
次回は、在庫増が落ち着くか、営業キャッシュフローが利益に追いつくかを確認します。
通期予想は3社とも据え置き
| 会社 | 売上高予想 | 営業利益等 | 最終利益予想 |
|---|---|---|---|
| プリマハム | 5,000億円、+5.1% | 営業利益110億円、+20.5% | 75億円、+63.5% |
| 日本ハム | 1兆5,000億円、+2.9% | 営業利益580億円、+0.7%/事業利益610億円、△10.7% | 380億円、+8.4% |
| 伊藤ハム米久 | 1兆400億円、△2.9% | 営業利益270億円、△5.1% | 185億円、△8.5% |
3社とも第1四半期時点で通期予想を変更していません。2026年9月13日時点でも、業績予想を修正する後発開示は確認できませんでした。
プリマハムは通期営業利益20.5%増を見込みます。Q1は2.0%減だったため、今後は数量成長を利益へ変える必要があります。
日本ハムはQ1の事業利益が19.5%増でも、通期事業利益は10.7%減を予想します。食肉相場の反転やスポーツ事業の費用増を織り込んでいます。一方、最終利益は前期の特別損失が解消するため8.4%増の予想です。
伊藤ハム米久は通期営業利益5.1%減を見込みます。Q1で食肉が好調でも、下期の反動を慎重に見ています。
配当・PER・PBRを比較
株価は2026年9月11日終値で統一しました。
| 会社 | 年間配当予想 | 配当利回り | 予想配当性向 | 予想PER | PBR |
|---|---|---|---|---|---|
| プリマハム | 80円 | 3.35% | 約53.6% | 16.0倍 | 0.99倍 |
| 日本ハム | 180円 | 2.88% | 約44.6% | 15.0倍 | 1.07倍 |
| 伊藤ハム米久 | 155円 | 3.10% | 約47.5% | 15.3倍 | 0.97倍 |
3社の予想PERは15〜16倍、PBRは0.97〜1.07倍、配当利回りは2.88〜3.35%です。株価指標はかなり近く、数字だけで明確な割安銘柄を決めにくい状態です。
プリマハムは利回りが最も高い一方、予想配当性向も約53.6%と3社で最も高くなります。今後の増配余力を見るには、営業利益とキャッシュフローの改善が必要です。
伊藤ハム米久の前期配当320円には、記念配当175円が含まれていました。普通配当は145円です。今期予想155円は普通配当ベースでは10円増であり、165円減配と表現するのは適切ではありません。
同社は普通配当についてDOE、株主資本配当率3.0%以上と累進配当を方針に掲げています。今期予想DOEは3.2%です。
日本ハムは2026年9月30日を基準日として1株を3株へ分割し、10月1日に効力が発生します。分割後は理論上、株価、1株利益、1株配当が3分の1になります。保有価値や実質的な配当利回りが分割だけで変わるわけではありません。
日本ハムは400億円を上限とする自己株式取得枠も設定しています。配当利回りだけでなく、自社株買いを含む総還元で見る必要があります。
決算発表前からの株価
3社の決算発表前営業日である7月31日から、9月11日までの株価を比べます。
| 対象 | 7月31日 | 9月11日 | 騰落率 |
|---|---|---|---|
| プリマハム | 2,482円 | 2,390円 | △3.71% |
| 日本ハム | 6,250円 | 6,247円 | △0.05% |
| 伊藤ハム米久 | 4,905円 | 5,000円 | +1.94% |
| 日経平均株価 | 64,362円 | 64,011円 | △0.55% |
| TOPIX | 4,003.30 | 4,028.30 | +0.62% |
プリマハムは日経平均とTOPIXの両方を下回り、日本ハムはほぼ横ばい、伊藤ハム米久は両指数を上回りました。
ただし、この期間には為替、食肉相場、市場全体の需給、日本ハムの株式分割など複数の材料があります。決算だけが株価変動の原因だったとは断定できません。
数字が似ている3社をどう見分けるか
予想PER、PBR、配当利回りだけを見ると、3社は驚くほど近い位置にあります。このようなとき、利回りの小さな差だけで順位を決めると、本当に大きな違いを見落とします。
最初に見るのは、加工食品で数量と利益率のどちらを守れているかです。加工食品は工場を継続して動かすため、人件費、減価償却費、物流拠点費などの固定的な負担があります。値上げ後に数量が落ちると、商品1個当たりが負担する固定費が増えます。プリマハムは数量を伸ばしたものの、利益率はわずかに低下しました。伊藤ハム米久は数量減とコスト増が重なりました。日本ハムは主力の家庭向けと業務用で動きが異なります。同じ「値上げ」でも、数量の残り方が違います。
次に見るのは、食肉事業の利益をどこまで持続利益と考えるかです。食肉は加工食品より相場と在庫の影響を受けやすく、ある四半期の高利益率が翌四半期も続くとは限りません。日本ハム自身が2Q以降の輸入鶏や豪州事業の採算悪化を見込んでいるのは、このためです。伊藤ハム米久も通期では輸入鶏とANZCOの反動を想定しています。Q1の増益をそのまま4倍するのではなく、会社予想との距離を見る必要があります。
3つ目は、利益の補い合いです。プリマハムは加工食品の比重が高く、数量増を利益率改善へ結びつけられるかが中心です。日本ハムは食肉に加え、スポーツ・エンターテイメントという別の利益源があります。伊藤ハム米久は今回、国内外の食肉が加工食品を補いました。事業分散は利益の振れを抑える一方、好調部門の反動が次の年度に出ることもあります。
最後は現金です。配当は会計上の利益ではなく、最終的には現金から支払われます。第1四半期のキャッシュフローだけで安全性を決めることはできませんが、棚卸資産や売上債権が増え続け、営業キャッシュフローが利益へ追いつかない状態が長引けば、設備投資や還元の余力を圧迫します。次回決算では、利益額だけでなく在庫と営業キャッシュフローを並べて見ることが重要です。
つまり比較の順番は、利回りではなく、加工食品の数量と利益率、食肉利益の持続性、事業分散、現金化です。そのうえで配当方針と株価を重ねると、3社の違いを無理なく整理できます。
食肉株の利益が動く3つの場面
今後の決算を追いやすくするため、食肉会社の利益が動く場面を3つに分けます。これは将来の利益を予想する計算式ではなく、ニュースを見たときに確認する順番です。
一つ目は、輸入肉の価格が上がる場面です。
円安、海外の供給減、輸送費上昇などで仕入れ価格が上がると、まず食肉事業の在庫金額が増えやすくなります。すでに安い価格で仕入れた在庫を持っていれば、高い販売価格との差が利益になる場合があります。反対に、高値で仕入れた在庫が多い状態で相場が下がると、販売価格との間に逆ざやが生じる可能性があります。
したがって「輸入肉価格上昇=増益」「相場下落=減益」と一本線では結べません。仕入れた時期、在庫の回転、販売価格を変える速さを合わせて見る必要があります。日本ハムが価格形成と在庫コントロールを増益理由に挙げたのは、この時間差を管理できたという説明です。
二つ目は、値上げ後に販売数量が減る場面です。
加工食品では、1個当たりの価格が上がっても、数量が減ると工場の稼働率が下がります。工場の人件費や減価償却費などは、売れた数量と同じ割合で減るわけではありません。そのため売上高が維持されても、利益率が下がる場合があります。
この場面では、全社売上高より商品群ごとの数量が先行指標になります。プリマハムはハンバーグやサラダチキンが伸び、数量面では前向きでした。伊藤ハム米久は加工食品の合計重量が減りました。次の決算で数量が回復すれば固定費を吸収しやすくなり、回復しなければ追加の価格改定や商品構成の改善が必要になります。
三つ目は、円安が進む場面です。
円安は海外で稼いだ利益を円へ換算するときにはプラスになることがあります。しかし、海外から原料肉や包材を仕入れる会社にはコスト増です。また海外拠点で作った商品を日本へ販売する場合も、現地原料高と円安が重なれば、日本での値上げが追いつくまで採算が悪化します。プリマハムの海外事業は、今回この影響を受けました。
一方、伊藤ハム米久のANZCOのように、海外で生産し北米や欧州へ販売する事業では、日本向け輸入と同じ動きにはなりません。現地の牛や羊の調達価格、販売地域の需要、現地通貨と販売通貨の組み合わせが利益を決めます。「円安だから食肉株にプラスかマイナスか」ではなく、どこで仕入れ、どこで作り、どこへ売るかまで確認します。
この3場面を整理すると、月次の食品価格や為替だけで決算を決めつけにくい理由が分かります。相場ニュースは入口として使い、実際の答えは販売数量、セグメント利益率、棚卸資産、営業キャッシュフローで確認します。
3社の投資ストーリー
プリマハムは「数量先行、利益率改善はこれから」です。主力商品の数量成長が続き、海外赤字と固定費を吸収できれば、通期増益へ近づきます。逆に数量が鈍化したままコストが残ると、配当性向の高さが意識されます。
日本ハムは「利益エンジンは強いが、Q1を延長しない」です。食肉の調達・在庫・販売を一体で管理する力とスポーツ事業が強みです。一方、会社自身が2Q以降の食肉採算悪化を想定しています。棚卸資産と営業キャッシュフローも確認が必要です。
伊藤ハム米久は「食肉の分散効果、加工食品の回復待ち」です。国内外の食肉が加工食品の落ち込みを補いました。ただし、食肉相場が変わる前に加工食品の数量と利益率を戻せるかが重要です。
3社の株価指標が似ているからこそ、単純に配当利回りが高い順に選ぶのではなく、自分がどの利益を持続的と考えるかで見方が変わります。
次の決算で確認する数字
プリマハム
- 加工食品の販売数量が前年超えを維持するか
- 加工食品の営業利益率が2.8%から上がるか
- 海外事業の営業損失が4億円から縮小するか
- 輸入豚の利益率が回復するか
日本ハム
- 食肉事業の事業利益が2Q以降どこまで減速するか
- 加工事業の業務用数量と利益率が回復するか
- 棚卸資産の増加が落ち着くか
- 営業キャッシュフローが利益へ追いつくか
伊藤ハム米久
- 加工食品の販売数量減が縮小するか
- 加工食品の営業利益率が1.2%から回復するか
- 輸入鶏とANZCOの反動がどの程度出るか
- 営業キャッシュフローが黒字へ戻るか
まとめ
食肉大手3社の最新第1四半期は、3社とも親会社帰属最終利益が減少しました。しかし、その一言だけでは決算の中身を説明できません。
プリマハムは加工食品の数量を伸ばしましたが、固定費、海外、輸入豚が利益を抑えました。日本ハムは食肉の価格設定と在庫管理、スポーツ事業で事業利益を伸ばしましたが、法定営業利益と最終利益は減少しました。伊藤ハム米久は加工食品が大幅減益となった一方、国内外の食肉が補いました。
共通する課題は、加工食品の利益率が3社とも前年を下回ったことです。値上げ後の数量を守り、原料・物流費を吸収し、工場の固定費を回収できるかが今後の焦点です。
食肉事業では、相場の方向だけでなく、仕入れ、在庫、販売価格の管理が重要です。Q1で稼いだ利益が年間にも続くとは限りません。
決算を見る順番は、売上、利益率、キャッシュフロー、株主還元です。この4段階で確認すると、増収でも減益になる理由や、利益が出ても現金が増えない理由が分かりやすくなります。
主な参照資料
- プリマハム「2027年3月期 第1四半期決算短信」「2026年度第1四半期決算補足説明資料」
- 日本ハム「2027年3月期 第1四半期決算短信」「第1四半期決算説明会資料」「Web会議 主なQ&A」
- 伊藤ハム米久ホールディングス「2027年3月期 第1四半期決算短信」「2027年3月期Q1決算説明資料」
- 農林水産省「食肉・鶏卵」
- 株探:2026年7月31日、9月11日の株価・指数、9月11日の株価指標