航空業界を代表するJAL(日本航空)とANA(全日本空輸)の2026年3月期決算が出揃いました。
高配当株投資を実践する上で、企業の決算書から「継続して稼ぐ力があるか」「無理なく配当を出せているか」を読み解くことは非常に重要です。
今回は両社の業績比較、財務状況、配当金の推移、そして新たに発表されたANAの株主優待拡充について、企業が発表した決算資料の数値をもとに、投資初心者の方にもわかりやすく解説します。
1. JALとANAの業績比較【2026年3月期決算】
まずは、両社の会社全体の業績(連結業績)の全体像を比較します。売上規模や利益の状況がどのように変化したのかを確認しましょう。
| 項目 | JAL(2026年3月期実績) | ANA(2026年3月期実績) |
|---|---|---|
| 売上高(売上収益) | 2兆125億円(前期比9.1%増) | 2兆5,392億円(前期比12.3%増) |
| 本業の利益(EBIT / 営業利益) | 2,180億円(前期比26.4%増) | 2,174億円(前期比10.6%増) |
| 最終的な純利益 | 1,376億円(前期比28.6%増) | 1,690億円(前期比10.5%増) |
💡 決算指標についての補足
- 本業の利益: ANAは一般的な「営業利益」という指標を使っていますが、JALは国際的な会計基準(IFRS)を採用しているため、「財務・法人所得税前利益(EBIT)」という指標を使っています。EBITは、最終的な利益から法人税や利息などの影響を除いたもので、会社が本業でどれだけ稼ぐ力があるかを示す指標です。
- 最終的な純利益: 決算書では「親会社の所有者(株主)に帰属する当期利益」等と記載されており、税金などをすべて支払った後に会社に残る、最終的な利益を指します。この純利益が配当金の原資となります。
両社ともに、売上、利益のすべての項目において前の1年間(前期)の数値を上回り、大幅な増収増益の好決算となりました。売上規模、最終利益ともにANAがJALを上回っていますが、本業の利益(EBIT/営業利益)で見ると、両社とも2,170億円〜2,180億円水準でほぼ横並びとなっており、高い収益力を発揮していることがわかります。
2. 業績が大きく伸びた背景(JALの状況)
JALが順調に業績を伸ばした背景には、客観的な事実として以下の要因があります。決算短信の記述から読み解いていきましょう。
✈️ フルサービスキャリア事業(国際線・国内線)の好調 最大の収益源である国際線では、引き続き好調なインバウンド(訪日外国人)需要に加え、日本発のビジネス需要も事前の計画を上回る回復を見せました。単価の高いビジネス需要を取り込めたことが利益の押し上げに貢献しています。 また、最新鋭の省燃費機材である「エアバスA350-1000型機」を羽田=パリ線などに投入し、利便性と収益の拡大を図っています。国内線においても、各種キャンペーンを実施して需要を喚起した結果、前年同期比で旅客数を大きく伸ばしました。
✈️ 柔軟な路線戦略と貨物事業 特筆すべき点として、中東情勢の悪化により他国の航空会社が運休を余儀なくされる中、JALは欧州への直行便への代替需要や、インド発北米行きの乗り継ぎ需要を積極的に取り込みました。これにより、運休路線のマイナスを上回る収益を確保しています。 貨物事業でも、他社(カリッタ航空)の大型貨物機を活用して成長著しいアジア=北米間の貨物需要を獲得し、医薬品や半導体関連などの高単価貨物の取り扱いを強化したことで大幅な増収を達成しています。
✈️ マイル/金融・コマース事業の成長 JALが現在力を入れている非航空事業(マイルや金融)も好調です。株式会社マネースクエアHDによる日々の資産運用でマイルが貯まる新プログラムの開始や、海外金融事業者との提携拡大により、利益率の高いこの分野で安定的に利益を計上(EBIT455億円、前期比19.5%増)しています。
3. 業績が大きく伸びた背景(ANAの状況)
続いて、ANAの業績が伸びた背景を確認します。
✈️ 旺盛な旅客需要の取り込み ANAもJALと同様に、旺盛な訪日需要とレジャー需要に支えられ、国際線旅客・国内線旅客ともに堅調に推移しました。特に2024年度下期から欧州3路線を新規就航したことなどで、欧州路線が好調に推移しています。国内線でも「ANA SUPER VALUEセール」を継続的に実施し、需要の早期取り込みに成功しました。
✈️ 日本貨物航空(NCA)の完全子会社化 ANAの決算における大きなトピックは、当期(8月)に日本貨物航空株式会社(NCA)を完全子会社化したことです。これにより、ANAグループの旅客便の床下貨物スペースと、NCAが強みとする大型貨物専用機のネットワークが融合し、NCAの収入(貨物収入1,089億円など)がANAの連結業績に大きくプラスとして加わりました。
✈️ LCC事業の再構築 LCC(格安航空会社)事業において、Peachは訪日需要を取り込み増収となりました。一方で、中距離LCCとして展開していた「AirJapan」ブランドを休止し、機材および人財をANAブランドの運航に集約することを決定しました。今後はANAとPeachの「デュアルブランド戦略」へと再構築し、グループ全体の競争力を高める方針を示しています。
4. 財務の健全性を確認する
高配当株投資において、利益だけでなく「倒産しにくいか(財務の安全性)」を確認することは不可欠です。航空業界は新型コロナウイルスの影響で一時期大きく財務が傷みましたが、現在の回復状況を確認します。
| 項目 | JAL(2026年3月期末) | ANA(2026年3月期末) |
|---|---|---|
| 総資産 | 3兆1,987億円 | 3兆9,551億円 |
| 自己資本比率 | 40.3%(前期34.9%) | 37.7%(前期31.2%) |
| 営業キャッシュフロー | 3,948億円のプラス | 4,434億円のプラス |
💡 指標についての補足
- 自己資本比率: 会社の総資産のうち、返済不要な自分のお金(自己資本)がどれくらいあるかを示す指標です。一般的に、航空会社のような設備投資が大きいビジネスでは、30%〜40%程度あれば比較的安全とされています。
- 営業キャッシュフロー: 本業の営業活動によって、実際に手元にいくら現金が入ってきたか(または出ていったか)を示します。
両社とも、本業でしっかりと現金(キャッシュ)を稼ぎ出しており、営業キャッシュフローは大幅なプラスです。その結果、自己資本比率がJALは40.3%、ANAは37.7%まで回復しており、コロナ禍の危機的状況を完全に脱し、財務の健全性が高まっていることがデータから読み取れます。
5. 高配当株としてどう見る?JALとANAの配当金比較
企業の稼ぐ力と財務の安全性が確認できたところで、投資家にとって最も重要な「配当金の状況」を確認します。ここでは、1株あたりの利益(EPS)と、利益のうちどれだけを配当に回しているか(配当性向)も合わせて見ていきます。
| 項目 | JAL | ANA |
|---|---|---|
| 1株あたり利益(EPS) | 306.96円 | 358.37円 |
| 2026年3月期 配当金(実績) | 1株あたり年間96円 | 1株あたり年間65円 |
| 配当性向(利益に対する還元率) | 約31.3% | 約18.1% |
| 2027年3月期 配当金(予想) | 1株あたり年間96円 | 1株あたり年間60円 |
✈️ JALの配当スタンス JALの2026年3月期の年間配当金は、当初の予想通り1株あたり96円となりました。1株あたり利益(306.96円)に対する配当性向は約31.3%です。JALは次期(2027年3月期)についても、年間配当予想を96円に据え置いています。利益の約3割を安定して株主に還元する姿勢が明確に表れています。
✈️ ANAの配当スタンス ANAの2026年3月期の年間配当金は、最終的な純利益が予想を上回ったことから、当初の予想から5円増額され、普通株式1株につき65円となりました。1株あたり利益(358.37円)に対する配当性向は約18.1%です。 JALと比較して配当性向が低く抑えられているのは、ANAがNCAの買収や新しい機材の導入など、今後の成長に向けた投資や財務体質のさらなる強化に資金を優先的に振り向けているためです。次期(2027年3月期)については、後述する外部環境のリスクを考慮し、年間合計60円(中間30円、期末30円)と保守的な配当予想を立てています。
6. 長期保有にメリット!ANAの株主優待制度の拡充内容
配当金による還元を控えめに見積もったANAですが、一方で「株主優待制度の一部変更(拡充)」を発表しました。より使いやすく魅力的な制度へ進化させ、投資家が株式を継続的に保有するメリットを高めることを目的とした内容です。
公式発表資料に記載されている5つの変更(拡充)ポイントを詳しく解説します。
① 国内線「シンプル」運賃の割引設定(2026年7月1日開始) 現行の「株主優待割引(国内線片道普通運賃の50%割引)」に加えて、新たに価格重視運賃である「シンプル」運賃の5%割引が設定されます。これにより、もともと安い運賃プランをさらにお得に利用できるようになります。100株以上保有の株主が対象で、保有株数に応じて割引コードが発行されます。
② 長期保有優遇制度の導入(2027年度上期から) 「株主優待番号ご案内書(いわゆる優待券)」の発行基準が見直されます。最も注目すべきは、**「3年以上継続して保有している株主(毎年3月末および9月末の株主名簿に同一株主番号で7基準日以上連続して記載)」**に対する優遇です。 3年以上保有すると、通常の優待券に加えて、各基準日ごとに以下の枚数が追加で発行されます。
- 300〜899株保有:追加1枚
- 900〜9,999株保有:追加2枚
- 10,000株以上保有:追加3枚 ※100株保有の場合は長期保有特典の対象外となるため、優待を最大限活用したい場合は300株以上の保有が一つの目安となります。
③ Peach国際線の割引設定(期間限定:2026年6月1日〜11月30日) Peachブランドのリニューアルを記念し、日本発のPeachブランド国際線運賃(スタンダード、スタンダードプラス運賃)が4,000円割引になる優待が設定されます。100株以上の保有者が対象です。
④ ツアー商品の割引率拡大(2026年6月1日開始) 国内・海外のパッケージツアー商品やダイナミックパッケージ商品の割引率が、現行の2〜5%割引から「10%相当の割引」へと大幅に拡大されます。100株以上の保有者が対象で、専用サイトから割引予約が可能になります。
⑤ 大口・長期保有優遇制度の新設(2026年6月1日開始) **「20,000株以上を3年以上継続保有」**する個人株主を対象に、ANAの最上級ステイタスである「ダイヤモンドサービス」の一部を体験できる制度が新設されます。 ※20,000株を保有するには数千万円規模の資金が必要となるため、ごく一部の大口投資家に向けた特別な還元策と言えます。
※補足:JALも国内線運賃の割引やツアー割引などの株主優待を実施していますが、本記事では今回制度の大幅な拡充発表があったANAの優待制度に絞って解説しています。
7. 投資初心者必見!来期(2027年3月期)の業績予想の読み解き方
今期は両社とも素晴らしい業績でしたが、企業側が発表している来期(2027年4月1日〜2028年3月31日)の業績見通し(会社予想)には注意が必要です。
- JALの来期予想: 売上収益2兆950億円、EBIT 1,800億円、当期利益1,100億円
- ANAの来期予想: 売上高2兆7,700億円、営業利益1,500億円、純利益960億円
両社ともに、売上は伸びる予想を立てているものの、利益面では今期よりも減少する(減益)予想を立てています。 初心者の場合「利益が減る=会社の調子が悪いのか?」と不安になりがちですが、決算資料を読み解くと、企業が弱気になっているわけではないことがわかります。
減益予想の主な理由は、**「外部環境の不確実なリスクを、あらかじめ厳しく(保守的に)見積もっているから」**です。
具体的には、ウクライナ情勢の長期化や中東情勢の緊迫化による原油(航空燃油)価格の高騰です。航空会社にとって燃料費は最大のコストです。 ANAの資料には、業績予想の前提として「米ドル円為替レートは155円」「ドバイ原油は第1四半期で1バレル130米ドル(その後徐々に低下)」という、かなり厳しめの条件を設定していることが明記されています。
つまり、楽観的な数字を出して後から下方修正をするのではなく、あらかじめ厳しいビジネス環境を想定した上で、堅実な経営計画を立てていると評価することができます。
まとめ:高配当株投資の視点から見る銘柄選びの考え方
今回の決算資料と優待発表から読み取れる、客観的な事実に基づいた銘柄選びのヒントをまとめます。
① 配当の安定感を重視するなら「JAL」 来期が減益予想となる厳しい事業環境を想定しながらも、JALは配当を「年間96円」に据え置く予想を出しています。来期は利益が減る予想ながらも、配当性向の予想を42.2%(今期は31.3%)に引き上げて配当水準を維持する見込みです。利益が変動してもしっかりと現金で株主に還元する強い方針が読み取れます。配当金が減る(減配)リスクをなるべく避け、安定したインカムゲイン(配当収入)を狙いたい方にとって、この姿勢は心強いポイントです。
② 優待を含めた総合的なリターンと長期保有のメリットを狙うなら「ANA」 ANAは今後の成長投資や財務強化を優先するため、今期の配当性向を18%程度に抑えました。来期についても配当を60円と慎重に見積もっています。しかしその分、株主優待を大幅に拡充し、特に「3年以上継続保有」の株主に対する優遇措置を手厚くしました。 配当金単体の利回りだけでなく、旅行や帰省などで飛行機を利用する機会が多い方にとっては、手厚い株主優待を活用することで、実質的な総合利回りは高くなる可能性があります。
投資において、目先の利益の増減や配当利回りの数字だけで判断するのは危険です。企業がどのようなリスクを想定し、稼いだ利益を「成長への投資」「財務の強化」「株主への還元(配当と優待)」にどう振り分けようとしているのか。決算資料に書かれた事実を冷静に読み解くことが、納得のいく投資判断に繋がります。ご自身の投資の目的やライフスタイルに合わせて、ぜひ参考にしてみてください。