NTT、KDDI、ソフトバンク。通信は暮らしに欠かせず、配当を受け取りながら持ちたいと考える人も多い3社です。ただし、今の配当が多いことと、これから配当を増やせることは別です。
NTTは2026年4〜6月の純利益が増えていますが、年間では純利益の減少を予想しています。それでも配当は増やす予想です。KDDIでは会社全体の利益より、1株の利益が大きく伸びました。ソフトバンクは利益の大きな割合を配当に回しながら、成長投資も進めています。
今回は利回りの順位だけでなく、増配を支える利益と、お金の使い道、1株の取り分を比べます。
情報確認日は2026年10月12日、株価は3社とも10月9日の東証終値です。10月12日はスポーツの日で東証現物市場が休場のため、最新の確定終値を使用しました。予想配当は税引前、将来の配当・株価は保証されません。特定銘柄の売買を勧める内容ではありません。JPX休業日一覧
まず結論:買う前に見るのは3つ
- 今の参考配当と、これから取れる権利を確認する。
- 1株の利益が増えている理由を確認する。
- 投資したお金が、利益・現金・配当に届くかを追う。
高い配当を選ぶことも、将来の増配を期待することも、それ自体が間違いではありません。ただし、配当の数字だけで安心せず、利益を増やしたのか、配る割合を上げたのか、株数の減少が効いたのかを分けて見ます。複数が同時に働くこともあります。
3社の参考利回りと増配率は、順位が違う
対象はNTT(9432)、KDDI(9433)、通信会社のソフトバンク株式会社(9434)の普通株式です。ソフトバンクグループ(9984)やソフトバンクの社債型種類株式とは区別します。3社とも基準日の時価総額は1,000億円以上です。
| 普通株式 | 10月9日終値 | 2027年3月期年間配当予想 | 参考利回り | 前期年間配当 | 増配率 |
|---|---|---|---|---|---|
| NTT | 172.9円 | 5.4円 | 3.12% | 5.3円 | 約1.9% |
| KDDI | 2,893円 | 84円 | 2.90% | 80円 | 5.0% |
| ソフトバンク | 242円 | 8.8円 | 3.64% | 8.6円 | 約2.3% |
参考利回り=会社の年間配当予想÷終値。増配率=今期配当予想÷前期実績-1。計算には丸め前の数字を使っています。ソフトバンクはこの表で利回りが高い一方、増配率はKDDIが大きくなっています。ただし、今年の増配率を来年以降も続く予測として使うことはできません。
仮に同じ100万円を端数まで投資できるとすると、参考年額はNTT約31,232円、KDDI約29,036円、ソフトバンク約36,364円です。税・手数料・売買単位を無視した理論換算であり、実際の投資額や入金額ではありません。会社の年間予想を使った比較で、今からの12か月の受取予想でもありません。
出典:NTT Q1短信、KDDI Q1短信、ソフトバンク Q1短信、Yahoo!ファイナンスのNTT時系列・KDDI時系列・ソフトバンク時系列。利回り・増配率・換算額は独自計算。
今から買う人は、中間配当の権利を取れない
上の年間配当には、すでに9月末の基準日を過ぎた中間配当が含まれます。今から買う人が今期の期末配当を受け取るには、2027年3月末の基準日に向けて権利を取得する必要があります。
| 会社 | 中間配当予想:今から権利取得不可 | 今期の期末配当予想:これから取得する権利 |
|---|---|---|
| NTT | 2.7円 | 2.7円 |
| KDDI | 42円 | 42円 |
| ソフトバンク | 4.4円 | 4.4円 |
翌期の年間配当を今回の予想から勝手に補完しません。参考利回りの表は比較の物差しであり、口座への入金予約ではない、という区別が必要です。出典:上記3社のQ1短信、各社配当情報。
小さな株価と割安は別
100株の購入代金を終値で計算すると、NTTは17,290円、KDDIは289,300円、ソフトバンクは24,200円です。手数料を除く参考値で、少額から買えることには意味があります。ただし、1株の株価が小さいことだけでは、割安かどうかは分かりません。
株式分割は、ピザを小さく切り分けるようなものです。1切れは買いやすくなりますが、ピザ全体が大きくなったわけではありません。割安度を見るには、会社の稼ぐ力や将来の見通しに対して、どの値段で買うかを考える必要があります。
この記事では、サイトによって定義・更新時点が違う予想1株利益を混ぜて、PERの順位を作りません。株価は同じ時点、利益は同じ対象期間・定義にそろえることを優先します。
増配につながる方法を3つに分ける
| 理解のための整理 | 株主から見た意味 | 続けるために確認したいこと |
|---|---|---|
| 利益を増やす | 配る元となる利益を増やす | 一時的な利益か、続く稼ぎか |
| 配る割合を上げる | 会社に残す割合を下げる | 利益・現金・投資の必要額と両立するか |
| 自社株買いなどで株数を減らす | 利益を分ける計算上の株数を減らす | 買い戻す値段と資金は適切か |
これは簡略化した見方で、会社の正式な分類や、増配を決める全ての条件を示したものではありません。配当は業績・財務・方針を踏まえて決まり、1株利益が増えても自動的に同じ割合で配当が増えるわけではありません。
また、会社に残る会計上の利益が、そのまま銀行口座の自由な現金として残るわけでもありません。設備・買収・運転資金などに形を変えている場合があります。
NTT:足元は増益、年間の純利益は減益予想
| 利益の対象 | 数字 | 比較 |
|---|---|---|
| 2026年4〜6月のNTT株主に帰属する利益 | 約2,748億円 | 前年同期比+5.8% |
| 2027年3月期年間の同利益予想 | 9,800億円 | 前期比-5.5% |
| 年間営業利益予想 | 1兆7,100億円 | 前期比+0.2% |
| 年間配当予想 | 5.4円 | 前期5.3円から増配予想 |
「足元の増益」「年間純利益の減益予想」「増配予想」は同時に成り立っています。全ての利益が減っているわけでも、減益が確定しているわけでもありません。NTT Q1短信、最新IRプレゼンテーション
ここで分かるのは、増配の数字だけでは、その年の稼ぐ力の伸びまでは判断できないということです。逆に、純利益の減少予想だけを見て、すぐに配当が危ないと断定することもできません。
設備投資は「使った額」より、その後を見る
NTTは今期、設備投資2兆4,300億円を計画しています。これはAI投資だけの金額ではなく、グループ全体の設備投資計画です。NTT Q1説明資料
通信設備を維持・改善する投資と、将来の成長を狙う投資は、見る目的が異なります。大きな投資額だけで成功を判断せず、サービスの改善、事業の利益、現金の回収、その後の1株利益を追います。完成前の投資が、すぐに利益を生まないからといって失敗と決めることもしません。
KDDI:会社の利益より、1株の利益が伸びた
KDDIの2026年4〜6月の通常の純利益、すなわち親会社所有者に帰属する利益は、前年同期比22.1%増えました。基本的な1株利益は40.23円から51.34円へ、公表値から計算すると約27.6%増えています。
| KDDIのQ1 | 前年同期 | 当期 |
|---|---|---|
| 親会社所有者に帰属する利益 | 約1,601億円 | 約1,955億円 |
| 基本的1株利益 | 40.23円 | 51.34円 |
| 期中平均株式数 | 約39.79億株 | 約38.07億株 |
利益を分ける計算上の平均株数は約4.31%減少しています。会社の利益増加と、平均株数減少の両方が、1株の利益を押し上げています。 ケーキが大きくなり、分ける人数も減ったので、1切れが厚くなるイメージです。KDDI Q1短信
ただし、これは3か月の実績であり、年間の成長率や次の配当の増加率ではありません。会社が使う「調整後純利益」の増加率21.6%とも区別します。
自社株買いは、配当と同じ現金収入ではない
9月末時点の最新開示では、NTTは2,000億円上限の枠に対して約775.9億円、KDDIは3,000億円上限の枠に対して約2,666.8億円を取得しています。上限と実施済みの金額は別です。NTT 10月1日開示、KDDI 10月6日開示
売らずに持つ株主の口座に、自社株買いの金額が直接振り込まれるわけではありません。また、9月までの取得を、6月までのQ1の効果として説明しません。
自己株式はすでに1株利益の計算から除かれます。そのため、保有する自己株式を消却しただけで、さらに1株利益が増えるという説明も不正確です。取得・消却・配当を分け、買い戻す資金や値段も確認します。
通信の成長は、新しいお客さんの獲得だけではない
KDDIのQ1資料では、会社定義の携帯通信の顧客当たり収入が前年同期比3.8%増え、スマートフォン解約率は1.23%から1.17%へ下がっています。選ばれるサービスを増やし、長く使ってもらうことも成長につながります。KDDI Q1説明資料
ただし、料金・サービス改定の効果が毎年同じように続くとは限りません。顧客当たり収入、契約数、解約率、増える費用を合わせて見ます。KDDIの24期連続増配は前期までの実績で、今期の25期目は増配を目指す予想です。KDDI配当情報
ソフトバンク:多く配る会社にも、成長の条件がある
ソフトバンクは今期の普通株式の年間配当8.8円、連結配当性向76.2%を予想しています。また、利益成長に合わせた継続的増配を目指す方針です。ソフトバンク配当情報
配当性向は利益に対する比率です。手元現金の76.2%を配るという意味でも、残り23.8%が自由な投資用現金になるという意味でもありません。
多く配る設計は、現在の配当を重視する投資家には魅力があります。ただし、さらに配る割合を上げる方法には制約もあります。利益成長によって次の配当を支えられるかが重要です。「割合が高いから危険」「低いから将来有利」と単純な順位にしません。
現金収支のマイナスだけで、配当危機と判断しない
ソフトバンクのQ1では、LINEヤフーグループ、PayPay等を除いて調整した現金収支が1,285億円のマイナスでした。通常の連結フリー・キャッシュ・フローは2,775億円のマイナスで、両者は同じ数字ではありません。
約1,600億円のEnergy Global優先持分への出資などが影響しています。その持分は7月10日に関連当事者へ移転済みですが、8月4日の短信時点では最終的な譲渡損益の金額は未確定でした。移転済みの事実と、最終売却益の確定、現金の受取を混同しません。ソフトバンク Q1短信・本編15〜17頁、43頁
銀行の運用資産、税の支払い、資金回収の時期なども現金収支に影響します。3社の調整後指標を同じ定義だと思ってランキングにしたり、四半期のマイナスだけで配当不足と判断したりすることは避けます。
AI投資は「使った・稼いだ・届いた」で確認する
投資を評価するときは、3段階に分けると考えやすくなります。
- 使った: 何に、いくら投資するのか。資金はどう用意するのか。
- 稼いだ: 投資先が売上・利益・現金を生み始めたか。
- 届いた: その成果が、普通株主の1株利益や配当に届いているか。
これは分析のための見方で、AI投資の成功を断定するものではありません。会社が投資額や大きな事業目標を発表した段階と、利益が出た段階は違います。
また、グループの子会社が利益を出しても、その全額が親会社の普通株主に帰属するとは限りません。他の株主の持分や、種類株式の配当などを考慮する必要があります。比較には、普通株主に対応する1株利益を使います。
お金を残す会社にも、成績表が必要
たくさん配る会社には「次の配当を支える利益をどう増やすか」という課題があります。一方、お金を残して投資する会社には「残した分が株主の取り分を増やしたか」という課題があります。
配当を少なめにして投資する説明だけでは、将来の増配の裏付けにはなりません。 投資の期間を踏まえながら、成果を確認します。利益を多く配る会社と、投資を優先する会社のどちらにも、見るべき数字があります。
将来の増配を、買値の言い訳にしない
「将来は配当が大きくなるはず」と期待しても、何年後にどれだけ増えるかは未確定です。現在の利回り差が何年で逆転するかを、今期の増配率だけで計算することもできません。
比較するなら、現在の会社予想と、仮定を置いた将来計算は別の表にする必要があります。本記事では将来の順位や逆転年数は示しません。よい会社であっても、買う値段によって投資の成果は変わります。
配当が維持・増加していても、株価は下がることがあります。利益の期待、金利、市場の評価なども株価に影響するからです。配当と株価変動を分けて考え、「配当が出るから元本も安全」という説明はしません。
次の決算で見る、少ない確認項目
| 確認すること | 見る数字・説明 | 注意点 |
|---|---|---|
| 1株の稼ぎ | 普通株主に対応する1株利益、会社全体の利益、平均株数 | 実績と予想、通常と調整後を混ぜない |
| 投資の回収 | 本業の利益、設備・買収支出、現金収支の増減理由 | 金融事業や会社ごとの調整を区別 |
| 配当の続き方 | 年間予想、配る割合、還元方針、自社株買いの実施額 | 目標・上限・実施済み・確定配当は別 |
KDDIについては、過年度訂正やガバナンス改善の開示もあるため、連続増配の実績だけで無条件に安全とは扱いません。KDDI公式IRニュース
通信株を持つからといって、毎日全ての数字を追う必要はありません。ただし、放置と長期投資は同じではありません。買う前に期待する条件を決め、決算ごとに、その条件が崩れていないか少ない項目で確かめることが大切です。
よくある疑問
利回りが一番高いソフトバンクが一番有利?
今の配当を重視するなら利回り差は重要です。ただし、将来の利益や配当、価格変動、投資回収まで含めた有利不利は利回りだけで決まりません。
NTTの純利益減少予想は、減配を意味する?
いいえ。今回確認した公表予想は年間5.4円への増配です。ただし、予想は保証ではなく、その後の業績・財務・方針を確認する必要があります。
自社株買いが多いと、配当も必ず増える?
いいえ。株数減少は1株利益を支える場合がありますが、配当額は別途決まります。買い戻す資金や値段、他の投資との関係も重要です。
まとめ:配当の次に、その増やし方を見る
現在の配当を重視するか、将来の伸びを期待するかは、投資の目的によって変わります。どちらでも、利回りの数字だけで終わらせず、利益を増やす力、投資の回収、1株の取り分を確認します。
今回の3社は全社が増配予想です。それでも、同じ理由で同じ速度で配当が育つとは限りません。「通信株だから安心」から一歩進み、次も増やせる理由があるかを見て選ぶ。そのための比較として活用してください。