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2026年5月8日、NTT株式会社(9432)が2026年3月期(2025年度)決算を発表しました。本記事では、同社が公表した決算短信を一次資料として、業績ハイライト・セグメント別の動向・配当と自社株買い・経営構造の変化・来期予想・AIとデータセンター戦略まで、投資家視点で**徹底的に深掘り**して解説していきます。
NTTは2025年7月に商号を「日本電信電話株式会社」から「NTT株式会社」へ変更し、同時にコーポレート・アイデンティティ(CI)も刷新しました。さらに2025年9月にはNTTデータグループを完全子会社化、2025年10月には住信SBIネット銀行を連結子会社化するなど、**通信事業を中核とした構造から「データセンター・AI・金融」を取り込む複合インフラ企業へ**と急速に変貌しています。
その変化は、本決算で公表された主要指標にも如実に表れました。順を追って確認していきます。
- NTTの2026年3月期決算の主要数値と来期予想
- 4つの事業セグメント(総合ICT・グローバル・地域通信・その他)の明暗
- 住信SBIネット銀行・NTTデータ完全子会社化による経営構造の変化
- 配当推移と自己株式2,000億円取得枠の意味
- データセンター世界3位とIOWN戦略の現在地
- 高配当株投資家として押さえるべきリスクポイント
1. NTT(9432)2026年3月期 業績ハイライト
まずは決算短信P1〜P4に記載された主要数値から、当期の全体像を確認します。NTTは2018年度第1四半期から国際財務報告基準(IFRS)を採用しており、本記事の数値もすべてIFRSベースです。
主要指標サマリー
| 項目 | 2024年度(前期) | 2025年度(当期) | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 営業収益 | 13兆7,047億円 | 14兆4,091億円 | +5.1% |
| 営業費用 | 12兆552億円 | 12兆7,029億円 | +5.4% |
| 営業利益 | 1兆6,496億円 | 1兆7,062億円 | +3.4% |
| 税引前利益 | 1兆5,647億円 | 1兆5,819億円 | +1.1% |
| 当社に帰属する当期利益 | 1兆16億円 | 1兆370億円 | +3.7% |
※出典:NTT 2025年度決算短信P1・P4
営業収益は前期比5.1%増の14兆4,091億円と、過去最高水準を更新しました。営業利益・税引前利益・当期利益のいずれも増益となり、決算全体としては「増収増益」の堅調な内容です。
1株あたり指標と収益性
| 項目 | 2024年度 | 2025年度 |
|---|---|---|
| 基本的1株当たり当期利益(EPS) | 11.96円 | 12.61円 |
| 株主資本当期利益率(ROE) | 10.0% | 10.4% |
| 総資産税引前利益率 | 5.2% | 4.1% |
| 営業収益営業利益率 | 12.0% | 11.8% |
※出典:決算短信P1
1株当たり当期利益(EPS)は11.96円から12.61円へ約5.4%上昇しました。ROE(株主資本当期利益率)は10.0%から10.4%とわずかに改善しています。一方で、営業収益営業利益率は12.0%から11.8%へ微低下しており、売上の伸び(+5.1%)に対して費用(+5.4%)の方がやや早いペースで増加した影響が表れています。
連結包括利益が大幅増加
連結損益計算書の数値とは別に、為替差益や金融資産の公正価値変動などを含む「連結包括利益」も併せて確認しておきましょう。
- 2024年度:当社に帰属する包括利益 1兆347億円(前期比 ▲47.3%)
- 2025年度:当社に帰属する包括利益 1兆7,190億円(前期比 +66.1%)
※出典:決算短信P1(注記)
2025年度の包括利益は1兆7,190億円と、当期利益(1兆370億円)を約6,820億円上回っています。その要因としては、決算短信P17の連結包括利益計算書から確認できる通り、外貨換算調整額が前期▲324億円から当期+2,494億円へと大きくプラスに転じたこと、確定給付制度の再測定が+2,027億円となったこと、その他の包括利益を通じて公正価値測定する金融資産の公正価値変動額が+1,820億円となったことが挙げられます。
NTTのようにグローバル展開を進めている企業では、為替変動の影響が決算に大きく現れます。投資家としては、当期利益だけでなく包括利益にも目を配ることで、自己資本の動きを正しく把握できます。
2. セグメント別の業績|4事業の明暗が鮮明に
NTTグループは「総合ICT事業」「グローバル・ソリューション事業」「地域通信事業」「その他(不動産、エネルギー等)」の4つのセグメントで業績を管理しています。それぞれの主要連結子会社は以下の通りです(決算短信P5)。
| セグメント | 主な事業内容 | 主要連結子会社 |
|---|---|---|
| 総合ICT事業 | 携帯電話、光ブロードバンド、金融、コンテンツ、法人向け通信 | 株式会社NTTドコモ等 |
| グローバル・ソリューション事業 | コンサル、ITソリューション、システム開発、データセンター | 株式会社NTTデータグループ等 |
| 地域通信事業 | 光サービス、法人事業、固定電話 | NTT東日本、NTT西日本 |
| その他(不動産、エネルギー等) | 不動産、エネルギー | NTTアーバンソリューションズ、NTTアノードエナジー等 |
セグメント別営業利益の全体像
| セグメント | 2024年度 | 2025年度 | 増減 | 増減率 |
|---|---|---|---|---|
| 総合ICT事業 | 1兆205億円 | 9,421億円 | ▲785億円 | ▲7.7% |
| グローバル・ソリューション事業 | 3,239億円 | 4,882億円 | +1,643億円 | +50.7% |
| 地域通信事業 | 2,955億円 | 3,074億円 | +119億円 | +4.0% |
| その他 | 558億円 | ▲16億円 | ▲574億円 | ▲102.8% |
※出典:決算短信P6〜P8
セグメント別の損益を見ると、NTTグループの収益源の入れ替わりが一目瞭然です。1つずつ詳しく見ていきます。
2-1. 総合ICT事業|国内モバイル中核も減益▲7.7%
NTTドコモを中核とする総合ICT事業は、営業収益が6兆4,581億円(前期比+3.9%)と増収を確保したものの、営業利益は9,421億円と前期比7.7%の減益となりました。営業費用が3,235億円(+6.2%)増加し、増収幅を上回ったことが減益の主因です。
当期の主な取り組みとして、決算短信P6には以下が記載されています。
- 「ドコモ MAX」「ドコモ ポイ活 MAX」の提供開始(2025年6月):2026年3月に300万契約を突破
- 5G基地局の構築強化:主要都市中心部の96%のポイントでダウンロードスループット100Mbps以上を達成
- 住信SBIネット銀行の連結子会社化(2025年10月):新サービスブランド「d NEOBANK」を開始
- 「NTTドコモ・フィナンシャルグループ」体制への移行を発表(2026年3月):「dカード」「d払い」等の金融事業をフィナンシャルグループへ移管(2026年7月予定)
- IGアリーナ・MUFGスタジアム(国立競技場)の運営に参画:Wi-Fi 7やミリ波の通信環境を整備
- docomo business RINKがGartner社の「Eye on Innovation Awards」APAC地域で“Winner”に選出
顧客基盤・ネットワーク品質・金融領域への投資を継続的に進めている一方で、これらが利益面で実を結ぶには時間を要する局面です。「将来の成長に向けた施策を加速」と決算短信に明記されている通り、当期は先行投資による費用増が短期的な利益を押し下げた形と読み取れます。
2-2. グローバル・ソリューション事業|営業利益+50.7%の急成長
NTTデータグループを中心とするグローバル・ソリューション事業は、当期の最大の利益貢献セグメントとなりました。営業収益が5兆46億円(前期比+7.9%)、営業利益が4,882億円(前期比+50.7%)と、グループ全体の利益伸長を牽引しています。
決算短信P7に記載された主な取り組みは以下の通りです。
- 日本セグメント:公共・社会基盤分野、金融分野、法人分野で大型案件を獲得
- 海外セグメント:フルスタックソリューション提供とデータセンター事業の拡大、クラウド・セキュリティ分野の成長
- OpenAIとの提携(2025年5月〜):「ChatGPT Enterprise」の日本初の販売代理店として提供開始
- Google Cloudとのグローバルパートナーシップ(2025年8月〜):業界特化型AIエージェントの開発
- データセンター総受電容量約2,000MW(国内No.1、世界No.3):2,700MW超の拡大を計画済み、2030年度までに3,000MWへ拡張予定
- NTT DC REITのシンガポール証券取引所上場(2025年7月)
- 海底通信ケーブル「MIST」運用開始(2025年7月、シンガポール・マレーシア・インド間)
- 「I-AM Cable」建設計画を発表(2026年1月、日本・マレーシア・シンガポール、総事業費1,500億円規模)
- NTT DATA AIVistaを米国シリコンバレーに設立(2025年12月)
世界トップクラスのデータセンター容量・国際海底ケーブル網・AIパートナーシップという3つの柱で、グローバル・ソリューション事業はNTTグループの「新たな成長エンジン」として急速に立ち上がっています。決算短信に「世界No.3」のデータセンター事業者と明記されている点は、特に注目に値します。
2-3. 地域通信事業|堅実な+4.0%増益、レガシー固定電話は段階的廃止へ
NTT東日本・NTT西日本を中心とする地域通信事業は、営業収益3兆2,102億円(前期比+3.1%)、営業利益3,074億円(前期比+4.0%)と堅実な成長を続けています。
決算短信P8の主な取り組みは以下の通り。
- 「フレッツ光 クロスBiz」(最大通信速度10Gbps)の提供開始:法人向け高信頼性サービスとして帯域確保・24時間以内の故障駆け付け対応等を備える
- 「加入電話」サービスの段階的移行を発表(2025年9月):利用減少と設備老朽化により、2035年頃までに現行サービスレベル維持が困難となる見込みのため、光回線やモバイル回線による代替サービスへ段階的に移行する方針。あわせて2026年4月1日より回線使用料を改定
レガシーサービス(メタル回線の加入電話)の段階的廃止と、高速光回線・法人向けクラウド需要への対応シフトを進めている局面です。地域通信事業は安定した収益基盤として、グループの利益貢献を着実に支えています。
2-4. その他(不動産・エネルギー)|赤字転落
不動産事業(NTTアーバンソリューションズ等)とエネルギー事業(NTTアノードエナジー等)を含む「その他」セグメントは、当期営業利益が▲16億円と赤字に転落しました(前期+558億円)。
営業収益自体は1兆7,526億円(前期比+1.5%)と微増を確保していますが、営業費用が834億円(+5.0%)増加したことで、利益面は前期から▲574億円の悪化となりました。
このセグメントは規模としては大きいものの、当期の損益は他セグメントに比べて構造的に弱含みです。今後の事業ポートフォリオ管理において注視すべき点と言えます。
3. 経営構造の変化|住信SBIネット銀行・NTTデータの取り込み
2025年度のNTTにとって、業績数値以上に大きなインパクトを持つのが「事業ポートフォリオの抜本的な再編」です。
3-1. 商号変更「日本電信電話株式会社」→「NTT株式会社」
決算短信P4に記載の通り、NTTは2025年7月に商号を「日本電信電話株式会社」から「NTT株式会社」へ変更し、コーポレート・アイデンティティ(CI)を刷新しました。あわせて2025年5月には「NTT Group's Core & Values」を制定しています。
商号変更は単なる名称変更ではなく、「通信事業を中核とする事業構造から、グローバル事業を強化軸にデジタル領域・データセンター・AI・金融へ多角化する」というメッセージの一環として位置付けられています。
3-2. NTTデータグループの完全子会社化(取得対価約2.4兆円)
決算短信P27に記載のとおり、NTTは2025年5月8日にNTTデータグループ(旧上場子会社)の完全子会社化を決議。以下の流れで取得を完了させました。
| 日付 | 内容 | 金額 |
|---|---|---|
| 2025年5月8日 | 取締役会で公開買付け実施を決議 | — |
| 2025年5月9日〜6月19日 | NTTデータグループ株式の公開買付け | 1兆3,472億円で取得 |
| 2025年7月24日 | NTTデータグループ取締役会が株式併合を決議 | — |
| 2025年8月29日 | NTTデータグループの臨時株主総会で承認 | — |
| — | 完全子会社化完了(所有持分100%) | 売渡対価合計 約2兆3,683億円 |
※出典:決算短信P27
この一連の取引のために、NTTは金融機関から総額2兆3,800億円の範囲で借入を行っています。これにより、NTTの有利子負債は前期末10兆101億円から、当期末は15兆7,116億円へと一気に5兆7,015億円も増加しました(決算短信P12)。完全子会社化により、決算短信P4には「法人・グローバル分野における意思決定の迅速化を図るとともに、データセンターやAI等の成長分野への投資をグループ一体で推進する体制を整えた」と記載されています。
3-3. 住信SBIネット銀行の連結子会社化(取得対価4,200億円)
もう一つの大型取引が、住信SBIネット銀行の連結子会社化です。決算短信P25によると、以下の経緯で実行されました。
| 日付 | 内容 | 金額 |
|---|---|---|
| 2025年5月29日 | NTTドコモ取締役会で公開買付け実施を決議 | — |
| 2025年7月10日 | 公開買付け成立(議決権比率50.00%) | 1,826億円で取得 |
| 2025年10月1日 | 連結子会社化(非公開化後) | 取得対価合計 4,200億円(現金) |
※出典:決算短信P25
住信SBIネット銀行の連結子会社化により、NTTグループには以下の資産・負債が新規に取り込まれました(決算短信P25より、取得日時点)。
- 取得資産合計:12兆8,727億円(うち銀行業の貸出金 9兆8,567億円、銀行業の有価証券 6,131億円等)
- 引受負債合計:12兆6,343億円(うち銀行業の預金 11兆46億円等)
- 取得純資産:2,384億円
- のれん:2,631億円
取得日以降に生じた住信SBIネット銀行の売上高は924億円、当期利益は120億円と、決算短信P25に明記されています。
これにより、NTTグループには新たに「銀行業」という事業領域が連結ベースで加わることになりました。連結財政状態計算書(決算短信P14〜P15)には「銀行業の貸出金」「銀行業の有価証券」「銀行業の預金」といった項目が当期から新規計上されています。
3-4. 総資産が30兆円→47兆円へ大幅拡大
これら一連の経営構造変化により、NTTの連結ベース総資産は前期末から大幅に拡大しました。決算短信P12より。
| 項目 | 2024年度末 | 2025年度末 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 資産合計 | 30兆625億円 | 46兆7,213億円 | +16兆6,588億円 |
| 負債合計 | 18兆7,178億円 | 36兆5,037億円 | +17兆7,859億円 |
| 有利子負債 | 10兆101億円 | 15兆7,116億円 | +5兆7,015億円 |
| 資本合計 | 11兆3,446億円 | 10兆2,175億円 | ▲1兆1,271億円 |
| 株主資本 | 10兆2,216億円 | 9兆7,276億円 | ▲4,940億円 |
| 株主資本比率 | 34.0% | 20.8% | ▲13.2pt |
※出典:決算短信P1(連結財政状態)・P12
総資産が16兆6,588億円増加した一方で、負債は17兆7,859億円増加。資本は逆に1兆1,271億円減少しています。これにより、株主資本比率は前期末の34.0%から当期末は20.8%へと、13.2ポイントも低下しました。
株主資本比率の低下は、銀行業(住信SBIネット銀行)の連結化により大量の預金(負債)と貸出金(資産)が両建てで計上されたこと、およびNTTデータグループ完全子会社化のための借入債務増加が主因です。銀行業を抱えると財務指標が大きく見え方を変える点は、今後のNTTの財務分析でも継続的に意識すべきポイントです。
4. 配当と株主還元|2025年度5.30円→2026年度予想5.40円
高配当株投資家にとって最大の関心事である配当について、決算短信P1の配当状況および後発事象(P28)を確認していきます。
4-1. 配当金の推移
| 年度 | 中間配当 | 期末配当 | 年間配当 | 配当性向(連結) | 株主資本配当率(連結) |
|---|---|---|---|---|---|
| 2024年度(前期) | 2.60円 | 2.60円 | 5.20円 | 43.5% | 4.2% |
| 2025年度(当期) | 2.65円 | 2.65円 | 5.30円 | 42.0% | 4.4% |
| 2026年度(予想) | 2.70円 | 2.70円 | 5.40円 | 44.6% | — |
※出典:決算短信P1
年間配当は2024年度の5.20円から2025年度は5.30円へ、さらに2026年度予想では5.40円へと連続して引き上げられる見込みです。2期連続で前期比+0.10円の増配となり、配当方針の継続性が示されました。
配当性向(当期利益に対する配当総額の割合)は、2024年度43.5%から2025年度は42.0%へ低下、2026年度予想では44.6%へ上昇する見込みです。来期は当期利益が減益見通しのため、配当性向は上昇する形となります。
配当総額ベースでも確認しておきましょう。
- 2024年度の配当金総額:4,333億円
- 2025年度の配当金総額:4,346億円
※出典:決算短信P1
4-2. 自己株式の取得|後発事象として2,000億円・14億株の取得枠を決議
決算短信P28の「(12)重要な後発事象」には、自己株式取得に関する重要な決議が記載されています。
- 取得期間:2026年5月11日〜2027年3月31日
- 取得株式数の上限:14億株(発行済株式総数の約1.55%相当)
- 取得総額の上限:2,000億円
※出典:決算短信P28
NTTは毎期、配当に加えて自社株買いを実施しており、当期も実際に2,049億円の自己株式取得(連結キャッシュ・フロー計算書・決算短信P20)が実行されています。今回の決議は来期に向けた新たな取得枠であり、配当と組み合わせた継続的な株主還元策の一環として位置付けられます。
4-3. 配当と自社株買いを合わせた総還元のイメージ
配当総額4,346億円(2025年度)に、自己株式取得2,049億円を加えると、2025年度のNTTの総還元規模は約6,395億円に達します(決算短信P20より自己株式の取得による支出を参照)。当社に帰属する当期利益1兆370億円との比較では、総還元性向は概ね60%超の水準と試算できます。
来期も上限2,000億円の自社株買い枠を機動的に活用しつつ、配当も連続増配を維持する方針が示されているため、株主還元への姿勢は引き続き強気と評価できます。
5. 2026年度(来期)業績予想|営業利益は微増、当期利益は▲5.5%減益見通し
決算短信P1には、2026年度(2027年3月期)の連結業績予想も同時に公表されています。
| 項目 | 2025年度(実績) | 2026年度(予想) | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 営業収益 | 14兆4,091億円 | 15兆600億円 | +4.5% |
| 営業利益 | 1兆7,062億円 | 1兆7,100億円 | +0.2% |
| 税引前利益 | 1兆5,819億円 | 1兆5,000億円 | ▲5.2% |
| 当社に帰属する当期利益 | 1兆370億円 | 9,800億円 | ▲5.5% |
| 基本的1株当たり当期利益(EPS) | 12.61円 | 12.10円 | ▲4.0% |
※出典:決算短信P1
2026年度の予想では、営業収益と営業利益は増収増益見通しであるものの、当期利益は▲5.5%の減益が見込まれています。営業利益が微増(+0.2%)にとどまる中で、税引前利益が▲5.2%、当期利益が▲5.5%と利益の下方圧力が強まる形です。
営業利益と税引前利益の差が当期に比べて広がる背景としては、当期には住信SBIネット銀行の連結化やNTTデータ株式追加取得に伴って金融収益が増加した一方、当期計上された一過性の利益要因(NTT DC REIT上場に伴う売却益1,295億円〈グローバル・ソリューション事業に計上、決算短信P26〉等)が来期は剥落することなどが影響している可能性があります。
投資家としては「営業利益は伸びていてもボトムラインは縮小する」というメッセージを正確に受け止め、配当性向の上昇とどうバランスを取るかが今後の論点となります。
6. AI・データセンター・IOWN戦略|次世代インフラ企業への布石
決算短信P9〜P11には、NTTの研究開発と成長戦略に関する記述が豊富に含まれています。投資家として中長期の成長性を判断する上で重要なポイントを整理します。
6-1. データセンター|国内No.1、世界No.3
決算短信P7に明記されている通り、NTTグループのデータセンター総受電容量は約2,000MWに達し、これは国内No.1(Structure Research 2024年市場ランキング)、世界No.3(Structure Research 2025年8月レポート、中国事業者を除く再集計)の規模です。
さらに、2,700MW超の拡大を計画済みであり、2030年度までに3,000MWへ拡張予定と公表されています。生成AIの普及によりデータセンター需要が世界的に急拡大している中、NTTは規模・拡張計画の両面でグローバルトッププレイヤーの一角を占めています。
あわせて、データセンター投資の回収サイクルを早期化するため、NTT DC REIT(不動産投資信託)がNTTデータグループ運営のもと2025年7月にシンガポール証券取引所に上場しました。投資資金を回収しつつ、データセンター事業への継続的な投資と財務健全性の両立を図る仕組みです。
6-2. IOWN APN|光技術で「日本発」次世代ネットワーク
NTTグループが掲げる次世代ネットワーク構想IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)のうち、APN(All-Photonics Network)は、端末からネットワークまですべてに光ベースの技術を導入することで、低消費電力・高速大容量・低遅延の伝送を実現するものです。
決算短信P9〜P10より、当期の主な動きを整理すると以下の通りです。
- 超歌舞伎「今昔饗宴千本桜 Expo2025 ver.」を上演(2025年5月):大阪・関西万博会場と台湾を接続し、リアルタイム双方向伝送を実施
- 大規模スポーツイベントの地上波生放送における映像制作の遠隔化・効率化(2025年9月)
- 香港の金融業界向けデータセンター間IOWN APN接続サービス提供開始(2025年10月)
- 大阪・関西万博 NTTパビリオンで「IOWN光コンピューティング」を活用:光電融合デバイス(PEC-2)により消費電力を従来の1/8まで低減
- 「PEC-2」の2026年度中の商用提供を目指し、Broadcom Inc.やAccton Technology Corporationと連携体制を構築
6-3. IOWN3.0と光電融合デバイス|2028年実用化を目標
決算短信P11には、IOWN3.0に向けた研究開発の方向性が示されています。
- IOWN3.0は2028年の実現を目指す
- NTT独自の化合物光半導体薄膜(メンブレン)技術により小型化した光電融合デバイス「PEC-3」を開発
- CPUやGPU等の半導体パッケージ間を光で直接接続、複数ラックにまたがる大規模計算基盤の構築を可能に
- 「PEC-3」は2028年に商用サンプルの提供開始を予定
生成AIの計算量が爆発的に増加する中、GPU間を光接続で結ぶ大規模AI計算基盤の重要性は今後高まる一方です。NTTはここを自社技術で押さえる戦略を明確に打ち出しています。
6-4. NTT版LLM「tsuzumi 2」|世界トップの日本語性能
決算短信P9より、NTT版大規模言語モデル「tsuzumi 2」の提供を2025年10月に開始しています。
- 同サイズ帯のモデルにおいて、世界トップの日本語性能を有する
- 特定業界の専門知識を重点強化することで、顧客ごとに最適化された特化型AIを効率開発できる
- 単一GPUで動作する軽量設計により、低コストかつ高セキュアなオンプレミス環境での運用を実現
あわせて、グローバル・ソリューション事業ではOpenAIとの「ChatGPT Enterprise」販売代理店契約(2025年5月〜、日本初)、Google Cloudとのグローバルパートナーシップ(2025年8月〜)も締結。「自社LLM」と「外部主要LLM」の両方を提供できる体制を整えており、顧客の多様なニーズに対応する戦略を取っています。
6-5. 光量子コンピュータ・宇宙ビジネス・水素配管技術
決算短信P11には、さらに長期視点の研究開発テーマも明示されています。
- 光量子コンピュータ:OptQC株式会社と連携協定(2025年11月)。2027年に国内トップレベルの1万量子ビット、2030年に世界トップレベルの100万量子ビットを目標とし、スケーラブルで信頼性の高い光量子コンピュータの開発を推進
- 宇宙ビジネス:合成開口レーザ(SAR衛星)を用いた道路陥没予兆検知の実証発表(2025年11月、世界初)。宇宙ビジネスブランド「NTT C89」のもと、1,000億円規模の事業成長を早期に目指す
- 水素配管技術:特殊な二重管構造のパイプを開発し、共同溝等の既存地下空間を活用した水素輸送方法の実現を目指す。2025年7月、東京都港湾局および関係グループ会社と研究・実証を開始
これらは現時点では収益化までに時間を要するテーマですが、NTTが「通信会社」の枠組みを超え、「次世代インフラ企業」として中長期的にどこに資本を配分しようとしているかを理解する上で重要な手掛かりとなります。
7. NTTドコモのフィナンシャル戦略|「d NEOBANK」と「NTTドコモ・フィナンシャルグループ」
当期のNTTドコモにおける最大のトピックの一つが、金融事業の本格的な再編です。決算短信P6から、その流れを整理します。
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2025年5月29日 | NTTドコモ取締役会で住信SBIネット銀行の公開買付け実施を決議 |
| 2025年7月10日 | 公開買付け成立(議決権比率50.00%、1,826億円で取得) |
| 2025年10月1日 | 住信SBIネット銀行を連結子会社化、新サービスブランド「d NEOBANK」提供開始 |
| 2026年3月 | 「NTTドコモ・フィナンシャルグループ」体制への移行、および「dカード」「d払い」等の金融事業の同グループへの移管(2026年7月予定)を発表 |
※出典:決算短信P6・P25
これにより、NTTドコモは「銀行・カード・QRコード決済・証券提携」を束ねた包括的な金融プラットフォームを構築していく方針です。決算短信P6には、「金融領域における更なる事業成長とガバナンス体制の強化を推進」と記載されています。
金融エコシステムは、PayPay(ソフトバンクグループ)、楽天経済圏など競合プレイヤーがすでに大きなシェアを持っており、NTTドコモは後発組として位置付けられます。それでも、住信SBIネット銀行という既存のネット銀行を取り込むことで、構築期間を大幅に短縮する戦略を取った点は注目に値します。
8. キャッシュフローと財務体質|銀行業連結化で構造が大きく変化
決算短信P12・P19〜P20より、連結キャッシュ・フローと財政状態を確認します。
8-1. キャッシュフローの動き
| 項目 | 2024年度 | 2025年度 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 営業活動によるキャッシュ・フロー | 2兆3,640億円 | 1兆4,852億円 | ▲8,788億円(▲37.2%) |
| 同(休日影響を除く) | 2兆1,712億円 | 1兆4,852億円 | ▲6,860億円(▲31.6%) |
| 投資活動によるキャッシュ・フロー | ▲1兆9,996億円 | ▲1兆234億円 | +9,762億円 |
| 財務活動によるキャッシュ・フロー | ▲3,430億円 | +4,413億円 | +7,844億円 |
| 現金及び現金同等物の期末残高 | 1兆10億円 | 1兆9,219億円 | +9,209億円 |
※出典:決算短信P12・P19
営業活動によるキャッシュ・フローが前期比▲37.2%(休日影響を除く比較で▲31.6%)と大幅に減少している点は、財務分析上気を付けたいポイントです。決算短信P12には「これは、銀行業の貸出金が増加したこと等による」と明記されています。具体的には、銀行業の貸出金の増加額が当期1兆99億円計上されており、これが営業CFを押し下げる主要因となっています。
銀行業を連結化すると、貸出金の増減が営業CFの増減として表れる構造になります。これは「会計上の見え方」の問題であり、本業のキャッシュ創出力が悪化したわけではない点に注意が必要です。
8-2. 設備投資|2兆3,260億円
決算短信P23より、各セグメントの設備投資額は以下の通りです。
| セグメント | 2024年度 | 2025年度 |
|---|---|---|
| 総合ICT事業 | 7,143億円 | 8,575億円 |
| グローバル・ソリューション事業 | 6,757億円 | 6,358億円 |
| 地域通信事業 | 4,914億円 | 5,266億円 |
| その他 | 2,059億円 | 3,061億円 |
| 合計 | 2兆874億円 | 2兆3,260億円 |
当期の設備投資合計は2兆3,260億円で、前期から+2,386億円増加しました。総合ICT事業(5G基地局等)と地域通信事業(光回線等)、その他(不動産・データセンター等)でいずれも増加しています。
8-3. 有利子負債と財務健全性
前述の通り、有利子負債は前期末10兆101億円から当期末15兆7,116億円へ大幅増加しました(決算短信P12)。有利子負債の株主資本に対する比率も、前期末97.9%から当期末は161.5%へと大きく上昇しています。
増加の主因は、NTTデータグループ完全子会社化のための借入(総額2兆3,800億円の借入枠の活用)です。連結キャッシュ・フロー計算書P20を見ると、当期の長期借入債務の増加(収入)は5兆7,974億円、減少(返済)は2兆6,510億円となっており、ネットで3兆1,464億円の借入増となっています。
NTTは政府が一定割合の株式を保有する社会インフラ企業であり、信用力は極めて高いため、有利子負債の絶対水準そのものは大きな問題とは考えにくい一方、金利上昇局面では支払利息の増加に注意が必要です。実際に、当期の支払利息は2,266億円と、前期1,490億円から大きく増加しています(決算短信P19)。
9. リスクポイント|投資家として押さえておくべき要素
ここまで強みと成長戦略を中心に解説してきましたが、投資家としては慎重に評価すべきリスクも整理しておきましょう。
9-1. 来期当期利益▲5.5%の減益見通し
2026年度予想は営業利益+0.2%とほぼ横ばいの一方、当期利益は▲5.5%の減益見通しです。EPSも12.61円→12.10円へ低下するため、PERや配当性向の見え方が悪化する可能性があります。「過去最高更新」から「微減」局面への移行を市場がどう評価するかは要注視です。
9-2. 有利子負債の急増と支払利息
NTTデータ完全子会社化に伴う借入で有利子負債は5.7兆円増加し、当期の支払利息は2,266億円と前期1,490億円から+776億円の増加となりました。今後も金利上昇局面が続けば、利益面への影響は無視できません。
9-3. 株主資本比率の低下(34.0%→20.8%)
銀行業の連結化により負債が大幅に増加した結果、株主資本比率は前期末34.0%から当期末20.8%へ低下しました。連結ベースの財務指標は「銀行業を含む構造」を理解した上で見る必要があり、従来のNTTの財務分析手法では見え方が変わる点に注意が必要です。
9-4. 総合ICT事業の減益と国内通信市場の成熟
主力の総合ICT事業は当期▲7.7%の減益となりました。国内モバイル市場の競争激化、料金値下げ圧力、5G投資負担などにより、本業の利益伸び余地は限定的です。グローバル・ソリューション事業の成長で全体は補えているものの、収益源の依存先が大きく変わりつつある構造変化はリスクと機会の両面で見る必要があります。
9-5. その他セグメントの赤字転落
不動産・エネルギー事業を含む「その他」セグメントが当期は▲16億円と赤字に転落しました。事業ポートフォリオの中で構造的に弱含みの領域であり、今後の改善動向に注目が集まります。
10. まとめ|「次世代インフラ企業」への変貌と投資家の視点
NTT(9432)の2026年3月期決算を一次資料ベースで解説しました。重要ポイントを改めて整理します。
- 営業収益14兆4,091億円(+5.1%)、営業利益1兆7,062億円(+3.4%)、当期利益1兆370億円(+3.7%)と増収増益
- セグメント別ではグローバル・ソリューション事業が+50.7%の急成長でグループ利益を牽引
- NTTデータ完全子会社化(取得対価約2.4兆円)と住信SBIネット銀行連結化(取得対価4,200億円)で総資産が30兆円→47兆円へ拡大
- 配当は2025年度5.30円、2026年度予想5.40円と連続増配を維持
- 自己株式の取得枠2,000億円(上限14億株)を2026年5月8日に決議
- データセンター総受電容量2,000MW(国内No.1、世界No.3)、2030年度3,000MWへ拡張計画
- IOWN APN・tsuzumi 2・光量子コンピュータ等の研究開発を加速
- 2026年度予想は当期利益▲5.5%の減益見通し、株主資本比率は34.0%→20.8%へ低下
NTTは2025年度を経て、明らかに「通信会社」から「データセンター・AI・金融を取り込んだ次世代インフラ企業」への変貌期にあります。商号変更・NTTデータ完全子会社化・住信SBIネット銀行連結化という3つの大型イベントが同時並行で進み、連結ベースの財務指標も大きく姿を変えました。
高配当株投資家としての評価は以下の通り整理できます。
- 配当継続性:来期も増配を維持する方針が示され、政府保有株式が一定割合存在する社会インフラ企業として、減配リスクは相対的に低位
- 株主還元総額:配当4,346億円+自社株買い約2,000億円水準の継続的還元体制を堅持
- 成長性:データセンター・AI・金融という3つの成長ドライバーを抱えるが、収益化までのリードタイムは存在
- 注意点:来期当期利益▲5.5%の減益見通し、有利子負債15.7兆円、株主資本比率20.8%という「銀行業を含む」新たな財務構造
長期視点で「日本のAI・データセンター・金融インフラを束ねる企業」への進化に賭けるか、短期的な利益横ばい・減益局面を懸念するかは、投資家それぞれの時間軸次第です。今回の決算短信は、NTTの「次のフェーズ」を考えるうえで欠かせない一次資料となります。
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免責事項
本記事は、NTT株式会社が2026年5月8日に公表した2025年度決算短信(添付資料)を一次資料として作成しています。記載内容は執筆時点での情報であり、正確性や完全性を保証するものではありません。本記事は特定の銘柄の購入・売却を推奨するものではなく、最終的な投資判断は、必ずNTT株式会社の最新のIR情報・有価証券報告書等をご確認のうえ、自己責任で行ってください。株式投資には元本割れなどのリスクが伴います。
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