※この記事は2026年10月7日終値と、各社が公表した2027年3月期第1四半期の決算資料・株主還元方針をもとにしています。配当と業績は会社予想であり、確定した将来の受取額ではありません。特定銘柄の売買を勧める記事ではありません。
日本製鉄、JFEホールディングス、神戸製鋼所。3社とも鉄鋼関連の高配当株として目にします。しかし、「今の利回りが高い順」に並べるだけでは、配当の違いは見えません。
見るべきなのは、配当をどう決めるか、その配当を今期の利益でどれだけ支えられる見込みか、そして利益を生む事業がこれからも稼げるかの3点です。
まず結論:下限配当があっても「安心の順位」はつけられない
日本製鉄は年間24円、JFEは年間80円を下限とする配当方針を示しています。神戸製鋼所の年間配当予想も80円ですが、80円を下限とする方針ではなく、利益の約30%を目安に財務や投資需要も見て決めます。日本製鉄の方針/JFEの方針/神戸製鋼所の方針
「下限」は経営方針であって、何が起きても永久に支払う保証ではありません。また、下限がないからすぐに減配する、という意味でもありません。
10月7日終値で見る配当利回り
| 会社 | 株価 | 今期の年間配当予想 | 予想利回り |
|---|---|---|---|
| 日本製鉄(5401) | 641.2円 | 24円 | 約3.74% |
| JFEホールディングス(5411) | 1,705円 | 80円 | 約4.69% |
| 神戸製鋼所(5406) | 2,007円 | 80円 | 約3.99% |
株価は株探の10月7日終値(日本製鉄)、同(JFE)、同(神戸製鋼所)です。利回りは「会社予想年間配当÷株価」で計算した税引前の概算です。株価の変化だけでも利回りは上下します。
日本製鉄の24円は、2025年10月の1株を5株にする株式分割後の数字です。分割前の中間配当60円と分割後の期末配当12円を足して「72円」とは計算できません。会社は前期の年間配当を分割後換算で24円と説明しています。日本製鉄の決算短信
一段深く:今期予想の利益に対して、配当はどれくらい重いか
配当額だけでなく、会社が予想する「1株当たりの年間利益」で割ってみます。
| 会社 | 今期予想の1株利益 | 年間配当予想 | 配当÷1株利益 |
|---|---|---|---|
| 日本製鉄 | 55.00円 | 24円 | 約44% |
| JFE HD | 235.80円 | 80円 | 約34% |
| 神戸製鋼所 | 252.09円 | 80円 | 約32% |
会社予想からの単純計算です。日本製鉄の決算短信、JFEの計画・見通し、神戸製鋼所の決算短信を参照しました。
3社とも配当の目安として利益の約30%を意識していますが、今期予想に対する配当の重さは同じではありません。ただし、この割合だけで「日本製鉄は危険」「神戸製鋼所は安全」と決めることもできません。分母の利益は予想で変わり得ますし、会計上の利益と配当に使える現金も同じではないからです。この表は結論ではなく、調べる入口です。
日本製鉄:米国事業の利益と、投資をセットで見る
日本製鉄の2027年3月期第1四半期の親会社帰属利益は約753億円。前年の同じ四半期は約1,958億円の赤字でした。ただし前年にはU.S. Steelの買収に関わる特殊な費用などがあり、赤字から黒字への変化を、そのまま通常の製鉄事業の成長と読んではいけません。決算短信
同社は今期、特殊な評価の影響などを除いた実力ベースの事業利益を7,000億円以上と見込み、そのうち海外は3,200億円、U.S. Steelは1,800億円以上としています。ただしU.S. Steelを連結する期間は、前年度の9か月から今期は12か月に延びます。前年比の伸びには、この期間差も含まれます。決算説明資料
もう1つ重要なのは、米国事業で2028年末までに110億ドルの設備投資を計画していることです。これは今期に全額支出するという意味ではありません。それでも、米国で利益を伸ばす話と、利益を伸ばすためにお金を使う話はセットです。年間24円の下限方針だけでなく、米国事業の利益・投資・財務が両立するかを見たいところです。決算説明資料
JFE:年間80円を支える「鉄鋼の回復」はまだ予想
JFEは年間80円を下限とする方針を掲げ、今期の年間配当も80円を予想しています。同社の前年度の配当性向は72.5%でしたが、今期の見込みは33.9%。同じ80円でも、利益の回復によって支払いの重さを下げる計画です。JFEの中期計画・見通し
その回復で重要なのが鉄鋼事業です。鉄鋼事業のセグメント利益は、前年度実績380億円に対し、今期は1,000億円を見込んでいます。エンジニアリングや商社もあるものの、鉄鋼が計画どおり立ち直るかは配当を考えるうえで外せません。1,000億円と33.9%は、いずれも確定した実績ではなく会社の見通しです。JFEの中期計画・見通し
なお、2026年8月の開示の表題に「配当予想の修正」とありますが、年間80円を引き下げたわけではありません。従来は年間80円のみを示し、今回、中間40円・期末40円の内訳を決めたものです。前年度の年間配当実績も80円でした。JFEの配当予想に関する開示
神戸製鋼所:最終利益の大幅減を、2つに分ける
神戸製鋼所の第1四半期の親会社帰属利益は、前年同期の約386億円から約122億円へ68.4%減りました。しかし、その理由を1つにまとめると判断を誤ります。決算短信
前年には保有株式の売却益などがあり、今期はその反動が出ました。一方で、鉄鋼の採算悪化や、神戸発電所3号機の定期点検延長という現在の事業上の負担もあります。つまり「全部が一時的だから問題ない」でも、「事業が全面的に崩れた」でもありません。決算説明資料
同社は、通期の親会社帰属利益1,000億円、年間配当80円を予想しています。配当予想は第1四半期決算時点で据え置きました。これから鉄鋼の採算や電力の影響がどう変わるかが、通期予想を読むうえで大切です。決算短信
次の決算で確認する3つの問い
| 会社 | 確認したいこと |
|---|---|
| 日本製鉄 | U.S. Steelの利益が見込みに沿い、米国での投資と両立できているか |
| JFE HD | 鉄鋼事業の利益が前年度の水準から回復しているか |
| 神戸製鋼所 | 鉄鋼の採算と、電力事業の点検影響がどう変わったか |
3社共通で、通期の利益予想と年間配当予想が変更されたかも確認します。現時点の利回りが高い会社を即座に選ぶより、会社が描いた利益の回復を、次の実績が裏付けるかを見るほうが、これから買う人には役立つはずです。
配当利回りは入口。配当の決め方、利益に対する配当の重さ、利益の出どころまで読むと、同じ「鉄鋼の高配当株」でも違いが見えてきます。
参照資料
- 日本製鉄:2027年3月期第1四半期決算短信、決算説明資料、株主還元・配当
- JFE:中期計画・2026年度見通し、IR資料室
- 神戸製鋼所:2027年3月期第1四半期決算短信、決算説明資料、株主還元・配当
- 10月7日の株価は株探の各社時系列ページ。利回り・「配当÷1株利益」は筆者計算。