※本記事は2026年8月10日終値と、クラレが2026年8月7日に発表した2026年12月期第2四半期決算を基に作成しています。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。
クラレ(3405)が、2026年12月期の中間決算を発表しました。
クラレと聞くと、ランドセルに使われる人工皮革〈クラリーノ〉や〈マジックテープ〉を思い浮かべる方も多いでしょう。しかし実際には、液晶テレビ、食品包装、自動車、歯科材料、活性炭まで扱う高機能素材メーカーです。
素材の守備範囲は、ランドセルから歯医者さんまで。なかなか広めです。
今回の上期決算は、売上高7.8%増、営業利益9.8%増の増収増益でした。ただし、会社全体が一様に好調だったわけではありません。主力のビニルアセテート事業は営業利益が約15%減り、別の3事業の回復がそれを補いました。
さらに年間配当予想は64円ですが、そのうち10円は創立100周年の記念配当です。
今回は、決算の見た目だけでは分からない「主力減益の理由」「増益を支えた事業」「配当64円の中身」「株価と株主優待」を、投資初心者にも分かりやすく整理します。
結論:全体は回復、ただし主力事業と記念配当の中身を確認
今回のポイントは次の6つです。
- 売上高は4,310億円で前年同期比7.8%増
- 営業利益は288億円で9.8%増
- 主力のビニルアセテート事業は営業利益が45億円減り、約15%減益
- イソプレン、機能材料、繊維の3事業が合計で大きく改善
- 売上予想は8,800億円へ上方修正したが、営業利益予想700億円は据え置き
- 年間配当64円のうち10円は創立100周年記念配当
増収増益と株主還元は前向きです。一方、数量の弱さ、主力事業の減益、下期の利益計画には確認が必要です。
クラレは何の会社?ランドセルだけではない素材メーカー
クラレは、化学と高機能素材を中心に世界で事業を展開しています。
代表的な製品には次のようなものがあります。
- 液晶ディスプレイの偏光板に使われる光学用ポバールフィルム
- 食品包装などに使われるEVOH樹脂〈エバール〉
- 自動車・建築用合わせガラスのPVB中間膜
- 歯の詰め物などに使われる歯科材料
- 水や空気の浄化に使われる活性炭
- 靴やランドセルに使われる人工皮革〈クラリーノ〉
- ロープやケーブルなどに使われる高強力繊維〈ベクトラン〉
聞き慣れない言葉もありますが、暮らしや産業のさまざまな場所で「目立たないけれど重要な素材」を供給している会社です。
2026年上期は増収増益
2026年12月期上期の連結業績は次のとおりです。
| 項目 | 2026年上期 | 前年同期比 |
|---|---|---|
| 売上高 | 4,310億円 | +7.8% |
| 営業利益 | 288億円 | +9.8% |
| 経常利益 | 260億円 | +22.1% |
| 親会社株主に帰属する中間純利益 | 142億円 | +1.4% |
売上高、営業利益、経常利益はしっかり増えています。一方、最終利益の伸びは1.4%にとどまりました。
営業利益の増減要因を見ると、販売数量は20億円のマイナスでした。これを売値・品種構成の改善36億円、原燃料・為替のプラス17億円などで補っています。
つまり、今回の増益は「商品がどんどん売れて数量が増えた」というより、値上げや製品構成、円安の効果が支えた面が大きい決算です。
主力のビニルアセテートは売上増でも15%減益
クラレ最大の事業がビニルアセテートです。
| 項目 | 2026年上期 | 前年同期比 |
|---|---|---|
| 売上高 | 2,171億円 | +143億円 |
| 営業利益 | 254億円 | -45億円 |
売上高は増えましたが、営業利益は45億円減り、約15%の減益です。
ビニルアセテート事業には、液晶向けの光学用ポバールフィルム、食品包装などに使われる〈エバール〉、自動車・建築向け中間膜、水溶性ポバールフィルムなどが含まれます。
光学用ポバールフィルムは、国際的なスポーツイベントに伴うテレビ買い替え需要や、部品調達への不安から在庫を積み増す動きで販売量が増えました。〈エバール〉も食品包装や自動車用途が堅調でした。
一方、自動車・建築用中間膜では欧州やアジアの競争が厳しく、水溶性ポバールフィルムは洗剤用個包装の需要が弱まりました。一部製品の販売数量と工場稼働率の低下も利益を圧迫しました。
クラレのエースは売上を伸ばしましたが、利益面では少し息切れした形です。
増益を支えたのは3つの回復事業
主力事業の45億円減益を補ったのが、イソプレン、機能材料、繊維です。
| 事業 | 前年同期の営業利益 | 2026年上期 | 改善額 |
|---|---|---|---|
| イソプレン | -13億円 | 18億円 | +31億円 |
| 機能材料 | 17億円 | 49億円 | +32億円 |
| 繊維 | -1億円 | 42億円 | +43億円 |
3事業を合わせると、営業利益は前年同期から106億円改善しました。
イソプレンは赤字から黒字へ
イソプレン事業は、前年同期の13億円の赤字から18億円の黒字へ転換しました。
電子部品や自動車部品に使われる耐熱性ポリアミド樹脂〈ジェネスタ〉は販売量が増えました。ただし、改善には過年度の減損処理によって減価償却費が減った効果や、棚卸資産評価によるプラスも含まれます。
販売好調だけで31億円改善したわけではない点は押さえておきたいところです。
機能材料は構造改善と歯科材料が貢献
機能材料の営業利益は17億円から49億円へ増えました。
メタクリル事業の生産能力削減による構造改善、欧米を中心とした歯科材料の需要、活性炭の価格改定などが寄与しています。
活性炭は家庭用の炭というより、水や空気から有害物質を取り除くための産業用素材です。米国では使用済み活性炭を再生する設備の増設も予定しています。
繊維は赤字から42億円の黒字へ
繊維事業は、前年同期の1億円の赤字から42億円の黒字へ大きく改善しました。
人工皮革〈クラリーノ〉では靴向け需要が回復し、高強力繊維〈ベクトラン〉も堅調でした。価格改定も利益を支えています。
ランドセルで知られる〈クラリーノ〉が、今回は業績回復にも一役買いました。
売上予想は上方修正、利益予想は据え置き
クラレは通期売上高予想を8,500億円から8,800億円へ上方修正しました。
| 項目 | 従来予想 | 8月7日修正後 | 前期比 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 8,500億円 | 8,800億円 | +8.9% |
| 営業利益 | 700億円 | 700億円 | +18.9% |
| 経常利益 | 640億円 | 640億円 | +24.2% |
| 純利益 | 400億円 | 400億円 | +435.6% |
利益予想はすべて据え置きです。売上が増えても、それがそのまま利益増加につながるとは限りません。
また、純利益の前期比435.6%増は非常に大きく見えますが、前期にイソプレン事業などで減損損失を計上した反動を含みます。通常の事業利益がいきなり5倍へ成長するという意味ではありません。
上期営業利益は288億円でした。通期700億円を達成するには、下期に412億円が必要です。下期は上期より利益を大きく増やす計画となるため、主力事業の稼働率や販売数量が回復するかが重要です。
フリーキャッシュフローは黒字化、ただし投資負担は大きい
| 項目 | 2026年上期 | 前年同期 |
|---|---|---|
| 営業キャッシュフロー | 590億円 | 422億円 |
| 投資キャッシュフロー | -560億円 | -491億円 |
| フリーキャッシュフロー | 30億円 | -70億円 |
| 設備投資額 | 538億円 | 453億円 |
本業と投資を合わせたフリーキャッシュフローは、前年同期の70億円のマイナスから30億円のプラスへ改善しました。
ただし、設備投資は538億円と大きく、有利子負債も前期末から338億円増えています。自己資本比率は57.0%から55.9%へ低下しました。
成長投資を続けながら、現金をどれだけ残せるかも今後の確認点です。
配当64円のうち10円は創立100周年記念配当
2026年12月期の年間配当予想は64円です。
- 中間配当:32円
- 期末配当予想:32円
- 年間普通配当:54円
- 創立100周年記念配当:10円
中間と期末には、それぞれ普通配当27円と記念配当5円が含まれています。
64円すべてが毎年続く普通配当ではありません。翌期以降の配当を見るときは、普通配当54円を基準にし、業績や次の株主還元方針を確認する必要があります。
クラレは2026年に100億円の自己株式取得を完了し、取得株式を消却しました。会社資料では、2026年の総還元性向を約73%と見込んでいます。
株主優待はカレンダーと1,000株以上のカタログ
クラレの株主優待は2種類あります。
- 6月末時点の株主:希望者全員にクラレグループカレンダー
- 12月末時点で1,000株以上:オリジナルカタログギフト
カタログには、クラレグループ製品を使った商品、関連施設の利用券、国内拠点所在地の名産品などが用意されています。1,000株以上を3年以上継続保有すると長期保有優遇があります。
8月10日終値1,920円では、1,000株の購入金額は約192万円です。カタログの取得条件はやや高めです。
一方、100株でも6月末時点の株主で、案内に従って申し込めばカレンダーを受け取れます。
8月10日終値ベースの株価指標
| 指標 | 2026年8月10日 |
|---|---|
| 株価 | 1,920円 |
| 予想PER | 14.54倍 |
| PBR | 0.77倍 |
| 予想配当利回り | 3.33% |
| 時価総額 | 約5,801億円 |
| 100株購入金額 | 19万2,000円 |
| 年初来高値 | 2,088円 |
| 年初来安値 | 1,555円 |
PBRは1倍を下回っています。ただし、PBRが低いことだけで割安と断定はできません。会社が目標とするROICやROEの改善、設備投資から得られる利益を併せて見る必要があります。
予想配当利回りは3.33%です。3%台は配当株として検討対象になり得ますが、「かなり高い配当利回り」と強調する水準ではありません。さらに、利回り計算の64円には記念配当10円が含まれます。
決算発表日の8月7日には、一時2,088円の年初来高値を付け、終値は1,954.5円でした。8月10日は1,920円で、前営業日比1.77%下落しています。決算を受けて期待が高まった一方、短期的には値動きも大きくなっています。
次の決算で確認したい5項目
- ビニルアセテート事業の販売数量と工場稼働率が回復するか
- 光学用ポバールフィルムの増加が一時的な在庫積み増しだけで終わらないか
- 自動車・建築用中間膜と水溶性ポバールフィルムの需要が改善するか
- 下期営業利益412億円を積み上げられるか
- 大型設備投資を続けながらフリーキャッシュフローを確保できるか
配当については、100周年記念配当を除いた普通配当54円が、翌期以降どうなるかも注目です。
まとめ
クラレの2026年上期決算は、売上高4,310億円、営業利益288億円の増収増益でした。イソプレン、機能材料、繊維が大きく回復し、会社全体の利益を押し上げました。
一方、最大のビニルアセテート事業は約15%減益です。会社全体は回復していますが、主力エンジンはまだ本調子とは言えません。
年間配当64円や100億円の自社株買いは株主還元として注目できます。ただし、64円のうち10円は100周年記念配当です。予想配当利回りも3.33%なので、単純に「高配当だから魅力的」と結論づけるのではなく、配当の中身と事業の回復力を分けて見ることが大切です。
次の決算では、主力事業の数量・稼働率と、下期の利益回復が最大の確認ポイントになります。
主な出典
- クラレ「2026年度第2四半期決算説明資料」2026年8月7日
- クラレ「2026年12月期 第2四半期(中間期)決算短信」2026年8月7日
- クラレ「株主優待制度」
- クラレ「社長メッセージ/株主還元」
- Yahoo!ファイナンス「クラレ(3405)株価・株式情報」「株価時系列」2026年8月10日終値